レティーシアside
私の人生にとって最も複雑な日がある。それは8月30日だ。そう、ルシス国王子の喜ばしき生誕の日である。国民の誰もがお祝いの言葉を口々にし、溢れかえりそうなプレゼントの山が幼いノクトの頬を緩ませていた。目をキラキラさせてうっとりと見惚れている。
『うわぁ~すごいな』
『……そうだね』
もちろん私にも誕生日のお祝いはあったが、プレゼントなどは基本お断りしていた。だって私の誕生日ではないし、そもそも私とノクトは双子ではない。誕生日が同じはずないのだ。だが国民はそんな隠された事実など知らずにお祝いムード真っ盛りである。皆が喜びに浸る中、私は早々にプレゼントに夢中になるノクトを気にしながら部屋をこっそりと出ては自分のオアシス(図書室)に戻る。
『レティ、お帰りクポ』
『ただいま、クペ』
しっかりと鍵を掛けてお気に入りのふかふかソファに腰掛けるとクペは冷たいりんごジュースを持ってきて労いの言葉をかけてくれたな、あの時も。
『今年も大変クポね』
『ノクトは皆から大切にされてるからね。当たり前だよ』
『でも!』
クペは悲しそうにボンボンを垂れ下げて私の隣に座るものだから毎年彼女を慰めていた。
『大丈夫だよ。クペや召喚獣達がわたしの誕生日を祝ってくれるもの』
父上からの形ばかりのプレゼントは決まって一つ。本だ。本だけは、知識だけは私を裏切らずに私だけの世界を築けるもの。何が欲しいとクレイから尋ねられれば決まって本と答え、毎年同じ日には新しい本が一冊私の図書室の棚に入れられる。
でも私が父上から【子供ではない宣言】をされてからその年の双子の誕生日に私が願ったのは、
『わたしのほんとうの誕生日をおしえて』、だ。
幼い私の口からそんな言葉が出るとは思わなかったのだろう、クレイは悲しそうに顔を歪めては私を抱き込んだ。
『すまない』と小さく謝っては痛いくらいに抱きしめられたのを今でも覚えている。
そう、私の誕生日を祝うことが公にできないこととそれを禁じられていること。だからクレイが私におめでとうというのは決まって8月30日だ。
でも逆に言えば私の本当の誕生日には何をしても咎められることはない。
だってその日だけは私の日だもの。
だからこっそりとその日だけは私だけの誕生日を祝ったものだ。ケーキは自分で手作り、なんてイグニスでもあるまいしそんな器用なことできないので、こっそりと厨房に潜り込んで馴染みのシェフにおねだりして小さなケーキを作ってもらっていた。それとピッタリサイズなろうそくも用意してもらい部屋でクペと共にささやかなお祝いをした。
『レティ、おめでとうクポ~!』
『ありがとう』
私が欲しいのは山のように積まれたプレゼントじゃない。私のために私を想って祝ってくれる友達や家族だ。幸いにも私は恵まれていた。召喚獣たちだって姿を変えては私の為にやってきてくれた。シヴァは私の為にその日だけはテラスに雪を降らせて雪合戦をやったり小さくなったイフリートとクペやカーバンクルらでトランプしたりと楽しく一日を過ごした。私の誕生日を知っているのは私とクレイと父上だけ。
さすがにイリスにも言わなかった。どのような形で文通が他人の目に触れるか分からなかったから危険は冒せない。というか上手くはぐらかしていたしね。私はノクトと同じ誕生日でいいって。だってその方が二度手間にならないでしょってね。
※
普通に戻ったレガリアの後部座席にお決まりの位置で収まった私は窮屈な思いを抱きながらひたすら寝ることだけに専念していた。だって隣にすぐノクトがいるんだもの。緊張感に胸がドキドキしてたまらなかった。
「……なんだよ、もう寝てんのか」
狸寝入りしている私にノクトの残念そうな声が耳に入る。
「え、レティ寝てんのかよ?」
「さすがにアダマンタイマイはデカすぎだからな」
プロンプトとグラディオの会話に続いて助手席のプロンプトの膝に座っているクペも会話に参加した。
「クペも乗ってみたかったクポ」
「クペ、アレは乗るものじゃないぞ。アレは……亀だ」
イグニスは若干疲れた声で諭すように言った。確かにアレは亀で間違いはないね。少し大きいけれど。
さて、いつも視線で追いかけられ話すチャンスを伺っているようだったけど私はボケたり奇天烈な行動して彼らを翻弄していたからうまくペースを乱していたはずだ。だがドライブ中はしっかりと両側をガードされてしまうので逃げることもできない。
ふざけようにもイグニスのお叱りの言葉が真っ先に飛んでくるし何より運転中は静かにしていろとグラディオから痛いチョップを喰らったばかりなので静かにしているのだ。
だから話しかけるな。
グラディオには迷惑だろうが彼の肩に寄りかかっている。ノクトには、なんとなく寄りかかれないから。うーん、それにしてもじっと顔を見られているような視線を感じるな。
「………」
「……」
「…」
い、居心地が悪い。じっと見てる。ノクトが私をじっと見てる。気配で丸わかりだ。
冷や汗が私の額に浮かび上がってくる。どうしよう、疲れてきた。
だけどノクトは思いもよらない行動に出た。なんと、私の腕を掴んで自分の方に引き寄せてきたのだ。引っ張られた私はノクトの肩に寄りかかる形で無事に収まる。
「何してんだ」
訝しんだ声のグラディオに対してノクトは「……べつに」と答えているがちょっと声が弾んでる様子。
「オレも寝る、かな」
「嫉妬かよ」
「うっさい」
グラディオの茶化しを一蹴してノクトは私の頭に顔を寄せてきてなおかつ私の手を握りしめてきた。
なんだ、寄りかかるものが欲しかっただけなのかと私はほっと安堵する。ノクトはいつも私を抱き枕代わりにしていたから丁度いい枕になるものが欲しかったのかもしれない。
無駄に緊張してしまった所為か少し眠気がやってきた。本当に寝ちゃおうかな。
これから行く先はガーディナ渡船場。
マルマレームの森へ行くのがもっとも優先させるべきものなんだけど私が帝国にいる間にすっかりノクトの誕生日が過ぎてしまったのでどうせならささやかながらケーキでも食べに行くかということになった。
今は状況が状況なのでそう浮かれたこともできないけど私が帝国でアラネアと食べたケーキが美味しかったと伝えれば皆はならそれにするかと満場一致。
ハンマーヘッドを出て暫くして車の中での会話でノクトはどこか面白くなさそうな顔で
「アイツ、とはどっか行ったりしたのか?」
と尋ねてきたのでたぶんニックスの事を気にしているのかと考えた私は
「オルティシエの観光スポットとか回ったくらいかしら」
と答えると途端にノクトは仏頂面になり
「………」
無言でさっさとレガリアに乗り込んでしまった。何が言いたかったのか私にはさっぱりでしたね、あの時は。それから寝たふり決め込んで今の様でございます。
それにしても、ノクトの手が温かくて久しぶりだ。
なんていうんだろう、ほっとできるような、安心できる温かさ?
まるで人間湯たんぽと少し可笑しくて頬が緩んでしまった。いつもの温かさとノクトの匂いに心とかされて私は眠気に身を任せた。
向こうについたら余計な事考えずにノクトを祝ってあげようと思う。
だって来年の誕生日には私はもうノクトの傍にいないから。だから、今の内に精一杯祝ってあげよう。
ノクト、誕生日おめでとう。
貴方の未来が光に満ちていますように。