永遠不滅の関係は最初から定められていたんだ。
でも、ようやっとこれでわかったよ。思い知らされた。これが、私が選び取る世界なんだって。
レティーシアside
前兆は確かにあった。自分が自分でなくなる。そう例えるなら体が乗り移られているような、そうじゃないような曖昧な感覚。はっきりとこれだと言えるものはない。
ノクト達と接していると、ふと感情というものがリセットされ彼らが他人のように思えてしまう時がある。そして、気づく。
私は、一体、誰と話しているんだろう、と。
私が何かに変わっていく違和感は、確証へと変わりそれは人間が持つ未知なるものへの恐怖となる。
夜中のことだ。ふと息苦しさを覚えて私は目を覚ましてベッドから降りてキッチンへと水を求めてドアを開けた。その時何か引きずるなぁなんて寝ぼけ眼な私は、きっと気のせいだと思った。でもキッチンについて水を飲んでさぁ、寝るかと部屋に戻ろうとした時、ふと姿見の脇を通り過ぎた時、横目で何かずるずると自分の後ろをついてくるものがあるのに気付いた。見間違い、だと思った。きっと目の錯覚だって。
でも、鏡の中の私は確かに変わっていた。
……目的は一応達することができた私達は報告がてら、今一度レスタレムに戻るということになった。行きすがらそんなに焦って戻る必要もないということで夜はのんびりとキャンプをすることになったのだが……それがいけなかったのか。僅かな油断が僅かな変化をもたらしたのだ。
「嘘」
信じられなかった。信じたくなかった。
私の体にある変化が訪れていたことを。信じたくなかった。
「髪が」
すっと自分の髪に指を通す。いつもなら背中くらいまでしかない髪が先が見えないくらい伸びていて私は腰を抜かして呆然と床にへたり込んだ。
姿見に写る私の髪が異様なほど伸びていたのだ。床に引きずってしまうほどに。どこぞの童話に出てくる髪の長い姫のように様変わりした私が平常運転に戻れたのは数分かかった。
「どうしよう、なんでこんな……」
予想外の出来事に半分パニックになってしまった。まだ心構えがキチンとできていない証拠だった。クペを起こすにしてもすぐにノクトたちの方へ飛んで知らせに行ってしまいそうで怖かった。知られなくなかった。だから、知っている者に直接尋ねるしかないと私はこっそりとテントを抜け出た。着替えもせず、着の身着のまま飛び出してきた後で、予想外に外が寒かったことを思い知らされ一度戻ろうとも考えたが、今度はバレるかもしれないと考え、白のロングネグリジェのまま私は意を決してキャンプ地から離れた草原を目指した。長い髪を引きずって走った先で彼を呼び出す。
力ある呼び声に応えてくれたのは、
「オーディン」
スレイニプルで異界を駆けてやってきてくれた騎神、オーディン。
――呼んだか、主よ。
私は切羽詰まった表情で訴えた。
「私を、バハムートの所へ」
オーディンは私の変化に気づいたようでスレイニプルから降りると、
――急を要するようだな。さぁ、こちらに。
と私を軽々と抱き上げて馬上にあげた。
「あ、まって髪が――」
私の声にオーディンは黙って髪をくるくると纏めて私の膝に乗せてくれた。そして髪が落ちないように私をすっぽりと抱きしめるように乗ると
――少し急ぐゆえ手荒な走りになることを失礼する。
と忠告した上でスレイニプルを走らせた。私はぎゅっと瞼を瞑りオーディンの胸にしがみ付いた。瞼を閉じていても分かる圧倒的な光の強さに、世界を飛んでいるという意識が伝わる。
※
しばらく、その時間が経過した。
オーディンから着いたと言われてようやく私は瞼を開き、クリスタルの力に包まれた神秘的な世界に着いたことを自覚する。
空気が澄んでいて空間の境目が存在しない不可思議な場所。ここに住まうモノはきっと召喚獣か、彼らが認めた者以外ありえない。
この場所を訪れたのは懐かしく感じる。夢を介してここへと導いてくれたクペとカーバンクル。
なんて思い出していると、彼の大きな存在に気が付いた。いつからいたのかわからないけど驚きはしなかった。
「レティーシア、よくぞ来た」
「…バハムート…」
大きな体躯に全てを圧倒するかのようなその強大な力の持ち主。
誰もがひれ伏してしまう神々しさを持ちながら、私に向ける視線は愛しみに溢れている。
彼が以前私に伝えてくれた、彼ら召喚獣と私に結ばれた絆がひしひしと伝わってくる。
快く迎え入れてくれた彼に私は縋る思いで相談した。
「私の髪がこうなってしまったわ。これは前兆なの?」
「ああ。いずれ力が覚醒していく予兆だ」
「……」
身体の変化。それは始まりにすぎない。
私はこちら側との接触が多くなるにつれて身体面でも影響が出始めているという。
此方との関わりが強くなればなるほど、人間としての器に悪影響を及ぼす。
現にミラもそうだったらしい。ミラは頻繁に召喚獣と接していたから私のように長い髪をしていた。だがある時期から別の人間と接触する機会が増え、代わりに召喚獣と接する時間が少なくなったことにより元の人間らしさを取り戻すことができたとか。
でも私は私だ。ミラじゃないと訴えた。
「レティーシア、我らはお前が大切だ。それが女神であるからというわけではない。其方だから護りたいと思うのだ。星を守護する我らにとって感情、などと不必要なものは元来必要ない。だが女神は我らにもその恩恵を与えたもうた。愛しむ心をくれたのだ。其方だけは特別だ。庇護を受けるに値する者だ。我らの絆を其方は受け入れてくれる者」
愛しむようにバハムートは私にそういって、大きな翼で私を包み込んだ。
ぐっと守られている気持ちにさせてくれるバハムートの温かさ。
「レティーシア、案ずるな。神の力は決して其方を傷つけたりはしない」
「……わかってる。……わかってるよ」
選べるわけない。
バハムートは私の戸惑う気持ちを見透かしていた。
「戸惑う理由もわかる。未練があるのだろう、あの者たちに」
「未練っていうか……」
ノクトたちと別れることは決めてた。そう、私はあそこから飛び出たくて、外の世界にずっと憧れていた。でも、私が求めていたのはこの世界なのかな。召喚獣たちがいて私を守ってくれる守護者がいて課せられた使命をずっと全うしていればいい世界。
悲しみも苦しみも痛みもない、慢性的な幸せだけがサイクルしている世界。
ヴァルハラ。あそここそ、私にもっとも相応しい場所?
……わからない、思考がまともに働かない。
「其方が選び取るのだ。我らは其方の意思のみに従う。どのような結果であれ、それだけは忘れるな」
「バハムート…」
念を押すように何度もいう彼に私は思わずクスッと笑ってしまった。バハムートは不思議そうに「どうした?」と尋ねてきたけどなんでもないと首を振って誤魔化した。
「其方のその髪だが、しばらくは慌てずに様子見をすることだ。落ち着けば自然と元に戻るはず」
「切ってはいけない?」
「別に構わぬだろうがまた元に戻ろうとするぞ」
「…じゃあしばらくはこのままってことなのね」
「我には美しいと思うがな、其方の髪は輝いて見える。…オーディン、送ってやれ」
バハムートに促されて再びオーディンが姿を現した。
――主よ、こちらだ。
「……」
オーディンに手を引かれて私は元の世界へと誘われたが、ふと少しだけ後ろを振り返った。バハムートは初めて出会った時と変わらないように私を送り出してくれた。
「また来るがいい、レティーシア」
「…ありがとう…」
バハムートはきっと、変わらない。人と違ってずっと私の存在を気にかけてくれていた。
それが嬉しくもあり、同時に人との違いを思い知らされる。彼らは私を裏切りはしない。
愛しんでくれる。ちゃんと言葉で態度で示してくれる。
自分の人生を振り返ってみると当初の願い通り私は世界を旅した。どんな状況だったにしろ、私の願いはほとんど叶えられた。望み通りと言ってもいい。
私を、幼い頃から献身的に支えてきてくれたのは召喚獣たち。
妖精さんと最初は幼い私を怖がらせまいと気を使ってくれた彼ら。クペと出会って彼らに与えられる知識に心躍らせて外の世界への憧れが強くなった。
彼らは星を守護するもので、人との接触は極限られた者しかないと教えてくれた。
ノクトも召喚はできるとのこと。その資格がある。
けど、彼らはノクトではなく、私を見てくれた。
ノクトの妹だからじゃない。ノクトのおまけじゃない。
ただのレティーシアとして愛してくれた。
彼らなら、私を喜んで受け入れてくれるはずだと思う。
自分だけの世界を得られる。
きっと、小さな頃の私なら喜んでその誘いを受け入れているはずだ。
あのころは色々と純粋だったから。
でも、今の私の心は揺らいでいる。
先延ばしにさせようと必死に考えている。
未練があるんだ。でも断ち切ろうとした。シ骸化したミラ王女を葬ってからしっかり自分で受け止めたはずなのに。それなのに、私は迷っている。
答えを出せずに私はずっとこの時間が続けばいいと、密かに願った。
【誤魔化し続ける進路】