レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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Last spurt

王都奪還へと乗り出したノクト達がそこで見たモノは凄惨な光景だった。王都襲撃の生々しい傷跡が残る街の中は瓦礫と化した建物や放置された車などで見慣れた王都とは一変しており戸惑う者がほとんどだった。誰もが逃げ出した街中にはシガイが蔓延り中へ侵入しようとするものを拒んでいる。ノクト達が手分けして倒そうにもその数は予想外を上回りとても倒しきれるものではなかった。だがそんな時、以前レティが提案した通りに召喚獣達が颯爽と現れ彼らの危機を救いに現れた。

 

シヴァやイフリート、イクシオンやオーディンと言った名だたる召喚獣達から見慣れぬ三頭の頭を持つ地獄の番犬ケルベロスや以前に世話になったブラザーズ、トンベリさんやジャボテンダー(髭)などなどそうそうたる顔ぶれが一斉にシガイ相手に戦いを挑んであっという間にシガイ達は倒されていく。高レベルの相手でさえ召喚獣達の足元にも及ばず、あっけなく倒されていく。小一時間程度でほぼ王都内のシガイは駆除され召喚獣達は異界へと帰っていった。やはり、レティは自分たちを裏切ってはいなかったことが証明され、ノクトは小躍りしそうな勢いでイグニスやグラディオ達に訴え決意を語った。

 

レティを必ず助けに行くと。

 

そんな中、トンベリさんとジャボテンダー(髭)だけはノクト達の所へ近づいてくると何やら伝えたいことがあるらしくノクトに理解できな言語で話しかけてきた。ノクトはおっかなびっくりしながら対応してみる。

 

「な、なんだよ」

 

だがまだ王の指輪を所持していないノクトにとって召喚獣の言葉は理解できず困惑するしかない。だがトンベリさんは器用にその場に蹲って何処から取り出したのか赤いペンキでアスファルトに、

 

『腹ぺこり也』

 

と達筆な字で書きだすではないか。だがやっぱり理解できない言語なので困っているノクトの元にゲンティアナが突然現れた。

 

「困っているようね」

「あ、ゲンティアナ。相変わらず神出鬼没だな」

「私が通訳してあげましょう。トンベリの言語は王子が思っているよりも複雑なのよ」

「オレには同じにしか聞こえないわ」

 

度肝を抜かれつつもそう言えば、と以前にトンベリさんは召喚獣の中でも年長なので色々と知識豊富なのだとレティが言っていたのを思い出したノクトはしゃがみ込んで観察しつつゲンティアナが訳してくれるのを待った。

 

トンベリさんと付き添いで残ったジャボテンダー(髭)はカクカクと手足を必死に動かしながら何かをゲンティアナに訴えている。

 

「こう言っているわ。お腹と背中がくっつきそうなので何か食べさせろ、と」

「……メシ、食いたいのか?」

 

ノクトはまさかの要求に面食らい、困ったように頭を掻いた。

 

『所望する』

「早く寄越せと言っているわ」

 

赤いペンキでそう書いている様子(まったく読めない)ぐぅ~とトンベリさんの腹が鳴る。ジャボテンダー(髭)も同調するように髭を下げた。心なしかしょぼくれているようにも思えてノクトははぁとため息をついた。

 

「………わかったよ。イグニスに頼んでみる」

 

トンベリさんは瞳を輝かせてぺこりと小さくお辞儀をした。

 

『ありがとう』(ぺこり)

「当たり前だ、だそうよ」

「なんかゲンティアナの言う事間違ってるような気がすんだけど、オレの気のせいか?」

「気のせいよ」

 

平然とそう言うゲンティアナの言葉を信じたノクト。トンベリさんは可愛く頭を下げていたがジャボテンダー(髭)は嬉しそうに辺りに針千本を飛ばそうとしたので慌ててノクトが止めた。

その後、ノクトから事情を説明されたイグニスによってトンベリさん用に簡単ながらイグニスマジックで作られた料理を与えられトンベリさんは満足そうにお腹をポンポンと撫でで気分良くノクト達に見送られながらジャボテンダー(髭)と共に異界へと帰って行った。

 

皆、圧巻され言葉を失う中ついに王城までたどり着くことができた。ガランとした城内に足を踏み入れると戦火の影響か、所々崩れかかったところもあったが比較的綺麗に残されていた。『ヨルゴの軌跡』はここを拠点とするために荷物などの運搬を始めるらしい。

その準備のためイグニスやグラディオは率先して協力し始め、ノクトは手持ち無沙汰な様子でふとレギスの部屋を訪ねることにした。普段本人のプライベートに立ち入ることはなく、単なる思い付きからだった。

 

レギスと母であるアウライアが共に過ごしていた部屋に足を踏み入れるのは何時振りか。幼い頃の記憶を掘り返してみると様々な胸温まる出来事が脳裏に蘇っていく。

サイドテーブルに置いてあった一枚の写真立て。それはノクトが初めて見るもので興味本位でそれを手に取ってみると、ノクトはそれに吸い込まれるように魅入られる。そこには自分とレティ、そしてレギスとアウライアが写った家族写真が飾られていたのだ。

 

まだノクトとレティが四歳頃の写真だろうか。椅子に座る母の膝にレティが、父レギスの腕にはノクトが抱き上げられ柔和な顔立ちで微笑む二人の姿がある。取り戻せない過去が形として残されている事にノクトは悲しさと懐かしさを感じながらそれをまた元の位置に戻した。

 

一通り部屋の中を見回してもう立ち去ろうとノクトは背を向けた。すると、

 

『ガタッ』

 

小さな音が背後から発生しノクトは条件反射で振り向いた。

 

「なんだ?」

 

訝しみながら音がした方に向かうとそこは壁に飾られた一枚の絵画がある。何かの拍子でずれたのか斜めの状態でぶら下がっている。そのずれた部分から何かの一部分が現れノクトは絵画を外してみることにした。すると、

 

「……金庫か」

 

そう、絵画で巧妙に隠されていた隠し金庫があったのだ。四桁の暗証番号を入力して開けるタイプでノクトは好奇心が沸き試しに自分の誕生日と父の誕生日、母の誕生日を入力してみた。だがそのどれもが駄目でノクトは思い付きでレティの本当の誕生日を入れてみた。すると、カチッ!と音を立てて金庫の扉が開いた。

 

「………」

 

素直じゃねーな、とノクトは呆れつつ金庫の中身を確認してみる。

中には一冊の本が中央に置かれているだけでお宝というお宝は見当たらずノクトは「なんだよ、つまんねぇの」とため息をつきその本を持ちだして空っぽになった金庫を閉め両親が共に寝起きしていた大きなベッドへと腰かけた。

 

本の表紙には何も書かれておらず、ノクトは軽くパラパラと捲ってみる。すると羅列された見慣れた字が目に飛び込んでくる。

 

「……え、これって、もしかして親父の日記か?」

 

亡きレギスの日記。わざわざ隠し金庫に隠すほど重要な内容が書かれているのかとノクトは緊張感を感じた。本来であれば読むことも憚られることだが、ノクトは意を決してそれを読んでみる。

 

「…………」

 

そこには信じがたいものが書かれていた。なんと日々語られることのない父の本音が詰まったものだったのだ。

 

『今日、レティが初めて私の事をパパと呼んだ。素晴らしき記念日にしようじゃないかとアウライアに相談したら一蹴された。一応クレイラスに相談したが鼻先で笑われた。納得がいかない』

 

『ノクトとレティが私の絵を描いてくれた。額縁に入れて正面玄関に飾らせるつもりだったが、王の威厳がどうたらとクレイラスに止められた。なぜだ?』

 

『レティがあまりに可愛すぎるので今の内に私の息のかかった婚約者を決めてしまおうかと思ったが、娘に相応しい候補が見つからないのでやめることにした。やめておいて正解だった。嫁に出すにはもったいないほど出来た子だ。……アウライアに行かず後家にさせるつもりかと責められた。一週間は口もきいてもらえず私が謝ってようやっと許しを得た。その間レティとノクトに触れることも許されず禁断症状が出た。……あれは地獄だ。』

 

レティの事、ノクトの事。レティ、レティ、ノクト、ノクト。

隅から隅までびっしりと書き込まれた字には国の事よりも娘と息子を想う一人の父としての想いがびっしりと詰まっていてノクトは文句を言わずにはいられなかった。

 

「……なんだよ、…やっぱ親子じゃん。オレ達、似た者家族だわ。だってさ、家族そろって不器用なんだから」

 

あれだけレティに厳しかったくせにベタ甘しすぎてそのギャップの差に笑えてしまう。

 

ノクトは泣き笑いをして偉大なルシスの王、そしてもっとも敬愛する父の想いが篭った日記を最後まで読み切りそっと閉じまた同じ場所に戻した。

 

レティもレギスの似た所を受け継いでいる。それはノクトも同じこと。だからこそ、自分たちは家族であると言える。誰よりも強く胸を張って言えるのだ。

 

今度こそドアを開けて部屋を出た所で壁に寄りかかるように待っていたイグニスに気づき、こう尋ねた。

 

「策はあるか?十倍返しぐらいの」

 

レティにはしてやられた。だから今度は自分たちがやり返す番。

 

「百倍返しで考えてやる。勿論、完璧に仕上げてみせるさ」

 

頼もしいイグニスの策に敵うものはいない。自然と口角をあげたノクトは軽く手をあげ挨拶をしてその場を立ち去った。

 

 

歴代の王達が鎮座していた場所にノクトはやって来た。全てはここから始まった。父、レギスに呼び出されてあの旅は始まりを迎えたのだ。そこから今までずっと長かった。帰ってくるまで様々な出会いがあり、世界はもっと大きく広く想像以上に冷たくて温かいものだとノクトは知った。

 

一人佇んで玉座を見上げては、父レギスの威厳に満ち溢れた姿を脳裏に思い出させる。

ルシスの王として、一人の父さんとして彼は尊敬に値する人物だった。

 

「親父、行ってくる。レティは、オレ達の家族は、必ず助けてみせるから」

 

固い決意を込めてノクトは声に出して宣言し玉座の間から背を向けて立ち去った。またここに戻って来るときは自分の戴冠式の時であると決めたのだ。

 

ついにノクトは固く決意した。

 

そう、王として為すべきことをする。

その為に今こそ自分の家族を救い出す。今度こそ手放さない為に。

そして、ニフルハイムに終止符を打ち込むのだ。ルシスの王として。それがノクトが王としてやると決めた事。だがノクトはこの時知らずにいた。それがどのような結末を迎えるということなのかを。

 

【それは大切な家族との決別の瞬間でもある】

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