リベルトside
今日ばかりは忙しいなんて言ってらんねぇな。なんせ今日は大切な日だ。この日ばかりは王城の中もひっそりと静まり返る。
「リベルト、準備は良い?」
「おう」
耳に馴染んだ声に応えてオレはしっかりと制服に皺がないか鏡を覗き込んで確かめてる。鏡に映るオレは以前よりも顔つきが変わったと言われることがある。自分じゃ自覚もしてないが素直に喜んでるぜ。
ニックス、この部屋見て見ろよ。絶対信じられないぞ。
だってよ、壁に雨漏れの染みがないんだぜ?真新しい壁紙だぞ、オレの部屋は。
なんて、鼻高々に自慢してやりたい親友は今別の場所にいる。それもオレなんかが立ち入ることも許されない場所にいるらしい。
以前よりもグッとグレードが上がった部屋はまだ慣れていないだよなこれが。待遇もかなり良くなったというか、あー、コル将軍直々の部下になった。大体レジスタンスに加わってた奴もそのまま引き入れられてルシスの主だった部隊に配属されたってわけだ。今までのやり方を壊すみたいに身分出自関係なく本人の能力次第で出世も夢じゃなくなったんだぜ。それもこれも、全部姫のお陰だ。あのお転婆姫がよ、マジあんな過激なことするなんざ出会った時想像できやしねぇよ。
ニフルハイムをぶっ潰してくれた姫様はオレ達の英雄だ。スゲーよ、姫は。あんなちっさい体でプレッシャーにも負けずに踏ん張って最後ドカンとデカい花火打ち上げてくれたんだ。残されたオレ達はしっかりと整えてくれた土台を盛り上げていかなきゃならねぇよな。……なんて偉そうに言っちゃいるが実際に一度崩壊したルシスを立て直すのは容易なことじゃなかった。全部一からだからな。ノクトも苦労してたがオレ達だって同じだ。血反吐吐きそうなほど精神削ってルシスはこの短期間で復興を遂げた。
部屋から出るとリビングでクロウがソファに座って必要書類をまとめていた。
「支度は終わった?」
「完璧」
ワザとらしくぐるりと回って見せると「何子供みたなことを」と呆れたようにため息をつかれた。
「なんだよ、ノリの悪い」
「リベルトはいいかもしれないけどまだ処理が終わってない仕事が溜まってるのよ」
滑らかに指先を動かしてパソコン専用の眼鏡を掛けて画面とにらみ合いする姿はもう見慣れた。
魔法を使えなくなったクロウにはピッタリの天職らしい。最初はクロウに機械が扱えるか?って心配したが杞憂だったぜ。意外と順応が早いクロウにはドンピシャだとさ。
オレはキッチンに向かって腹ごしらえに何かないかと冷蔵庫を開けた。そこには昨日の残りのサラダがキッチリとラップされて入っていたのでそれを取り出す。ちなみに料理担当はオレで洗い物はクロウだ。
「制服汚さないでよ」
「分かってるって」
オレの行動パターンなど把握済みのクロウがそう声を掛けてきたのを適当に相槌打ってフォークもってリビングへと戻る。
―――オレが姫と再会できたのは、あの時が最後だった。カエムの岬で別れて以来姫の訃報を耳にするまで信じられなかったもんな。あの時、コル将軍は上に立つ者らしく冷静に徹していたがオレ達にとっちゃ痛々しいものだった。だって自分で姫の死をオレ達に伝えておいて涙一つも流しやしないだぜ。今じゃ貴重な飲み仲間になってるグレンだってあまりにも冷たすぎやしないかって将軍に対して不信感募らせてたっけか。でもあれは現実を受け止められていない証拠だったんだよな。そりゃそうだ。こっそりとコル将軍と姫の関係を尋ねてみればそれは姫が生まれる前から、つまり亡きミラ王女との関係から続いていたらしい。もう自分の娘みたいなもんだよな。産まれた時から見守ってきたんだ。傷つかないわけがない。最近じゃオレが冗談飛ばせば少しだが笑うようになったんだ、コル将軍。それまでは笑うどころか険しい顔して入ったばっかの奴らをビビらせてばっかりでオレがフォローするなんて場面も度々あった。グレンはあの性格だからな、役に立たねぇよ。
―――故郷へ帰ると意気込んでいた二年前のオレと今のオレを比較するならどうしてそうなったと突っ込まれそうだな。お人よしだって言いたいんだろう?なぁ、ニックス。
そりゃガラードに帰って故郷を復興させようって気はもちろんあったさ。クロウが生きてるって知るまではな。
あーあ、色男め。好きな女のために人生捧げて後悔も何もないだろうさ。
お前、前に言ったよな。姫様が目覚める時にもう一度会えるって。その言葉信じてるぜ。というか信じるしかないだろ、オレ達には。
リビングに戻りクロウの隣にドカッと腰かけて無言でサラダをバリバリ食べるオレ。
「………」(ムシャムシャ)
「………」
クロウが打ち込むキーボードの音が静まり返った室内に響く。
おもむろにオレは食べるのをやめ視線を窓の方へ向ける。
「今日も雨だな」
「――ええ、そうね」
窓に打ち始めた雨の滴とどんよりとした曇り空が去年と同じ天気だったことを思い起こさせる。今日は姫の二回目の命日で、事実を知る者だけが集まる唯一の日だ。
【姫の命日は雨。】