レティーシアside
ノクトは知らない。
私がノクトの前から忽然と姿を消してしまうことを。
私の我儘に優しいノクトは付き合ってくれた。皆で流星群見ようって、あの猛反省した次の日の夜、イグニスと訪れた所に皆で一緒に向かった。道中、ノクトが
「転ぶだろ、レティは」
なんて意地悪そうに言いながら差し出した手に私は
「転んだら一緒に転んでね」
と茶化しながら自然と手を乗せた。プロンプトが
「ホント仲良いよね」
とかイグニスから冷ややかな視線さえもノクトはどこ吹く風と言った顔をしてむしろ堂々と
「いいだろー」
なんて自慢気にいうものだから、私は可笑しくて
「だったら皆で繋ごうか」
と悪戯心からそう提案すると、珍しくグラディオラスが
「おもしれ―じゃねーか」
って乗り気になってたけど、どうしてかプロンプトをヘッドロックかけて楽しんでた。私の右手はノクトに繋がってたらから、だったらと左側を歩くイグニスのわきの下に左手を通して、
「なんだ。突然」
と驚いているイグニスの腕に左手を絡ませた。
「いいじゃない、たまには」
と首を傾げながら言う私と密着度が増したイグニスはぐっと何か詰まったような気まずそうな顔をした。私はどうしたんだろうと尋ねようと思ったけど、繋いでいた右手が勢いよく引っ張られて私はバランスを崩しかけた。イグニスが、
「大丈夫か?」
と咄嗟に支えてくれたから助かったけど、犯人はぶすっとした顔でイグニスを睨むノクトだった。私が、
「急に何するのよ」
と文句を言うとノクトは、
「オレが最初だったんだぞ」
とか意味わからないことをイグニスに言う。どうしてか悔しそうだった。イグニスは、
「ノクト、女性はもっと丁寧に扱うべき存在だ」
とノクトをやんわりと叱るがノクトはさらに機嫌悪くなった。
「さっさと行くぞ」
と私を引っ張ってズンズント草むらの中を進んでいく。咄嗟にイグニスの腕を離してしまったから、少しだけ後ろを振り返ったらイグニスが軽く手を上げた。気にするなって意味だったと思う。まったく、どうしてノクトは私に関することになると不機嫌になるんだろう。だって、このままの関係がずっと続くわけ、ないのに。
だから、考えてしまった。
私がいなくなったら、ノクトはどうなるのかと。
流星群を背にして皆で記念写真撮ろうよとはしゃぐプロンプトだったけど、残念。ポーズ決めてシャッターが下りるのを待ってたけどセットしたカメラが前倒しになっちゃって、ボーズ損?って感じだった。その後はちゃんと撮影しなおしたけどね。やっぱり最初が肝心だ。
辺りは真っ黒で、夜空に輝く星の数は数えきれないくらい散りばめられていた。
私は本で見た世界が目の前に広がっていて人一倍子供みたいにはしゃいで、そのキラキラ星に魅入っていた。
「すごいすごい!」
「うわぁー」
「何度見ても見事だな」
「レティどうだ」
ノクトが感想を求めてきて、私は星にめい一杯手を伸ばしながら答えた。
「すっごく、綺麗」
「ああ」
当たり前って顔して笑うノクトに、私もつられて微笑んだ。ノクトはまた星を見上げて私から視線を外した。私もまた星を見上げた。
たくさんの、星。どこかの本で書いてあったんだ。
あの星は、死んだ人が星になって光っているって。
残された人が寂しくないようにって。
母上も、どこかの星になっているのかな。
ノクトが寂しくならないようにって。どこかで輝いているのかな。
母上、私、外の世界に出てこれたよ。きっともうお墓にお花を供えることはできないけど、夜空の綺麗なお星さまになってるのなら、いつでも会えるよね。
「…皆でこれてよかった。……思い出、欲しかったから」
ふと気の緩まりからつい出た言葉にノクトは敏感に反応した。
「なに言ってんだ?これからも作れるだろ。一緒なんだから」
一緒、ね。ノクトの一緒ってずっと一緒って意味なのかな。
馬鹿だね、ノクト。そんなのあるわけないのに。
否定することもできた。鼻先で笑い飛ばしてやれた。けど。私は、気が付けば彼の言葉を肯定していた。
「そ、だね。うん、一緒にいれたらいいね」
希望を含ませて曖昧にさせることでそれは未来の確定ではないことを隠されたメッセージとして伝えたつもりだ。ノクトはわかってないみたいだけだね。
ちゃんと笑えただろうか。
ノクトには笑えて見えてるだろうか。
だって、私の視界は揺らいでいるから。
「だろ?」
よかった。ノクトには私が笑ってるふうに見えたみたい。言葉で誤魔化して、ノクトが悲しまないようウソをつく卑怯な私。なんだか、情けなくて惨めに思えてきた。
私は、ノクトと別れると決めてた。
絶対、何があっても出ていくって。
それが私の為、ノクトの為、皆の為。きっと私の素性がバレた時、国は混乱してしまうだろう。それだけはなんとしても避けなきゃいけない。ノクトの未来のために。
なのに、私は……。
悲しんでいる。ノクトと、皆と別れることを。
でもね、グラディオラスだけは、誤魔化せなかったみたい。
「レティ」
「うん?」
グラディオラスに名を呼ばれて振り返ろうとしたら、
「眠いのか、仕方ねーな。久しぶりに抱っこしてやる。昔、よくやったもんな」
「は?うわっ、ちょっと!なにを」
ぬっと伸びてきた手によって私は戸惑う暇もなく横抱きされた。軽々と私を持ち上げるグラディオラス。急に高くなる目線と皆に聞こえないような小さな声。
「(バレるぞ、ノクトに)」
「!」
何がバレるかなんて、とっくにわかってた。ただ、認めなくなかっただけだ。
認めたら、私の負けだもの。
プロンプトが気遣わし気に私の体調を尋ねてくる。
「姫、寝不足なの?」
「そうみたい、ちょっと、ねかせて」
咄嗟に演技を合わせて私はグラディオラスの肩に顔を寄せる。首にしがみ付いて「ありがと」と小さな声でお礼を言った。
「どういたしまして」
予想外の共犯者のお陰で、私は勝負に負けることはなかった。
負けるつもりも、なかった。けど、勝てるとも思ってない。
【結局、勝負にすらなっていないんだから】