マルマレームの森までまだまだ距離はある。ガーディナ渡船場からレガリアをイグニスの安全運転で走らせること数時間。あっという間に夜はやってくる。
そんなとあるキャンプをした夜のこと。
イグニスの美味しい夕飯を済ませ、それぞれ自由に過ごしている時のことだった。
レティがクペのテントからいそいそと出てきては、背中に何かを隠しながらたき火を囲んで椅子に座り談笑していたノクトとグラディオの所へやってきた。
零れんばかりの満面の笑みを浮かべているレティの様子に違和感を感じたノクトが不思議そうに尋ね、
「何、笑ってんだよ」
「またろくでもねえこと考えてんじゃねえだろうな?」
グラディオが怪しむようにレティの隠し持っている何かに目ざとく気づいた。歓喜を抑えるのがやっと言わんばかりにレティはテンション高めに
「フフフ、成功したのよ!やっと。今日までどれだけ頑張ったか……、思えば最初の召喚から失敗の連続だったわ。波長は合ってるんだけど環境に左右されるってことは頭になかったから細心の注意を払ってようやく形にできたのよ……。これも私とこの子の努力の賜物なのね」
と今までの苦労を振り返り始め一人で感動にふけってしまった。レティの肩に乗っているどこか疲れた様子のクペはぼそっと小さな声で
「……クペは会いたくなかったクポ……」
と呟いていた。そこへプロンプトとイグニスもやってきて、
「あれ、姫何持ってるの?……木の桶?」
「……また何か企んでいるつもりじゃないだろうな」
とやっぱり普段の行いの所為だろうか、悪だくみを企んでいるのではないかとさっそくイグニスに疑われてしまった。けどレティは心外だ!と眉を顰めては
「あのね、私がいつ皆に迷惑かけた?」
と自覚ない発言をする。すると皆綺麗に声を揃えて
「「「「いっつも」」」」
と返した。レティは一瞬、口元引きつかせてサンダー落としてやろうかと思ったが、そんなことをするために来たわけじゃないと頭を振って気分を入れ替えた。
「見て驚きなさい!ジャーン!」
隠していたものを皆の前に出して見せた。
「ね、見て見て!可愛いでしょーキュートでしょ!?」
何を自慢げに見せてきたと思ったら、木の桶に水が張ってありその中にある生き物がいたのだ。ノクトたちはその生き物、ではない、モノに目を見張った。
ぴゅーと愛らしく水を吐き出して髭を優美にゆらゆらと揺らせてはノクトたちに威嚇するように鳴き声を発するそれ。
「リヴァイアサンだよ」
『ピシャー』
下手すれば掌に乗るサイズではないかという召喚獣をレティは召喚したらしい。本来のサイズから考えれば絶対ありえないことだが、今目の前の桶の中にいるのは確かに召喚獣リヴァイアサン。レティ曰く、普段のサイズの極小サイズだとか。
中々レティが召喚してくれないことに寂しさを感じたリヴァイアサンが強引にレティの入浴中に出てきたらしい。けどその所為でバスルームが大変な事態になったので慌てて待ったをかけた。するとリヴァイアサンはシュンとして切実に召喚してほしいことを訴えた。それで胸キュンしたレティが奮闘してようやくこの形で召喚することができたので、ノクトたちにお披露目にやってきた、というわけである。
結構、嫉妬深いリヴァイアサンはレティ以外眼中にあらず。ノクトがちょっかいだそうとすると、見るんじゃねーよ、触るんじゃねーよ!と容赦なく牙を向ける。
「うわ、ちっさ」
本音がポロリと出たプロンプトにレティは不満そうに言い返す。
「ちっさって何よちっさって。可愛いって言いなさいよ」
うりうりと自分の顔近くに桶を持ってきて「ねー?」とリヴァイアサンに話しかけると、リヴァイアサンはハートマーク飛ばして身を乗り出して嬉しそうに自らレティの頬に身を擦り寄せた。
「いや、それも違うし」
召喚獣相手に可愛いはないだろとノクトは突っ込むが、レティは華麗にスルー。
「しかし、このサイズでも呼び出せるものなんだな。通常ならそれなりの水ポイントでなければ召喚できないはず。さすがはレティだ」
「そこ感心するとこか」
レティ馬鹿となりつつあるイグニスにグラディオが冷静に突っ込んだ。クペはレティの肩からプロンプトの肩に移動しぷるぷると体を震えさせて
「皆はリヴァイアサンの真の姿知らないからそんな恐ろしいこと言えるクポ…」
と怯えていた。プロンプトはクペのただならぬ様子に気遣わし気に声を掛けた。
「クペ、超震えてるけど大丈夫?」
するとクペはなんとも不吉なことをプロンプトに語り掛けてきた。
「さっきちっさって言われたこと絶対根に持ってるクポ。……プロンプト、無事に生還するクポ…」
「何その不吉な台詞!?お願いだから危険なフラグ立てないでっ!」
「……」
「なんか言ってよ!?」
「クペからは、もう何も言うことはないクポ……。あえて言うなら、思ってもすぐに口に出さないでよく考えるクポ……フフッ、遅いけどねクポ」
「変なアドバイスもらったけどそれって今さら遅くない!?」
プロンプトは妙な不安感に襲われながらまさか、ねとレティに構われているリヴァイアサンへと視線を向けた。一瞬だけこちらに視線を向けたリヴァイアサンに「ひっ」と反射的にビビってしまった。だがすぐに興味が失せたようにまたレティに構って構ってと甘えだしたので、気のせいかとほっと胸を撫で下ろすプロンプトであった。
※
定番となりつつある帝国からの贈り物、もとい鉄屑軍団を倒しまくったある午後のこと。
次に召喚獣を呼ぼうとしたとき、レティは以前言っていたことを思い出した。
どうせだったら通常のサイズのリヴァイアサン呼んで皆を驚かせてやろうと。どれだけリヴァイアサンの威力が強力かということと、トラブルメーカーのレティにだってスゴイことできるだって思い知らせてやるという個人的な感情もあったり。
けど困ったことに辺りに大きな水場はない。だから仕方なく魔法で水を大量に発生させ、そこをポイントにして呼び出そうと考えたのだ。だがかなり疲れることを理由に断念しもっと軽量化させた結果。ウォータを唱え丸い形に整え宙に浮かせてそこを媒体に召喚させることのしたのだ。そうしたらなんとも微妙な召喚になってしまった。
リヴァイアサンの本体が無理なのでその一部、片方の髭が水の媒体からにょろっと出ているのだ。
「なんか」
「間抜けだね」
ノクトとプロンプトは宙に浮かぶゆらゆらと揺らめく髭の一部を見上げながら言った。
ちなみに間抜けと言ったのはプロンプトである。
「しょうがないじゃない。これが限界だったんだもの」
「レティでも限界という言葉を知っているんだな。……成長したものだ」
「そこ感動するとこか?」
もう定番となりつつあるイグニスとグラディオの会話である。
クペはおどろおどろしい気配を放ちながら、プロンプトに忠告をした。
「気を付けるクポ」
「うわ!?背後に立たないで!びっくりした」
「……あれは敵を狙っている髭クポ。標的を見定めているクポ」
「何不吉なことを……。あれ、なんか髭がこっちに近づいているような」
「気を付けるクポぉぉおお!来るクポ!奴は来るクポォォオオオ―――!」
「何その取り乱し方っ!?不安煽らないで―――」
とか言ってる間にプロンプトに迫りくる謎の、髭。
しゅるしゅると体にまきついてひょいっと軽々と持ち上げると、
「え」
戸惑う暇もなく、きゅ、としめられた。
「ぐえ」
プロンプト、ダウン。
「「プロンプトォォォォオオ―――!?」」
ノクト、グラデイオが同時に叫んだ。
「ふむ、髭で相手を絞め殺す技か。初めて見たな。地味ではあるが確実に相手の息の根を止めるやり方だ」
「だからイグニスは感心すんなっての!」
「大丈夫だよ、リヴァイアサンは遊んでるだけだから」
レティにはアレが戯れているという風に見えるらしい。
「いやあれは確実にとどめに入っているクポ」
クペが律儀に突っ込んだ。
「レティ!ぼけっと見てねぇでアレ止めやがれっ!」
グラディオの怒号に「えー?」と不満そうにぶーたれたレティだけど仕方ないと、リヴァイアンの髭にプロンプトを解放するようお願いすると、リヴァイアサンの髭がしゅるりと気絶したプロンプトを放した。何とか昇天する前にプロンプトご帰還。
リヴァイアサンの髭は悪いことをしたと反省のつもりなのか、プロンプトの頬を数回軽く引っ叩くことにより意識を回復することができた。だが彼の頬はぷっくりと膨れているのは気のせいだろうか。クペは声に出さずに心の中で分かった。
あれは報復だクポ、と。
「ありがとう、またね」
レティの頬にスルリと髭の先が擦りついて別れの挨拶をするとリヴァイアサンの髭は異世界へと帰って行った。
「水、水怖い怖い」
しばらくの間、プロンプトは水を怖がるようになったのは余談である。
【意外と根に持つタイプ】