レティーシアside
それはまるで呪いのように続いた怪奇現象。そう、誰かの言葉を借りるのならこう言えるだろう。
―――カップヌードルの呪いと。
※
ノクトがおかしい。戦闘中ではあるがどうしても彼が気になって集中できない。
「……」
何が楽しいのか頭にカップヌードルを装着している。被り物のそれからは湯気が立ち上っており美味しそうな匂いが辺りに漂う。最初にその現象を見た時私は目を疑った。魔導兵との戦闘も185回に突入しているから疲れているのかと思って目をこすぐってもう一度よく見て見たけど変化は見られなかった。
「ん?どうしたんだよ」
「……あの、頭……が」
「あ?頭って、オレの頭がなんだよ?」
「いやいや、なんでもないわ」
「?変なレティ。どうでもいいけど危ないからオレから離れるなよ」
「……うん」
武器を構えて私を守ってくれようとしてくれている姿はとても格好良く見えるがうまくしまらない。ファントムソードの代わりに彼の周りをぐるぐると回るのがドでかく輝く銀のフォークだったこともきっと私の見間違いだと思う。マジ疲れてるんだな。
そういえばノクトは昨日腹減ったと言ってグラディオからカップヌードル分けてもらって食べていた。だからと言って頭がカップヌードルになるわけがない。そう、きっと疲れているだけなのよね。私は頭を振ってノクト達の援護に回るべくブリザガを連続放った。
……誤って威力が強すぎてノクト達を巻き込んでしまいグラディオにヘッドロックの刑を執行された。いつもならやり返す気力もあるのに半分もやり返せなかった。
「まったくいつも通りだっつーの!」
グラディオの戯言は無視して今日は早々に夜更かしもせずベッドに入った。
きっと明日には何もかも元通りになっているはず―――。
※
「どうかした?オレの顔になんかついてるとか」
「……ううん、なんにも付いてないけど……その、頭、が」
今度はプロンプトだ。恒例となっている趣味の写真撮影に私も付き合っているのだけど、どうしても彼の後頭部が気になってガン見してしまう。風景は最高なんだが彼の後頭部が気になるってどんだけ?
「頭?……ああ、コレ?」
「そう!それなのよ」
分かってくれたか!と歓喜の声を上げる私にプロンプトは表情を緩ませて
「えへへへ、流石レティ!ワックス変えたんだよ。どう?決まってるでしょ!オレの髪形」
とプロンプト本人は自分の髪をかき上げる仕草をしたと思っているようだが、私から見ればカップヌードルの表面を撫でているようにしか見えない。
「………」
無言かつジト目で対応するとプロンプトは見るからに焦った顔をした。
「え?アレ?」
「………ちょっとカメラ貸して」
「え、いいけど」
私の急なお願いに戸惑いつつも自分のカメラを差し出してくれた。私はそれを受け取ってカメラのレンズをプロンプトへと向ける。
「はいチーズ」
パシャリとシャッター音が鳴り、突然の事に驚きを隠せないプロンプト。
「うわ!いきなり撮る?せめてもうちょっと間が欲しかったのに」
「うん。実験だからすぐ撮る。それで今撮った写真ってどうやってみるの?」
「えーと、ちょっと待って……ハイ」
手渡された画面をのぞき込めば……そこに映っているプロンプトの姿は。
「………普通、だわ……」
どういうこと?どうして写真の中のプロンプトは普通に被り物をしていないの?
もしかして、写真には写らない?
私のコメントに文句ありげな顔をしてどうでもいいアピールをしてくるプロンプトに正直イラッときた。
「え、普通、なの?オレ的にはちょっと角度が違うかなって」
「どうでもいいわそんなこと」
「ひどっ!」
私は再度目の前の彼と写真に収まっている彼を交互に見る。
どうして肉眼で捉えられて写真では写り込まないのか。私の心の眼がまやかしを捉えているという解釈でいいのか?ああ、駄目だ。頭ぐるぐるしてきた。
あ、でも一つ共通点に繋がるとこがあった。ダメ元でプロンプトに訊いてみる。
「ちょっとプロンプト。少し聞きたいんだけど……もしかしてカップヌードル食べた?」
「食べたよ。グラディオからもらったやつね。それがどうかした?」
「なんでもないわ」
ここでもグラディオから差し入れカップヌードル。
いや、これは偶然。仲間を疑っちゃいけない、いけないぞ、私!
でもこれで二人目の犠牲者が出てしまったわ。まるで感染力が強いウイルスようだ。私にしか見えていないという点もきっと私の中に眠っている女神の力が成せる技なのだろう。
だったら何とかして未然に防ぐ方法を探らなくては……!
207回目の戦闘を終えての夕飯はカップヌードルだった。
美味し……。
※
朝、起きてキッチンで朝食を作っているイグニスの後ろ姿を見た途端、脱力感に襲われその場に膝をついてしまった。
一体どういうことなの?どうしてイグニスまで感染してしまっているのよ。
「イグニス……貴方まで…」
「珍しいな。起こされずに起きてくるなど。……一体どうしたんだ?レティ」
黒のエプロンがお似合いのイグニスに私は何とか力を込めて立ち上がりながら弱弱しい声で訊ねた。
「……参考までに聞いておきたいの。貴方カップヌードルを食べた?」
するとイグニスはきょとんとした様子で、
「食べたも何も昨日の夕食にグラディオ特製肉カップヌードルを食べただろう?」
というじゃあーりませんか。私は首を捻ってない記憶に困惑するしかない。
「……そうだった?」
「……レティ、体調が優れないなら言ってくれ。顔が真っ青だ」
「……私も、食べた……?」
イグニスから心配されるも私に彼を相手する余裕はなかった。
嘘、無意識のうちに食していた?思い出して、レティ。貴方、何か忘れてない?
そう自分に問いかけてみる。
よくよく思い出してみると、貴方207回目の戦闘で疲れてアルテマ放とうとしたじゃない。全力で。
そこでツッコミならぬグラディオからまた「アホかぁぁあああ―――!」とヘッドロック仕掛けられ「きゅ~~」と可愛く気絶したのだ。
私は、食べた。ノクトとイグニスとプロンプトと同じく食べてしまった。
ならば、今私の頭部はどうなっているの。
ごくり、と唾を飲み込んでそっと自分の頭部に手を伸ばしてみた。
きっと大丈夫だと自分に言い聞かせて。
だがそこには自分が考えていた感触が一切なかった。
カサカサとした感触がそこにはあって自慢じゃないけどサラサラな触り心地抜群の髪の感触が一切ない。それどころか、自分の顔を包み込んでいるコレはなんだ?
ぺたぺたと触ってみる。
まるで被り物を被っているみたいじゃないか。こう、四角くて容器みないな感じで湯気みないな温かい上気みないなのが感じられて美味しそうな匂いが鼻先から漂ってきて………。もしかして私、皆とノクト達と同じ状態に陥っている?
そう、自覚してしまったら。ただぶわりとせりあがってくる恐怖から叫ぶしかなかった。
つんざくような悲鳴が私の喉から溢れ出す。
「嫌ぁぁあああアアア―――――ー!!」
私まで、私までカップヌードルの呪いがー!!耐え切れない。こんな悪夢耐え切れない!
「レティ!?」
悲鳴を上げ走りだす私を制止するイグニスの声を振り切って、転びそうになりながら自室に駆け戻った私は必死にクペに助けを求めた。
「クペ!」
「どうしたクポ?朝から悲鳴なんかあげて」
きっと、私の親友なら助けてくれる。そんな願いも空しく、ベッドメイクをしていた彼女がくるりと振り返った。彼女のあらぬ姿を目の当たりにし、私は愕然とし腰が抜けぺたりとへたり込んでしまった。
「……」
彼女の、頭部にはカップヌードルの被り物がしっかりとあったのだ。
私と同じく、いかにも今が食べごろと言わんばかりに少しめくりあがった蓋から湯気を上がらせて。異様だ。これは異様なのだ。私にしか見えない悪夢が、周りの仲間を襲い、私を襲いまさか私の親友にまで悪夢を広げるなど。
「………」
「レティ、一体何があったクポ。今にも倒れそうなほど真っ青クポ」
「………いや、いや……!」
私はへっぴり腰のまま後ろに後退して、クペのテントを抜け出した。
信じられない、信じられないと頭を振るたびに頭の上の中身の具材が飛び散っているような気がするが心底どうでもいい!
エビとかたまごとか肉とかもったいなく飛び散ってるけどマジどうでもいい!!
なぜこうなった?どうしてこうなった?
目尻に流れる涙を拭うことすら忘れて私は想いのまま走って走って、草原に飛び出して声に出して叫んだ(召喚)。
自分を守護し愛しんでくれる存在に助けを求めて。
「バハムートォォォオオオ――――!」
通常、それなりの手順を踏んで行われる召喚だが今の私に簡略化など朝飯前。自分の足元に展開される大きな魔法陣から膨大な光が溢れ出し、私をも飲み込んでいく。
晴天だった天候があっという間に崩れ去りゴロゴロと灰色の雷雲がたちこめていく。不穏な風がどこからともなく吹き草原の草を激しく揺らす。激しい地響きが起こり私は立っていることすらできずに地面にしゃがみ込んでしまう。
「―――――――!」
鼓膜を突き破るような鋭い鳴き声というよりも音に思わず両耳を塞いでしまうくらいの威を放ち、天空を真っ二つに裂いて大きな両翼を猛然と広げ私の召喚に応じたのは、七神の一神担う絶大な力を持つ剣神、バハムート。
だが彼のものの姿は決して鎧を纏い剣を携えているわけじゃない。下手な小細工抜きに強いからだ。召喚獣らを率いる立場としていつもなら威厳ある態度をとっているが今は急な召喚により私の身を案じて急ピッチでやってきてくれた。
『我が主に仇名す者よ、死すがいい!』
咆哮をあげぎょろりと血走った竜の眼で標的を捕捉しようとするがその姿は確認できずに終わる。ですが全力で呼んだ私は色々と疲弊してしまいそこで意識を飛ばしてしまった。
『レティーシア!?』
ああ、ゴメン。バハムート、後は、頼んだわ。
・・・。
それからしばらくして目が覚めると自分のベッドに寝かされていた。疲れた顔をして看病してくれていたクペの説明によると色々あったらしい。
体調も戻ったのでクペのテントから出た時視界に広がる辺り一帯の景色が様変わりしていた。なんと焦土化していて草一つ生えていなかったのだ。
一体、何があったのだろうか?
首を少し捻って思い出そうとしても何がなにやらさっぱり。
私、何したんだろ。まったく記憶が残っていないというのはおかしすぎる。
……何か嫌な事があった気がするが、どうにも記憶に霧がかっていて思い出せない。
ま、思い出さない方が私にとって都合のいいことなんだろう。あまり深く考えるのはやめておくことにした。
※
レティが混乱の内にバハムートを召喚した結果、召喚者であるレティの気絶した姿にバハムートはついぶちっと血管キレてしまい、見えぬ敵を根こそぎ殲滅しようと全力のメガフレアを放ってしまったので近くの山がいくつかごっそりと無くなってしまい見晴らしのよい風景が水平線の向こうまで続く景色となってしまった。死傷者はいないものの色々と人的被害はありそうである。
ノクト「……マジ、死ぬかと思った」
プロンプト「激しく同意」
イグニス「今生きているのが奇跡だな」
グラディオ「………」(もうレティには食わせねぇ方がいいな)
クペ「ラストで呼ぶ出すはずの真打をこのタイミングでとかスゴイクポ。来る方も来る方だけどクポ」
(その後、カップヌードルの呪いが起きることはなかった)