レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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[grow apart~彼編~5.1]

コルside

 

見事な復興を遂げるルシスに期待が膨らむ中、これからは若者の時代なのではないかと考えさせられてくる。

 

「そろそろ潮時、か」

 

ミラ王女を死なせ、陛下を守れず、そして今度は姫さえも失ってしまった。

望まれて今の地位に就いたが一度拝命した責務から逃げようとも思った。この不死将軍とも恐れられた男が、だ。戦地で命を散らす闘いをしていた頃よりも日々の忙しさに飲み込まれそうになる。

 

だが彼女の墓石へと足がふらりと向かう度に今更自分に逃げ道などないのだと痛感させられる。この身を粉にして働かねばならない。新たな陛下が築く世の為に。

 

「……」

 

色とりどりの薔薇のアーチを潜り抜け小鳥の囀りが囁き合う秘密の庭園を通り抜けてひっそりとした場所に墓石はある。かつての想い人であり姫の母であるミラ・ルシス・チェラムが眠る場所へ訪れる人間は限られているが時折オレ以外の人間が花束を置いて行っている様子があった。おそらく陛下だろう。

執務の合間を見つけてはこことは違う場所へ繋がるという部屋に足繁く通っているということを耳にしている。

 

「お久しぶりでございます。ミラ様」

 

オレは墓石の前に片膝をついて花束をそっと地面に置いた。

 

綺麗なほどに純粋で真っすぐな御方だった。一度としてあの御方の御顔を忘れたことなどない。姫よりも柔和な御顔で鈴を転がすような御声でオレの名を呼ぶ度に心臓は早鐘を打った。

 

恋をしていた。胸に秘め続ける恋を。

 

「お変わりございませんか」

 

いつものようにオレは彼女へ話しかける。そうすることでこの何とも言えない気持ちが軽くなるような気がしていた。

 

彼女へ手向ける花は決まっていつも同じ白のマーガレット。オレが花言葉に精通しているわけでもないが、唯一知っている花言葉でありこれがオレの正直な気持ちだった。

男として見られていないことは重々承知だった。だがいつかこの想いに気づいて欲しいと願い慕う愚かなオレには儚い恋の結末など当時は想像できなかっただろう。

 

オレは三度失ってしまった。この手で守ると誓った方を、大切だった女性を手が届かない場所へ向かわせてしまった。しかも、親子共々。なんの因果だろうか、それともこれは呪いか?ただひたすらに機械的に接すればよかったのか。敬愛以上の念を抱いてしまったが故の罰か。

 

今も脳裏から決して離れることはない姫の最後の肉声。

 

最後の電話が鳴ったのはルシスを完全に手中に収めた時だった。丁度ノクト達が帝国に乗り込んだらしいとの情報が入った後でオレは何か胸騒ぎのようなものを感じて急ぎ電話に食いついた。姫の声は苦しさに息切れを起こしていて彼女の身に何かあった事は明白だった。

 

「姫!一体何が」

『コル、貴方に、全権委ねま、す。……ノクト達を、おねがい』

 

まるで遺言のようで頭が真っ白になった。

 

「姫、何をおっしゃって……」

『私、もう戻らない』

「!」

 

決意に満ちた声だった。ハッキリとそれはルシスにこの地に戻らないと宣言したのだ。

荒い呼吸に途切れ途切れの言葉。時折ヒューッと空気が抜ける音がダイレクトに耳に伝わり、姫の状態が思わしくないことが嫌でもわかった。わかってしまった。

幾多の死線を潜り抜けてきた己だからこそ、姫に迫りくる死が目前であることが分かってしまったのだ。姫もあえて自分の状態を伝えることはなく、赤裸々に自分の最後の想いを必死に言葉にしていた。

 

『お、願い、コル。私全部、終わら、せたい、の。も、終わらせ、なくちゃい、けないの。帝国も、クリスタルに、支配されるルシスも、王の、犠牲も、この生ま、れ変わりも。全、部私が、終わ、らせなくちゃ、いけないの』

 

姫の言っている言葉の半分以上も意味が分からなかった。

分かりたくもなかった。

 

「姫!!どうか御考え直しを!」

 

オレは電話口で思いとどまらせようと躍起になった。

向かわせてはいけない。何処へ行くかは分からないが、姫を向かわせてはいけないと思った。だがオレに出来ることなどたかが知れている。ただ電話口でみっともなく叫ぶだけだ。

 

『あぁ、コル。本当に、本当に、御免なさい。それと、今まで側で、見守ってき、てくれて、あり……がとう』

「姫!」

『……さよな……ら、コル』

 

プツリとそこで電話は一方的に切られた。再度掛けなおしても二度と繋がることはなくオレはそれが姫との最後だったと直感してしまった。

 

 

それからしばらくしてグラディオから着信が入った。

内容は、帝国のレティーシア・エルダーキャプトは死亡しクリスタル奪還成功との淡々とした報告にオレは短く「わかった」と答え、共にルシス入りを果たしたリベルトやグレンたちに『敵』である女帝死亡と帝国の終わりを伝えた。皆、言葉を失い悲観に暮れるばかりだったが、オレは己を律して冷静であろうとした。姫が遺した言葉を実現するために動いた。心を凍りつかせるなど簡単だった。割り切ればいいのだ。

 

生と死は紙一重。生きとし生ける者には必ず死がやってくる。

姫は潔く死を選び長年の宿縁に自らの命をもって引導を渡したのだ。それは誉(ほまれ)であり嘆くことは姫の死に対する冒とくとなる。だからこそ口元を引き締めたとえ冷血漢と言われようと忠実に姫から託された責務に没頭した。

姫の死そのものから目を背けるように。

 

気が付けばオレはベッドに横たえられていた。

傍らには看病に徹してくれたのだろう、少し疲れた様子のモニカが椅子に腰かけて居眠りをしていたがオレはベッドから身を起こし額を抑えながら降りようとすると思わぬ視界のグラつきに床に両手をついて倒れてしまった。その音にビクつきながら目を覚ましたモニカにより涙目交じりの顔で引っ張り上げられ無理やりベッドへと戻されてしまった。彼女に押し倒される形でオレの体に乗り上げたモニカの顔は歪んでいた。

 

『貴方だけではありません!姫様の死を忘れたいのは貴方だけではないんです!!それを自分だけは悲しみを押し殺したような気持でいるなんて不愉快で、……不愉快でたまらない!』

 

モニカの泣いている顔など正直初めて面食らい、言葉を失ったが彼女のストレートな気持ちに誘発されオレは今まで自分だけが背負い込んでいた気がした。それが責務だからと。だがそれは多大な勘違いだった。オレだけではなく皆が姫の死を受け止めようと努力していたのだ。その様子に気づかずにオレは体調を怠り情けなくも倒れた。

 

『オレ、は……』

『泣いてください。思いっきり泣いてくださいよ。将軍、貴方は、一度も泣いてないんじゃないですか……?』

『な、く』

 

置き去りにしてきた一つの感情がモニカの言葉によって再びこの胸の内に引き戻されてくる。それと同時にじわりじわりと涙袋から何かが溢れ出そうとしてくる。

あぁ、久しく忘れていた感情だ。

 

『オレは、泣いても、いいのか』

『はい』

 

許しが欲しかった。悲しんでもいいと嘆いてもいいと許可が欲しかった。

モニカは頷き、オレは目元を片手で覆い隠した。目尻から熱い何かが零れ落ちていくのと同時に『戻れない』ではなく『戻らない』と告げた彼女の心境を想わずにはいられなかった。オレの胸に顔を埋めてモニカはくぐもった声で『……姫様……!』と小さく呟いた。

 

どれほどに辛かったことか、苦しかったことか。姫の心境を察すれば察するほど守れなかったことを悔やんだ。必ず守ると赤子である姫を胸に抱きながら陛下に誓った、あの雨の日からずっと見守ってきた。だからこのようなことになるなど夢にも思わなかったのだ。これは自分の驕りであり罪だ。

 

姫は、死んだ。

 

姫の死をしっかりと自覚したのはその日からだ。

 

無事に姫の目論見通りに事は進み世界は新たな救世主であるノクティスとルナフレーナ様を担ぎ上げ闇が払われた事実を大いに喜び合った。六神の存在は根強く民に広がっているのでそう簡単に信仰を止めることはできない。それを心の糧としている人がいるのも事実だ。だが姫が行おうとした意識の改革は確かに芽吹き始めている。

昔から語り継がれてきたおとぎ話が真実ではない。日向に隠されてきた真実にも目を向ける時なのだと気付き始めたのだ。

 

レティーシア・エルダーキャプトは悪役女帝として死に、民に忌み嫌われながら意識の改革を起こし、

 

レティーシア・ルシス・チェラムはルシスの墓石に名を刻まれルシスの民の心に残り続ける。

 

オレが知る姫は既に死んでいる。そう望んだのは姫自身だ。

では、クリスタルの中に眠る彼女は何者なのだと疑問が沸く。

陛下の話では一切身動きせず静かに眠り続けていると聞くが、目覚めることなどあるのだろうか。

 

「あれから二年になります。ミラ様」

 

時の歳月など微々たるものだ。オレの心は疲弊しきって何かを信じ続けることを恐れている。だからオレはこのまま命燃え尽きる限りルシスに忠誠を尽くすだろう。どのようなことになれ、オレの行く先はここしか許されていないのだから。

 

【失くした数(人)だけ心が壊れていく。彼は不死将軍であるが『心』は不死ではない。】

 

20170907

 

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