レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

182 / 199
真実は残酷なほど君を傷つける

ノクト達が王都にてしばし待機する中、グラディオとコルは車を飛ばしてある場所へと赴いていた。剣聖ギルガメッシュへの試練を受ける為、ダスカ地方とクレイン地方をわける大峡谷『テルパの爪跡』を眼前に二人は霧が立ち込め、視界が悪く足元も平面ではない険しい谷の中を二人は黙々と歩いていく。コルがそれとなく緊張に震えるグラディオに話題を振った。

 

「ノクトとイグニスにはなんと言って出てきたんだ」

「詳しくは話してねぇよ。今それどころじゃないしな、アイツラは」

「気遣われたくないということか」

 

ずばり図星というわけでグラディオは気まずそうに顔を背けた。

 

「別に……」

「フッ」

 

コルは可笑しそうに笑った。それに反抗するようにグラディオもコルに尋ね返した。

 

「そういうアンタこそ、オレの我儘に付き合っていいのか」

「構わん。やるべき事はやっている」

「ふぅん、……レティの為に、か」

「………」

 

二人はそれっきり黙って歩き続けた。

互いに関連することは今巷で噂が持ちきりであるニフルハイム帝国の若き女帝の事。

 

グラディオなりに今この場に赴いた理由はレティの真意を知りたかったからだ。絶対に大きな何かを隠しているに違いない。そう考えて自分なりに昔の資料や人づてに話を訊いて回り、模索した結果、剣聖ギルガメッシュの試練を受けることを思いつく。グラディオは生半可な気持ちで来ているわけじゃない。コルにも何度として止められたことか。それでもグラディオは意見を変える事はなかった。

 

手段がコレ以外に残っていないのなら選ぶ余地はない。

グラディオは逸る気持ちを何とか抑えながら濃くなっていく霧の中を登った。

 

試練を望む者をより緊張感に震えさせるような空気の冷たさとゴツゴツとしたむき出しの広くはない岩壁の中をグラディオは自分に叱咤しながら進んだ。

 

(覚悟はいいな、もう戻れねぇぞ)

 

左右に灯りがある中、ここに足を踏み入れた時点でコルのサポートを期待してはいけないつもりで挑まなければきっと剣聖ギルガメッシュは相手にもしないだろうなと予感しながら足を進めると、段々と下へ下へと道は降りていき大きく開けた場所にたどり着く。そこにはまだ先が見えていたが、一瞬足がすくんでしまうような光景がそこには広がっていた。いつの時代の人間だろうか、鎧を身に纏い死してなおこの地に呪縛される剣士たちがグラディオとコルに襲い掛かって来たのだ。

 

「来るぞ」

「っ!」

 

冷静に対処して動くコルに対して一歩出遅れてしまうグラディオは震えを追い払い、大剣を構えて迎え撃つ。多少不意打ちのような所はあったものの倒せない相手ではなく、グラディオとコルはズンズンと奥へと向かう。幾度と繰り返される戦闘の中、コルはグラディオにこう説明した。彼らはルシス兵であり今も忠義に尽くして試練を受ける者を迎え撃っていると。グラディオはなるほどな、と納得し先代達の胸を借りるつもりで応戦した。

 

「アンタらにとっちゃ、オレみたいなのは気に入らねぇ対象かもしれねぇな」

「………」

 

今まで試練を受けてきた者は皆、王の為に望んできた者かもしれない。だがグラディオは王の為ではなく、レティの為に赴いている。その不純な理由を彼らは受け入れてはくれないかもしれないという不安からグラディオはそんな言葉を呟いた。コルはそれに返すことはなく、黙って刀を振るった。

 

 

急斜面で流れる川に身を滑らせて落ちた先で大きな水場で二人を待ち受けていたのは巨大な体躯のプルンオルムだった。水柱を上げて登場したモンスターに度肝抜かれたがそれも一瞬の事。先ほどよりも敵の動きを予測しながらのグラディオの容赦ない叩き割るような強力な斬り技とコルのスピードを生かした連携技でプルンオルムは5分と立たずしてその巨体を水場に倒れ伏した。勢いで跳ね返る水を腕で制しながらグラディオは軽くため息をつく。

 

(まだまだ奥は深いってか)

 

そんなグラディオの周囲で異変が起こった。空気がガラリと変化したのだ。皮膚に容赦なく突き刺さる殺気を全身に感じ取りグラディオはすぐに警戒態勢に入る。

 

「これは!?」

 

まるで強敵を目の前にしたかのような身が震えるような雰囲気の中、周囲を確認すればコルの姿が消えてなくなっておりグラディオはなんか来たなと冷や汗を垂らす。案の定、ある方向から紫色の炎を纏った何かが姿を現した。右手に長剣を持ち禍々しい気配を周囲に放つ左腕を失った鎧姿の剣士だった。両目を赤く光らせて甲冑の音を一歩一歩響かせてグラディオへ歩み寄ってきた。一切隙を与えぬその姿にグラディオは心内でスゲェの来たぜと思いつつ剣を構えると剣士は異質な声でグラディオに問いかけた。

 

『王の盾を名乗りに来たか』

「アンタが―――剣聖ギルガメッシュ」

『試練に何を望む。王の盾たる証か』

 

グラディオは鼻先で笑い飛ばし、眼光鋭く睨み付けた。

 

「そんなもの、オレ自身の力で手にするさ。誰が決めるでもない、これはオレの問題だからな。そんなことはどうでもいい。……オレが欲しいのは、ルシス王家に稀に産まれる特異的な力を持つ王女の話だ。アンタは知っているんだろう。王女に隠された謎を!」

 

グラディオなりに隠された資料を基に歴史を辿って分かった事。王家に稀に産まれるという王女は何かしら特異的な体質を持っていたという。それゆえにその存在は公されず幽閉されるように隔離されたりしていた。自由の権利され奪われる憐れな王女。なぜそんな力を持って産まれてくるのか。なぜそれが王女である必要があるのか。全ての謎は初代の王の頃から始まっているのではないかとの推測に行きついた。

剣士はグラディオの叫びに愉快と言わんばかりに声を震わせた。

 

『これは面白いことを言う。お前は王の為ではなく、呪われた王女の為に来たと?』

「呪われた?どういうことだ!」

 

聞き捨てならぬとグラディオは声を荒げた。だが剣聖ギルガメッシュは、

 

『それは私から勝利を奪ってから尋ねることだ』

 

と言うと長剣ではなく別の剣に武器を切り替えてグラディオに容赦なく襲い掛かった。迎え撃つグラディオは怯むことなく猛然と駆けだす。勝つことでレティを知る手がかりを得られるのなら必ず勝利して見せるとの意気込みで。

一対一という状況でなおかつ相手は今までいくつもの試練相手を潰してきた剣聖ギルガメッシュというグラディオにとっては、劣勢を強いられる強敵。やはりその経験と力の差は歴然であり、グラディオは何度と地に膝を着いたが諦めることはなく、その様は剣聖ギルガメッシュの興味を引いた。

 

『ほう、喰いついてくるか。不純な理由で試練を受けし者なりに矜持があるか』

「違う!オレは、オレなりにアイツを理解したいからだ!兄貴っぽい役回りだとかお目付け役とかそんなもん全部捨ててレティを助けてやりたい!オレのちっぽけな矜持なんてなんの役にもたちゃしねーよ」

『………ならば進め、己が道を進む者よ。食らいついて最後まで来るがいい』

 

剣聖ギルガメッシュはそう言い残して溶け込むように消えていった。グラディオは疲労のあまり大剣を地面に突き刺して地面に腰を落とし荒い息を肩で繰り返した。

さすがは剣聖ギルガメッシュ、ハンパねーなと力の差をしっかりと感じ取っていたが、それで引き下がるほどグラディオは諦めてはいなかった。むしろ、強敵を前にして武者震いにより口元には笑みが浮かんでいた。

 

「行ってやるよ、アンタの望みのままにな」

 

グラディオの瞳に宿る不屈の闘志は衰えず轟轟と燃え盛る炎のように勢いはさらに増していた。

 

コルは確かに若かった。若いからこそ無茶も利いた。不死将軍という名に相応しい身であろうと努力もした。だが昔からのしきたりに抗おうとはしなかった。

なぜ、ミラ王女が特別な存在である事に違和感を覚えなかったのか。

なぜ、その力の源に何かが隠されていると知ろうとしなかったのか。

 

古くから言い伝えられてきたことを鵜呑みにし、そのまま信じ切っていたからこそもしかしたらミラ王女は死ぬ運命だったのではないかと、今更ながら考えてしまう。剣聖ギルガメッシュと一線を交えたグラディオと合流し、一旦は休憩を取る為にたき火ができる場所で暖を取った二人。グラディオは大好きなカップヌードルを食べ終わった後少し寝ると地面に横になってひと眠りしている。とても剣聖ギルガメッシュの試練を受けている最中とは思えないその豪胆な姿に呆気に取られつつも、王都を出発した頃よりも確実に成長している頼もしい姿にコルはつい口元が緩ませる。

 

自分は確かに強さを求めて試練を受けた。そして奴の左腕を斬り落とし試練を乗り越えた。だがそれは結局は自己の強さを示したいがためであり王の為とは言えず、自分の中で長年消化しきれずにいた。だが自分よりももっと他の理由で試練に挑む者が現れるとは考えもしなかった。

 

忘れ去られた歴史を、繰り返されてきたルシスの王女に迫る謎を解き明かしレティの助けになりたいと熱願するグラディオの背はコルに眩しく見えた。

王の盾としてその理由は決して許されるものではなく、歴代の王の盾達にしてみれば不純な動機と罵声を浴びせられてもおかしくはない。

だが理由などほんの些細な切欠でしかないのではないかと、コルは今に至って考える。

王の盾に相応しいお手本となるべき存在など、他人からみた評価でしかない。

本人とその周囲が認めていればそれは誰であれ王の盾。歴史に名を刻むほどの存在になりたいと願うのであれば偉大な功績を残せばいい。

 

だがグラディオが願うのはそんな偉大な王に傅く王の盾ではない。

自分の意思で王の盾であることを望み、大切な者を守る知恵を身につけその者を手助けしたいという極普通な願いを持った王の盾だ。

 

「……馬鹿正直とも言うべき、か」

 

かつての自分のように真っすぐに信じて疑わず折れる事がない若さゆえの行い。

いびきをかいて眠るグラディオの隣でコルは昔の自分とグラディオとを重ねて思い出してはきっと、グラディオの方が自分よりも大物だなと苦笑せずにはいられなかった。

 

【きっとそれは新たな風の予感だろう】

 

コルからそれなりのアドバイスを受けてグラディオは憶することなく前へ前へと進んだ。地の底へと繋がっているのではないかと錯覚してしまうくらいに深く道を進めるとグラディオに新たな試練が待ち受けうけていた。それは試練の間を一人でクリアするというもの。

 

「ここから先は一人で挑まねばならん。覚悟はいいか」

 

コルからの静かな問いにグラディオはバシッ!と気合を入れて拳を掌に打ち付けながら、

 

「ああ」

 

と力強く頷いた。コルから「では行って来い」と背中を押されグラディオは試練の間へと足を踏み入れた。そこで待ち受けていた者は大量のスケルトンを従えたネルガルという英霊だった。グラディオは相手にとって不足なし!と勇猛果敢に挑み、次なる試練の間、エンキドゥとの戦い、そして最後の試練の間でのフンババとの戦闘でも無事に勝利を収めることができた。道中の休憩がてら、昔この地を訪れた時のコルの話を訊くことでグラディオは当時のコルがどのような気持ちでこの試練を挑んだのか知りたくなった。理由がどうであれ、挑もうとするにはそれなりの覚悟がなくては無理だろうと思ったからだ。

だがコルの口から語られる当時の若き姿は今ととても正反対なくらい無鉄砲であるという印象を受けた。それこそ、ひたすら突き進むレティのように。グラディオは思ったまま言葉にした。

 

「なんか、レティと似てるな」

「……オレが?」

 

意外にもコルにはグラディオの言葉は意表を突くものだった。目を見開いて驚くコルにグラディオは面白いものを見たと思いながら理由を説明した。

 

「ああ。親父に止められても耳貸さなかったんだろ?レティだってアンタの言うこと右から左に聞き流してたからよ。似てるもんだと思ったくらいだが」

「………そうか。いや、そのような事は初めて言われた」

「小さい時からよく振り回されてたもんな、アンタも、オレも。正直に言えば、面倒だとか思わかったのか?」

「………そのような事は考えた事はない。……ただ元気すぎて怪我をしないかと心配だったがな」

 

小さい頃から家庭教師から逃げるたびに何処かに隠れたりしてはそのたびにコルが捜索の手に駆り出されていて大概最初に見つけるのはコルだった。影でコルは【姫様ハンター】なる称号が侍女たちによって面白可笑しく付けられていたとか。いつも小脇に抱えられてコルにより確保されたレティは毎回同じようにヘソまげて仏頂面になりそのたびにノクトやグラディオがレティの機嫌を浮上させるのに躍起になったりと今ではいい思い出話だ。

姫という役には収まりきれないほど活発だった。だからこそもしもの世界を想像してみたくなる。

 

「それは言えてるわ。レティがもしノクトみたいに学校なんか通ってたりしたらきっと猫被らずに餓鬼大将みたいな感じになってたかもな。んでもって学校で何かあるたびに陛下が呼ばれてたりして」

「否定はできん」

 

IFのたとえ話をして二人はしばし談笑に浸った。ありえないだろう話だったとしても、暗い雰囲気から脱却するには十分すぎる話題なのだから。

 

 

ついに剣聖ギルガメッシュが待ち受ける場へと辿り着いたグラディオとコル。

 

「必ず帰ってこい、グラディオ」

「おう」

 

声援を受けてグラディオは余裕そうに手をヒラヒラさせながらコルに背を向けて歩き出した。待ち受けるは初代王に仕えていた最強の王の盾。その気迫と佇まいに以前のグラディオなら地に屈していたかもしれない。だが今のグラディオならば怖気ずに堂々と対峙できる。強くなったのだ。成長する心と共に。王の盾として振舞う以上に大切な者を守るという気概を胸に抱き、グラディオは大剣を肩に担いで

 

「来たぜ、剣聖ギルガメッシュ」

 

と声を張り上げた。背を向けて佇んでいたギルガメッシュがゆっくりと振り返る。

 

『覚悟を持ってお前はここに来た。そう解釈していいのか』

 

そう静かに最後の問いを投げかけた。文字通り、これが最後の情けとなろう。この先に待ちつけるのはどちらかが地に伏す時のみ。グラディオは改めて自分の確固たる想いを叫んだ。

 

どれだけレティに負担を負わせていたのか。知らずにいた己を殴りたい衝動に陥るほどに以前の自分達はレティを頼りすぎていた。イグニスの怪我の件もその内の一つだ。自分達では治せずともレティなら何とかできるはずとの期待感から卑怯な手を使ってレティを呼び寄せた。結果、確かにイグニスは再び両目に光を宿すことができたが、それは女性であるレティにって身を斬られるよりも辛い責務を負わせることになってしまった。

 

あの時の、イグニスの部屋から出てきた時のひどく傷ついたレティの瞳を生涯グラディオは忘れることはない。自分達はどれだけ頼りすぎていたのか。自分よりも年下の妹みたいな娘に重圧を背負わせ本人の隠された気持ちを理解することなく期待ばかり寄せる。

 

どれだけ苦しい想いをしただろうか。どれだけ切なかっただろうか。

 

「……オレは、オレ達はあれだけレティと共に同じ時間を過ごしていた癖に、アイツの苦しみを悲しみを抱えているデッカイもんを知らずにいた。それじゃあオレはアイツからの期待に満足して応えられねぇ。アイツ自身が抱えているものを知りたい。知ってオレなりに手を貸してやりたい」

 

グラディオの意思を確認した上でギルガメッシュはスラリとした剣を構えた。

 

『ならば刃を抜け。お前の覚悟、見定めさせてもらおう』

「上等!」

 

今まで培ってきた全てをぶつける時がきた。グラディオは全力で剣聖ギルガメッシュに挑みかかった。

 

 

力押しではなく相手の流れを読みつつその逆手を取る動きでグラディオは剣聖ギルガメッシュに勝つことが出来た。完敗と言わんばかりに片膝ついていたギルガメッシュはゆっくりと立ち上がり、勝者であるグラディオの望み通り彼が知る事実を語りだした。

 

『………私が知る事は少ない。心して聞くがいい』

「…………」

 

グラディオは固唾を呑んでギルガメッシュの話に耳を傾ける。

 

『遥か神話の時代、創世の神たる八神により世界は成り立ちを得た』

「八神?……一体どれだけ歴史は歪められてんだか、先人達の考えは分からねぇな」

 

グラディオは吐き捨てるようにそう顔を歪めて言った。

一体先代達は何を思って事実を湾曲させたのか。そうしなければならない理由でもあったのか。今となってはどうでもいいことだとグラディオは頭を振って「続きを頼む」と先を促した。ギルガメッシュは頷き、言葉を続けた。

 

『剣神バハムートはこのような予言を残したという。ルシス王家に生まれし白銀の王女、その清らかな御魂こそ、ヴァルハラの玉座へ還るに相応しき身となる。とな』

「ヴァルハラ?」

 

『今の時代の王にはその伝承伝わることはないようだな。だからこそ、お前がここにいるということだが。―――このような身になってこそ初めて分かる。ヴァルハラ、我ら人間が最終的に行きつく場所。母なる死の女神、エトロが住まう世界であり、【混沌】に満ち溢れし楽園』

「死の女神、エトロ……」

 

ルシスが信仰する死の女神、エトロ。それはおとぎ話でも表舞台に出てくることはない女神の名。今ではその存在を信じている者は数少ないだろう。

 

『今ヴァルハラにはエトロがおらず、混沌が徐々にこの世にあふれ出ようとしている。その証拠にシガイは世界へ蔓延しつつある。そして同時に星の病も進行している。これがどういうことか、理解できるか』

 

ギルガメッシュの問いかけにグラディオなりに順々に話をまとめる。

 

「………ヴァルハラには統治するはずのエトロがいない。……シガイ、星の病、ルシス王家の白銀の王女、ヴァルハラの、玉座……、ま、さか……」

 

全て繋がっていないように見えて、実際は一本の線で繋がっていた。

その事実にグラディオは顔を強張らせた。

 

『歴代の王達が稀に産まれし白銀の王女を鳥籠に閉じ込めようとしたのはなぜか。それは、特別な存在であると知っていたからだ。死したとしても永遠に同じ容姿で再び現れ続ける力ある王女。その魂こそが選ばれていたからだ』

 

選ばれていることを前提で産まれてくる。それは仕組まれていることと同じ事。

それが示す真実は、ただ一つ。

 

「………レティが、……死の女神、エトロだからだと?」

 

あの破天荒娘が、死の女神エトロ。

とても信じがたい話だ。状況が状況なら間に受けない話。だが今グラディオの目の前にいるのは剣聖ギルガメッシュ。生き証人ともいうべき相手にそれが嘘ではないと事実を突きつけられる。くらりと眩暈を感じグラディオは額に手を当てがった。だが踏ん張りをきかせて耐えた。まだ話は終わっちゃいないのだ。

 

『彼女らは数奇な運命を辿る。その命短き時もあれば長き時もある。だがそのいずれも幸福に満ちた人生とは言えずに終わる。それを繰り返し続ける。再びヴァルハラに戻るまで。彼女達は繰り返し続けるのだ。そうなるよう定められている』

「なんだよ、それ。なんなんだよ!?報われなさすぎだろっ」

 

まるでそれでは選ばれ続けるまで同じことを何度も強要させられているのと同じ事ではないか。グラディオは激高し、納得いかないと叫ぶ。だがギルガメッシュは『それが彼女らの運命だ』とグラディオに言い聞かせる。

 

「じゃあ、レティも同じ道を辿るってか?……冗談きついぜ!」

『………もし、仮に自分の使命に気づけたとしたら、それは新たな女神誕生に繋がるだろう』

 

その仮説が正しければ全ての謎は繋がる。レティの無謀ぶりな作戦の裏に隠された事実。最終目的は……。

 

「レティはヴァルハラに還るつもりでいるってことか!?」

『もし、気づいて受け入れているのならな。女神の力は人の身には強大すぎる。いずれ飲み込まれるか、力に押しつぶされるか。いずれにせよ、人間のままではいられまい』

 

逃げることも隠れることも許されず、受け入れる前提で残された時間をレティはノクト達の為に使おうとしている。自分の事など顧みずに。

 

「………レティ……お前はってバカ娘はっ!」

 

ダンっ!

 

行き場のない怒りを抑えられず、グラディオはその場に膝まづいて地面に拳を叩きいれた。

 

なんでもかんでも背負って結局は自己犠牲と締めくくるのはレティの悪い癖だ。

逃れられない道をレティになり唇噛みしめる想いで堪えて受け入れ、それでも大切な者の未来の為に突き進む。それがレティの美徳とであると言ってしまえば確かにそうだろう。だがグラディオにしてみれば胸糞悪いものでしかない。相談できる距離にいるのに胸の内を曝け出すことを恐れている。嫌われてしまうことを恐れ、逃げている。それは諦めていることと同じではないか。

 

「オレは、諦めねぇぞ。諦めて堪るか!」

 

確かに見送ると決めた。レティの決意を無駄にしないために。だがそんな事実が隠されていると知っちゃあ黙って見過ごすことなどできるものか。

 

グラディオはギルガメッシュからかつて自分の腕を斬り落とした男が使っていたという剣を受け取りコルの元へ急ぎ戻った。まだ時間はある、何か手立てがあるはずだと信じて。

 

だがグラディオの想いとは裏腹に事態は大きく世界を巻き込みすぎていた。人の意思が及ばぬ神の掌の上で結局は踊らされ続けることしかできないことを、グラディオはレティの死と直面してから思い知ることになる。そしてその出来事はグラディオの琴線に触れ一生消えることのない傷跡を残すのだ。

 

【やるせない想い】

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。