レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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後の祭り

『急げ、まだ間に合うはずだ!』

 

何を急がせるんだ。何が間に合うんだ。

生まれる疑問など一瞬にして脳内から消え去る。

 

血濡れの剣を床に転がして力なく座り込むレイヴスに急かされ、ノクト達は足早に地下へと進む。

 

嫌な予感がする。レイヴスが足場に放り投げていた剣に付着していた、あの血は一体誰のものなのか。そう、尋ねるよりも先にノクトはレイヴスの脇を通り抜けていた。

 

早く!早く!

自分を急かす一方、この先に待ち受けている現実が恐ろしくてたまらない。予想が的中していることをノクトは否定したかった。

誰もが祈るような気持ちで最下層へのエレベーターのドカドカと乗り込み、永遠とも勝る体感時間を経てようやく扉を開いて薄暗い最下層まで降りたノクト達は延々と続くような廊下を走る。

 

 

『まだ間に合うはずだ』

 

レイヴスが声を張り上げて叫んだその意味は何を示している。

この先にはプロンプト曰くクリスタルが安置されている格納庫らしい。その先にレティがいる。だがどうしてまだ間に合うのだとレイヴスは叫んだ。

血濡れの剣と急かすレイヴス。そして向かう場所がクリスタルへの通路。点々と続く小さな血の跡。それが誰のものなのか想像すらしたくない。いや、絶対信じたくない!

だが結びたくない接点を結び合わせた時、最悪の結果しか頭をよぎらないのだ。

 

急かすレイヴス。放り投げられた血濡れの剣。

 

二つの感情にせめぎあうノクトはただただ息を切らして走るだけだ。

 

切迫した状況に息が上がりそうになる。それでもノクトは走り続けた。勿論仲間たちも。

ノクト達が何とかたどり着いた時には、元は白のドレスが半分以上血に染まったドレスを着たレティがクリスタルの中へ吸い込まれる瞬間だった。

 

「レティ!!」

 

声を張り上げノクトは必死の形相で朗らかに微笑むレティへと精一杯に腕を伸ばす。

 

これが最後だなんて嫌だ!

 

だがその手は届かなかった。レティは唇だけを動かして何かを伝えてきた。

 

『        』

 

だがノクトは嫌だ嫌だ!と駄々っ子のように首を振る。

 

行かないでくれ!

 

そう声を出そうにも、ノクトは声に出せなかった。間に合わなかった。

そんなノクトにレティは満足そうに微笑んでゆっくりと瞼を下すと同時にクリスタルはまばゆい光を放ち、ノクト達の視界を奪う。

 

「うっ!」

「なんだ!?」

 

驚愕するノクト達の前には信じがたい光景があった。

 

「……うそ、だろ」

 

そう呟きながらノクトは立っていることもできずに膝から力が抜け立っていられなくなりその場にへたり込む。

 

「……こんなことが、…」

「……」

「レティ……、なんでっ、さ!」

 

皆がショックを隠しきれず呆然と立ち尽くすノクト達の前には先ほどとは形を変化させた宝石のようなクリスタルの中へ収まっているレティの姿があった。

血濡れに染まったはずのドレスは汚れが綺麗さっぱりと落とされ、その眠る姿は清廉されており、一つの芸術作品と表現してもおかしくはなく、この世に一切の未練を感じさせないほど美しいものだった。声を出すこともできないノクト達の前でクリスタルはスゥゥと淡い光を放って薄く消えていく。

 

「あ!い、行くなレティ!!」

 

縋るようにクリスタルへと這いずってノクトは追いかけようとした。だがイグニスがノクトの背に覆いかぶさり動きを止める。

 

「待て!危険だノクト!」

「離せよぉっ!」

 

振りほどこうと暴れるノクトはまともな判断すらできずにいた。ただ、レティに会えなくなる。そのことだけは本能で理解していた。たから必死だった。その姿を見てアーデンは今までの復讐の氷が完全に溶けて行くのを感じた。ルシス王女の最も大切なものを頂くようなものなのだ。これで満足したのかもしれないと考え、

 

「さて、オレもこれでようやくお役御免だ」

 

と満身創痍なノクト達に最後の挨拶をした。

 

「アーデン!!お前っぇぇ」

 

イグニスを完全に振りほどきファントムソードを一人出現させて激昂するノクトに対してアーデンはあっさりと口元に笑みを浮かべて別れの挨拶をした。

 

「ノクト、じゃあね」

 

それは今まで王家に執着してきた自分との別れでもあった。アーデンの体は徐々に光を浴びていく。レティがアーデンを呼んでいるのだ。深く、深く、眠れと誘っている。

 

瞼をゆっくりと閉じて最後に思い起こせるのは、たった一人の親友アルファルドのこと。

 

(アル、オレもようやく彼方に行けそうな目途がついたよ。少し、時間が掛かりすぎたけど、また会えるといいなぁ―――)

 

アーデンは満足そうな顔をして光に包まれてこの世から完全に消え去った。静寂を取り戻した場にて、取り残されたノクト達。そこに良く通る声が響いた。

 

「ルシスの王」

「お前は……!」

 

思い出したかのようにグラディオが大剣を出現させてノクト達の前にさっと飛び出てその男を警戒する。ノクト達の前に現れたのは帝国の軍服を着たニックス・ウリックだった。

 

「この帝国はまもなく滅びる。その前にとっとと逃げることだ」

「どういうことだ!?」

 

イグニスが信じられないと声を荒げ逆にニックスは淡々と答える。

 

「簡単なことだ。ここにメテオを落とす」

「「「!?」」」

 

ノクト達に戦慄が走った。あの、メテオを落とす?

尋常ではないことだ。レティでさえ冗談で済ませていたものを実行しようというのか。

しかもこの男にそれが可能だということなのか。魔法を操れるノクトでさえ高位魔法は容易なことではないはずなのに。

 

「何だと、正気か……?」

 

まともな思考じゃないとイグニスは困惑した様子で呟いた。それにニックスは平然と答えてみせる。

 

「あいにくと正気だ。いうなればこれはレティの最後の願いだ」

「レティ、の?」

 

それがどうしてメテオを落とす事に繋がるのか、ノクト達は理解できなかった。

だからこそ、ニックスは分からせる為に説明をした。でなければレティの想いを受け止める事はできないだろうと判断したからだ。本当ならさっさとアラネアの元へ送りクリスタルの元へ馳せ参じたい所をぐっと堪えて我慢をする。

 

「この国はもう必要ない。むしろ過去の遺物として残るべきものではない、とな。魔導兵らも静かに寝かせてやるべきとの判断だ。だから滅ぼす。すでに他の人間は安全な場所に転移させた。後はお前らだけだ」

 

ノクトは頭を抱えて取り乱した様子で叫ぶ。

 

「でもレティが、レティが!!」

「……彼女はもうこの世界にはいない」

「!?」

 

容赦なく現実の刃を混乱し取り乱すノクトへと突き刺す。

 

「ルシスの王。詳細はアラネアにでも聞け。お前がやるべき役割はもう終わった」

「そ、んな……そんな…!!」

 

もう質問タイムは終わりだとニックスは顔を横に振り、

 

「さよならだ」

 

そう言ってニックスはノクト達へ掌を翳して転移魔法を唱えた。

 

「まっ」

 

伸ばしかけた手はニックスに届かず光の速さでノクト達はアラネアが所有する飛空艇に転移させられ帝国から強制的に脱出させられる事になる。

強制転移によりアラネアの飛空艇へ迎えられたノクト達は自分たちに一体何が起こったのかすぐに理解することができなかった。だからこそ、彼女、アラネアは窓辺から視線を向け

 

「ルシスの王、最後をしっかりと見届けな。アンタにはその義務がある」

 

とノクトにニフルハイム帝国の終わりを見届けろと伝えた。

のろのろとノクトは言われるまま、プロンプトの手助けを借りて窓辺から誰もいなくなった暗く灯りもない帝国を見下ろした。

 

先ほどまで自分たちがいた場所を遥か上空から見下ろしている。不可思議な話だが、全て今先ほど実体験したこと。全てが真実であり、これがレティの願いなのだ。

 

「……レティっ……!」

 

天から煌々と燃える巨大な破壊の星が降り注ぎ、大地を大きく揺るがしながらついにニフルハイム帝国はこの日をもって滅亡を迎えた。一つの世紀末が終わった日として後世に記録されることになる。

 

【ニルフハイム帝国滅亡】

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