空は泣き、大地は悲しみに震え、風は嘆きの声を運ぶ。
ニフルハイム帝国最後の女帝、レティーシア・エルダーキャプトの訃報は瞬く間にラジオで全世界へと駆け巡った。大いに喜びを露わに者、悲しみに暮れる者、戸惑う者、世界の行く末を案じる者。様々な人たちが様々な想いを抱きながら、世界の闇が払われることを心から願った。そして、ついに世界は光を再び取り戻せた。
数少ない人々の深い悲しみに気づかないまま、世界の人々から喜びの声が上がる。
救世主となったルシスの新たな王とその王を支える神薙。この二人がこれから世界の新たな光を灯す象徴となるだろう。全ては彼女の思惑通りに事が進む、予定だった。
そう、あくまでも予定。残された人たちの感情がその後の予定にどう影響を与えるか、その計算を彼女はミスしていた。彼ら、彼女たちの心を計算するまでには至っていなかった。新たなルシスの王の戴冠式にはルシスを追われた国民達、いや全世界の人々からたくさんのお祝いムードの中盛大に行われた。城前に溢れかえる人々は期待に胸膨らませて若き王の誕生を心から喜び祝福し祝いの花束を投げた。
喧騒賑わう城外とは打って変わりルシス王が鎮座する玉座の間には、極限られた信頼できる仲間達が新たな王の誕生瞬間に立ち会っていた。
「………」
ゆっくりと一段一段踏みしめるように階段を上っていくノクトを見守る、新たな王の盾であるイグニス、グラディオ、プロンプト。古参であるが新たな王に誓いを立てしコル将軍にその部下となったリベルト、クロウにグレン、ユリ。ヨルゴの軌跡からの代表としてヴォルフラムとレギスの旧友シド。普段ならば立ち入ることもできない場所だが共に参加して欲しいとのノクトの願いで立ち会っているイリス、シドニー、ジャレッドにやや緊張した素振りのタルコット。そして、無事に旧帝国から独立宣言を果たしたテネブラエのレイヴスとルナフレーナ。
皆、共に苦楽を共にしたノクトにとって大切な仲間達である。そんな仲間達に感謝しつつノクトは、玉座の前にたどり着き、ゆっくりと皆の視線が注がれる中、玉座に腰かけた。かつて父、レギスが見慣れていたであろう景色が今、ノクトの前に広がっている。
ツンと鼻の奥が痛くなった。様々な感情が一気にノクトの胸を押しつぶそうとする。
失った者は二度と戻らない。過去に戻れない代わりに得られた掛け替えのない未来がある。
瞼の裏がカァと熱くなってノクトはぎゅっと瞼を閉じ、しばらく耐えるように唇を真一文字に引き締めた。仲間達はノクトの言葉をただじっと待った。しばしの静寂が玉座の間を支配すし、ノクトは口を開いた。
「皆」
たった一言だがそれは仲間たちの胸に浸透していくものだった。
ノクトは、王としてありながら今にも泣きそうな笑みを浮かべ想いを込めて礼を伝えた。
「ありがと、な」
今までも、これからも感謝を込めて。
そして、今この場にいない彼女に向けて、ノクトは沢山の感謝を気持ちを込めて礼を言った。
【この日、ルシス114代目ノクティス王が即位した。】
※
いつ見てもクリスタルの中に眠る愛しい彼女に変化はなかった。
「レティ、行ってくるな」
ノクトはクリスタル越しにレティへとキスを送り名残惜しげに部屋を出ていった。今日は亡き王女の命日の為にそれぞれ都合をつけて集まる仲間達と顔を会わせる唯一の機会。ノクトはこの日、ハッキリと宣言しようと心の決めていた。自分の今後について。
王政という昔からのやり方を変えていく事はすぐには難しいかもしれない。だがもうこの新たな時代に王という存在は不要ではないかとノクトは考えている。
偉大な王とはなんだろうか?
ノクトは常々考えているがそれでも答えはいまだ出せずにいる。
もしかしたら、答えなどないのかもしれない。人々にとって偉大な王とはそれぞれ価値観や考えがあり多種多様である。人の数だけ答えがある。もしかしたら、難しく捉えずにシンプルに受け止めてしまえばいいのかもしれない。
自分らしく生きれる世の中にする。
それはかつてレティがノクトに願った事。そんな世界をレティは欲していた。
だからノクトはそんな世界になるよう努力した。いつレティが目覚めてもいいように。
彼女が生きやすい世界になればもしかしたら目を覚ますのではないかと小さな期待を賭けて。
自分のできる範囲内だが仲間達と協力し合って個人の尊厳と自由を保障できるよう全力を注いだ。いきなりすぐには無理な話でも何度でも諦めずじっくりと説明をしてようやっと受け入れてもらえた案もあった。それでも最初の頃よりは着実に進んでいて、王として役目も終わりなのではないかと考えることがある。今まで築き上げたものを壊す。それはとても簡単なことのようでいて難しい問題だ。今まで慣れ親しんだものが突然姿形を変えるのだから。だが変革とはそういうものだ。
ノクトはその日、皆に打ち明けると決めていた。
何れルシス王家の役目は終わる事、自分は生涯伴侶は得ない事。
そして――――。
※※※
後にノクトは第114代でルシス王政を廃し元老院を解散させ、貴族制を廃止させ移民との差別化を失くした。すぐに反発はあったもののほとんどの多くは自由や平等性を望んでいた。最後のルシス王としてノクティスは国民の為に粉骨砕身し、その生涯を全うした。
後に観光名所となっているある有名な花畑にはこんな逸話が残されている。
『ルシス王は生涯独身を貫き、その左手薬指には名もなき花を象った指輪がいつも嵌められていたという。それはかつての想い人を偲び特注で造られた世界でたった二つだけの指輪。もう片方の在処は分からないがきっとルシス王にとって大切な人の手元に残されているのだろう』
名もなき群生地。。
そこには今も純白の白き花々が絶えず咲き乱れている。
fin
[FFXV]レグルスの子供たちご愛顧いただきありがとうございました。
これにて、完結でございます。如何でしたでしょうか?
ノクトが下した決断もまた王としての責務。続けることもやめることも結局は選ぶという事。ノクトなりに考え抜いてのやり方として書かせていただきました。
最初は出奔を狙っていた訳アリ王女の暴走話かと思いきや、最後は世界の在り方を変える壮大なストーリーとなりました。自分でも書き始めた当初はこうなるとは思いもよらなかったでしょう。
ただのキャラとして見るのではなく、そこで息づく様々な人間を描きたかった。気持ちの変化、様々な苦悩、葛藤。生きる上で必要不可欠な感情というもの。【混沌】。まさにそれぞれの混沌の成長を描いた物語になった、私の作品を書く上での永遠のテーマともいえる目標は達成できたのかなと思います。ヴェルサスと共通する部分も入っていること気づいた方はいますでしょうか。
これも私なりの拘りの一つでした。きっと、ゲームとして触れることはできないでしょう。だからこそ、少しでも物語の中で自分なりの文章で活かせたらと頑張った結果、ああなりました。
原作のゲームが嫌いというわけではありません。ただ、違う可能性があったらどうなっていたかな?という願望が強くなっただけです。
もしかしたらのIFの世界、ここまでお読みくださりありがとうございました。
番外編も上げる予定なので最後まで楽しんでくださると嬉しいです。
おまけ。
※
青く輝くクリスタルの封印はついに解けた。眩い光を放ってクリスタルからゆっくりと目覚めたのは白銀の女神。長い杖を右手に持ち、地面に這うほどの銀髪を優雅に白のロングドレスと共に引きずりながら彼女はゆっくりと瞼を開く。彼女の瞳は赤々と燃え盛る炎のように赤く、久しぶりに声を発した。
「……ああ、……外は、……こんなにも美しいのですね」
美しい、そう思える人間らしい感情が自分の中に芽生えている。これほど嬉しいことはない。これも、人間としての生を受けた彼女のお陰である。そんな歓喜に震える彼女の前で黒いフードの男は感慨深く片膝をつき彼女の前で頭を垂れた。
「……長きに渡る目覚めよりお待ち申し上げておりました」
男は語尾を震わせてすぐにでも顔を上げて彼女の相貌を己の両目に焼き付けたかった。だがまだ誕生したばかりの許可なしには頭を上げることもできない。守護者としての縛りか、それとも自分が想像する彼女とかけ離れていたらとの不安からか。
「………貴方にも苦労をかけました。ニックス」
「いいえ――。そのような勿体なきお言葉光栄にございます」
労いの言葉を掛けられ、ニックスは歓喜に震え顔を上げた。そこには慈愛に満ちた笑みを浮かべる女神がいてニックスは彼女から差し出された手を両手で取り滑らかな手の甲にキスを捧げる。彼女は辺りに視線をやると、
「ここは異界、となると――あちらの世界に繋がっているのですね」
と確認するようにニックスに言った。
「はい」
「………では挨拶せねばいけませんね。子供らに導きを与えているのはレグルスなのですから」
その場から歩き出そうとする彼女をニックスは前に出て引き留めた。
「……。しかしまだ目覚めたばかりで貴女様はまだ安定されてはおられぬはず。無理はいけません。すぐにヴァルハラに還るべきかと」
「まだこの体に慣れていませんが、大丈夫ですよ。そう心配しないで。それに私は貴方を信頼していますから。ニックス」
「……しかし」
「人の世を見て見たいのです。いけませんか?」
「……御意に」
不承不承にニックスは頷き、女神の手を引いて手を翳して外の世界へと繋がるドアを出現させた。彼女は手を引かれながらそちらに向かって歩き出す。一歩一歩足を進めるごとにまるで子供のように女神の心は踊っていた。
一体どんな光に満ちた世界なのか。子供たちはどんな風に変化しているのか。
外の世界を目指して。
【融合率98%】