たとえ勝ち目がない戦いだからって諦めたくない。彼女を想う気持ちは紛れもなくオレの正直な気持ちだから。
プロンプトside
明らかにイグニス、ノクト、レティの雰囲気が変わったと気付いたのはつい最近の事。まずはイグニス、それからレティに続いてノクトだ。
何がどう変わったかなんて言わなくても分かる。皆、それぞれが勝負に出たんだ。自分の気持ちに正直になったって意味だけど、その中じゃオレは出遅れてる。かなりね。
だから、オレ、プロンプト・アージェンタムは一世一代の告白を今からする。手には冷や汗がびっしり浮かんでいて気持ち悪いし、喉もカラカラ心臓バクバクで今にも倒れそうだ。というかさっきからレティの部屋を前をうろうろと行ったり来たりしていてイグニスに怪訝な顔をされた。
「どうしたんだ。落ち着きがないぞ」
「ちょっとイメージトレーニングしてる最中だから話しかけないで!」
「?そ、そうか。すまない」
イグニスは戸惑いながら謝ってオレの奇行に頭を傾げては夕飯の支度に戻って行った。クペが戻ってきてからイグニスは外で作らずにクペの中にあるキッチンを利用するようになった。やっぱりこっちの方が使いやすいんだって。そりゃ確かに、コンロに流し台に冷蔵庫完備至れり尽くせりなキッチンの方がイグニスにとってはいいだろうけどね。
その所為でグラディオは少ししょぼくれているの知ってるのかな。たまにはキャンプしたっていいだろってレティに訴えてるのを見かけたけどレティは一人でキャンプすれば、私はふかふかのベッドで寝かせてもらうわってあっさり言い返してた。グラディオはクッ!卑怯だぞって悔しそうに呻いてたっけ。とか何とかいって、誰よりもソファに寛いで読書してるのはグラディオなのにな。
ああ、どうでもいいんだそんなことは。うぅ、さっきから何回もイメトレしてるけどうまくいかない。告白する前にミスって爆死とかしてるし、オレ。
でもここでそう簡単に倒れるオレじゃない。今までのオレとは一味違うんだと自分を叱咤して、いざレティの部屋を尋ねた。
コンコンと2回ノックしたところでハッとオレは顔を青ざめた。
これ、トイレの時の奴じゃん……!
って時すでに遅しとはこのことだよ。ノックしてからすぐレティが「はーい」と声を上げてドアを少し開けて顔を覗かせた。少し化粧していたちょびっとドキっと胸が高鳴ったのは内緒だ。
「なんだ、プロンプト。どうしたの、ここトイレじゃないわよ」
「……うぐ、スイマセン。間違えました」
オレは気まずくなって回れ右しようとしたけどレティに服の裾を掴まれて動きを止められた。ついレティの顔を見ると揶揄い含んだ悪戯っ子のような顔をして両目を細めて笑っていた。
「ゴメンゴメン。意地悪だったわね、用事があったんでしょう。入って」
「……失礼します」
なんだかんだで最初の難関は突破したオレはレティの部屋に入らせてもらった。相変わらず豪華だよな~と感想を抱くくらい実にお姫様らしい部屋って感じでオレはレティと向かい合うようにソファに座った。
「それで、何か用事?」
「うん。……その、えーと」
こう改まって面と向かいあって今さらながらレティを見ると、ああ、やっぱり彼女はオレとはまったく違う人なんだなって思う。
言葉遣いとか態度が時々乱暴になったりするけど佇まいとか元から備わってて気品っていうのがあふれ出てる。指の先から足のつま先まで。きっとレティ本人は辺り前のように小さい頃から馴染んでいるものでもオレみたいな庶民からしてみれば感嘆しか出ない。
「あ、そうだ。最近体調の方がどう?」
「……は?まぁ、別に普通というかいつも通りだけど」
「髪はまだ伸びてる?」
「……最近は落ち着いてきたかしら」
突然の異変によってレティの綺麗な髪は驚くほどの長さにまで伸びてしまった。最初は彼女本人も動揺して引きこもってたけど今はイグニスやクペに髪を結ってもらってヘアアレンジを楽しんでいるみたいだ。しっかりと後ろで三つ編みに結われた髪を少しいじりながらも、脈絡もない突然の質問にレティは腑に落ちない表情をしながらもちゃんと答えてくれた。オレは内心、何下らない質問してんだよ!と叫んでしまったが、してしまったのだから仕方ない。
レティは「それで?」と先を促してきた。でもオレはまだ決心が定まらなくてつい話題作りの為にとんでもないことを口にしてしまった。
「そ、そういえば!お祖父さんの様子とかどうなの?」
「………」
途端にオレはしまったと口を手で塞いでしまった。無神経にもほどがある。
案の定、レティはさっと顔を曇らせてしまった。
「ご、ゴメン!オレ」
「いいのよ。別に。だぶんノクティス達だって気になっているでしょうしね」
レティは自嘲的な笑みを浮かべた。
「………」
「……容態は良くないわ。正直いつまで持つか」
「……それじゃあ!?」
レティは躊躇いを見せた後、吐き出すように重たい口を開いた。
「……私の目的は果たしたわ。もうここに留まる理由はない」
「っ!」
ついに目を逸らしていた現実が迫ってきたんだ。レティがニフルハイムの皇女に戻る時が来た。彼女がオレの手が届かないところに行ってしまう。そう考えたらつい、オレは必死に口走って頼んでた。
「オレも連れてって」
って。レティは嫌悪感を露わにしてオレを厳しい視線で見据えてきた。
「……プロンプト、冗談でもその言葉は嫌いよ」
軽蔑さえ籠っていたその視線にオレは、
「違う!冗談じゃないよ!?オレ、オレ…、レティの事…!」
と衝動的にソファから立ち上がって『好きだから』そう勢いのまま伝えようとした言葉にレティは視線を逸らして、その先を言わせてくれなかった。
「……それは友達として、でしょ?」
先手を取られた。そう受け止められても仕方ないよね。だってオレは態度にハッキリと現さなかったから。でもオレは食い下がった。
オレはレティの方へと歩いて許可なく彼女の隣に腰かける。レティは驚いて少し身を退いたけど逃げられる前に彼女の手を掴んだ。
「最初はそうだった。最初の出会いをレティは覚えてるかな。……あの時、高校の卒業式の時オレ達初めて出会ったんだよ。そりゃ最初は見かけだけは可憐なお姫様で儚くて守ってあげたくなるような人だと思った。でもそれは君の虚勢に過ぎなかった。不自由な割にはハチャメチャなお姫様でオレ振り回されっぱなしでそれは今も変わらないよ。でもだからオレ、君の力になりたい。君が帝国を潰したいって言うなら全力で応援したいんだ」
まくし立てるようなオレの言葉にレティはしばし黙ったままだったけど、
「………それが、恋愛感情、だから私に付いてきたい、と?」
どこか不快感を感じているようで眉が少し上向きになった。
ああ、違う。駄目だ。きっとレティはオレがただ好きで一緒にいたいから先走ったと思われたようだ。オレは焦ってミスらないように自分に冷静に冷静にと言い聞かせて、しっかりとレティと視線を合わせて説明をした。思い付きで言ったわけじゃないことを知って欲しかった。口下手なオレだけど、自分の気持ちはちゃんと伝えたいから。
「それもあるよ。……でも、それだけじゃない。スモーク・アイと戦った時、オレの身勝手な行動でレティは怪我をした。オレが弱いばかりにって嘆くオレに君は言ったよね。『誰だって怖いことはある』。そうだ、オレは怖かったんだ。死ぬことが怖かった。何もできない足手まといだから自分よりも弱いはずの姫に負けたくないって張り合おうとした。けどそんな君に庇われた。正直、オレ情けなくて泣きそうになったよ。でも落ち込むオレにレティはこう言ってくれたんだ。『その弱さをちゃんと認めているプロンプトは、強くなれるよ。大丈夫、私が鍛えてあげる』ってね」
「………」
「どれだけ君の言葉に励まされたか、レティは知らないでしょ?どんなに辛いことだって耐えようって思えた。……君を守れるくらいに強くなりたかったから。庇われるだけじゃない。君を守れるくらい強い男になりたいって心底願ってそれに見合うだけの修行を君からこれ以上ないってくらいしごかれた。そしてオレは君を守れるくらいに強くなったって思ってる。だからこれはオレの恩返しでもあり願いなんだ」
長々と語ったけどちゃんと伝わってるかな。レティはじっと黙って聞いてくれたけど小さな声で呟いた。
「プロンプトの、願い?」
「うん、だからオレは君が」
伝えようとした言葉は物理的に塞がれた。レティの伸ばされた手によって。
「言わないで」
「……」
懇願するようにレティはそう言ってゆっくりと手を下した。
どうしても言わせてくれないんだ。それほどにオレの気持ちは嫌なんだって落ち込みそうになった。でもそうじゃなかった。オレはレティという人がどれほど不器用な人なのかすっかり頭から忘れ去っていた。
レティはオレから視線を逸らして、『わざとらしい冷たい声』を出した。
「………私が、貴方に隠し事をしていてもプロンプトはまだそんなこと言えるかしら。貴方の出生に関わることよ」
「………え」
「貴方の腕にある番号の意味。私はその秘密を知っているわ」
レティは薄々気づいていたんだ。オレが、この痣みたいなのを気にしていることを。
つい自分の腕に縛っているバンダナに手をやって上から強く握る。昔からずっと気になってたことがある。オレだけにあって他の友達にはないもの。両親にコレの事を尋ねてもはぐらかされるばかりでまともな答えは返ってこなかった。だからどこか不信感が募ってたんだ。両親に対して……。きっと、オレの知らない何かを知っている。それを隠そうとしているからこそ、オレと両親の間に溝は深まっていったんだ。
苦々しい思い出と共に顔を歪めてしまうオレ。
「………帝国に、その秘密が隠されてるってこと、なんだ」
「そうよ、もしかしたら貴方は絶望するかもしれない。それでも貴方は私と共に帝国に行くというの?」
これはオレの気持ちを確かめてる?……ううん、違う。そうじゃない。
これは……。
「オレ、は」
「ノクティスよりも私が大事だって証明してみせてよ。……選べないでしょう。貴方には。できもしなくせに軽々しく行きたいだなんて言わないで」
キツイ口調で突き放すようないい方をしてるけど、きっとレティはオレの為にわざわざ卑怯ないい方を選んでいるんだ。わざと自分とノクトを天秤に賭けて選べないようにしてる。親友をしっかり守れって。自分に付いてきたって意味はない。真実よりも知らないままの幸せを選べって。
遠回しすぎ。不器用すぎ。
すぐに分かったよ。オレの為なんだって。
こんな時まで自分の気持ちを後回しするなんて……。でも悪いけどオレは自分で決めたんだ。
「………行くよ」
「………本気?貴方は帝国ではルシス王の護衛と認知されているのよ。私が連れて行ったところで捕虜扱いか、もしくは……銃殺とかあり得る話だわ。自分の命の危険もあるのよ」
「………それでもいいよ。オレは」
オレの迷わず言い切った言葉にレティは信じられないと顔を歪ませた。
「……なんで、そこまでして…」
切なげに声を震わせてる彼女を真摯に見つめてオレは言った。
「―――レティを守りたい」
からだと。
「…………馬鹿じゃないの」
言葉は非難しているがレティはついこらえきれずにクシャりと仮面を壊していく。やせ我慢してばかりの彼女はオレにさえ寄りかかってくれない。頼ろうとしてくれない。
「だって……そんな顔のレティ、放っておけないよ」
「どんな顔よ」
「……我慢してる顔。心細くて寂しそうで辛くて泣きたくても泣けない顔」
そう指摘するとレティはカッと眉を吊り上げて怒気を露わにした。
「………分かったようないい方しないでっ!!私は、……私は……!」
勢いよく振り上げられた手がオレを叩こうと掲げられた。
でも最後までその言葉が、手が続くこともなかったし振り下ろされることもなかった。
色々とこらえきれないものがあふれ出てきたんだと思う。レティはだらりと腕を下して顔を俯かせた。
細い肩だ。ホント、頼りないよ。でもオレは今までそんな彼女に頼ってきた。
情けないけどさ、好きな女の子に助けられ続けるなんて。
……彼女一人じゃ背負いきれないモノがもっとありそうでオレが知らないだけで彼女は今にも潰されそうなのかもしれない。それでも立っていられるのは彼女が強くて弱いからだ。
「………」
きっとオレじゃ本当のレティが抱えるものを理解することは難しいかもしれない。あのニックスさんが相手じゃ確実に負けそうだ。でも、諦めたくない。諦めるなって教えてくれたのはレティだから。
「一緒に行かせて、レティ。一人にしないから」
「馬鹿よ、ほんとに。……プロンプトは」
レティは泣くのを我慢して失敗したような笑みを浮かべて、オレはそんな彼女の手をぎゅっと握りしめた。
「よく言われるよ」
君なら馬鹿って言われても許せる気がする。
※
レティの右手薬指に収まるノクトからもらった名前のない花【There is no name flowers】の指輪がきらりと光っていた。何だかひどく目について気になった。
オレは彼女に着いていくことにした。きっとノクトなら理解してくれると思う。だって放っておけないんだよ。
レティは、「ノクト」とそう小さく呟いて指輪に軽く口づけた。
まるで別れを言うみたいに。普段は愛称で呼んでないくせにオレの前じゃ呼ぶなんて卑怯だと思った。だから言わずにはいられなかったんだ。
「前にも言ったよね」
「え」
「君の前にいるのはノクトじゃない。オレだって。……だから、オレの名前を呼んで」
「……プロンプト」
「うん。レティ……」
彼女の目尻から零れた涙を指で拭って、オレはレティの頬にそっとキスを送った。
ゴメン、皆。オレ、レティが好きなんだ。
だから行ってくるよ。もしかしたら、死んじゃうかもしれない。
レティの事だから単なる脅しだと思うけどさ。万が一ってことはあるじゃん。
だから、先に謝っておくよ。
ノクト、イグニス、グラディオ。ゴメン、オレは。
【好きな人の為に、自分の為に動きたいんだ】