どうにもこうにやりたい衝動がある。それは突然やってくるものだ。発作的に。
可愛らしい女性に突然のお願いをされたら、当然男としては叶えてやりたいというのが男心というもの。普段から破天荒すぎて振り回されているにしても、だ。
だがそのお願いの内容が時と場合による時もある。
「ねぇ、私、運転したい。代わって?」
そういって、
運転席の椅子の肩に手をついて身を乗り出してそうお願いされたイグニス。
だがレティの唐突のお願いにも公私混同はしっかりと分けてキッパリと切り捨てた。
「駄目だ」
「ケチイグニス!」
ぶーっと頬を膨らませてわかりやすく拗ねたレティはすとん!と後部座席に再度背中を付けた。イグニスはミラーでレティの拗ねる様に目をやりながら訝しんだ。
「大体レティは免許持って「持ってるよ」そう持って、……何だと?」
言葉の途中でレティの台詞につられかけたが、すぐにその言葉に気が付いて思わず聞き返したイグニスだったが、驚いたのは彼だけではない。聞いていた仲間たちにも衝撃が走った。レティはそんな彼らのことなど知らずに、クペにアレだしてとお願いし、クペはわかったクポ!と頷くとボンボンが淡く光った。あら不思議!あっという間にレティの手には免許証が現れた。レティはクペにお礼を言ってその免許証を見せた。
「持ってるよ、免許。ほら」
そういって隣にいるノクトに渡した。ノクトは信じられないものを見るようにその免許証を色々な角度から確認した。
「本当、だ。自動車免許…」
やっぱり免許証らしい。写真にはちゃんとレティの姿が映されている。
今より少し若い顔写真でいわゆる、外面用の顔だった。
グラディオラスがレティを挟んでその免許証を見るために体を寄らせてレティから「せま!あつ!」と抗議を受けるがまるっと無視してはいないが、逆に構ってやるという風にヘッドロックした。レティは「ぐ、ぐるじ…!?」と手加減されているにも関わらずオーバーリアクションで対応した。
「いつの間に」
オレにも見せて見せて!とやかましいプロンプトにノクトは、ほいと手渡した。レティはばしばしとグラディオラスの腕を叩いて放せと訴えると腕はすんなりと外された。ほっと息をつくレティにグラディオラスは意地悪笑みを浮かべて「力ねえな」というと、レティはムッと唇を尖らせて「馬鹿力はいらないの!」と言い返した。そして気を取り直してその免許証取得の経緯について説明しだした。
「王族の特権ってやつ?筆記試験一回でパスしたらくれた」
けろっとした顔でいうものだからノクトは一瞬嘘だろと疑い、自分が実際受けたやり方を教えようとした。
「いやありえないだろ?教習で実技受けないと」
だがそれは必要なかった。レティは体験済みだったからだ。
「それはやってる。ノクトが学校行ってた時に」
「ハァ!?レティ、お前城から出てないはずじゃ」
確かにと仲間たちも納得して頷き返す。レティが城から出られない身分なのは周囲の事実で、まさか自動車免許取得の為にわざわざ教習所まで通わせることをレギスが許すだろうか。それはレティも納得済みで、こう言った。
「家の(城)の敷地内からは出てないよ。家(城)の前でグルグル回ったもの」
「いつの間に!?」
「しかもレガリアで」
「なんてセレブな教習なんだ!?」
羨ましいーとプロンプトは叫ぶのでいちいち反応が面白いなとレティは感心した。
イグニスがうるさいと顔をしかめて軽く窘めた。レティの隣で思案顔になっていたノクトがレティに確かめるように尋ねた。
「まさかとは思うが、……レティお前レガリアでこすぐったか?」
「うん、隣にクレイ乗ってもらってる時ちょこっとやっちゃった」
ぺろっと舌を出して「いやー、若かったからねー」と言い訳しながら照れて頭をかくレティに合点が言ったノクトは
「やっぱりか。オレがレガリアもらうとき、親父に言われたんだよ。ちょっと傷あるが目立たないから気にするな!って。確かに目立たない部分だったけど……複雑だ。実はレティのほうが先に免許持ってたなんて……」
とレガリアに傷があったことよりもレティよりも免許取得に先を越されていたことにショックを受けた模様。一人ズーンと暗い影を背負い始めたノクトは無視された。プロンプトが改めてレティの意外さに感嘆した。
「世界で一台かもしれない車を教習車扱いするなんて、やっぱ姫って愛されてるね!」
そして余計な一言も爆弾としてレティに落とした。
「……ハァ?今なんて言ったプロンプト…」
『愛されている』というブロックワードを言われてみるみるうちにレティの表情が強張っていき、低い声でプロンプトにもう一度尋ねた。レティの顔に書いてあるのだ。
もう一回言ったら、メテオ落としてやる、と。
前を向いているプロンプトには豹変したレティが分からず言葉を続けようとする。
「え!?いや、だから陛下に愛され「あー!そういやぁレティは自分の車持つとしたらどんな車にするんだ」ちょ、なにグラディオってば!」
これに慌てたのがレティの事情をよく知るグラディオラスだった。レティがもっとも嫌う言葉。それは『愛されている』だ。一般人のプロンプトにしてみれば、十分に過保護の扱いを受けているレティはレギス王の愛娘と認知されている。だが事実はそうではない。
血相を変えてプロンプトの台詞にわざと声を張り上げて言葉を重ねた。
「いいからお前はもう黙っとけ!それでレティ、どんな車だ?」
話題を無理やり替えられたわけだが、レティはコロッと機嫌を戻して言われてみれば考えたこともない話に真剣に悩み始めた。
「私?うーんと、……えーと…」
「やっぱ可愛い系とか?それともカッコいい系か、姫だと」
プロンプトも二人の会話に参加して勝手にレティに相応しい車を決めようとするが悩みに悩んだ末、レティは予想外のものを選んだようだ。
「あ、あれだ!あれあれ……カトブレパス!」
「それ車じゃねえよ」
沈んでいたノクトがびしっ!と反射的にツッコミした。
「モンスターじゃん!」
そしてプロンプトも同じくビシィー!とアクションつきで二度ツッコミした。
レティはなぜツッコミされるのかわからない表情をして、首を傾げて確かめるように言った。
「えっ、でも基本モンスターって乗り物だよね?私が頼むと乗せてくれると思うよ?」
「疑問形か!……仮にそんなことがあるとするならそれはレティだけだ。まったく、どこでその偏った知識を身に着けたんだ……」
イグニスが呆れたようにそういうとノクトがそういえば、と呟くように言った。
「あー、でもオレ。レティがモンスターに乗ってるとこ、だいぶ昔に見たことあるような気がしたんだよなー。どこで見たんだったっけ?あー、思い出せねえ……」
思い出せないのも無理はない。それは夢の中での話なのだから。
幼い頃、レティと共に過ごしたあの摩訶不思議な世界では確かにレティは無邪気にモンスターを従えさせていた。その断片が記憶としてノクトの中に残っていたのだ。
「あー」とか「うー」とか呻いては思い出そうとするがなかなか思い出せない様子のノクトはまた放置されて、レティは一つ大きく頷いて、
「とにかく!私が今一番乗りたいものはカトブレパス!これで決まり!」
とゴリ押しであっさりと決めた。
「そう思うのは君くらいなものだ……ハァ~」
どうかレティが本気でカトブレパスに乗る気でありませんようにと祈らずにはいられなかったイグニスだった。
【やりそうな予感が頭をよぎる】