ノクトside
いつだって一緒で離れる未来を想像すらしなかった。考えることはあってもきっとオレ達は腐れ縁みたいなもので、ずっと一緒だと、信じて疑わなかった。
でも、それはオレの一方的な思い込みだったなんて、な。
レティはオレのちっぽけな考えよりもずっと先を見据えていて、共にいる未来よりもオレが生きれる世界を望んだのかもしれない。
どんな形だろうと、オレが生きれるのなら。
……なんで、いっつもオレのことばっかなんだよ。
……なんで、自分のこと考えねぇんだよ。レティは欲がなさすぎなんだ。
なりふり構わず馬鹿みたいに一生懸命で、失敗したって懲りずにまたやり直そうとする。今度は失敗しないようにって作戦変えてさ。それで成功するとさ、してやったりってオレ達に向かって嬉しそうにvサイン作って笑うんだ。
私だってやれるんだぞ!って顔にありありと浮かんでて思わず吹いちまうくらいわかりやすい。そんなわかりやすいレティだけど、自分に自信をもてない気持ちがあることは前々から知ってた。
でもオレは、オレ達は、レティがどんなに人の倍以上勉強して戦う術を学んできたか知ってる。それぞれレティの魅力を知ってる。
声張り上げて叫んで自慢してやりたいくらいだ。
努力家で負けず嫌いで一度始めたら放り出さない責任感とかさ、結構オレたちのお手本になってんだぜ?それとレティの毎度毎度のトラブル。アレも結構場数踏むと度胸がついてそれなりに敵から不意打ち喰らっても大抵は動揺せずに対処できるようになったんだ。
これって少なくとも、レティがいたからできたことなんだ。
……皆、レティの凄さ知ってる。
レティは皆に必要とされてる。いるだけでオレたちの原動力になるんだ。
それだけじゃ理由にならないか?それだけじゃ不安か?
レティがなんだって、どんな存在だってオレはいい!この気持ちに変わりなんかないんだ。神話?意味わかんねぇそんなの!
【女神】だろうとなんだろうと関係ねー!
愛してるんだ、レティーシア。
だから、
いなくなるなよ。傍にいてくれよ……。
もう、誰も、手放したくないんだ……!
【それでもレティは、笑みを浮かべてオレに別れを告げる】
※
明けない夜が来た――。
世界が闇に沈み込んだ時、全ての絶望を払おうとアイツが奮い立った――。
自分の状況がいまいち頭に入らなかった。オレは――だったはず……。
徐々に意識を覚醒させていく。
そう、皆はどうした?イグニス、プロンプト、グラディオ!それに、レティ、そうレティだ。オレが守るって決めた、最愛の人。
レティ!
オレは焼けつくような光の存在を瞼の裏から感じとり、ゆっくりと開く。するとそこには眩い光の世界が広がっていてすぐにまた目を瞑ってしまうくらいだった。
オレはうつ伏せで倒れてわずかに顔をあげることしかできなかった。
体が、体が動かねぇんだ。
鉛みたいに全身が重いなんてレティのグラビデ喰らった時くらいだ。
クソ!
オレは自分に叱咤して、両手で踏ん張りをきかせ少しではあるが周りを見渡せるくらいには起き上がることができた。
変わらず体が重いのは変わらないが、さっきよりはマシな体勢になれたことで辺りを警戒する余裕はできた。
武器召喚をしようとしたが、何かに阻まれているのか不発で終わる。
「ノクト、私が貴方を守るから」
白のアシメントリーデザインのドレスに身を包み、素足のままのレティが立っていた。
温和に微笑む様がどこか自分が知るレティとは違う、神秘的な印象を受けた。
レティの後ろには煌々と白く輝く先の見えない長い階段が続いていた。
「レティ、無事だったのか!?良かった、今そっちに」
「ノクト、もう、大丈夫だよ」
そういって、レティはオレに背を向けようとする。
「……何言って?……駄目だ、そっち行くな!」
そっちに行っちまったらオレの手が届かない。どうしてだかわからないがひどく焦ったオレは声を張り上げて叫ぶもレティは朗らかに微笑むだけで、
「大丈夫だよ、私はずっとノクトの傍にいる。どんな形でも」
と態度を変えようとはしなかった。いや、その言葉が可笑しかったんだ。
いつものオレが知るレティじゃない。
「何言って」
レティは瞼を伏せ、自分の胸に手を当てて落ち着いた声でこういった。
「元々ね、この『器』はもう少しで壊れるところだったの。ノクトが王様になる頃まで持ち堪えられるかなって頑張ってみたけど間に合わなかったみたい。だからノクトを見守っていけるように願ったの。そしたらね、わかった。私が私としてあり続ける方法。きっとこの形が全て丸く収まるわ。ホントは凄く痛いみたいだけど、我慢するよ。私はまだ、まだアレになるわけにいかない。だから皆には悪いけどちょっと待っててもらおうと思って」「レティ、お前」
まるで自分の死期を悟ったみたいないい方をじゃないか……。
ゆっくりとレティはまた瞼を開いてオレを見つめた。
「そうだよ、レティーシア。君は世界を救う鍵となる」
「お前、アーデン!?っ、レティから離れろっ!」
アーデン・イズニア。なんでこいつがレティと並んで佇むんだ!?
こいつが現れたことを理解すると頭にカッと血が上ってすぐに掴みかかって殴ってやりたい衝動が沸いた。だが奴はオレがうまく動けない状況を見抜いて無様だとせせら笑った。
「ノクト、世界の重さとたった一人の人間の重さ。どちらが価値あるものか君に理解できるだろう、王となる君なら。嫌でもわからなくてはならない、それが王という存在。数多の犠牲の上で成り立つ、不浄の王だ」
「ふざけたことぬかすなっ!」
「レティーシア、君は最後まで立派なお姫様だよ。さぁ、行こうか」
「……」
アーデンから差し出された手を一瞥してレティはゆっくりと手を乗せた。
そして二人共に光り輝く階段を上っていく。
嘘だろ、どうしてそいつの手を取る!?
どうしてオレの元からいなくなるんだよっ!
約束したじゃんかっ!オレの傍を離れないって、ずっと傍にいるって約束しただろ!?
情けない声でオレはレティの名を叫び続けることしかできなかった。
「レティレティ!行くなレティ!」
レティは一度、オレの方を振り向いた。悲しい顔に無理やり笑みを浮かべていて、その時初めてオレが知るレティを見た。
「ノクト、立派な王様になって。『父上』のように」
そういって、レティはまた前を向いてしアーデンに伴われて歩き出した。
「レティーシア!」
精一杯伸ばしたオレの手は、レティに届かなかった――。
【届かないこの手】
※
クペのテント内にある寝心地のいいソファに横になっていたオレはベッドから飛び起きてレティの名を叫んでいた。
「レティ!!」
「おわっ!?びっくりしたー」
向かい側のソファに寝転んで雑誌を読んでいたプロンプトが大げさに驚いてみせたがオレは飛びつくようにプロンプトの服を掴んで
「っ!プロンプト!レティは何処だ!?」
と早口で尋ねた。
「ちょ!?首元締めないで!くるじぃ」
「レティは!?今どこだよっ」
「レティなら欲しいものがあるって嫌々なグラディオ引っ張って買い物行ったじゃんか。忘れたの?ってか、放して苦しい!」
「……」
オレはプロンプトの服を掴んでいた手をふっと緩めてドアへ足早に向かった。
「どこ行くの!?」
「レティのとこだよ」
プロンプトの制止を無視してテントを飛び出したオレは、すぐに見慣れた後ろ姿に安堵して飛びついた。
「レティ!」
「ノクティス!?うわっ!」
小柄な体はすっぽりとオレの腕の中に納まっちまった。
嗅ぎなれたレティの匂いを一杯吸い込んでオレは、なんとか気持ちを落ち着かせようとする。けど駄目だ。全然消えないんだ。
あれが、夢だって信じてぇのに。
「……」(レティは消えない。オレの前から消えない)
オレに飛びつかれたように抱きしめられ驚いているレティが
「……ノクティス、どうしたの?」
と心配そうに声を掛けてくる。オレは何も答えられずにさらに抱きしめる腕に力を込めた。グラディオが困惑しながら頭をガシガシと乱暴に掻いた。
「お前らなぁ、もっと場所考えていちゃつけよ」
「……今の様子見て言える?」
店内で大声を上げてレティに飛びついたオレはかなり客から注目を集めていた。だけどそんなの構ってられるか。
レティがポンポンとあやすようにオレの頭を撫でながらグラディオに指摘した。
「ノクトって呼ばないと動かない」
子供みたいな駄々こねるとレティは思いっきり盛大にため息をついた。
「……はぁ、ノクト。不安なのはわかるが移動するぞ。ここは人が多すぎる」
「ほら、行こう?大丈夫。おねーちゃんがちゃんと手、繋いでるから」
レティに促されオレたちはまばらな公園へ向かった。
グラディオは、ちょっくらその辺ぶらぶらしてくると言ってレティの荷物しっかりと持って行ってしまった。
オレは設置されてるベンチでレティを膝に乗せたまま離してなるものかと抱きしめている。
「……」
「引っ付き虫にでもなったのかな~?仕方ない子ですね~」
さっきから子供をあやすみたいないい方にムッとした。大体おねーちゃんってなんだよ。
同い年の癖して。それに、オレたちは兄妹じゃない。
真実を知ったオレたちに障害なんてないんだ。自由に恋愛だってできる。
実際、背中をポンポンと優しくリズミカルに叩かれてあやされてる気分だけどな。けどすぐにあの夢を思い出しちまったオレは、情けない声でぽつり、ぽつりと口を開く。
「……夢を、みた」
「ん?」
「……レティが、いなくなる、夢。笑っていなくなるんだ」
「……」
レティは撫でる手を止めた。
「その前にも、レティがいない時に怖い夢見たんだ。……王都でオレはレティを探してた。ずっと夜の中走って探してた。そしたらレティがいたんだ。月明りの下でオレを待ってた。でも、どうしてかレティはオレに剣を向けたんだ。そしたらファントムソードが反応して、オレの意思とは無関係にレティに……!」
それ以上は恐ろしくて口に出せなかった。尚更怖くなってレティをきつく抱きしめた。
「……そう。確かに立場上はそうなってるわ。あながち間違いでもないでしょう」
「でもそれは!演技だろ!?」
「……そうね。演技よ、ノクティス。貴方をルシスの王として立たせる為」
オレは少しレティから身を離すと、視線を合わせ懇願した。
「なぁ、レティはいなくならないよな」
「……ノクティスは、立派な王様になるんだよね」
レティはオレの言葉に違う返答をしてきた。
「……」
「大丈夫だよ、ノクティスが立派な王様になるまで。私、見ててあげるから」
「オレは、レティと離れたくない」
「………」
「レティ、言ってくれよ。離れたくないって」
「……うん。そうだね」
レティはオレの顔をほっそりとした両手で挟むと、目元にキスをしてきた。
オレは黙ってそれを受け入れる。慰めるように降り注ぐキスの雨。触れた箇所がじんわりと温かくて、冷え切った心をゆっくりと温めてくれるようだ。
確かな愛情を感じる。
でもそれがオレが本当に欲しい愛情なのか、わからない。
レティは、オレがレティに抱く好意に気づいている。けどあえてその話題に触れようとしない。オレも、もし勘違いだったら今の関係が壊れることが、怖くてこの想いを告げることができない。臆病なんだ、オレ。
こんなんでルシス背負うとか、笑えるだろ?
嘘じゃないと信じたいんだ。
その言葉が。
「レティ、…あい…し…てる」
はっきりと言えない弱気なオレにレティは想いを込めて言ってくれた。
「……私も、大好きだよ。ノクティス」
家族以上の気持ちはないと言われているようで切なくてどうしようもなくなったオレは、日が暮れるまでレティを抱きしめ続けた。
【愛してるとは言ってくれないもどかしさ】