レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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ムカつく感情

完全に少女の手を離れてしまった王子様への執着心を捨て去るにはどうするべきか。

 

『王子さまはもうわたしのものじゃない。本当の御姫様のものなの』

 

王子様にとって最愛の人を窮地に追い込んで平然としているのも苦痛。大切に扱うように言い含める裏で、本当の自分は嘆き悲しんでいる。

 

『ずっと、ずっと傍にいたのはわたしなのに!』

 

抑制された心の声を表情にはおくびにも出さずに少女は平然と振舞う。それが当たり前だと王子様に言い切る。

 

『だってそれが望まれているんだもの。世界が望んでいるのよ』

 

別の恋に走るか、自らの使命に没頭するか。

それとももっと楽な道に進むか。

 

『わたし、にげたいの』

 

なんにせよ、少女には逃げるという選択肢しか残されていなかった。受け止めるという選択肢は最初から存在しない。

王子様の心など知る必要はなく、最初から諦めていればその分痛みは少ない。最初から駄目だったと思い込んでいればいいだけ。

 

『もう痛いのはいや』

 

マイナス思考の少女に輝かしいばかりの英雄は傅き、その手を恭しく取った。

 

『だったらオレと逃げよう。逃げることは悪いことじゃない』

 

真摯な想いに胸打たれた少女は心ぐらつかせて縋るように英雄を見つめた。

 

『にげても、いいの』

『ああ。逃げたって誰も咎めやしないさ』

 

年上の英雄は朗らかに笑い、少女の心を軽くさせる。

 

『だからオレと―――』

 

思いもよらぬ英雄からの告白に明らかに狼狽した少女。

 

縋る気持ちは恋だろうか。

答えは出ず、少女は英雄と一時の別れを告げた。

 

じっと遠くから見つめている王子さまの存在に気づかぬまま。

 

レティーシアside

 

悪の皇女作戦は成功している模様だ。

けどどうにもノクトの切なそうな顔を見ていると胸が酷く痛む。ズキンズキンと虫歯みたいに痛みが止まらない。

 

あーあ、ノクティスったらなんて顔してるの。この世の絶望全て背負ったような情けない面を簡単に見せちゃ駄目よ。もし私が本当に敵だったらどうするの?言葉だけで屈服させられるなんてこの先王様やっていけないわよ。

 

と心の中でアドバイスを送る私だけどつい手を伸ばして頬を引っ張りたくなる衝動を抑えて手をぎゅっと握りしめる。あんな情けない顔したら慰めたくなるじゃない。卑怯だわ。

家族としてのスキンシップは当たり前だったからこういう顔にはとてつもなく弱いのだ、私は。弱点ともいう。

 

「情けない顔ね」

 

決して本意ではない、辛辣な言葉を投げかけてみれば分かりやすくさらに表情がクシャっと歪んだ。情けない声で縋るような瞳で私を見つめてくる。

 

「嘘、だろ?なぁ、嘘なんだよな!?」

 

ええ、嘘よと種明かしはまだしてあげない。ノクトには心理戦でも強くなって欲しいから。ちょっとした親心、じゃない妹心ってやつだ。

 

「私はニフルハイムの皇女よ。その事実は変わらないわ」

「!」

 

嘘をついてはいない。クリスタルをノクトに渡すつもりなんかない。だってアレは元々私達のものだもの。気まぐれに人に授けたものがいつの間にか人が所有するものになってしまっただけ。アレは人には重すぎるものだから綺麗さっぱり無くなったほうが余計な争いも今度起きないでしょう。

それに、私が本当にノクティスを裏切ると思ってた?演技なのに信じちゃうんだから。本当に心配ばかり掛けさせるのね。私が貴方の敵になるわけないじゃない。最後はそうなるようシナリオは組んでいるけどちゃんと最後には真実が分かるように仕向けるわ。

だからシャキンと胸張りなさい。

 

「……レティ……」

 

確かに私は頑張ることに疲れた。でもだからってノクトを助けることとは関係はないの。

ニックスは私の為を想って言ってくれているのは凄くわかる。けどそうじゃない。

彼の言う通り頑張ることはやめるわ。でもやるべきことはやる。これが私の最後の責務だから。怠けることと放り出すことは私の信条に反するから。

 

さて、私なりの個人レッスンはもういいかな。口元を噤んでショックを受けている皆にもネタ晴らしするいい頃だ。もはや泣きそうなレベルにまで落ち込んでいるノクトにドッキリをかます。

 

「……っていうのは演技」

「……?」

 

ふむ、これだけじゃ理解できなかったみたいだ。目を瞬かせてきょとんとした顔で私を見つめてくる。皆の視線が一気に集中する中、私は呆けたニックスの手からスッと自分の手を離して再度ソファにどっかりと腰を落ち着けさせる。先ほどよりはいくぶんかリラックスした態度で説明をすることができた。ニックスがハッと我に返り口を挟もうかとしているけど、手で制してストップさせる。そこで口挟まれるとややこしくなるから!

 

「この立場ならクリスタル奪還にも手助けしやすいでしょう?だから受けたの。つまり利用してるってことね。だから安心してノクティス、演技は終わりよ」

 

ウインク一つ飛ばしておどけて言って見せればノクトはようやっと私の意味を理解したようで、よろよろとソファに座り込んで片手で顔を覆った。

 

「レティ……マジかよ…」

 

私の言葉の意味を理解したグラディオラスが非難の視線を向けてくる。

 

「つまり嘘ってことか?」

「レティ、君は一体どういうつもりで…」

「マジ吃驚した~」

 

困惑しているイグニスやほっと胸を撫で下ろしているプロンプトも今までの発言が演技であると受け止めたようだ。おおむね彼らの態度は予想通り。ここまではオッケー。

出来るだけ反省している表情を作りつつ、

 

「ゴメンなさい。でもこれくらいの演技も見抜けないとルシスの王様やっていけないと思うの」

 

と嫌味一つ付け足したのは、少しでも彼に王としての自覚を持ってもらう為。

今までの発言が全て演技だと分かるとほっと胸を撫で下ろすクロウとリベルトさんもいた。シドさんに至っては「短い年寄りの寿命を縮めるなよ」と疲れた様子でくたりとソファに座り込む。けどノクトは打って変わって表情を変えた。

 

「レティ!!」

 

と顔を真っ赤にさせてせっかく座ったのにまた勢いで立ち上がって私に怒鳴ってきたのだ。相当おかんむりのようで鼻息も荒そうである。せっかくイケメンなのに美形が崩レティゃってるのはルナフレーナ嬢に見せられないね。ノクティスの怒りはすぐには収まりそうにないみたい。酷ければビンタもらいそうな勢いだ。けど男からのビンタなんてごめんである。それに先手を打たれる前にノクティスに座るよう促した。

 

「とりあえず座って。まだ話はあるから。怒ってもいいから後にして、ね?皆に聞いて欲しいことがあるの」

「ったく!なんだよ、今更!」

 

消化不良と言わんばかりにむしゃくしゃと自分の髪を掻きむしりながらノクトは仕方なく乱暴に腰かけた。えぇえぇ、ほっぺ引っ張りの刑でもなんでも受けますまよ。

まずは一番重要なことを話させて欲しい。

 

私は皆からの視線が集まっているのを確認して静かに口を開く。

 

「……私はニフルハイム帝国を潰すつもり」

「「「!?」」」

 

ドッキリではない。本気の話だ。

誰もが息を呑んで驚愕している。すぐに信じてもらえないかもしれないが時間は残念ながら限られている。私は真剣な表情を作り語りだす。

 

「途方もない与太話だと信じれもらえないかもしれないけど今の皇帝、つまり私のお爺様はもう長くはない」

「それは確かな情報か?」

「疑ってもらっても構わないわ。グラディオラス。何だったらディーノに電話して聞いてもいい」

「………」

 

彼がノクティス側についていると考察して答えるとグラディオラスは難しそうな顔をして押し黙った。

 

「……ある病に侵されているの。それは人が作る薬などでは到底治せないものでもう手の施しようがないわ。御爺様の後継者として私が選ばれているのは知ってると思う。だから私が帝国を内側から壊す。ノクティス達には隙を見て帝国に侵入してもらうつもりよ」

「危険だ!」

 

いの一番に反対の声を上げたのはやっぱりノクティスだった。それに続いてプロンプトやイグニス達も口々に無理だ、危ないと声を上げる。だが私は努めて冷静に言い返す。

 

「そうかもしれないわ。でもアラネアやレイヴス将軍も味方してくれているの。あの宰相には今のところこの計画は気づかれていないし、盗まれた指輪も私の手に入るわ。危険は承知の上。だからノクティス達は一旦コル達の所へ戻って。ルナフレーナ嬢を安全な所に匿わなくてはいけないわ」

 

ルナフレーナ嬢がすぐに目覚めることがないのは私が知っているし、ここに帝国に近い場所に置いておくことはデメリットだ。それとアーデンには最後まで悪役やってもらわないとノクティス達の成長に関係してくるのだ。本人は意外と好んでやっていてくれているからこちらとしても頼り甲斐がある。

真実とほんの嘘を混ぜ合わせることでより信憑性を持たせる。120%嘘じゃないからそうそう疑いは持たないはずだ。

さて私からの提案に速攻反対の意思を露わにしたのはやっぱりノクティスだった。

 

「嫌だ。オレはレティと一緒に帰る!」

 

まるで子供が駄々をこねるようにノクティスは嫌だと切なそうに顔を横に振る。

 

「ノクティス…」

 

肝心のノクティスがこうではイグニス達もそう簡単に納得しない。

 

「レティ、コイツらなりにレティの事心配してたんだ。それにコル達もな。……ここは一度一緒に帰ってくれねぇか?」

「シドさん……」

 

弱々しくも懇願する姿に胸が痛んだ。散々心配かけてきたってことは自覚している。もしかしたら、顔を会わせることもできずにさよならすることになるかもしれないんだ。最後の見納めとして一度帰るのもいいかもしれない。

 

「わかったわ。心配を掛けていたのは事実だしコルにも詳しい計画の話を直接伝えます」

「レティ!?」

 

信じられないと声を上げたのはニックスだ。まぁ、彼にしてみれば素直にニフルハイムに戻るつもりだって考えてたのかもね。ちらりと少し後ろを向いてみた。

 

「ニックス、貴方は先に帝国に戻ってほしいわ。頼みたいことがあるの」

 

私がそう頼むとニックスの眉間の皺が二、三本増えていた。しかもやや乱暴気味に私の腕を掴んで無理やり立たせてくる。目が据わってる、マジで目が据わってるわ!

それ絶対好きな女に向ける視線がじゃないよね。

 

「………、レティ、ちょっと来い」

「……はい…」

 

くっさいモルボルさえ退けてしまいそうな眼力に抗うこともできない弱気な私は素直に頷きむんず!と腕を掴まれて共に部屋を出たのでした。さて案の定廊下にて、キスできそうなほど顔を付き合わせてくる彼からの第一発言は「どういうことだ。納得できる理由をくれ」と予想通りの問いかけをしてきた。ここで選択肢を間違えてはきっと叱られる時間も長くかかりそうだ。

だが時間はそう少ない。私はニックスの手から腕を抜き取って顔を背けながら理由を説明した。

 

「あのままじゃ話が終わらないと思っただけよ。どのみち一度はコルと連絡を取るつもりだったもの。ノクティスが王の剣を確実に手に入れたのを見届けてから帝国には戻るつもりよ」

 

だがニックスはこれだけでは納得できなかったらしい。不満そうに眉を若干吊り上げる。

 

「……どうしてそこまで義理立てするんだ。アイツに」

「必要だからやってるだけよ」

 

ルシスの王子に対して恨みでもあるのか、呼び方が乱暴で私はついムッとなってしまい答え方もぞんざいになった。だがニックスがそれだけで納得するわけがなかった。

私が「この話は終わり。拒否は受け付けません」と強気の態度に出ると乱暴に腕を掴まれてしまい痛みに顔が歪んでしまった。

 

「レティ!」

「ニックスやめて。こんなとこで」

 

誰かに見られたら勘違いされると言いかけたところで、なんて間の悪いところに来るのだろうか。怒気を露わにしたノクティスが絶妙なタイミングで割り込んできた。

 

「テメェ何してんだよっ!?」

「ノクティス!」

 

いつの間に廊下に出ていたのかさっぱり気配も感じられなかったがノクティスは私の腕を掴むニックスの手を掴んで思いっきり振り払い隙をついて私を背に庇いニックスと対峙する。

 

「レティに触るな」

「断る。彼女はオレの主だ。邪魔をするな」

「なんだよそれ!レティが主って頭沸いてんのか?大体レティもレティだ。一体どういうことだよ。全然説明になってなかったしさっきの!なんでそんなノクティスなんて呼んで他人行事なんだよ!?」

 

くるりとこちらを向いて責任転嫁。

ぐ、そこを突いてきたか。

適当に思いついた言い訳で本心は悟られないようにそれっぽい理由を述べてみる。

 

「ここはオルティシエよ。今はカメリア首相が目を瞑ってくれているけど本来なら私と貴方は共にいることはできない位置に立っているの。今こうして言い争いをしているのもね。しっかりと視られているわ」

 

まだ彼は納得していないようだ。苦虫をかみ潰したよう顔で「……んなこと言ったって」

と言葉を途切れさせる。

 

「必要な事をきちんと行わなければ全てを元通りなんて夢物語よ。貴方はルシスの王なのだから」

 

今までが甘かったのだ。痛いところを突くのは不本意だがこれも仕方ない。彼の為にと口を酸っぱくして独り立ちを促すしかない。

 

「…っ…!」

 

突き放すようないい方にノクティスはショックを受けた様子で私の腕を掴む手を緩ませた。

私の好きな瞳が波のように揺れ動いたのに気付いたが見て見ぬふりをした。そうするしかなかった。さっと腕を抜きとった私はノクティスの脇を通り抜ける。

 

「すぐにオルティシエを出る準備をしてもらうわ。ニックス手伝って」

 

すぐにでもこの場から逃げたかった私は、ニックスの返事もまともに耳にせずそぞろに廊下を歩きだす。遅れて「……わかった…」と返事が聞こえた。

 

自分で突き放すようないい方をしておいてノクティスの傷ついた顔を見たくなかった。

逃げたかった。彼から。家族として自分を求めているノクティスから。

 

私はもうノクティスの妹じゃない!綺麗なままのレティじゃない!

ドス黒く汚れてるし意地汚い女だし自分が好きかと問われればすぐに嫌いだと言えるくらい嫌い。私を形成してきた全てが嫌い。

 

どす黒くなっていく私の心をかき乱してさらに真っ黒にさせる彼。

 

ズンズンと廊下を早歩きで進む私に後ろから「レティ、待てっ」と呼び止めの声が掛かる。だが待たない。そこまで頭が回っていないからだ。私の心を埋め尽くすものは。

 

たった一人だけだ。

 

【それは憎らしい君。】

 

眠っているルナフレーナを抱き上げ船に乗り込むのはノクトだ。

彼の為に今の状態になったのだから運んであげてほしいとレティから頼まれてノクトは複雑そうな顔で了承したが、まだ二人っきりで話せていない状況に不満げだった。いつも視線でレティを気にした素振りをみせるが中々話しかけられるチャンスが巡ってこない。いつも誰かが傍にいることが多いので今もノクト達がシドが運転する船に乗り込んでいく中、別れを惜しむかのように顔を見つめ合うレティとニックスに気がヤキモキして仕方ない。グラディオが窘めるように一言。

 

「ノクト、レティが気になるのは分かるがルナフレーナ様を落とすなよ」

「わかってるよ!」

 

それに続いてプロンプトも呆れたように話しかけた。

 

「ノクト、気になるなら話してくればいいじゃん」

「オレが話しかけようとするといっつも邪魔が入るんだよ。ちなみにお前も邪魔してたやつ」

「お、オレも!?」

 

恨みがましく睨まれてプロンプトはタジタジになり、その隣に立つすっかり傷が癒えて完全回復したイグニスがスチャッと眼鏡を押し上げつつ眼光鋭くノクトを窘めた。

 

「ノクト、まずはルナフレーナ様を椅子に寝かせて差し上げろ。今のお前を見ていると危なすぎて心配になる」

「……分かってるって」

 

腕の中にいる世界に光を与える存在、ルナフレーナは、レティの言った通り目を覚ますことなく昏々と眠りについている。彼女の胸は上下を繰り返しており、静かな寝息が耳を澄ませば聞こえてくるほどだ。

 

自分の為にこうなってしまったのかと思うと罪悪感に胸を押しつぶされそうになる。

 

だが感謝すれこそ、友情以外の感情は持ち合わせていない。きっとこれからもルナフレーナに抱くことはないだろう。

 

そんなノクトの意識を奪うのはいつもずっと一緒だった彼女だけ。

レティにあげる予定だったモーグリ人形も本人に渡せる機会は結局得られずプロンプトの背中に括りつけられている。心なしかしょんぼりしているのはノクトの気持ちが沈んでいるからだろう。

レティとノクトの間を隔てている見えない壁は明らかに強固で簡単に壊れるものではない。

分かっていたのだ、ノクトは。実際にそう簡単に上手くいくはずがない、と。

だが認めたくなかったのだ。自分とレティとの絆がそう簡単に切れるわけがないと信じたかった。信じた甲斐はあった。

 

家族であったことをまるで過去形のように扱う彼女はワザと厳しい口調で物言い、冷たく振舞ってノクトと距離を置こうとしている。だがそれもレティなりの優しさの現れとノクトは確信している。そう、まだ優位な位置にいるはずなのだ。レティにとって大切な部類に含まれているはず。

 

絆は切れてはいない。けどそう振舞わなければならないことがノクトには辛かった。

全ては自分の為にと行動してくれているレティが我慢しているように見えて辛かった。

もっと頼ってほしいと思った。家族としてではなく、一人の男として。

 

(――レティ)

 

あふれ出る想いとは裏腹にノクトが熱く視線を注ぐ相手は、別れを惜しむようにある男と見つめ合っている。まるで仲睦まじい恋人のように。

ぽっと出の憎たらしい男。王の剣に属しいつの間にかレティを守る位置にノクトを押しやってすり替わった奴。ニックス・ウリック。

突如沸き上がる嫉妬心から奥歯をぎりっと音を立てノクトは忌々し気にニックスを睨み付ける。

 

その場所はノクトのモノ。ずっと昔からノクトだけが独占してきたモノ。

 

絶対、絶対に――

【掠め盗られて堪るか】

 

船に乗るノクトからの視線にニックスは気づいていた。ビシバシと殺意籠められた視線だ。

当然、他の仲間からの突き刺さるような目線も。

だがこれ見よがしに優越感に浸りまるっと無視する。今まで共に旅してきたんだからそこでお預け喰らっとけと直接せせら笑って言ってやりたいくらいの気持ちだがそこは我慢して愛しの彼女へ意識を集中させる。

 

「レティ、オレに祝福をくれ」

「祝福?ああ、分かったわ」

 

レティはすこしつま先を立たせてニックスの頬に唇を充てがおうとした。

だが先に動いたニックスの大きな手がレティの顎を捉え自分の顔へと近づけた。

 

「ニックス?」

「オレはこっちの方がいいな」

 

悪戯めいた瞳に口角を上げた口元。だがそれはすぐに熱情へと変わる。ニックスの瞳に映る自分の姿は呆けた顔をしていて、彼の瞼が徐々に閉じていき吐息が混じり合うほど肌で感じた時には、吸付けられるように口付けられていた。

決して激しいものではない。舌と舌を絡め会うような情熱的なものでもない。

しっとりと濡れていて程よい柔らかさ。

 

船の上から二人を見ていたノクト達は重なり合う二人を見てはピシリと石化したように固まってしまう。その様子を薄めで確認したニックスは内心ざまぁと優越感に浸りながら笑った。

 

レティがどれだけ心砕いてきたかその苦労を知らずにやってきた王子一行。

今回は仕方なくレティを預けていくが、必ず彼女はオレの元に帰ってくると自信にあふれていた。なぜなら、自分はレティの守護者。

 

人間の視覚で捉えることができない所で二人はしっかりと繋がっている。だから余裕がある。

 

長く甘いキスを終わらせて瞳を潤ませ頬をほんのりと赤く染めるレティを愛おしげにニックスは見つめ、一度彼女の唇を親指の甲で軽く触れて顔を近づけて耳元に囁いた。

レティ以外に聞かれないようにという意味を含めて。

 

「オレの心は常にお前と共に」

「ニックス……」

 

たとえ天と地ほど離れていようと心は繋がっている。彼女が望めばどのような過酷な状況だろうと馳せ参じることなどたやすいほど、ニックスの気持ちは本物だ。

だからこそ、この一言に彼の想いが全て込められていた。

 

「愛してる、レティーシア」

「……!」

 

好きよりももっと重く胸に響く言葉。

 

愛に飢えていたレティにとって惜しみない愛を与えてくれる存在。

予期せぬ愛の告白はレティの心に波風を落とした。

 

「………私は」

 

なぜだか苦しそうに表情を歪めさせるレティにニックスはそっとレティの唇に指先を軽く押し付け優し気な瞳で頭を振った。

 

「いい。今は何も言うな。だがオレは本気だ。それと、な―――」

 

一瞬掠めるように耳打ちされる言葉。

 

「!?」

 

バッとレティは真っ赤な顔でニックスから後ずさって距離を取った。口をパクパクとさせて「あ、え、いやいや!」と動揺しまくる姿にニックスは口元を片手で覆って笑いを堪えた。

 

彼が彼女の耳元で囁いた事。それは、

 

『帝国で、お前をもらう〈抱く〉』

 

というお預けを喰らった狼による宣戦布告。

 

「忘れるな、レティ。約束だぞ」

 

英雄の皮を被った狼さんは目を細めてニヤリと笑った。

ぎょっと目を剥く王子様の前で動揺する悪役皇女を掠め盗る気満々に。

 

【トライアングル・ラヴ】

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