レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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First Love

本当の気持ちに気づいたって私と彼の関係が変わることはない。彼は、彼女(お姫様)のものだから。

 

レティーシアside

 

 

イグニスが去った部屋に一人残された私は、鏡台の上で腕枕をして目の前に置いたイグニスからの贈り物のアイオライトで作られたイヤリングをじっと見つめていた。

鏡に映るのは、彼に髪を結われて劇的に変化した私がいる。

静かな室内には、装飾が施された時計のカチカチという秒針が回る音が酷く耳に大きく聞こえた。

 

イグニスはこれを買う時、どんな気持ちで買ったのかな。

アイオライトって確か意味があったような…。膨大な書物の知識を詰め込んだ頭から宝石、宝石と思い出しながら引っ張り出す。

 

確か、アイオライトの石言葉は【初めての愛】。

 

そっか、イグニスにとってこれは私への愛の証なのか。

 

まるで他人事のように感じてしまう。その実感がまるでわかないのだ。私の感情はドコか壊れてしまっているのだろうか。いいや、そんなことはない。壊れているどころか私は最低な女だと思う。

 

彼の気持ちを利用しようと思ってしまった。一瞬でも脳裏をかすめたのだ。

この世界にとどまる理由にしようと。

彼の存在を私がこの世界に繋ぎとめる理由にすれば私はこの世界にいることができる。

 

彼が私を好きだと言う純粋な気持ちを、邪心な考えで汚してしまうところだった。

 

……ノクトの傍にいることができるという理由で。

 

なんだかんだいって結局、私の世界の中心にいるのはノクトだ。

いつも一緒に手を繋いで共に育ってきた。誰かのものになることがわかっていたのに、ルナフレーナ嬢との手紙のやり取りにさえ嫉妬していた。それは独占力から来るものだって思い込んでたけど、違うみたい。いつもノクトの背中をどこかで探してた。ノクトも私を見ていてくれた。それが当たり前だとずっと続けばと願った。

 

妹として必要としてくれる彼に感謝さえした。

 

イグニスが真剣な表情で愛称ではなく、私の名前を呼んで好きだと告げた彼の顔を見た途端、この胸に沸いたのは嬉しさよりも戸惑いと、どうしてこの人はもっと違う人を好きにならなかったのだろうとの疑問だった。

 

こんな素敵な人が私を好きになるなんて、信じられない。

なぜ?私のどこに好まれる要素があったの?

 

そう尋ねたかったけど、声に出せなかった。

 

言葉に詰まった。今声に出しちゃいけないって。彼の気持ちを否定しちゃ駄目だって思ったから。イグニスの声が震えていたもの。いつも冷静沈着で皆のことに気を配って困った時には助言をくれる頼もしい参謀。

ノクトの将来を支える人っていうのもあるけど、イグニスなら安心して任せられるって勝手に期待かけてるんだもん。そんな人が、私を目の前にして緊張していた。

 

でも、だからって彼の気持ちを利用するなんて馬鹿な真似はしない。できないし絶対やらない。

 

嫌になる。

こんな自分は、嫌いだ。

 

「ばっかじゃない、最低すぎ、私」

 

いくら自分を罵ってもこのどんよりとした気持ちは晴れることはない。

今さら気づいたって遅いのに。っていうか遅いとかない。もうこの関係は終わっている。

ユリと再会した時に痛いところを突っ込まれたっけ。

 

『それって変じゃねぇか?』

『何が?』

『今まで愛称で呼んでた癖にいきなり名前呼びとか。まるで異性に切り替えたみたいだし』

『いせ、い?』

 

私がノクトを異性として見ている。

 

ノクトはルシスを背負う王で、私は偽物の王女だった卑しき女。そしてこれから私は悪逆に身を染める。それがシナリオの上であろうとこの想いはノクトの将来に傷をつけてしまう。これ以上距離が縮まることはない。この手はもう彼に届かない。

 

「諦めなきゃ」

 

私は顔を上げて腕枕をといてイグニスから送られたイヤリングが収まった箱をパタンと閉じた。

 

イグニスの想いは受け取れない。これは折を見て返そうと思う。

それまでは鏡台の引き出しにしまっておくことにした。

 

私の初恋はオーディン様!なんて騒いでたのが懐かしいくらい。って言ってもそんなに時間もたってないけど。

……認めよう、違ってたみたい。その頃の私は【恋】というものがどういったものかわからなかったから。憧れてたし早く世間の常識というものを学ばなきゃなんて急ぎ足だった気持ちもあったからすぐにそうだと思った。

でも今さらだけど気づいた。

遅い!なんてクペに相談したら怒られそうだけどね。

 

私の初恋は既に始まっていた。

自分が自覚する前から、すでに始まっていたんだ。

 

「…ノクト…」

 

ため息のように漏れる彼の名。声に出すだけで胸が苦しくなる。

締め付けられそうで痛い。

 

ぎゅっと胸元の服を握った。それでも苦しさは抑え切れず胸の内に広がっていき疼く。

 

私が昔から見ていた人。

ずっと見ていてほしいと願った人。

 

「……ノクト……」

 

そう、私。

 

ただのレティーシアは、ノクティス・ルシス・チェラムが好きです。

きっとレティーシア・エルダーキャプトだったら何も伝えられないまま終わる。

でも今なら、認めた直後の私なら言える。

 

認めようと思う。今まで逃げ続けてきた本当の気持ちに。

 

子供っぽくて負けず嫌いでいっつも眠たそうにして面倒くさがり屋な割に妙にプライドが高いところがあって人見知りだけど心から信頼する人の前じゃ自分を曝け出したりして常に周囲の人から王子として期待を寄せられててそれなりに悩んだりもして、でも皆の期待を背負うって決めたらどんどん立派な王様に近づいていってるノクトが、好き。

 

私と彼の行く道が最後まで一緒かどうかは分からない。

けど、別れの瞬間まで傍にいたい。ノクトにとって妹として見られていたとしても傍にいたい。

 

「好きだよ。ノクト」

 

ノクトへの温かな愛しさを感じながら私の【本当の初恋】は今、認めた時点ですでに終わりを迎えようとしていた。でもそれでいいんだ。それが私の物語だから。

 

【初恋の掟】

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