レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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君という存在

プロンプトside

 

 

帝国に着いてまずオレがやった事は軍服に着替えさせらることだった。機械文明に特化しただけあって建物とかルシスで見るもの全てが大違いでオレは興味津々に辺りを見回したりしたら、アラネアの部下っていう人に田舎者扱いされた。むしろルシスの方が都会って感じがするけどな。ここって空気悪そうだし、天気もずっと曇り空。

飛空艇の中で、帝国は寒いから風邪には気を付けてねってレティからアドバイスされたけど、これは本当に風邪を引いてしまいそうになると思った。

 

軍人が主に出入りするという場所にレティと別れて早々連れて行かれたオレ。

 

アラネアからホイッと軍服を投げ渡され何とかそれを落とさずに受け止めることができたオレは呆けながら自分の手にある物を見下ろす。

 

「これって……」

「そ。ここの軍服。アンタは私の部下ってことで通してるから。そのつもりでね」

「部下……」

 

美人なおねーさんの部下になるなんて未だかつてない事件だ。若干浮かれ気味なオレの内情など知らずにアラネアはまったくもって余計な爆弾をさらっと投げてきた。

 

「私の部下なんて名誉な事よ?なんせ私を気に入らない奴からやっかみがられるからねぇ。陰湿な虐めとか日常茶飯事」

「え!」

 

口元引きつらせ固まるオレに呆れたようにアラネアは呆れたように整った眉を若干吊り上げる。

 

「なに、まさか平々凡々と過ごせるとか思ってたわけじゃないでしょうね」

「え、そんなことはない、ですけど……」

 

ズバリ図星ってわけじゃないけど少しは当たっていて語尾がしぼんでいく。

でももっとこう、安全とはまではいかなくともレティが守るって言葉を信じていたからかな。そんなに緊張はなかった。

 

「ここに来たって事は二度とルシスの地を踏めないって思わないとやってけないわよ。まぁ今更逃げるってのも難しいでしょうけど」

「………」

 

オレの弱さを見透かすかのようにアラネアは厳しい視線でオレを射貫く。

 

二度と故郷に戻れない。ルシスに戻ってもオレはやりたいことが見つかっていない。目標なんかも曖昧だ。ただノクトのオマケとして旅に同行してきた。そこからレティの事を知って、皆の強い意思を感じて、ああ、オレも腹決めなきゃなって思ってた。

それがそう簡単に決まるかって言われたら、決まらない。そう、オレは優柔不断だから。でも、そんな自分を受け入れて前に進もうと思った。レティを守りたかったから。

その手段を得られるならオレの居場所はここだ。

 

もし、仮に戻れないことがあっても後悔はしない。だからアラネアが驚くくらい大声を上げた。

 

「オレは逃げません!」

「あら」

 

年上の姉さんアラネアは意外なものを見たように目を瞬かせてオレの反応を伺っている。

 

「オレはレティを助けるって決めてるんです。オレを見くびらないでください!」

 

強きに宣言するオレの様子を観察するように目を細めてしばらく、してからぽつりと言った。

 

「………ふーん、威勢だけは一丁前ね」

「オレはしっかりやります。オレを信頼して連れてきてくれたレティに迷惑かけないように」

「なら見させてもらうわ」

 

ニヤリと意地悪く笑みを浮かべて腕を組んで壁に寄りかかったアラネアは「とりあえじ着替えてきなよ」と案内された先の部屋を顎先で示した。

 

慣れない軍服は見た目ほど窮屈って感じじゃなかった。グレンが着てたの見てたからイメージよりも機能性が重視されているのかも。それにサイズもピッタリだし。

さすがアラネアと着替え終わった後に彼女の見立てを褒めたら、クペが用意したものだと教えられて少し複雑な気分になった。

 

いつの間にオレのスリーサイズはかってたの?

 

それからオレはすぐにアラネアの部下として周囲に溶け込めるよう努力した。レティとは暫く顔を会わせていない。なんせ、こっちに戻ってきてから御祖父さんがすぐに亡くなって慌ただしい日々だったから。オレになんて構ってる余裕すらなかった。それでオレはアラネアの元で働く事になったんだけど、その慣れない日々の間もレティの噂は絶えず宮中内で囁かれていた。

 

無能の女帝。傀儡だとかそれは酷い中傷ばかりでオレは辟易していたし腹立たしさもあった。言い返したくなったりもしたけどアラネアに止められた。

今、アンタが何を言ったって無駄だって。それよりもレティが頼れるくらい強くなれって。

 

説得力ありすぎてオレは黙るしかなかった。まさにその通りだから。オレはアラネアからの無理難題に何とか応えて乗り切って見せた。レティ以上のスパルタぶりだった。死ぬかもと思ったことも両手じゃ足りないくらい。ニフルハイムの周辺は雪山が連なっていてそこでサバイバル演習なんていうのもあったりした。あの時のアラネアの顔、鬼婆そのもの。あ、別に何も言ってません!……ふぅ、ヤバいヤバい。口は災いの元だってクペに何度も注意されたっけ。つい気が緩むとぽろっと言っちゃうんだけど。クペとは何回か顔を会わせてるけどレティとは会えていない。

 

なんせ、向こうは【女帝陛下】だから。そう簡単に会える関係じゃなくなってしまったんだ。ついこの間ようやく謁見できるってことになった時もあのニックスって人が傍にいたしね。その他にも兵の姿がちらほら。レティは魔導兵達は好まないみたいで警護を任せていないみたい。それもそうだ。あれだけ煮え湯を飲ませられた相手達だ。オレだって未だに彼らと接するのは慣れてないし緊張もする。

 

玉座の間にオレは呼び出されて、椅子に座って前を見据えてオレを見る彼女の姿を見た途端ついいつもの調子で名前を呼んで駆け寄ろうとしてしまった。

 

「あ、レティ!」

 

けど鋭い声でオレの動きは止められ、鋭い視線と殺気で咎められた。

 

「控えろ。陛下の御前だ」

「……あ……、も、申し訳ありません」

 

オレは指摘されすぐに後ろに下がって片膝をついて頭を垂れた。そうだった、今のオレの立場はアラネアの部下で簡単に顔を会わせられる間柄じゃなくなったんだ。

寂しい、って思っちゃいけないのかな。

 

何処か叱られた子供みたいにシュンとしてしまうオレにレティの声が静かに室内に響く。

 

「他の者を下がらせて」

「……しかし」

「ニックス」

「……了解しました。ですが私は御傍に付かせていただきます」

 

妥協案と言った感じ?仕方なくレティは数秒間をあけてから「………構わないわ」と呟くように言った。オレとレティとニックスさんだけになった部屋の中で、オレは妙な緊張感から心臓をバクバクさせていた。

 

「プロンプト、立ちなさい」

 

と促されてオレは頷いて立ち上がった。するとそこには女帝の顔ではなくオレが知るレティの笑顔があった。ほっとするようなそんな笑顔だった。

 

「うん。すっかり男らしくなったわね、元気にしてた?」

「うん、その。レティ……もだね」

 

お互い様変わりしてしまった環境に気まずさも曖昧ってぎこちない笑みになってしまう。それでもレティはオレの事を心配してくれている。

 

「御免なさいね。人前ではこんな風に気軽に話せなくなるなんてプロンプトも心細いでしょう?」

「そうでもないよ。アラネアが良くしてくれてるし」

 

実際アラネアはオレが困らないよう配慮してくれているし、アラネアの部下であるビッグスとウェッジとは年上だけどそれなりに仲が良い。ビッグスはちょっかいばかり掛けてくるしウェッジはオレのミスを黙ってカバーしてくれる。ホント頼りになる人達だよ。

 

「ええ、報告で聞いているけど頑張っているみたいね。そういえば雪山で遭難しかけたって?」

「え!なんで知ってるの!?」

「だから報告受けてるって言ったでしょ」

 

レティは可笑しそうに小さく笑いながらそういった。

雪山で遭難したのはオレのサバイバル能力を高める為なんだって。アラネアって見た目通りスパルタで時々鬼教官って感じに怖くなる時がある。でもこれもレティの為にって繋がるなら無駄じゃないって思うんだ。

 

ほんの短い時間だったけど話せて楽しかった。レティは時間が取れる時はまた会いましょうって約束してくれたし。

 

薄暗くて重苦しい雰囲気に押しつぶされそうになる。

 

「……ふぅ…」

 

オレは息を思いっきり吸い込んで気を落ち着かせようとする。今日はとある人物と会う為、アラネアにある場所に連れてこられた。そこは宮廷内の地下にある研究所。つまり、オレに関係する場所、らしい。隣を歩くアラネアがオレの様子を見て声を掛けてきた。

 

「緊張してるようね」

「そりゃ、まぁ」

「喰えないジジイよ。気をつけなさい」

「御忠告ありがとうございまーす」

 

これから会いに行く相手は相当一癖も二癖もある人物らしい。そんな人とオレに一体どんな繋がりが隠されているのか、正直知りたくもない気持ちだ。でも、逃げちゃいけないと自分に叱咤激励を送る。ここで逃げたらレティに付いてきた意味も無くなるんだ。

 

余裕そうに見えて全然余裕すらないオレ。そんなところもアラネアには見透かされてんだろうなと思うのは、彼女の元で一緒に行動している内に学んだことだ。アラネアは凄い。

 

「私、忙しいから後はジジイに任せるから。よろしく~」

「鬼ですか!?」

「泣く子も黙るアラネア様よ」

 

アラネアは最後にポンとオレの肩を軽く叩いて「健闘を祈るわ」と手をヒラヒラさせて戻って行った。自動で開く扉が開いた先にその目的の人物が佇んでいた。オレの存在に気づいたように振り返る。

 

「……よく来たな。プロンプト・アージェンタム」

「……貴方が、喰えないジジイ……あ、違った!スイマセン!?ついっ」

「いや、構わぬ。陛下に言わせれば狸ジジイらしいからな」

 

白髪の威厳ある老人、ヴァーサタイルさんは苦笑しながらオレを出迎えてくれた。

 

「君の勇士を湛えて隠された真実を教えよう。……ただし、どうか最後まで聞いてくれ。それがワシの願いだ」

「……はい…」

 

切願するように悲しみを含んだ声音でそういわれてしまえばオレは頷くしかない。

オレはそのために来たんだから。

ヴァーサタイルさんに案内されて奥の研究所へとオレは意を決して足を踏み入れた。

 

 

オレが一体どんな人間だったのか。

どうやって生まれて、どうやってルシスに渡ったか。事細かに今まで知りたいと思っていた真実をヴァーサタイルさんは教えてくれた。

 

そう、オレは真実を知った。それはオレの出生に関わることで脳が全てを拒否していた。無我夢中で走った。後ろからヴァーサタイルさんが呼び止める声がしたが耳に入らなかった。ただ、真実から目を背けたかったからだ。

 

気が付けばオレはレティの私室に向かっていた。

 

会いたい。会ってどうにかなるわけじゃない。でも会いたい!

 

勿論、そう簡単に入れるわけじゃない。途中途中で警備の軍人に捕まりそうになった。けど見知らぬ女性がオレを助けてくれて、半分パ二くって言葉もまともに話せないぼろ糞に泣いてるオレに優しくしてくれた。レティの所まで手を引いて案内してくれたんだ。

 

助けて欲しくて、苦しくてどうにかなりそうだった。自分で決めた癖にオレは逃げた。

逃げ出してみっともなく好きな人の所へ向かっていた。

 

でもレティは取り乱すオレを優しく迎えてくれた。

 

「プロンプト、大丈夫よ。大丈夫」

 

何度も嗚咽を漏らしながら涙を零すオレを安心させるように背に腕を回して軽く叩いて安心させてくれる。オレはレティに縋りついて泣きまくった。声を上げて泣くなんて、冷静に考えれば恥ずかしい。けど大の男がそんな姿見せてもレティはオレを馬鹿にするようなことはなく、むしろもっと泣いていいと言ってくれた。

 

「プロンプト、よく頑張ったね。真実と向き合うことはとても勇気のいることだと思う。それでも知って君は私の所へ来てくれた。助けを求めてくれた。だから私はこうやって君を安心させてあげられる」

「レティ、……レティ…」

 

オレは嗚咽を漏らしながら何度も彼女の名を呼んだ。彼女にしがみ付くように抱き着いた。今は傍に居て欲しくて。離れたくなくて。何も考えたくなくて。

 

そんな一杯一杯のオレの乱れた心にレティの声はじんわりと温かく広がっていく。

オレの涙で濡れた頬を両手で優しく包み込んで視線を合わせて彼女は微笑んだ。

 

「ありがとう、真実を知ることを決断してくれて。君がこうして私と出会えたことを奇跡だと思っているよ。―――生まれてきてくれて、ありがとう」

 

何もかもが信じられないドツボに嵌っていたオレをその言葉は掬い上げてくれた。

簡単に言える言葉じゃない。全てを知って受け止めているレティだからこそ、言える言葉だ。

 

レティと会えたことが嬉しくて、こうしてオレを抱きしめてくれているレティが好きすぎて。君が傍にいてくれることが嬉しくて。

 

「ありがとう」

 

オレもそう返していた。

 

君に出会えた奇跡が何より幸運だよ。

 

【こうしてオレは自分の出生を知った。】

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