レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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我儘女帝の散財事情

まるで映画のワンシーンにでも出てくるような煌びやかで豪華な世界が目の前に広がっている。耐性のない人間ならそのあまりの光景に気後れしてしまいそうになるが、あいにくと彼女はもっぱら見慣れた一部と化しているので驚くこともなければ緊張することもない。

 

「皆、暇人なのね」

 

紳士淑女の皆様に対しての感想がコレである。忙しい身の上恨みがましい視線を送らずにはいられないニフルハイム帝国初の女帝陛下、レティーシア・エルダーキャプト。

 

「姫さ、……レティ様、あまり離れませぬよう」

 

いつもの癖で言ってしまった言葉と途中で終わらせ、コホンをわざとらしく咳をしてから愛称で呼ぶのはもはや友人と言っても良い侍女のシシィである。そんな二人を守るように傍に控えているニックスが自信ありげにシシィに話しかけた。

 

「大丈夫だ。オレがいるんだ」

 

だがシシィの態度は冷ややかだった。

 

「あまり過信しすぎるのもどうかと思いますが」

「……いつもいつも思うがアンタはオレには一言二言厳しいよな」

「気のせいでは?」

 

笑み一つ浮かべずに冷たく斬り捨てるようないい方をするシシィにニックスは苦笑いを浮かべる。そんな対照的な二人を伴ってある目的の為お忍びでオルティシエへと出張中な女帝陛下。どうやってバレずに抜け出してきたかというと親友のクペに身代わりとして自国に残ってもらっているのだ。今頃部屋に閉じこもって優雅にお茶でもしているに違いないだろう。なんせ彼女の得意技声真似はちょっとそっとじゃ見抜かれないほど素晴らしいものなのだ。難点を上げるとすれば語尾に『クポ』がついてしまうことだが些細な事だろう。たまには誰だって『クポ』と語尾に付けたくなる時もあるかもしれない。

 

さて、今なんかと話題の彼女がどうしてこんなところにやって来たかというとぶっちゃけ、お金を作りにやってきたというわけだ。いい具合にばらまかれている噂もそれなりに浸透しつつあるが、まだまだ国外ではそう広まることがなく、その一手も視野に入れつつお忍び中。無論、アコルドの首相の元には一報入れてある。

 

其方の貴重な文化的財産を譲って(金で)差し上げましょうか?というものである。

 

元々ニフルハイム帝国が勢力を伸ばす際、歴代の皇帝たちによって収集あるいは略奪されてきた貴重な歴史的価値の高い美術品やら資料などがごっそりと宮中内にある。長年使われていない部屋の調度品などの中にそういった物も数多く存在しており、初めてその存在を知った時はレティはあまりの宝の持ち腐れに思わず歴代皇帝たちに文句を飛ばしたものだ。『なんてもったいないことを!』と。

 

だがその歴代皇帝達のお陰で国民達に重荷を貸すことなく資金作りが得られることとは喜ばなければならない。だが恩義あるアコルド首相にへこへこしてタダで返すというやり方はどうにもレティの性に合わない。どうせやるならとことん悪役を極めるという意味で、レティは大胆にもその一報を送ったのである。首相も今回の事には驚きを隠せないものの、レティのやることには何か勘付いているのかレティが思っていたよりも高額で買うことを約束してくれた。しかもオルティシエで毎年密かに行われるという闇オークションの詳細なども教えてくれこうやってレティ達はその秘密の闇オークションに参加しているわけである。当然警備も厳重で身分証明などもあったが、そこはアコルド首相の知り合いということですんなりとパス。楽して会場入りを果たすことができた。

 

身分高そうな仮面をつけた老若男女に溢れる会場内でドレスコードに身を包んだレティは目立たぬよう長い銀髪を高く結い上げ黒のピッタリとしたロングドレスを着こみ身元がバレぬよう湊同じように仮面をつけている。シシィも着慣れぬドレスをしっかりと着こんでレティの隣に並ぶ。そんな咲き誇る可憐な花を守る騎士、ニックスは黒のタキシードで注目を集める二人に見惚れる男達にグラス越しに牽制の意味を込めて睨みを利かせる。

シシィは自国を出ることは今回が始めてらしいのでいつも余裕もなくやや緊張した落ち着きなく辺りに視線をやっている。

 

「レティ様、この皆さんがコレクターの方々なのですか?」

「そうよ、シシィ。自分の趣味に糸目はつけないっていう人達ね。だからこそ私達にとっては恰好の相手ってことよ」

 

ひらり扇子を一煽りながらパタンと静かに閉じ、レティは獲物を定めるように目を細めて口角を上げながら扇子で隠す。そう、周囲にいる会場客は全てレティにとって顧客となりうるかもしれない相手なのだ。だがそう簡単に安値で売り飛ばすような真似はしない。出来るだけ高く売りつける必要がある。自分の為の金稼ぎではないのだ。これから先路頭に迷うことがないよう国民達が生きていくための資金作りなのだから。普段よりも力が入っている。

 

「確かに金持ち連中って感じだよな。性格悪そうだが」

「それは偏見というものよ、ニックス」

「かもな。だが率直な感想だ。あー、それにしてもオレは駄目だ、この匂い!」

 

会場内に溢れるご婦人方がつける香水の所為か、ニックスは顔を顰めて臭そうに鼻先を軽く抓んでみせた。レティとシシィは小さく笑って同意するように頷いた。

 

「私もあまりこういった所は苦手です」

「私もよ。でも今回は仕事ってことで我慢してね」

「はい。それは承知しております」

「お姫様方、そろそろ始まりそうな雰囲気だ」

 

ニックスが親指で指し示す方に視線をやると確かにそろそろ時間のようだ。人の流れが変わりつつある。レティは頷いて仮面がずれていないかシシィにチェックしてもらい、しっかりとニックスのエスコートで人の波の紛れて会場へと入った。今回、彼らの反応を見る為にいくつかレティが持ってきた美術品を紛れ込ませている。それのどれもが本物であることは明白だが如何せんレティは美術品の価値にはド素人である。プロではないので相場の値段が分からないのだ。だから下見ということもある。さて、どうやって自分の持ち込み品を闇オークションという場に滑り込ませたかという点については悪役なりの裏技というものを使った。オークション主催者に直接会い直談判というひじょうにシンプルかつ高等な手段である。勿論、手を汚すような真似はしないが人の恐怖心を利用したやり方なのであまり推奨されるものではない。要は脅しである。黙認されている現状、アコルド首相と知り合いと名乗る人物に警戒しないわけがない。すぐに信用されない事は分かっているので魔法で脅して会場ごと大火事にされたくなければ黙って言うことを聞けと強面ニックスに攻めらせれば相手は恐怖に染まった顔でオークション主催者はコクコクと怯えた表情で頷いた。勿論、しっかりと口止めした上で。でなければこうなると見本変わりに傍にあった観葉植物を姿残らず燃やすことで彼が死んでも口を割ることはないだろうと予測される。レティ達が部屋を出る頃には彼は気の毒に青い顔して最高潮に達した恐怖のあまり気絶していたのだから。しっかりと仲介料は払うつもりでいるのでそれでチャラにしてもらうつもりだ。

 

時にはやらなくては実行できない時もある。やむを得ないということで今後もあまり実行されることがないよう願うしかない。

 

さて、暗い会場内に入ると一段高い檀上が目の前に広がり沢山の椅子が並べられている。すでに沢山の客が腰かけていて埋まっていてレティ達は視線を巡らせて最前列がすでに埋まっていることを知り仕方なく一番後部座席に三人並んで座ることにした。独特の緊張感に包まれる中、ついに始まったオークションは出だしから飛び上がりそうな金額が提示されていく。そこら辺にでも転がってそうな花瓶から絵心しれないレティには到底理解できない絵画やら、次々と高額で落札されていきレティは欠伸を噛み殺しながら自分の持ち込んだ品物を今か今かと待っていた。

闇オークションと噂されるくらいの品物も中にはあった。生物も売買の取引にされていて胸糞悪いものを感じたが、今公の場で動くわけにはいかないので黙認することにしたが、気分がいいものではない。

 

「レティ、来たぞ。アレだろ」

「ん?……寝てた」

「レティ様、このような場で居眠りはいけませんわ。お風邪を召してしまいます。もう少しで終わりますから」

 

ニックスに軽く肩を叩かれ、過保護なシシィにあやされレティは眠たい目をこすぐって寝ぼけ眼で壇上に現れた品物を確かめる。涎は今の所垂らしていないので一安心である。時間かかりすぎと愚痴ると同時にどれくらいの値がつくのか期待もしていた。次々と競い合うように高値の声が上がる中、ひと際大きな声が会場内に響いた。

あまりの高値に眠気も一気に吹き飛ぶほどだった。

 

「……あんなのに6憶ギルですって?」

「……はぁ……、物好きもいるのですね」

「どんな金持ちだよ」

 

そのあまりの金額に競い合っていた人々も手が出せないと諦め皆の注目を集めるその人物実に嬉しそうにご満悦の笑みを浮かべて会場内の熱気からか、それも自身の新陳代謝が活発なのか分からないが白いタオルで何度も顔の汗を拭っているのがレティの中で印象に残っていた。はち切れそうなお腹で無理やりタキシードなんぞ着ているものだからボタンが悲鳴を上げている。仕事でなければレティのスパルタ修行魂に火がつきそうな体型の持ち主。だがなんとな~く、レティの勘が告げている。

 

あの人物、只者ではない、と。

 

その後も、レティが出品した物を次々と競り落としていくのはオールズ氏と名乗る人物である。きっと偽名に違いないがあの独特の風貌は一度見れば忘れはしないだろう。これは接触してみる価値はあると考え、レティはオークションが終わるのを見計らってその人物に声掛けするようニックスに頼んだ。ニックスは嫌そうな顔をしたがレティの願いならば仕方ないと諦め、レティ達が別室にて待機する間早々に帰ろうとするオールズ氏を「ちょっと面貸してもらおうか」と紳士らしくひっ捕まえてレティ達の所へ案内した。

 

「ひっ!君達はなんだい!?」

 

首根っこひっ捕まえられて部屋に乱暴に部屋に押し込まれたオールズ氏は怯えた様子で大きな体を縮こまらせ床にへたり込んでいる。椅子に座って二人を出迎えたレティは仮面を取りながらニックスを窘めた。

 

「ニックス、紳士らしく連れて来たんじゃないの?」

「オレなりの紳士なやり方さ」

「もう」

 

ニヤリと意地悪く口角を上げる騎士に対してレティはため息をつかずにはいられなかった。だがそれもすぐに終わりオールズ氏に対して視線を向けると謝罪を述べてから席を勧めた。

 

「乱暴な真似をして申し訳ありません。オールズさん。どうしても貴方と御話をしてみたかったんです。―――『私が出品したものばかり』お気に召されていたものだから」

 

いずれも歴史上滅多に世に出ることがない逸品ばかり目をつけている辺り、かなりの目利きと推察できる。オークション内では作者不明と称しているにも関わらずあの高値。品の価値を理解していると分かる。しかもレティが持ち込んだものばかり目をつけているということは……。事前に情報をリークしていた可能性が高い。

 

「へっ、き、君は…いや、貴方は…!」

 

レティの目立つ容姿に気づいたオールズは青くなっていた顔を興奮したように上気させていく。

 

「レティーシア・エルダーキャプト陛下!!こうしてお会いできるとは思わなかった。ぜひ握手を!」

 

ピクンとニックスの眉が僅かに動き瞬時に武器を出現させいつでも飛び出せる状況の中、オールズは背後の殺気立つニックスに気づかぬまま興奮のあまりレティの方に腕を大きく広げて大股で歩み寄ろうとする。シシィが咄嗟にレティを庇う為前に出ようと動いた。

 

が、それよりも先に動いた者がいた。

 

「っ!?」

「それ以上動かない方がいい。血だまりの中で死にたくなければな」

 

首元にピタリと押し付けられた剣と険呑めいた殺害予告にオールズの顔色はまた青色に戻る。不用意に近づかないようにと一声かけておけば良かったと内心後悔しながらもレティは偉そうに足を組んでみせた。

 

「私の事をよくご存じのようね。オールズさん。ああ、これもきっと偽名でしょうね。――一体どんな方なのか、教えてくださるかしら」

 

名乗るよう促すも相手は一言も発せずにいるらしい。シシィが小さな声で助言してみる。

 

「レティ様、もしかしたら喋りたくとも喋れないのでないのでしょうか」

「それもそうね。ニックス、外してあげて。これからは私の大事なお客様よ、きっと」

 

返答次第によっては客で無くなるかもしれないということをやんわりと含めてニックスに言えば、頼れる騎士はふんと気に入らない様子で鼻を鳴らして答える。

 

「コイツ次第だ」

「それもそうね。ねぇ、オールズさん。とりあえず座って御話しましょうか」

 

ニッコリと微笑んで今度こそ、椅子を勧めればオールズはコクコクと何度も頷いてニックスが剣をしまうと俊敏な動きで椅子に腰かけた。

そこからはレティのペースで話は進んだ。やはり名前は偽名であることとと、ある出版社の社長であること。かなりの財産家である為、金に困りはしないが出版社は彼の生きがいそのものらしい。時々若いハンター相手に仕事を頼んで記事の目玉になるような写真を撮ってきてもらうとか。それとやはりレティの情報はオークション関係者からリークしていたらしい。後で縛り上げるかと物騒な事を真顔で言うニックスを宥めてレティは改めてビルに頼み込んだ。

 

「ビルさん、貴方はよほどの収集家とお見受けいたします。それも好きな物に関してお金に糸目をつけない所がある御様子。それでしたら我が帝国にある物を御譲りすることも難しい話ではありませんが、如何でしょう」

「いや、それはいくら僕でも無理な話が」

 

スケールのデカさにビルは困惑して乗り気ではない雰囲気になる。それはそうだ。いくら価値あるものとは言えその量が倍以上になればとても個人で買える金額ではない。だがレティは別の視点から考えていた。よくあるコレクターツアーなるものを主催するのだ。

 

「それでしたら、貴方くらいの方ならコレクター仲間という方々も大勢知っておられるよう。その中で貴方が信用できるという方に御譲りしても良いと思っております」

 

一人が駄目なら他の人間を同時に懐柔する。その顧客が上客ならば良し、駄目なら次に当たればいいだけの話。一番肝心なのは情報漏洩に関することだがその点はあまり心配することはない。なぜなら問題が発生するのならその記憶ごと消せばいいだけの話。幸い、レティの魔法は一回程度なら二三日の記憶が無くなるだけと実験結果から学んでいる。

 

「……どうしてそこまでして国宝級の宝を売るのですか」

「単純ですよ。遊ぶお金が欲しいからです。家の重鎮共は厳しくて私が国政に関わるのも嫌がるほどですから」

 

そうレティは素気無く答えればビブは心の内を見透かすかのように細い目をもっと細めてレティを見つめた。

 

「僕はこう見えても人を見る目は確かだと思います。……貴女は『噂』とは違う御方だとお見受けします」

「……あら、…噂って?」

 

わざとらしく小首傾げて問えばビルは躊躇った様子もなく答えた。

 

「貴女が傀儡の女帝である、と」

 

実際自分に出来ることなど数少ない。傀儡と言えば傀儡と言えよう。人それぞれどのように噂を受け止めるかは自由な話である。それにいちいち構っていられるほどレティは暇ではないのだ。彼がどう考えようがレティには関係のないこと。レティはのらりくらりとはぐらかした。

 

「……さぁ?どう受け止められようとも私には関係のないことですわ。それで貴方の答えは?私、気が短い方なので答えはできればyes以外聞きたくないわ。それ以外なら一仕事増えてしまうもの」

 

脅す物言いに先ほどとは一転し、自分に不利な状況であるにもかかわらずビルは堂々を言い切った。

 

「僕の仕事を受けていただけたのなら、yesと答えましょう」

「……仕事の依頼ですって?このレティーシア・エルダーキャプトに?フフッ、可笑しな方!」

 

予想外の反応に一瞬素で驚きつい間が開いてしまう。レティは内心しまったと舌打ちしつつ、だが何とか隙を突かれぬよう取り繕った笑みを作る。だがそんな下手な猿芝居もビルには効果がなかったようだ。正当な意見を述べる姿は堂々として見えた。

 

「でなければyesとは言えないですよ。ビジネスを行うにはどんな相手が確かめる事は必要でしょう。お互いに」

「………」

「陛下に対してなんという物言いな!」

 

レティの後ろで控えていたシシィがビルのレティに対する発言にカチンときたらしく、一言物申さずにはいられない所をサッと手で制してレティは苦笑しながらビルを見つめ本音で話しだした。

 

これ以上下手な演技は通じないと思ったからだ。

 

「いいのよ、シシィ。彼を試すような真似をした私が悪いのだから。―――ビルさん、貴方の依頼受けましょう。なるほど、伊達に鋭い観察眼でそれぞれのレベルに合ったハンターたちに仕事を与えているだけはありますね」

「いいえ、それほどでもないですよ。僕のはあくまで趣味の範囲内ですから。―――陛下。貴女のように『大きな志』があるわけでもないですから」

 

謙遜しながらも傀儡(かいらい)を演じて周囲の人間を欺きながら誰よりも国民の未来を守ろうとする国主としてのレティの政治的手腕を褒めつつ、その隠された大望をこの流れで大体推察しているビルこそ、レティにとっては侮れない人物である。

 

何処まで見抜かれているのか、まったく肝が冷えそうになる。

立場はフェアでなくては信頼あえる関係にはなれない。まさにその言葉通りと納得せざるを得ない。

 

舐めてかかっていた自分が実は最初から相手に試されていたとは、やっぱり外の世界には色々な人がいるんだなと改めて勉強させられたレティだった。

 

【それで依頼の内容って?】

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