オレが姫と初めて出会ったのは、高校の卒業式の日。
それぞれの新しい旅立ちの日。
オレにとっても新しい世界への始まりだった。
桜が舞う中、白いドレスを着て姫は朗らかにノクトを迎えるため、校門で佇んでいた。
その周りで彼女を護衛するように黒服の親衛隊の人たちが父兄や生徒たちのガードをしていて、圧倒されたけど。何よりも一番目を引いたのは、やっぱり姫だった。
「ノクト、高校卒業おめでとう」
「レティ!なんでここに」
別れを惜しむ女子たちに羨ましいほどに囲まれていたのに、姫の姿を認めた瞬間、女子たちをかき分けて普段のクールなノクトの仮面をばりっと剥がし、ノクトに手を振る姫の所へ慌てて駆けていった。女子たちは口々に姫とノクトのツーショットを見つめては騒めいていた。
どうしてここに王女殿下が?とか。
悔しい!見た?今の。ノクティス王子をノクトだってぇ!とか。
全然勝ち目とかないじゃん、あれってズルくない?とか、ね。
ノクトは最後まで女子にモテモテだったな。
オレはといえば、ノクトの勢いに負けて、一緒に行っていいのかわからず少し離れた所で二人の仲のよいやり取りを見守っていた。
姫は、悪戯成功と舌を軽く出して
「内緒で来ちゃった」
と両目を細めては微笑んだ。ノクトはため息をついて
「びっくりした」
と仕返しと言わんばかりに姫の額を軽く小突いて二人で笑い合った。
こんな顔もするんだな、ノクトって。
オレはそんな気を緩ませたノクトの表情は初めて見た。
しかし、綺麗だなー。
オレはぽーと見惚れてしまい、姫を熱く見つめてしまった。そしたらパチン!と視線があった。あってっしまった。
なぜだかまずい!という気がして一瞬逸らしてしまったけど、姫はノクトに「彼は?」と首を傾げて尋ねたことによりオレはノクトに呼ばれることに。
「オレの親友、おい。プロンプト!」
「あ、え、は、はい!」
オレは姫を待たせるわけにはいかないと全力で走って姫の前まで行った。ノクトから何走ってんだよと言われたけど無視だ!
姫は少し可笑しそうに口元てに手を当てて笑ったが、すぐにオレに手を差し出して
「ノクトの友達なのね。そう、貴方がプロンプト。とても仲良くしていただけていると聞いているの。私はレティーシア・ルシス・チェラム。よろしくね」
と微笑んでくれた。
「はい、はい!光栄です姫様!」
オレは、ある種の感動を感じていて思わずその場に跪いて、姫の手を両手で取り、その白く華奢ですべすべな肌にキスをした。これってちゃんとした挨拶だよな?と思ったけど、
「あら」
「な!」
途端、姫は目を丸くしてノクトは顎がハズレそうなほど驚いた。
そして、オレは
「レティーシア王女殿下!」
親衛隊の皆さんがずらりとオレの周りを囲むな否や、姫とノクトを庇いつつ、後方へと下がらせた。
強面いかついオッサンとかおにーさんとかに睨まれる腰が引けて地面に尻もちついてしまう間抜けなオレ。
どうやら、間違った挨拶の仕方をしたらしい。オレは冷や汗をだらだらと流してはノクトに助けを求めた。
「ノクト~」
「お前、いきなりするか…。(滅多にオレもしねぇのに)」
ガシガシと頭をかいて困惑するノクト。
ゴメン、オレ君の親友だから心の声ばっちり聞こえたよ。
なんとなく雰囲気が最悪な状況下、姫の涼やかな声が響き、すっと一歩姫が親衛隊の一人を下がらせ前へと出た。
「いいのです。お下がりなさい」
「ですが」
と言いつつ、オレに視線を向けるのでオレは肩を縮こまらせた。
でも姫はオレを庇ってくれた。
「彼は挨拶をしたまでのこと。それだけのことに何を目くじら立てますか。……下がりなさい」
最後の部分を強い口調で言っていた。たぶん、【命令】って感じだったのかな。
「……承知いたしました……」
まるで波が引くように親衛隊の人たちはあっという間にオレから離れていった。
「あ」
気が付けば、姫が目の前にいてオレと同じ視線でわざわざ地面に膝をつき白いドレスが汚れるのも厭わずに、すまなそうな顔をした。
「びっくりさせてごめんなさい。驚いたでしょう?彼らに悪気はないの。彼らは彼らの仕事をしたまで。どうか私に免じて許してくださいませんか」
滅茶苦茶関係ないけど、その時の姫、すごくいい香りがしたんだ。
こう、ぽわーって気持ちよくなっちゃうような感じの香り。
「いえ!オレのほうこそ突然スイマセンでした」
オレはつい正座に座りなおして深々と頭を下げた。
姫は「頭を上げてください。貴方がそのようなことをする必要はないのですよ」というけどオレの気持ちは納得してなかった。
だって驚かせたのは事実だし、姫も見知らぬ男子にそんなことされるとは思わなかっただろうし。姫は握手のつもりで手を出したのに、オレが勘違いしてキスしちゃうから。
「では、こうしましょう」
「え?」
「これから一緒にお茶でもいかがでしょうか。お互い反省はしましたし、素敵な出会いに感謝して私がお茶を入れましょう。貴方に私のお茶を美味しく飲んでいただけたら嬉しいわ」
「……はい……」
大勢の観客がいる中、オレの今後の進路に影響がないように配慮してこういってくれたんだと思ったら、胸にジーンとくるものがあった。
容姿は可憐な姫様。けれど初対面のオレにさえ細かな気を配れるほどの優しい人。
まるで絵本から飛び出してきたような人だと思った。
その時は。
今じゃ、あの時の姫はオレが見た幻想だったんだと思ってしまうよ。
ノクトの部屋に誘われるようになって、知ってしまった、知りたくもなかった真実!
まさか、姫が山ほどのスナック菓子ぼりぼりと貪るなんて、誰が信じてくれるんだ。
しかも、
「ちょっとプロンプト!家(城内)に自販機ないから下まで降りて買ってきて」
「姫、ちょっと人使い荒くない?」
と言い返すと、しばし無言になりジト目でオレを見る。見る。見る。
なんだ、この威圧感。
ただ見られているだけなのに蛇に睨まれた蛙の気分だ。
「この間の私のお菓子食べたでしょ。すぐ返さないとサンダー」
「買ってきます!」
オレは財布握りしめて叫んでいた。姫の指先から電気がビリビリ光っていた。
電気ビリビリKOWAIよ☆
オレは電気ビリビリの刑を恐れて死ぬ気で全力で自販機目指した。そして息も絶え絶えの状態で目的の自販機前でふと小銭を入れてボタンを押すところで止まった。
そういえば、何がいいのか聞いてこなかった……。
急いでスマホで姫に電話を掛けた。なぜ電話番号を知っているか。それは姫いわく、なんか買ってきてほしい時に便利じゃない?とのこと。オレは姫の中じゃパシリ扱いですか。
「……あ、姫!?何がいいのか聞かなかったから」
『あー、オレだ』
「え?なんでノクトが」
『レティな、倒れた。ちょっと具合悪くてお前に心配かけまいと意地張ってたらしい』
「そんな!?」
『だから今日はそのまま帰っていいぞ。オレもレティの傍にいなきゃだしな』
「え、オレも心配だから戻るよ!」
『……悪い、遠慮してくれないか。アイツ、弱いとこ見せたくないんだよ。仲良い奴に特には』
「……そっか。ゴメン。分かった。お大事にって伝えてくれる?」
『ああ、ホント悪いな』
そういってオレは通話を終えた。
そういえば、さっきの姫の脅しの電気ビリビリもいつもより力が弱そうだったような。
オレ、全然気づかなかった。女の子に無理させてたなんて…。
「クポ!いたクポ」
「クペ!」
落ち込むオレの前にパタパタと羽を羽ばたかせて姫の相棒、クペが頭上から現れた。
クペは頭にスナック菓子の袋を運んでいた。それをオレへと差し出した。
「これ、レティからクポ」
「…これ、オレが好きなスナック菓子だ」
「今日はそれ食べて明日、また来いって言ってたクポ」
「姫が?」
「そうクポ。ついでにレモンばっちしな炭酸ジュース買って来いって」
「……ぷっ、ははっ。オッケー分かった。たくさん買ってくよって伝えて」
「わかったクポ」
具合悪いのにオレにフォロー入れるとことか、出会った時と変わらない姫の優しさ。
つい、可笑しくて笑っちゃった。
オレは、さっそく家へと向かうべく受け取ったスナック菓子片手に歩き出した。
また明日、姫の我儘に付き合うために。
【そんな姫だけど一番姫らしい】