いつかいつかと夢見ていた念願のデートがついに叶う日がやってきました。姫を取り囲む男事情はかなり複雑ではありましたが、皆それぞれ隙を狙っては姫の興味を引こうと日々、アピール合戦を行っていました。その中でも王子の親友である青年の得意とすることは写真撮影でしたが、姫自身写真と撮られることが苦手のようでいつもカメラの前では顔を強張わせたり、カメラから視線を逸らしたりととにかくカメラから逃げてばかりでした。なので青年も意地になって姫のシャッターチャンスを逃すまいと追いかけてばかり。しまいには怒った姫によってサンダー喰らったり、カメラを壊されたりもしました。それでも諦めない青年についに姫は根負けして「勝手にやれば」と諦めカメラを気にしなくなりました。けどたまに八つ当たりにサンダー落とされたりしていました。
「それもついに報われる時が…」
一人感動の涙を流す青年の前に「お待たせ~」と手を振って現れたのは意中の姫。青年はハッと我に返り慌てて姫へと視線を向けて、その可憐な姿を目の当たりにし言葉を失いまいました。
「………反則だし」
「は?」
姫は目を丸くして呆ける青年を見つめます。
確かに姫はいつも青年に容赦なく修行と称して魔法連発仕掛けるほど鬼畜ではありますが、見た目は深窓の姫君と表現してよいほどの容姿をしていました。そう、いつもよりもお洒落をすればあっという間にどこぞの可憐なお嬢様の出来上がり。
目立つ髪を結い上げて帽子で隠し淡いブルーのワンピースを着こなして小さなポシェットを肩に掛けて足元は可愛く高めのサンダルを選んでいるのでいつもよりも目線が高い印象を受け、いつもの姫のギャップの差に青年は耐え切れず両手で顔を覆って呻いてしまいました。
「………」(これぞ姫って感じでサイコー!なんだけど普段の姫あってこそのギャップ萌えだよねいやいやでもこれってオレの為に選んでくれたコーデなわけでなんか褒めなきゃいけないよね?!でも下手な事言ったらまたサンダーとか落としそうだしどうするオレ!?)
「あのー、もしもし」
「くぅ………」(直球で可愛いです!って褒めるとか?それも安易すぎるか、じゃあ!珍しすぎて写真撮りたいくらいだよとか?いやいやすぐにこれもサンダー落とされそうだよねヤバイ!どうやって褒めればいいかわかんない!いっつもの調子が出てこないなんて馬鹿オレ!)
「……あのー、プロンプト君」
「もうヤバイ」
「何が!?」
何回も声を掛けていた姫は青年の呟きについ声を上げてツッコミをしてしまいました。ようやく姫が自分のすぐ近くに居ることに気づいた青年は「うわっ!」と驚いてゴロンとその場に尻餅ついてしまいました。姫は飽きれた様子で青年を見下ろして言いました。
「一体さっきから何をやっているのよ。見てる方が心配になるわ」
「うっ、スイマセン」
青年は起こすのを手伝ってくれた姫の手を借りて立ち上がりました。
「ほら、それよりも何か言うことあるでしょう?」
ひらりとワンピースの裾を掴んでくるりとその場に回って見せた姫は青年に意味ありげに催促しました。青年はすぐにその意図に気付き、
「全力で似合ってます!」
と姫のファッションを褒めました。姫は微妙な顔で
「うーん、まぁ及第点ね。次はもっと褒め言葉を増やしてね」
とスタスタと青年を置いて歩き出しました。青年は次という言葉でまた一緒に出掛けられると期待が沸いてついにやけ顔なりますが慌てて青年は姫の後を追いかけました。
「ま、待って!」
「ほらほら時間は待ってはくれないのよ。今日しか動けないんだから」
「分かってますって」
意外と足が速い姫の隣に並んだ青年はさり気なく姫の手を取って自分の手を絡めました。姫は驚いた様子もなく青年の手を握りました。帝国の女帝となってから姫の日常はガラリと180°変わってしまいました。それでもたまには悪役の仮面を脱ぎ捨てて普通のレティに戻りたいと思っていました。そんな時に勇気を振り絞って青年からのデートのお誘いにこれもいい機会とお忍びで宮廷を抜け出てきた二人。無論、姫の守護者であるニックスはおかんむりでしたが、それも姫の為ならと我慢に我慢して送り出しました。帰ってきたら思う存分お仕置きしてやるという気持ちで。恋する男の嫉妬を舐めたらいかんです。
さて、そんな守護者の心知らずの姫は自分が治めている国の様子はほとほと知らずにいました。それは資料として知っていたとしても実際に町の中に行ったわけではないので見るもの全てが初めてで興味津々と言った様子。元々姫の最終目的は帝国の解体。民に危害を一切加えず自国から追い出すことを目的としています。まだその段階にかかるには莫大な費用がかかるのでまずは民たちの暮らしぶりを観察するというのが今日の主な予定です。姫の護衛としてプロンプトが選ばれたのは単なる竜騎士アラネアからの推薦なわけで本当はデートでもなんでもないのですが、青年はデートのつもりでいます。設定は初々しいカップル。なので手を繋いでいても問題はないのです。今日の天気は晴れではありますが、少し肌寒いかもしれません。そこら辺の対策はすでにバッチリ。姫の火魔法により全身温かくいくら見た目的に寒そうな恰好でもオッケーなのです。
二人でぶらぶらと目的地なしに散策を続けて一休みということで喫茶店に入って揃って温かいカフェオレを注文する二人は窓際からどんよりとした天気に変わって来た空を見上げながら今更の感想を言いあいます。
「それにしても、ニフルハイムって豊かな国なのね」
「うん、確かに。王都よりも緑が少ないって感じだけど」
「それはそうね。温室で栽培してる花も珍しいって言われるくらいだし。土地柄なのかしら、それともシヴァの影響かしらね」
さらっと召喚獣の名前が出た事で青年は、いつぞやの雪山サヴァイバルを思い出してぞっとし腕をさすりました。あれは二度と体験したくない、死の恐怖を存分に味わった修行でした。アラネアのスパルタぶりと言ったら目の前の姫が可愛いと思えるくらいの雲泥の差。二度とアレはゴメンだと青年は思っています。
「……シヴァと言えばどうしてあんな形で体が残ってるのかな」
話の流れというか興味本位で青年は尋ねました。姫なら理由を知っていると思ったからです。ニフルハイム帝国により攻撃を受けてシヴァは一度死んだ後再び復活したのだそうですが、青年が知る召喚獣が皆巨体なのになぜかシヴァだけは人間サイズなのが気になっていました。
「ん?ああ、アレ?本人曰く怒り故の暴走らしいわ。若気の至りよなんて朗らかに笑ってたけど目が笑ってなかった。きっとイフリート関連ね。シヴァったら何かとイフリートを目の敵にして一方的に締め上げてたから」
「……何も聞かなかったことにしておく」
「ええ、その方がいいと思わ」
店員が運んできたカフェオレをお互い静かに飲んで話題を流す二人。
「温かいわね」
「温かいね」
外を見たら季節外れのブリザードが降ってきて町中を歩いている人にちらほらと被害が発生。お店の店主も慌ただしくストーブなど付けたりし始めました。騒めきだす店内で二人は何も見てない何も関係ないフリをして、
「心に沁みる温かさね」
「そうだね。心に沁みるね」
と現実逃避に走りました。
それから季節外れのブリザードが通り過ぎてすっかり元の天気を取り戻した頃、喫茶店を出た二人はまたブラブラと散歩へ戻りました。その道中あるブライダル関連のお店の前のショーウインドーで立ち止まった青年に釣られて姫も立ち止まりました。そして一気に顔を歪めて「げっ」と呟きました。
そこで目にしたのは一枚のポスターとウェディングドレス。仲睦まじい若い男女が身を寄せ合って微笑みあっている姿。ヴェールを被った花嫁の顔はよくよく目を凝らさなければ顔の表情など分からないようになっていますが、青年には花嫁が誰なのか一発で分かりました。
「あれってさ、レティだよね」
「……そうです」
「それで隣に映ってるのが、ニックスさん」
「……そうです」
ズズッと逃げようとする姫の手を青年は逃がす事はありませんでした。いつもなら姫のペースに巻き込まれていますが、今度ばかりは青年の先制攻撃。
「どういう経緯でこうなってるのか聞いてもいい?」
「顔が近い近い!」
ドアップで顔を近づける青年につい姫は悲鳴に近い声を上げて青年の顔を片手で押し退けました。青年からの猛攻撃に姫はタジタジになりながらも説明しました。曰く、ウェディングドレス着ないまま終わるの嫌だなと言ったらだったらニックスが写真撮ろうということになり流れで知り合ったデザイナーの新作ドレスのモデルになることになりその流れで評判が良かったので広告に使うことになったと必死に説明しました。それで納得してもらえると姫は考えていましたが、青年は仏頂面で気に食わないと不満げな様子。
「ふーん、つまりレティはウェディングドレス着たいなら誰でも良かったわけだ」
「違います!まさかこうなるだなんて誰が思うわけよ。それにその場の勢いってやつね。その時の私は精神的にキテたのよ。だからニックスの押しに負けたわけだわ。うん」
強く頷きながら説明してみせるけど青年には通じなかった模様。
「言い訳っぽく言ってるけど嬉しかったんだね」
青年は恋敵であるニックスに嫉妬せずにはいられませんでした。要は彼が相手だから姫も了承したのだろうと受け止めたからです。ですが姫はポリポリと頬を掻いてこう気まずそうに返しました。
「……それは、まぁ新作ドレスだし」
「そっちか!」
「悪い!?私だって女よ、結婚にだって夢見てたんだから!それが今流行りのデザイナーの新作ドレスなら尚更よ!」
「そ、そうなんだ」
「そうよ」
「………今からだって遅くないと思う」
青年はそう言って姫の手を強く握りしめました。反対に姫は視線を逸らして自嘲的な笑みを浮かべました。
「………無理よ、今の私評判知ってるでしょ。愛人までいるふしだらな女って世間でバッシングされてるんだから」
有名になればなるだけ注目を集める。それは今後の為にも喜ぶべき話なのだが、内容が内容だけに素直に喜べないらしいのです。
「その愛人にオレも入ってるし?」
「下手すればヴァーサタイルのジジイまで愛人候補だって。流石に勘弁してほしいわ。どれだけ守備範囲広いのよ、私は」
自分で言って精神的ダメージを喰らったのか姫は暗い顔でポスターを見上げました。アレがまだニックスで良かったと心底思うのです。流石にヴァーサタイルが隣に並んだ日には女帝の座を放り投げてでも逃走を計ろうと思うかもしれません。何だか話が可笑しな方向に走っている姫の頭の中は青年には分かりませんが、何となく表情から察して
「それはないない」
と手を振って否定します。姫も
「そうね。それはないわ」
と同意しました。何となく疲れた二人はそろそろ戻ろうかと元来た道を戻りました。その道中、公園で一休みすることに。誰も座っていないベンチに姫を誘って青年はポケットからスマホを取り出しました。姫とお揃いのキーホルダーがブラブラと動くたびに揺れます。
「レティ、ちょっと寄って」
「なんで」
「一緒に写真撮ろう。初デート記念に」
「これってデートなの?」
「オレ的にはデート」
「そう。なんでもいいわ」
姫は言われるまま青年の隣に寄ります。それでは物足りないと青年は姫の肩に腕を回して一気に距離を縮めました。
「ちょっと近くない?」
「これくらい平気平気」
そう誤魔化して写真を撮ります。
青年は隙をついてスマホのカメラを見上げる姫の頬に不意打ちでキスをしました。その瞬間もバッチシ写真に撮れているはず。
「ちょっ、ちょっと!」
「いいじゃんオレ達カップルだし」
「そういう設定でしょ!?」
せめてもの意趣返しと青年は慌てふためく姫を堪能しながら帰路に着いたのでした。
※おまけ※
ニックス「随分と仲良くしてたらしいなぁ」
レティ「なっ!なんで」
ニックス「まさか本当に二人で送り出すと思ってたか?しっかりと尾行してたんだよ。クペが」
レティ「ク、クペ!裏切ったわね!?」
ニックス「ってなわけで今夜はお仕置きだ。たっぷりと、寝かせてやらねぇぞ」
レティ「ひぃぃぃ!」
次の日、げっそりしたレティと清々しい顔したニックスの二人がいましたとさ。