レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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真実はなく、許されることなどない。

レティーシアside

 

バクバクと激しく鼓動するを手で抑えながら息を殺し、壁に身を潜ませるようにピタリと張り付き周囲の気配を探る。……良かった。まだ追っ手は近づいてはいない。

 

「………」

「やったクポね」

「ええ」

 

ふぅと小さく息をついた。裏路地とは言え逃げ場所を間違えれば一気に袋の鼠だ。ましてや、私はこの地に慣れていない。下手な場所に入れば一瞬で命取りとなる。

一応動きやすい恰好で助かった。ショートパンツにニーハイブーツだが踵はそんなに高くないので走りやすいと言えば走りやすい。元々高い靴で慣れているのだ。やたらぺちゃんこよりはそれなりに踵があった方が動きやすい。それに追っ手は今の所、……そういえば応援を呼びつけたんだった。ユリの指示でレジスタンスのメンバーも捜索の為に乗り出したのだ。だから人数は私とクペ、対数十名。

 

足の速さでは自信があるがいつまでも逃げ切れるものではない。地の利が相手に有利ならこちらは早々に安全な場所ににげおおせるだけだ。

屋根の上を走ったり人込みに紛れてやり過ごしたり、高いところから盛大にスカイジャンプを楽しんだりアサシンみたく、使用されていない家に侵入して誘い込んだ所をきゅ!っと気絶させたり、ゴミ箱に隠れて相手が通り過ぎた隙を狙って引きずり込んで、またきゅ!っと気絶させたりと恰好はアサシンではないが気分はアサシンのつもりだ。

 

クペからゴミ箱に入ったからゴミ姫って嫌味言われた。ちゃんと中身が入ってないの確信したもん!

 

それはそれはいつもよりも二倍にアクティブに動いたが、これもクレイに様々に必要なことを叩き込まれたお陰だ。だがきっとクレイが生きていたならこのために鍛えたわけではないと叱り飛ばされていそうである。

 

「……お腹、減った」

 

ついつい、お腹を抑えてしまう。空腹にはさすがの私も勝てない。携帯食など持ち合わせていないしクペも困った顔をしている。

 

「今テント出すわけにもいかないクポ」

「うん。分かってる。後は隠れ場所に逃げるだけだから」

「そうクポ。善は急げクポ」

 

時刻は夕暮れ時。闇に紛れて気配を遮断させ隠密活動するにはもってこいの時間帯へと突入する。かれこれ二、三時間は経過しているが追っ手の方も躍起になっているはず。

だがここで見知った気配を感じ取りゆっくりと其方に向き直る。

 

そろそろこの追いかけっこを終わらせる時が来たか。

 

「やっと見つけたぞ。レティ」

 

おどろおどろしい雰囲気を隠しもせずにその追っ手はじりじりと私を追い詰めようとするルシスの王様。心なしか目が荒んでいる。これは捕まったら報復が恐ろしいことになるだろう。だってさっきスロウ掛けて顔に悪戯書きしてあげたもの。ピエール髭はうまくかけた。でも水性だから無理やり落とされてしまったみたい。彼の鼻下部分が赤くこすれている。

 

「……悪いけど捕まるわけにはいかないわ」

 

こちとら腹が減って少しイライラしているのだ。たとえ事の発端が私だとしても根本的な原因を作ったのだ彼らだ。その責は彼らが負うべきものだろう。私は被害者だ。逃げて何が悪いと開き直ると怒気が膨れ上がり此方に向かって駆けだしてくる。

 

「レティ!」

「じゃあね……。バニシュ!」

 

だが私はひらりと手を振って自分とクペに透明になる魔法を掛けた。

そう、これを掛けると視覚的に姿を捉えられなくなる。一瞬にして透明になった私はするりと相手の脇を走って見事逃走を計った。

 

後は目的地であるあそこへ向かうだけ。幸い匿ってもらえるよう事前に電話で連絡はしてある。だからここが一気にラストスパートだ。

 

はぁ、しかしなぜこんなことになってしまったのか。

思い起こせば数時間前に至る―――。

 

 

 

ついにレスタルムにたどり着いた私達。だがそこへ行くまでの道のりは決して平坦ではなかった。疲労の色がにじみ出ている声でノクトが呟いた。

 

「やっと来れた……」

「だな」

 

それにグラディオが同意しては、じとーっとした視線を私に向ける。しばし無視していたが耐え切れずに睨み返す。

 

「何よ」

「いや、別に」

 

そう言ってわざとらしく視線を逸らすがまたちらちらと様子を伺うように視線を向けたりする。構ってちゃんなのか、それともはっきりと口に出せない何かがあるのか。あまり心地いいものではない。

 

「何か言いたいことがあるんでしょう。主に私の所為だとか」

「何も言ってねぇだろう」

「だったらその視線は何?」

 

ビシッと悪役女帝らしく指さしてみる。

 

「まぁまぁ!レティもそう怒らないでさ。『無事に』レスタルムにたどり着けただけでも儲けものってことで」

「やけに無事にってところを強調してるわね」

 

一言余計なプロンプトを睨み付けるとささっとイグニスの背に隠れやがった。なんて身動きの速さ。自分で鍛えてきたつもりだから仕方ないといえば仕方ないけどなんか腹立つ。イグニスは迷惑そうな顔をして、一つため息をした。

 

「ハァ、身に覚えがあるからそう突っかかるんじゃないのか?」

「イグニスは誰の味方なわけ?」

「オレは平等に接しているつもりだ。普通なら、な」

 

含みがある言い方についカチン!ときた私は皮肉を込めて言った。

 

「私がトラブルメーカーってことね」

「そうとも言うな」

 

あっさり認めたイグニスはこめかみを抑えて痛そうに目を閉じた。

ここまで色々ありましたよ。ありすぎて疲れた印象しか残っていない。道中、イリスやシドニーとも連絡を頻繁にしていたが、まだレスタルムに着いていないことを説明すると口酸っぱく言われたものだ。

 

寄り道しないの!ってね。

別に寄り道してるつもりはないんだけどな。と納得できずに街の中へと入っていく。警戒態勢は解除されたようで普通に観光客などがうろついているが、所々に一般人とは思えない武装した人間が複数街の中を巡回しているようなので、異様と言えば異様な光景だ。

やはり町中で私の銀髪は目立つのですっぽりとフードを被っているが、それを看破して駆け寄ってくる者がいた。

 

「レティ!」「姫!」

「……」

 

町中で人の視線があるというのに一切気にした素振りも見せず、それどころか私目指してまっしぐらに駆けてくる男二人。色々と迷惑をかけたユリと私の騎士目指して奮闘しているグレンである。

 

ヤバイ、注目を集めてしまう。グレンに至っては「姫~!姫~」と嬉しそうに手をふりながら姫連呼しまくりである。私が咄嗟にとった行動は走って逃げるであった。

 

裏路地の方へ行かねば!

 

「あ、おい!?」

「レティ!?」

 

ノクト達が慌てて私の後を追いかけてくるのと、ユリ、グレンもそのまま続く。

きっと異様な光景が住民の皆さんには見えているだろう。小柄な人物が疾走していく後ろを大の男たちが血相を変えて追いかけている姿は。

 

だが好きでこんなことしているわけじゃない!

悪いのは主に後ろの二人だ!場を考えずに姫と連呼しているグレンはもっと悪い。

 

それに加えてノクト達も参加し始めて私は止まるに止まれなくなった。最初こそ逃げ出した説明をしようとしたが、こちらが口を開く前になぜ勝手にいつもいつも走って逃げるのかと叱り飛ばされた。それにムカッときてこちらも自棄になって逃げ回るという事態に陥っている。

 

というわけで私は愉快な仲間たちとレスタレムの中で追いかけっこすることになったのだ。だがそれも終わりだ。

 

なぜなら。

目的地に到着したからであーる。元気よく扉を開けると設置してある鐘が心地よい音を奏でる。店内に入ると真っ先に鼻腔に香るのは引き立てのコーヒー豆の香り。カウンターの向こう側でサイフォンを動かしながら私が入ってきた事に驚いた様子もなく出迎えてくれたのは初老の男性。かつて父上と共に肩を並べて戦った人、ヴォルフラム・カウン。ヨルゴの軌跡の統領でもあり、この、『Snow Crystal』の捻くれマスターとしてレスタレムで彼を知らない人はいないほど有名人である。

 

「ヴォルフラムー!」

「……よう、レティにクペ。元気に町中逃げ回ってたらしいじゃないか。ウチの若い連中ごっそり駆り出されてんだぜ」

「うん。知ってる。返り討ちにしたりしたから」

 

そう自慢げに語りながら私はカウンター席に座りクペはカウンターの上にちょこんと座った。ヴォルフラムはケロッと答えた私に呆れて額に手を当てた。

 

「おいおい。お転婆姫と訊いていたがまさかこうして目の当たりにするとはな」

 

情報は統領であるヴォルフラムに筒抜けらしい。だが彼の態度で私を捕まえる気がないのはなんとなく伝わった。大体こんなのお遊びみたいなもの。

 

「だって町中であんな大声だされて私の方が吃驚するわよ。だからこれは不可抗力よ、不可抗力。それに小娘一人捕まえられないようじゃヨルゴの軌跡もまだまだってことね」

「言ってくれるな。まぁ、それよりもたくさん動いて腹減ったろ。なんか食ってけ」

 

その言葉待ってました!

私は満面の笑みを浮かべて礼を言った。

 

「ありがとう!」

「レティ、いいクポ?こんなところでのんびりして」

 

クペが心配そうに周りを見渡しながら言うが私は手をパタパタ振って余裕で言い聞かせた。

 

「いいのいい!だってお腹減ったんだもの。腹が減ってはなんとやらってね」

「ちょっと待ってろよ」

 

そう言ってヴォルフラムはなぜかスマホを取り出して何処かへ電話を掛け始めた。

 

「あー、他の奴に伝達しろ。Cheeky Kittenは捕まえた。餌付けを開始するが逃げられないように周囲を包囲しろ。なお、合図があるまで突入は認めん。キングはふんじばってでも抑えとけ。あ?暴れたらどうする?そんなもんお前らで考えろ。以上」

「ヴォルフラム?子猫でも捕まえたの?」

「ああ。まぁな。それより何食べたいんだ」

 

誤魔化された気分だがそれよりもお腹の減り具合が半端ないのでスルーした。

 

「えーとハンバーグ!」

「よし、待ってろ」

「やったー!」

 

厨房に入っていくヴォルフラムの背中を見送りながら私はクペの異変に気付いた。

 

「………」

「クペ?どうしたの、黙り込んで」

「………レティ、叱られる時は一緒クポ」

「え?」

 

なぜそんな諦めきった様子なのかすぐに理解できなかった私はヴォルフラムの手作りハンバーグを心待ちにしていた。だがなんということだろう!

ヴォルフラムが用意してくれたのはただのハンバーグではなかった。所謂、ある特定の年齢層しか食すことが許されない究極のプレートを作ってくれたのだ。

それは、

 

「これが、お子様、ランチ…!」

 

綺麗に型にはめて盛られたチキンライス。。デミグラスソースにしっかりと煮込まれたハンバーグに大きなのエビフライ。目玉焼きにタコさんウインナー。

 

「レティにピッタリだと思ってな。ほら、旗も作ってみたぜ」

「ホントだ!ルシスの旗にこっちはニフルハイムの旗?スゴイ、これが芸術というものなのね」

 

もはや口から出るのはため息ばかり。

しっかりと右手にフォークを準備していただきま~す!

 

その後、しっかりと味わっていただいたお子様プレートはまさに夢心地と言わんばかりの美味しさだった。こう、許されないモノに手を出してしまった禁断領域という感じだ。だが束の間の幸福もあっという間に逃げ去ってしまった。どうしてかって?

 

それは勿論。すでに私は奴らに包囲されていたからだ。

 

「レティ~~~~~~!」

 

地を這うような声を出すノクトによって背後をとられ、

 

「なっ!?なんで!?いつの間に!」

 

私はぎょっとしながら逃げようとするが時すでに遅し。ノクトに力いっぱい肩を掴まれ「イダダダ!」と悲鳴を上げるしかない。しかもそれだけじゃなかった。

 

「み~つ~け~た~~」

「クポ……」

 

強面なユリによってクペという人質を確保されてしまい私はついに御用となったのだ。

 

その後イグニスからこってり叱られた。しかも公開処刑で。店の中にはレジスタンスのメンバーが勢ぞろい&ノクト達が私が逃げられないように出入り口封鎖していて私はひたすらすいませんすいませんと謝罪を繰り返したのであった。でもグレンだけは、彼だけは私の罪を軽減してくれようと皆に訴えてくれた。

だがグレンを覗く者で満場一致により私は一日レスタレムのゴミ拾いの刑に処された。

だが私は頭脳派なので手間を省くべくエアロを駆使してゴミ集めに勤しんだが、つい手元が狂って屋台をふっ飛ばしてしまった。

 

「ああ、オレの屋台が!?」

「スイマセン~~~!!」

 

……弁償代が高くついたので人生で初めてバイトをすることになった。ノクトは反対していたけどイグニスは割と賛成していた。お金を稼ぐ苦労を学ぶいい機会だとむしろ後押ししてた。

 

ヴォルフラムはそこら辺厳しくて自分の事は自分で始末をつけろと、たとえ元ルシス王女現ニフルハイム皇女の私であっても関係ないと言い切りSnow Crystalでのバイトを命じられた。

 

「レティ、いいか。分からない事は分からないままにしておかないで俺に訊け。疑問を残したままじゃ気持ち悪いだろう?」

「はい。マスター!」

「よし」

 

仕事内容はウェイトレスで初心者の私にとってやること教わる事全てが初めての体験だったが慣れると楽しかったし、制服も可愛いしお店も客がひっきりなしに訪れて繁盛した。

大体が顔見知りで(ノクト達とかユリとかグレンとかレジスタンスメンバーとかナンパしてきた人とか屋台の主人とか)ヴォルフラムもいい看板娘が出来たと嬉しそうだった。

 

なんと五日で弁償金額到達し、私も嬉しいヴォルフラムも嬉しいのダブルハッピーで初バイトは無事に終了したのであった。夜ホテルにて、報告がてらにイリスに電話したらまだ終わってないの!?と驚かれた挙句お説教された。なぜに?

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