レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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ブロークンハート症候群

レティーシアside

 

 

彼は、グラディオラス・アミシティアは王の盾として当然の行動をしている。

 

「グラディオ」

「なんだ」

 

私が彼の名を愛称で呼ぶようにしたのは、私の決意の表れ。

彼も私の呼び方が変わったことを気にしてはいない。きっと私が彼のことを認めた、とか思ってるのかも。それもある。私が彼を名前で呼び続けたのは、未練を残さない為だ。できる限りの距離を保った状態で消える。それに執着してたから。

でも今はそんなのどうでもいい。

 

これは、彼と、私の約束の証だから―――。

 

 

【ブロークンハート症候群】

 

皆にバレないようシーサイドクレイドルに借りた部屋から抜け出て浜辺へと彼を呼びつけた。クペにはバレないように足止めをお願いしている。こうでもしないと勘が鋭いイグニスに悟られてしまうだろうから。今日はノクトの誕生日を皆で祝った。楽しかった。久しぶりに皆と打ち解けた気がして、楽しかった。

でもそれはつかの間の事。

 

私は、グラディオにこう問いかけた。

 

「貴方は、ノクティスを守る為なら何をも厭わない?」と。

 

グラディオは、曇りなき眼で、私の迷う心を射貫いた。

 

「それが王の盾だからな」

 

ああ、この質問は愚問だったと私は苦笑してしまった。

 

彼は王の盾。その鋼たる忠誠心は幼い頃からの教え込まれたものだからではなく、彼を、ノクトを心から支えたいという親愛、友情、家族のような気持ちを抱いているから。

彼は、迷わない。

 

「私、グラディオと出会えて良かったよ」

「……オレも、お前と出会えて良かった」

 

思えばグラディオはいつだって私を遠くから見守ってくれていた。

私にちゃんと考えるように仕向けて自分で答えを導き出させようとする。それでも駄目ならたまにヒントをくれる。

 

「私、自分らしく決めたの」

「……」

 

グラディオはじっと黙って私の言葉聞いてくれた。

 

「私は、……ノクティスを王にさせる」

 

王にさせる。言葉としていうのは簡単だ。ノクトは王の息子。必然的に王になるのは確定されている。けど、そうじゃない。ニフルハイム帝国に引導を渡す王とさせるのだ。私が話した計画の一番の確信はこれだ。一度袂を別けたのだ。再び共になることはない。彼も薄々気づいていたのだろう。驚いた素振りもない。

 

「……それがお前の出した決意、か?」

「うん」

「自分がどうなろうとも?」

「うん」

 

迷わす私は頷いた。

 

「なら、オレはお前を守る」

「……」

 

グラディオはいつも私が迷っている時に背を押してくれる。

 

「最後の最後までレティで通してやれ」

 

それは言葉だったり、行動だったりと多種多様なやり方で。

 

「だがな、絶対後ろは振り向くな」

「……」

 

さりげなくスマートにそれがグラディオなりの気遣いだと周囲に悟られずに私を庇護している。

 

「それはお前の決意を鈍らせる」

「……」

 

私という人物がいかに自分に忠実で平気で人の期待を裏切る女であることを彼ほど理解している人はいない。

ノクトは、私の嘘に騙されて安堵しているんだ。

でもそれでいい。彼に私の気持ちを悟られるわけにはいかない。だから私は気づかれない所で泣き虫になる。弱虫なレティを知るのはほんの一握りでいい。

 

「後ろは振り向くな。お前の背後はオレが守る。だから、前だけ見て進み続けろ」

「……うん……」

 

無骨な手が伸ばされ、指で私の頬に伝う涙をグイッと拭い去る。でもその仕草は普段の荒々しい戦闘をこなす手からは想像できないほど優しいものだった。

 

「馬鹿、泣くな。オレがあとであいつらにいちゃもんつけられるだろ?」

 

なんて苦笑してる彼が本当の兄のように思えた。

 

「……グラディオはいちゃもんつけらちゃえばいいんだ…!」

「…アホ…」

 

ああ、このやり取りももうすぐ終わっちゃうの、なんて感慨に浸れたらいいのに。

そんな甘えは私の決意を鈍らせるだけ。

 

私はもういいとグラディオの手を掴んで離させた。一瞬だけグラディオは悲しそうな揺らいだ瞳をした。でもそれは私の気のせい。きっと。

 

「ノクティスのこと、任せた」

「……ああ」

 

私は拳をグラディオに突きつけた。グラディオも私に拳を突き合わせ、

 

「約束だ」

「約束ね」

 

私達は確固たる約束を交わした。我らが王の為に。

 

私は世界の為でなく、ノクトの為に彼を王にする。

グラディオは、王の盾という誇りを胸にノクト自身の為に彼を王にする。

 

共通の想いだけど他の皆にはどう取られるかは想像、できなくはないかな。

できちゃうところが彼らとの繋がりが私にとってかけがえのないものだって証拠。

 

最後の我儘を彼にお願いした。

 

「今のうちにさよなら、言っていい?」

「……」

「さよならって言ってさ、じゃあなって私にかえして」

「……」

「そしたら、寂しくないかも、しれないから」

「……」

「グラディオ、お願い……」

 

切願する私に彼は、

 

「戻ってこい」

 

と言った。

 

「……送り出しといてそんな卑怯なこと、言う?」

「やることやったら、ちゃんと戻ってこい」

「無理だよ、だって私は」

 

クリスタルと同化するんだから。

 

そう声に出そうとした。けど理解されないだろうから口を噤んだ。すると乱暴な手つきで頭を撫でられた。

 

「だから送り出してやるんだ。バカ」

「グラディオ」

「ちゃんと戻って、ノクトに謝れ。……ちゃんと謝れば許してくれるさ」

 

いつか幼い頃のグラディオと姿が重なった。

ノクトと些細なことで喧嘩して素直になれなくて苛立ってた時、グラディオに言われた。

 

『ちゃんと謝れ。悪いことをしたと自覚があるならな』

 

謝れるならちゃんと謝りたい。直接彼の前に立てるならどれだけいいことか。

触れあえる距離で彼の瞳を見つめながら。

 

「あの頃、は良かったねぇ……」

「レティ」

 

私は瞼を閉じて、あの頃を思い出す。時計が逆回りして過去を脳裏に映し出していく。

 

ただ外の世界だけを我武者羅に求めて知識を漁る毎日。

夢の中に浸って仮初の癒しで傷を癒したつもりになってノクトと兄妹として過ごす。

籠の中は父上の愛で満たされていて安全だった。危険を遠ざけていてくれたんだから。

その事実を知らなかった私は、ある意味で幸せだった。

 

突然愛しい人が奪われてしまう現実を。

苦しみを共に乗り越えてきた仲間との悲しき別れを。

人の欲で膨れ上がった戦火を。

自分の出来上がった理由を。

 

「私は、過去はもう振り返らない」

「……レティ……」

 

ゆっくりと瞼を上げ、彼を見据えた。

 

「グラディオ、ありがとう」

 

もうグラディオのお世話から卒業するときが来た。

目に悲しみを湛えてグラディオは「馬鹿娘が、と」苦しそうに吐き出した。

 

「私のお墓は、父上と母上の間にしてね」

 

【止めないのが彼の最後の優しさ】

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