「嬉しい、ありがとう」
その溢れんばかりの嬉しそうな顔と言葉だけで今までの苦労が一気に吹き飛んだ。
※
ノクトside
初めてレティに贈り物をした。っていうかおごることはあったけどそれはオレの小遣いから払ってたわけで労働して得た金なんてもったことなかったし、王子として働くという選択肢はオレの手元になかった。でも国を出て色々あって学んでいく中に初めての労働がモンスターハントだった。最初はレガリア修理するのに金足りなくて仕方なく懸賞金賭けられたモンスターを退治してたけどな。
最初は簡単だったけど段々と場数を踏んでいくことに敵の強さとか有効的な倒し方や戦い方、敵の攻撃をどうやったら回避できるかって多くのことを学べた。
モンスターハントをして稼いだ金はオレにとって初めての価値のある金。最初は何に使うかワクワクしてたな。結局、レティがお腹減ったとかぼやくからそれでおごるはめになったけど。あっという間にすっからかん。
レティの我儘はいつものことだけど今回は違う。
オレにとって、初めての贈り物になる。
閉じこもりがちだったレティがテントから出れるようになってレスタレムへと移動を始めたオレ達が立ち寄ったのはとある小さな町だった。
「んじゃ行ってくる」
「行ってきまーす」
「クペ、はぐれないようにね」
「それはレティだと思うクポ」
オレとレティとプロンプトそれにクペ。三人と一匹で町を散策してくると宿に残った二人に言い残し、オレたちは意気揚々と町に乗り出した。たどり着いた場所は活気ある広い市場だった。
「うわぁ!スゴイ見たことない果物がたくさんある~」
「おいしそうクポ」
「勝手に食うなよ」
「食べないよ!ノクティスの意地悪っ」
頬を膨らませて拗ねるレティに悪かったと苦笑しながら謝ってオレ達は色々見て回った。
でも人の波と物珍しさからレティとクペが一人はぐれてしまい慌ててオレとプロンプトはレティを探しに走った。
「クソ、なんでお約束なことすんだよ!」
「愚痴ってないで早く探さないと!この辺人込み多そうだしレティ一人だったら確実にナンパされる!」
「わかってる、んなこと!」
レティの可愛さは折り紙付きだ。嫌でもわかってる。だから常に一人にさせないよう、誰かオレ達が側にいるってのに。自分の魅力にまったく関心すら寄せないレティはまるで、飢えた狼の群れの真ん中に放り込まれた無垢な羊と一緒だ。
今頃、レティを虎視眈々と狙い近づく男がいるかと思うと腸煮えくり返るほど怒りがこみあげてくる。
「ノクト、顔怖いよ」
「分かってんなら探せよ。……らちがあかない。二手に分かれるぞ」
「分かった!ノクトも気を付けてよ」
「おう!」とオレはプロンプトと別れて人込みの中に飛び込んだ。
いない、いないいない。
何処を探してもレティの姿が見つからず、焦る想いばかり先走って通行人に何人か体当たりしてしまったりした。文句が飛んでたがオレは「悪い!」と簡潔に謝罪して先を急いだ。
少し人波が引けた露天商の店みたいなところを通った時、物欲しそうな顔で何かをしゃがみ込んで見つめていたレティがいた。
「レティ!」
「……ノクティス?」
オレに名を呼ばれ、座り込んでいたレティが気づいて振り返りながら立ち上がった。
オレは駆け足でレティの傍に行くとその細い肩を掴んで大声で怒鳴った。
「馬鹿レティ!何一人ではぐれてんだよっ」
オレの剣幕に眉を下げて萎縮してしまったレティはか細い声で謝った。
「ゴメン、こんなに人がいっぱいなところなんだか吃驚して…、ノクティス呼んだんだけど気が付いたらいなくて……」
オレには言い訳に聞こえてさらに言い募ろうとした。でも先にクペがバッとオレの顔の前に飛び込んできた。
「レティを怒らないでクポ!」
「クペ」
クペは両腕いっぱいに広げてレティを庇う真似をした。クペのボンボンが怒りからか激しく上下していてクペの感情を表しているように見えた。
「ノクトとプロンプトが悪いクポ!男二人で話に夢中になって人の波にさらわれたレティが助けを求めてたのに気づかなかったクポ!仕方ないからレティとクペは少し人波から外れたとこで休んでたクポ。レティは全然悪くないクポ」
一気に立場が逆転した瞬間だった。レティに落ち度はなく、オレ達に原因があった。
クペはふん!と鼻息荒くオレを睨み付けてくる。
やばい、クペのぺちぺちビンタがお見舞いされそうな予感。
なんとも気まずい雰囲気がお互いの間を流れた。
けどレティがぺちぺちビンタする準備をしたクペを後ろから両手で抱き寄せた。
「……クペ、いいんだよ。私が悪かったから。ゴメンね」
すぐに謝ればよかった。
なのにオレは、自分の非を認めなくないという下らない意地から謝るチャンスを逃した。
「……その、……。気を付けろよ。レティは目立つんだから」
「うん、ゴメンね。気を付けるよ。……でもね、色々見れて楽しかったんだよ。ね?クペ」
「レティは優しすぎクポ……」
弱弱しい笑みを作っては気まずい雰囲気を流そうとしてくれたレティ。
クペは納得いかなかったようで、激しくボンボンを振らして始終不愉快を露わにしていた。レティが抱きしめていなければ襲い掛かられていたに違いない。
結局、プロンプトと合流して宿に戻るってからもオレとレティは言葉を交わすことはなかった。レティは夕食の席でも口数少なくいつもならイグニスに御代わりを求めているのに、食欲がないといって残して部屋に戻った。明らかなレティの異変にイグニスから問い詰められたり、グラディオに喧嘩もほどほどにしろと叱られたりした。
やっぱりクペからぺちぺちビンタを食らった。
全然痛くはないが精神的に参った。さらにお仕置きとして一晩中枕元でおとぎ話の王子がどんなに姫に優しいかとか、大切にしているかという話を延々と語られた。
お陰で目の下に隈ができたと同時にオレの中じゃ王子の美徳の数々が嫌でも刻まれた。……オレだけじゃなく同室のプロンプトも同じような状態で朝を迎えたらしい。
なんとしても謝らなきゃならない。
オレは次の日、再びプロンプトを連れてレティが商品を見ていた露天商の所へ行った。
「おい、ちょっといいか」
「ああ、昨日の彼氏か。随分と彼女を叱ってたみたいだな。今日は一緒じゃないのか」
「彼女!?いや、違うし……今は」
「なんだ、じゃあ友達か。なんにせよあの叱り方はまずいだろう。心配なのはわかるが」
「んなことどうでもいいだろ。……」
どうやら話を聞くと駆け出しのアクセサリー職人が自分の作品を売っているらしい。
人の好さそうな顔をした男でオレとレティの仲を若いのはいいねぇ~とからかってくる。
オレはその話題を遮ってレティが見ていた品物が何なのか男に尋ねた。
「お嬢さんが見てたの?あー、確か、これだ」
それは控えめの装飾が施された指輪だった。
なんでも近くに咲く【名前がない花】という野花をイメージして創った銀の指輪らしい。
その野花の群生地からヒントを得たとか。それってあのメリュジーヌを倒した時のポイント地点だったような気がする。そういえばとふと思い出した。
あの時、レティの態度が少しだけおかしかった。
まるで、誰かを失ったかのような寂しそうな顔をしていたんだ。でもそれはあのメリュジーヌを倒した時だけですぐに消えた。だから単なるオレの気のせいだと思ってたけどやっぱりなんかあったのか?
オレはふーんと相槌をうって、とりあえず「それをくれ」と男に頼んだ。
男はニヤニヤ意地の悪い笑みを浮かべながら「うまくいくことを願うよ」と余計なおせっかいを言ってその指輪を箱にしまおうとした。けどオレは箱はいらないと断って商品を受け取って代金を払った。
プロンプトが割り込むように「レティにあげるの?ふーん」と面白くなさそうな顔をしてきたがオレは、「レティには黙っとけよ」と念押しした。
これでプレゼントは手に入った。
後は、勇気を出すだけだ。
※
宿に戻ったオレはチャンスあらばレティを誘い出そうとした。けどイグニスが常に目を光らせてレティの近くを陣取っていた。クペもオレを警戒していたから話しかけることさえ難しかった。レティもそれとなくオレと距離を置こうとしていてこのままじゃマズいと悟ったオレは、レティが一人になった瞬間を狙って強引に誘いだした。すでに夕方になっていた。
「レティ、ちょっと来いよ」
「何?」
「いいから」
「え、ノクティス?」
誰にも邪魔されたくなくて強引にレティの手を取って二人っきりになれるところへ行った。そんなに宿から離れてないところだ。
そこへ行くまでレティは戸惑いながら「どこ行くの?」としきりに尋ねてきたがオレにはそれに答える余裕がなくて、「いいから来いって!」と少し口調が荒くなってしまった。レティはオレの様子に何かを感じたらしくそれっきり口を閉じてしまった。
オレは、内心やべぇと焦ったが、なるようになれと腹を括って、ポケットに手を突っ込んで指輪を握りしめて全ての賭けに出た。
いらないってつっかえされるかもしれない。
これじゃなかったと文句言われるかもしれない。
ただレティに喜んで欲しくてしたことだしな。
結果がどうあれ、オレのレティに対する気持ちは変わらない。
※
あまり人気がない場所でオレは勇気を出してぐるりと勢いよく振り返った。するとレティは目を瞬かせて吃驚したらしいが、オレとしちゃいっぱいいっぱいで気遣ってやれる余裕はない。
自分でもいい方がぶっきらぼうすぎだと思う。
でもこれがオレの精一杯の表現だったんだ。
「これ、やる」
「…?ゆび、わ……」
レティは両手を広げてぽとっと落とした指輪を見て目を丸くした。
気恥ずかしさからレティの顔を見れずすぐに横を向いて、
「それ、レティが欲しがってたやつ、だと思った。だからその、やる!昨日は、ごめんな。次はないように気を付けるから」
と言葉を途中で詰まらせながらなんとか伝えた。謝ることも忘れずに。
レティはじっと指輪を食い入るように見つめて、押し黙った。
「……」
「違ってた、か?」
レティの沈黙にオレは若干不安になり、遠慮がちに尋ねた。レティはハッと我に返ったかのように首が折れるんじゃないかってくらい横に振った。
「ううん!これ!これが欲しかったの」
「…そっか、良かった」
安堵のあまりほっと息が漏れた。
レティは指輪をぎゅっと両手で包み込んで感慨深そうに瞼を閉じて
「ノクティス」
とオレの名を呼んだ。オレは
「ん?」
と答えると、レティはゆっくりと瞼を上げて
「嬉しい、ありがとう」
顔をほころばせてレティは笑った。
最上級の笑顔だった。
「っ!」
衝動的にオレはレティをがばっと抱きしめてしまった。
「レティ」
ああ、ちきしょう。その顔マジで反則だわ。
この腕に抱きしめているのはオレの妹じゃないことがこんなに嬉しいだなんてオレ末期だ。……オレの、何より大切な、好きな人。
一旦体を離すとレティはオレをじっと見つめてきた。勿論、オレも。
「ノクティス」
「レティ……」
いっそこのまま言ってしまおうかと思った。
好きだと、言っちまえば。
でも続けようとした言葉を飲み込んだ。無理やり。
「……貸せ、つけてやる」
「うん」
レティから指輪を受け取って、指に嵌めようとして、少し迷った。
どちらにしようかって。
本音は左手にしたい。けどオレが躊躇してる間にレティはスッと右手を差し出してきた。
オレは仕方なく右手を取って薬指に嵌めた。
レティは右手を上げて見せてオレに、
「似合ってる?」
と小首傾げながら尋ねたのでオレは
「似合ってる。オレのセンスだからな」
と茶化しながら言うとレティは目を細めて微笑んだ。
「私のセンスでもあるからね」
と言って。
皆の所へ戻る時、オレ達はどちらともなく手を繋いで帰った。
レティは歩きながらオレを横目で見上げて、
「ノクティス、ずっと大切にするね。ずっと、一生大事にする」
とオレに言ってくれた。
「当たり前、ってかオーバーだしそのいい方」
と余裕そうに言い返したが、あまりに嬉しすぎて繋ぐ手に力が篭っちまった。けどレティはお返しと言わんばかりに一旦繋いだ手を解いた。怪訝に見やるオレに「へへっ!」と照れながら再び手を繋ぎなおした。所謂、恋人繋ぎという奴で。
「今日くらいはおまけしてよ」
「……今日くらいは、な」
普通な恋人のように。一時でも普通な日常を。
握りしめた温もりに愛しさを感じ取った。
【無性に愛しさが込み上げた】