目を背けたかった事実はノクトを確実に追い込んだ。
だがそれだけではなく、親友と信じていたプロンプトの突然の裏切りはノクトの心に思わぬ傷を負わせた。
なんで、なんでだよ!
いくら心の中で葛藤し続けても答えは出ない。
意気消沈しているノクトを引きずって一旦はコルが待機するレスタルムへと帰還した一行。人数の少なくなったレガリアの中は、ぽっかりと空いた穴のようにノクト達の心に隙間風を落とした。皆、口を噤んだまま会話という会話もないままコル達の元へ向かった。
隠れ家であるカエムの岬にて暗い表情のノクト達を最初に出迎えたのはいつにも増して表情が固いコル将軍だった。
「事情は大体把握している。ともかく無事で何よりだ」
「コル将軍……っ、なんだよ、それ」
「他に何がある」
「っ!?コル!」
建前上の労いの言葉を掛けられてもまったく気が晴れる事はなく、むしろどうしようもない苛立ちで八つ当たりしそうになって怒鳴り声を上げかけるノクトだったが、その気配を察してジャレットが先に二人の間に挟み込むように一声掛けた。
「ノクティス様、皆さまお疲れでござましょう。どうぞ、中へお入りください。話はそれからでも遅くはありません」
「ジャレット…」
「さ、ノクティス様」
腕を引かれイグニスに背を押されてはノクトも根負けするしかない。
「ノクト、今は少し休もう」
「~~わかったよ!」
ジャレットの気遣わいによりその場は何とかノクトとコルの衝突は避けられた。グラディオは二人に伴われて部屋に入っていくノクトの背を視線で追いながら、コルに迷惑を掛けたことを詫びた。
「すまない、コル将軍。アイツ気が立ってて自分でもどうしようもねぇんだよ」
「分かっている。それくらいはな」
コルとて今回の件は事前に知っていたとは言えあまり気分いい話ではない。だがノクトのように落ち込む暇などレティは与えてはくれないのだ。ノクトの力になるようレティが求めるならコルは全力でかかるつもりでいる。それが昔、レギスと約束したことに繋がるのだから。
ノクト達はしばし休息をとることにしたが、休む間もなく駆け込むようにやって来たディーノによってレティーシア・エルダーキャプトが帝位に就いたとの情報がもたらされ、来るべき決戦の時が間近に来てしまったのだとノクト達は身震いを覚えた。だがそんな彼らに叱咤激励して励ましたのはほかでもない以前よりも逞しく成長したイリスだった。
「馬鹿じゃないの!?」
開口一番そう言い放ったイリスは遠慮なしに精神的に弱り切ったノクトの胸倉を掴んで強引に引き寄せ怒鳴りつけた。
「レティが演技してるのなんて傍で見てきたノクトなら見飽きてることでしょ?プロンプトだってレティの為に演技に協力しただけじゃない。本気で間に受けて落ち込まないでよ!ノクトはルシスの王様になるんでしょ!?」
「…イリス…」
「王様はノクトしかいないんだよ!シャキンとしてよっ!!」
目の覚めるようなイリスの励ましによりノクトは平手打ちを受けたように目を見開いて驚いた。そうだ、自分だって分かっていたはずだ。自分に銃口を向けるプロンプトの躊躇いない瞳が今でもノクトの脳裏に焼き付いている。
縋る思いで腕を掴んだノクトの手を無造作に振り払ったレティの冷たい瞳も忘れられない。
だがイリスの言う通り、レティの瞳は僅かに潤んでいた。悲しみを堪えるかのように耐えていたのだ。ハッキリと敵対関係にさせるつもりがあった自分たちの間柄。
でなければレティはニフルハイムに戻ることはできないのだ。だからこそ、あのような別れ方をする必要があったのだ。いつもいつもレティはそうなのだ。自分の事を後回しにしてでもノクト達を守ろうとする。
確かにレティの作戦(ニフルハイム帝国滅亡)は実に功利的でルシス復興に欠かすことのできない要因だ。だがそれに伴うレティ自身の危険についてしっかりと安全が保障されているかと言えばそうではない。むしろ、最悪な展開すら予想できてしまう。
幼き頃より帝王学を学んできたノクトだからこそ、レティが行おうとしているのはその真逆な政治なのではと考えている。つまり内側から壊すには当主であるレティが真っ当な政治とは言えない舵取りをするということだ。
容易なことじゃない。ましてやあのレティにそのような器用なことが出来るかどうか怪しいもの。だが現状帝国入するにしても今のノクト達だけ単身突っ込むのは無謀というもの。だからこそ、レティから指示を受けていた通りコルは王都奪還に乗り出すことのした。そのメンバーの中には当然ノクト達も含まれているらしい。
「オレ達は姫の指示通り王都奪還へ向け行動を開始する。ノクト、イグニス、グラディオ、お前達も共に来るよう事前に姫から指示を受けている」
「オレ達もか」
「不満か」
コルの問いにノクトは頭を振って真剣な表情で頷いた。
「いや、行く」
「そうだな。まずはオレ達の地盤をしっかりと固めることが先決だろう」
「だな」
三人は深く頷き合い先行しているリベルト達の後を追うべく新たにコルをレガリアメンバーに加えて、イリス達の見送りを受けながら王都へ向けて出発した。
いつまでも彼女に守られている彼らではない。成長し続けるのは人の証。
新たなニフルハイムの最後の女帝、レティーシアが目指す理想(大切な人の為)の世界。
真実を知ってなお、傍にいることを願うニックス、プロンプト。
親友との再会を夢見る最古の王、アーデン。
終わりを願うヴァーサタイル、シシィ親子。
命の尊さを知りながら対価として重き剣をレティから授けられたレイヴス。
最終的判断はレティに委ね自身は彼女の意思のまま従い続けるアラネア。正当なる主の為に身を粉にして動こうとするゲンティアナ。
ノクトが目指すルシスの王の在り方〈意味〉。
若き王と支えようと動くイグニス、グラディオ。
交わした約束を胸に秘め剣を奮うコル。
親友の為に、自分の為に変わりたいと強く願うイリス。
自分達の国を取り戻す闘いに身を投じるリベルト、クロウら若き戦士達。
友人たちの無事を信じて待つシドニー。若者の輝かしい未来奪還を応援するシド。
昏々とした夢の世界で未だ眠り続ける神薙、ルナフレーナ。
ここから全ては佳境に進む。それぞれの想いが交差した先に待つのは果たしていかなるものか―――。
【これが生きるということ】