レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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わたしのさいしょのいっぽ

レティーシアside

 

 

母上、私は貴女の言いつけを破っております。

家族であるノクトを捨て、敵国に身を置いているのだから。でも安心してください。

私はノクトの為に帝国を潰します。彼が導くルシス国千世の為に。

彼の為に、終わらせます。だから許してくださいますか。

 

王は孤独である。

だから家族が寄り添えばいいと私は母上に自信ありげに誓いました。

 

でも家族である私がノクトの傍を離れている。

ノクトの為に、……矛盾していますよね。本当に私は親不孝者です。

 

でも私は貴方の娘でいられてよかった。

私の産みの母は確かにミラ・ルシス・チェラムです。でも私は貴方こそ、私の真なる母であると思っています。

 

アウライア・ルシス・チェラムの娘であることを誇りに思います。

 

再び愛する父上との出会いが来世でありますように。

 

 

―――昔懐かしい夢を見た。

 

あれは父上と母上とノクトと本当の家族のように過ごしていた時だ。その頃、ノクトは風邪を引いて別々の部屋で寝起きしていた。一人で眠る私の為に母上は夜、絵本を読み聞かせてくれた。私は母上が読んでくれる本だけじゃ足りずもっと別の本を読んでとせがんだ。母上は困った顔をしながらも、これで終わりだからね?と私に言い聞かせて私の大好きなサンドリヨンを読んでくれた。

 

可哀想なサンドリヨンは素敵な王子様と出会うまでのストーリー。何度聞いても飽きる事はなく、むしろ憧れは増すばかりだった。

 

『わたしもいつかおうじさまにむかえにきてほしいなぁ』

 

興奮冷めやらぬ私を寝かせようと母上は微笑を浮かべながらこう言ったのだ。

 

『レティ、どうかノクトを支えてあげてね』

『母上?』

 

支えるという意味は子供の私には難しすぎた。クエスチョンマークを飛ばして母上を見上げる私に母上は酷く辛そうな顔をした。きっと、ノクトの行く末を案じていたんだろう。クリスタルに選ばれし運命にあるということは、いずれ死が訪れるということ。王都を守る魔法障壁は王の寿命を縮めるものだから。戦争が長引けばそれだけノクトの生存率は落ちていくのだから。

 

『あの子はいずれ孤独になってしまうわ。レギスのように』

『父上とおなじ?なにが?』

 

母上は父上の王としての立場を誰よりも理解し押しつぶされそうな体を支えていた。日常の中でも、精神面においても。可能な限りサポートしていたはず。それでも王自らが先頭に立たねばいけない時がある。その時ばかりは、胸が張り裂けそうな想いで父上の背中を見つめていたのだろう。じっと耐えるように。

 

『………覚えておいて、レティ。王とは孤独なの。沢山の命をその肩に背負って生きていかなければならないの。たとえ辛い決断を迫られたとしても王は一つの命よりも千の命を救わなければならない。それが王の使命なの』

 

いつも優し気な父上が独りぼっちなのだと教えられ、私は反射的に声をあげていた。

 

『……いや!』

『レティ?』

 

ベッドから飛び起きて私は驚く母上に縋って訴えた。

 

『父上がかわいそう!わたし、そんなのいや!!』

『………』

 

母上は酷く驚いておられた。私の口から【可哀想】などと言葉が飛び出るとは思いもしなかったのだろう。私は勢いのまま自分の気持ちを母上に伝えていた。

 

『わたしは一人にさせないもん!ノクトはわたしの家族だもんっ』

 

そう、ノクトは私の家族。大切な家族。

母上も、父上も欠かすことのできない家族。純粋であるがゆえに口から飛び出した奇跡のような言葉だ。母上はゆるゆると破顔していき私の顔を両手で包み込んだ。

 

『………そうね。ええ、私達は家族よ。レティ』

『わたしとノクトと父上と母上、みんなであつまればいいんだよ。そうすればさびしくないね』

『フフッ、確かにその通りだわ。王が孤独だというのなら私達家族が傍にいれば孤独ではないものね』

 

そのままおでこをぴったりとくっつけてきて母上は瞼を閉じた。何かを堪えるかのように、嬉しそうに笑って。

 

『母上?どうしたの?どこかいたいの?』

『……いいえ、レティ。貴方がとても真っすぐに育ってくれてとても嬉しいの』

 

母上の目尻には涙が堪っていた。嬉し涙だったのかもしれない。今となっては知ることのできないものだが。

 

『母上?』

『レティ、愛しているわ。―――私の大切な娘。たとえ、どんなことがあっても、私達家族の絆は永遠よ』

 

おでこにそっとキスをされ温かな腕に抱きしめられた。母上の匂いはいつも私を安心させてくれた。いつも、私の母であることを感じさせてくれた。

 

私は、いつも守られていた。

母上に、父上に、私を慕ってくれる者たちに。

 

でも、今私は自分の足で立っている。国を動かす者として責務を負っている。それはかつての父上と同じ事。ううん、若輩者の私には父上のような立派な政治とは程遠いもの。それどころか、国民を欺くことをするんだから。最低最悪の女帝だ。

 

でも、やらなきゃならない。

ノクトの為に。皆が生きる世界の為に。

 

 

「おはようございます。陛下」

「………おはよう」

 

使い慣れた寝室にて、朝の挨拶はシシィから始まる。恭しい態度で私の着替えを手伝ってくれる侍女達にされるがまま姫様から陛下へとクラスチェンジした私、レティシア・エルダーキャプトが行うべき仕事は、まず陛下らしくあることらしい。自分で着替えるのではなく、手取り足取りやってもらうこと。

長すぎる髪を櫛で丁寧に梳かれ複雑に編みこんで髪形を整えられ、化粧を施されいくらするかも検討がつかないドレスを着させられ、邪魔ならない程度にアクセサリーを付けられ(ノクトから送られた指輪だけは断固として外さなかった)、椅子に座って鏡にうつりこむのは確かに、女帝の名に相応しい女だ。

 

「ご苦労さま」

 

労いの言葉を掛け部屋の脇に控えている侍女たちをねぎらう。扉が開けられ私はドレスの裾を持ち上げて腰を上げる。これから食事だ。それもしきたりやら伝統やらのがんじがらめにされている朝食だ。黙って食べろ、大口開けるなうんたらかんたらと耳にタコができている。だがルシスで慣れていた王女教育に完璧にこなしていた私にできないレベルではない。私が即位してから周りの者が満場一致で女帝即位を受け入れたかと言えばそうではない。複数の者はほとんど懐疑的であるはずだろう。なんせ、喪も開けぬ間に強硬的に即位したのだから。

 

今は大人しく国政はアーデンに任せているが、今日はそろそろ頃合いかと思いアーデンとも相談して一芝居打つことにしている。それを皮切りに色々と一悶着起こさせて邪魔な人間を排除して行こうという作戦だ。さて、まず私の第一の被害者となるのは宮廷内で働く料理長だ。なぜかって?よくあるテンプレだよ。

 

大人しく宰相の傀儡と言われていた女帝は実はとても食事にうるさい人でした。ある日、いつもの朝食の席で静かに美しい作法で食事をしていましたが、ある料理を口に入れた瞬間、眉間に皺を寄せフォークを手から落としました。

 

カラン!

 

その音はとても室内で響き、皆の注目を集めました。女帝が一言言い放った事。

それは、

 

「不味いわ」

 

の一言でした。それから女帝は口元をナプキンで拭いて椅子から立ち上がり自室に戻りました。誰もが顔を青ざめて見送る中、思い出したように傍に控えていた護衛の男にこういいました。

 

「料理長を呼びなさい」

 

それから魔導兵らに抑えられ玉座の間へと引きずられてやってきた料理長に女帝自らにっこりと微笑んでこう言い渡しました。

 

「お前、オルティシエへ行って修行しなおしてきなさい」

 

事実上の左遷でした。昔から宮廷に仕えている古参の料理長はこうしてニフルハイムを去りました。誰もが惜しむほどの人格者でありその料理は誰の舌を唸らせると評判の男でした。だから女帝に対する不満は尚更増すばかり。そんな中、料理長を戻すよう勇気ある者が抗議することもありましたが、その者は次の日から宮廷内で見かけなくなるようになりました。きっと女帝を怒らせたから生意気だと口封じされたのでは?ともっぱら噂になりました。ですが女帝の機嫌はそれで収まるわけではありませんでした。次は先代イドラ皇帝の時から仕えている軍人が標的になりました。彼は無知な女帝を諫めようとしました。悪戯に政治を乱すなと。だが女帝はその偉そうな態度が気に入りませんでした。

 

あっさりとちょきん。

所謂首刎ね(リストラ)を行いました。躊躇いもなく行った事で軍部内は大乱れ。女帝に反旗を翻そうとする者たちも現れました。ですが女帝暗殺は未遂で終わり、首謀者たちは消され一族ものともニフルハイムからオルティシエへと追い出されました。勿論抵抗しようとしましたが、無駄でした。女帝には召喚獣という強大なバックが付いていたのです。脅され泣く泣く彼らは国を出ていきました。生活するに困らないお金を【たくさん与えられて】去りました。

それから女帝の評判は民たちの間で再下降していきました。誰もが女帝の怒り(被害)に合わないようびくびくしながら生活していきました。それは宮廷内でも同じこと。時にヒステリックに叫んで部屋に閉じこもったり、宮廷内にモンスターを呼び込んでそれらと戯れたり、性格破綻者と陰口叩かれてそのたびにそれらを口にしたものを追い出しているものだから宮廷から去る者が続出するばかりでした。

その内、女帝は放り投げしていた国政に首を突っ込み始めたのでした。

 

我儘し放題に財政を乱し湯水のごとく国民が必死こいで納めた税金を使いまくって贅沢三昧したとかしないとかで噂は大概そんな内容でした。狂っている、あの女帝は狂っている!と国民達はこの国は何れ崩壊してしまうのではないかと危惧し、身の危険を感じた国民は我先にと国外へ逃亡していきました。幸いにもオルティシエでは帝国民を受け入れする準備はできており、アコルド首相の迅速な対応に彼女の人気はうなぎ登り。反対にニフルハイムの若き女帝の評判はドンドン地に落ちていきました。それでも彼女は我儘でした。今度はお金欲しさに宮廷内の調度品やら美術品やらを次々と売りに出していきました。そのお金で愛人達と遊ぶためです。その中にはイドラ皇帝が特に気に入っていた絵画などもあったという話です。まさに金の亡者。彼女は帝国皇帝の中でも一番の浪費家と後世に語り継がれることでしょう。

 

よし、何となくこれからの流れは頭の中で想像できた。私は美味しい食事を最後まで食べきりたい気持ちを押し殺してフォークを派手に音が響くよう狙った位置で落とすことにした。

 

どうか私の顔が引きつりませんようにと願いながら。

 

【私の演技はここから始まる】




設定(真実ver.)

名前
レティーシア・エルダーキャプト

ニフルハイム帝国最後の女帝。
女神エトロの魂の欠片の持ち主。消滅したはずのエトロの魂の欠片が人間として転生したもの。欠片と言ってもその身体に宿る力は強大なものであり制御するのは難しい。そのためサポート役として召喚獣が必要不可欠である。召喚獣たちはレティの体を保つため異世界へ誘っているが、あくまで強制ではなくレティの意思で来てもらいたいと願っている。
女神エトロとしての記憶は徐々に蘇りつつある。段々と汚染されていくように自我が飲み込まれていく感覚はあるが、辛うじて抗っている現状。

人として生きたいという彼女の願いが具現化した存在で母親であるミラ王女はもう一人の自分のようなもの。彼女も同じ魂の持ち主。その証拠として銀髪とその身に宿る枯渇しない魔力が証。モンスターに好かれるのは彼女の力の影響。彼女が最終的に望むのは、人の混沌【心】を学び、知る。そして生を終え、母なる女神ムインへ会いに行くこと。

ノクトへの恋心をやっと自覚したが、自分の運命【最後】を受け入れ潔く身を引こうとしている。だが世界の事情とノクトに課せられた必然を認めず己の命賭けて『とあること』を実行しようとしている。それは五分五分の賭けに近い。クペはレティの気持ちを知って共に最後までいく覚悟がある。イグニスやプロンプトからの好意に気づきつつも、あえて知らないふりをしていた。

未練はある。だから未練はないと自分の気持ちを断ち切ろうとしている。
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