レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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何かの欠落した音

ノクトside

 

 

レティがいなくなったと急に夜中にオレらのテントに突っ込んできたクペにたたき起こされて、オレ筆頭に転がり込むようにクペのテントへとなだれ込んだ。レティへの部屋のドアをたたき壊しそうな勢いで開けるとベッドはもぬけの殻。どこを探してもレティの姿は消えていた。忽然と。まるで神隠しにあったかのように。服にも着替えていない、靴もそのまま。荷物もスマホも持たずに消えた。オレが考えなしにレティへ電話を掛けてすぐそばで鳴るスマホの着信音に愕然とした。

 

レティがいないという事実を叩きつけられるだけだった。

それは時間が過ぎていけばいくほど嫌でも強くわからせられた。

とりあえず今動くのは賢明じゃないという判断で、すぐにでも探しに行きたいオレの意見はグラディオに却下された。だがそんなもん当然オレが素直に頷くわけはなく、探しに行こうとするオレを引き留めようとするグラディオに、ついカッとなって殴りかかりそうになった。

だが寸前のところでイグニスに止められ、厳しく諫められオレは少しだけ冷静に戻れた。その時は。でも朝方になってもレティが戻る気配はなかった。

クペは取り乱して悲しそうに泣いてばかりいた。

 

「クペが悪いクポ。レティが起きたことに気づかなかったクポ」

「クペが悪いわけじゃないよ、そんなに気に病まないで」

 

プロンプトが慰めるがクペは自分を責めてばかりいる。クペによるとレティの反応がないらしいのだ。クペとレティ独自の繋がりみたいなもんがあるらしい。それを感知することでレティの居場所を探ろうとした。だがレティの気配が感知できないという。

 

まるでこの世界から消え去ったみたいじゃねえか。

 

オレの不安はピークに達していた。

 

自分じゃどうしようもできない状況に歯がゆさを感じて、すぐにでもレガリア走らせて探しに行きたかった。

けどイグニスが冷静になれとオレを押しとどめようとした。

 

グラディオだって同じだ。やっぱわかってねえ。

もう少し状況を見極めろって馬鹿なこと言いやがる!

 

「状況なんかわかってんだろうが!レティがいねえんだよっ!ここに、この世界にだ!」

 

怒鳴り散らしながら叫ぶオレは冷静になんてなれなかった。

レティがいない、その事実だけでこんなに取り乱すとは思っちゃいなかった。

 

オレに約束したんだ。レティはオレの前から消えないって。

約束したんだ。だから、絶対帰ってくる。

 

レティが帰ってきた。だが明らかな異変にオレたちは戸惑った。

レティは普段着ているネグリジェのままオーディンの手を借りて地面に降り立った。

 

「……みんな……」

「レティ…お前!」

 

オーディンはレティに一つ頷いてあっという間に消え去った。どうやらアイツを召喚して何処かへ行っていたらしい。だがそんなことはどうでもよかった。

あまりの変化に、オレ達は呆然とするしかなかった。昨夜とは違い、レティの髪が

まるで緩やかに流れるように地面に這うほど長いのだ。

 

「レティ、その髪…」

 

オレは駆け寄ることを一瞬だけ躊躇した。自分が知らないレティだと少しだけ思ってしまったからだ。でもオレは何考えてんだ、レティはレティだ!と自分に叱咤して、とにかくレティの無事を確かめようと彼女の元へ駆け寄った。

腕を伸ばして無抵抗なままのレティを抱き込む。

 

「良かった、無事で…」

「…ノクティス…」

「怪我、してないか?どっか痛いとことか」

「ないよ」

 

どこか疲れ切った声で返すレティにオレは事の重大さに気づかなかった。

ただ、何かあったとしかわからなかった。

 

「レティ…、一体何があったんだ」

 

そう静かに尋ねると、レティは心ここにあらずといった感じで呟くように小さな声で言った。

 

「髪が、ね。起きたらこうなってた。だから聞きに行ってた」

「誰に」

 

そう尋ねたがレティは口を噤んで喋ろうとはしなかった。その時、クペがオレを無理やり押しのけてレティにしがみ付いた。

 

「レティ!!」「おわ!」

「クペ」

 

泣きじゃくるクペをレティはなんとか受け止めた。

なんて馬鹿力だ。地面にキスするところだったぞ。

 

「心配したクポ!どこ行ってたクポ~!?」

「ゴメン、ちょっと吃驚して置いていっちゃった」

「クペを置いていかないでクポ!どんな時だって離れないって約束したクポ!」

「……、そうだね。ゴメンね…。私、どうか、してたのかも…」

「レティ、とにかく少し休め。顔色が悪いぞ」

 

グラディオにそう促され、レティは青い顔で額に手をあてがって小さく頷いた。

 

「ん」

「レティ、捕まれ」

 

グラディオがレティを横抱きしようとすることに気が付いて、オレはすぐに立ち上がった。グラディオの手を制して

 

「いい、オレが運ぶ」

 

と突っぱねてレティを抱き上げた。レティは抵抗することなく、くてりと力なくオレに寄りかかって身を任せ瞼を閉じた。

 

「ノクト!ちょっと待って。髪が引きずられたちゃうから」

 

プロンプトが慌ててレティの髪をまとめて持ち上げてくれた。オレは「サンキュ」と礼を言ってクペのテント向かって歩き出す。クペも心配そうにオレの肩にしがみ付いてレティを見やる。

 

「…………」

 

一体、何があったんだ。

 

言いようのない不安がオレを確実に追い込んだ。

 

 

レティをベッドに寝かせてオレは椅子を引っ張ってきてベッド脇でレティの手を握り見守った。よく眠っているから相当疲れていたのだろう。その眠りは昏々としていてちょっとやそっとじゃ揺らしても起きなさそうだった。

 

レティはいなくならない。オレの前から消えない。けどこの不安はなんだ?レティが言ってたじゃないか。皇女となったのには帝国を潰すための手段だって。オレと一緒にルシスに帰る気持ちがあるから頑張ろうとしてくれてんだろ。……でも何処かオレと一線引いているような気がするんだ。仲間たちとのやり取りだってそうだ。他人行儀っていうかなんて表現していいか分かんねぇ。

 

ともかく、疑問がいくつも浮上しては答えの出ない結果に打ちのめされていく。

 

「…レティ…」

 

縋るように名を呼んでも、レティはオレを見ちゃくれない。

 

いつもレティはオレの先を歩いている。知ってたか?

オレ、レティを追い越すことを目標にしてたんだぜ。最初は妹に負けて堪るかって気持ちだった。

でも大人になるにつれて、この気持ちを抱くようになって自覚して、ああ、好きな子にオレは格好いいところ見せたいだけだって思った。

 

でもさ、結局、オレだけ取り残されてるよな。

親父も、ルーナも、レティも譲れない信念みたいなもん掲げて行動してた。だから迷いがなかった。でもオレは?オレは、王になる理由が不純だ。レティの為にってそれって結局自分の為じゃないよな。ましてや民の為でもない。じゃあ、どうすればいいんだ?

オレは本当に、王になっていいのか?

 

「わかんねぇよ、…レティ…!」

 

親父も、レティもアイツらも何考えてんだかわかんねぇ。

オレはどうすればいいんだ。

 

「教えてくれよっ…、もう、何が、どうなってんだよ…」

 

答えを求めても、手を差し伸べてくれる親父はいない。あの糞ムカツクアーデンに盗られてなかったらと収まっていた指輪はオレの手にない。

あれは足枷だ。

 

王である意味を示すための首輪みたいなもんだ。だから少しだけ安堵した。まだオレは王じゃない。ただ一人の男なんだと言い訳できるから。

 

【答えへの出口はまだ見つからない。】

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