レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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最初の出会いは盗み食いから

王子の側仕えとして城に登城することになった少年は姫の存在は知っていましたが、実際に顔を拝見するには至っていませんでした。なんせ王の許可なしに会う事はできないという深窓の姫君と有名な方。それも歴代の王家の証をより濃く受け継いで生まれた容姿である故、大切に育てられているという。整った容姿であるという事だけは知っていましたが、まさか、まさか自分の目の前で涎を垂らして家庭教師から逃亡しているとは夢にも思いませんでした。

それも常習犯であると後から聞かされては何も言えなくなってしまう。姫と改めて顔合わせとなったのは、王子からの紹介の場でした。

 

『イグニス、この子が僕の妹のレティだよ』

 

『【初めまして】、イグニス』

 

王女に相応しい見事なカーテシーをし、愛らしい微笑みを浮かべて挨拶をする姫はワザとらしく、初めましてと王子に気づかれることなく強調してみせました。少年は呆気に取られましたが、姫の意図にすぐ気づき胸に手を当てて頭を垂れました。

 

『初めまして、レティーシア殿下。イグニス・スキエンティアと申します。――お会いできて光栄です』

 

『ええ、ノクトから貴方の事は聞いてます。お料理がとてもお上手なんだと。わたしもぜひ頂きたいわ』

 

『―――光栄な事です。殿下』

 

とても食い意地をはり涎を垂らしていた不審人物とは思えないほど姫は可憐であまりのギャップの差に少年は同一人物かと内心疑っていました。それから和やかに三人でお茶会をして少年は退出しようと挨拶をして二人に背を向けようとしました。その時、姫が『イグニス、待って』と小走りに駆け寄ってきました。

イグニスは咄嗟に振り返るとすぐ後ろで姫が顔を近づけて少年の腕を引っ張って悪戯めいた緑色の瞳に口元に愛らしい笑みを浮かべました。

 

『またアレ作ってね。食べたいわ』

 

耳元で囁き、目を見開いて驚き固まる少年からすぐに離れ王子の元へと戻っていきました。

軽やか風が心に擽るような人波を立てていく感覚を感じながら少年は二面性を持つ姫に興味を抱くようになりました。家庭教師から逃げるほど自由奔放な癖して誰よりも知識に貪欲で寝食さえ忘れてしまうほど本に依存し、王族として相応しい佇まいを持ちながら王女の仮面と素の自分を使い分ける不思議な幼い姫。

まだ真実を知らぬ少年にとって姫は未知なる存在でした。だからこそ、のめり込むように姫との時間が増えていきました。王子を介して姫という存在を徐々に知っていき、実は彼女が誰よりも努力家であることを知るのです。

その延長線での付き合いで徐々に心境に変化が訪れるのはお互いに婚約者を得てもおかしくない年頃になった頃でした。姫に相応しい存在として少年は立派な青年へと成長し、姫もますます深窓の令嬢として見目麗しく可憐になりその反面性格とのギャップの差は激しいままでした。青年との婚約話は以前から水面下で決まりかけていましたがついに顔合わせとして設けられたある日。その日、とあるハプニングで二人の関係は一気に急展開になるかと思いきや、婚約話はそれから数日後には白紙に戻り二人は微妙な間柄となりました。

 

『イグニス、お腹減ったわ』

 

『……さきほど食べたばかりだろう』

 

呆れたように青年はため息をつきながら幼馴染の姫を見下ろしました。姫はワザとらしく目を瞬かせてから口元に笑みを作りました。

 

『あら、私イグニスのファンだもの。お菓子ならなおの事、別腹よ』

 

『そう言って体重計に乗るたびに後悔しているのは誰だ』

 

ピキリと姫の笑みが固まりました。

 

『………最近は戦闘続きだからちゃんと自己管理できてるわよ』

 

『甘い物ばかり食べていると虫歯になるぞ』

 

『歯磨きはしっかりしてます!』

 

『それに君は―――』

 

永遠と続く青年の小言に姫はついに耐え切れず両耳を塞ぎながら大声を上げました。

 

『あーもういいわ!イグニスはいつからノクトのオカンから私のオカンにジョブチェンジしたのよ!』

 

『またわけがわからないことを』

 

『それはイグニスの方だって!』

 

平行線をたどる言い合いは青年の根負けしたため息によって終止符を打ちました。姫はビシッ!と青年に向けて指をさしては偉そうに

 

『とにかくお菓子作って!イグニスの作ったの食べたいのっ』

 

と訴えました。青年は内心、これで無人格なんだからまったくと口元が緩むのを止められませんでした。

なんだかんだ言って青年もこうやって姫に餌付けしている事は確信犯なのでしょう。

自分だけの特権。自分だけの姫とのやり取り。意外と独占力が強い青年は王子にバレないよう姫にいつもの口止めをしてお菓子を作ることを約束するのです。毎回、毎回。

 

『分かった、分かった。君だけに【特別】だ』

 

『やった!』

 

子供のようにはしゃいで喜ぶ姫を見つめながら青年は、特別なのは君だけなんだがなと心の中で呟きました。

 

【青年と姫の秘め事は王子には内緒】

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