レガリアは走る。目的地目指して、走る走る走る。
でも乗ってるお姫様は退屈なわけで、常に娯楽を求めている。プロンプトからかったりクペの毛が逆立つまで撫でくり回したりプロンプトからかったり暇だからサンダービリビリしてみたりとお姫様なりに退屈を解消しようとしているつもりだけど、やっぱり飽きちゃうお年頃。だから、こんなこといきなり提案したりもする。
ノクトとグラディオに挟まれた真ん中で、ぐでーっとだらしなく伸びては、
「暇だ暇だ暇だ~」
とぼやいている。プロンプトはレティの退屈を解消しようと誘いをかけるが、
「ね、トランプして遊ばない?ノクトもさ」
「飽きた」「ヤダ寝る」
レティはきっぱり一言言って、ノクトはきっぱり断って素早く夢の世界へ逃げた。
この双子はこんなときばっかり以心伝心するかと、少しイラッときたプロンプト。
「姫~、じゃあ何がしたいのか決めてよー」
お手上げだとプロンプトは遊びの提案をレティに放り投げた。
レティは「ん~」と人差し指を口元に当てて、少し考えた後。ピンポン!と頭上に電球がピカピカと光ったように思いついたようだ。
「眠れる森の王子様ノクトは放っておいて。じゃあ、お兄ちゃんごっこしようよ」
「なんだそりゃ」
レティの隣のグラディオラスが意味わからんといった顔をした。レティは簡単に説明をした。
「私が皆にお兄ちゃんお願い!っていうから皆は可愛い妹よー、お前の願いは全部叶えてあげたいぜ、何でも言ってみなっていうの。ね、簡単でしょ?」
それの何処が遊びなのか全然わからなかったが、なんとなく一筋縄ではいかないような予感がしたグラディオラスだった。
「はいはいはい!オレやりまーす!」
「さすがプロンプト!ノリが違うねー」
一番に名乗りを上げたプロンプトにレティは手を叩いて喜んだ。
プロンプトは助手席から後ろを向いて後部座席に座るレティに視線をやった。
「じゃあじゃあオレが最初だよね?ちなみに、『お兄ちゃん』じゃなくて、『お兄様』でよろしくおねがいします!」
「オッケー、じゃあプロンプトから~、ちょっとその言葉の違いに意味があるかどうかはわからないけど。……こほん、『お兄様、お願いよ?』」
声音を変えて、絶対やらないぶりっ子を発動したレティの演技はすさまじく、破壊力があった。その見た目だけは可憐で儚い容姿がここぞとばかりに威力を発揮する。
「……………」
プロンプトは何かの衝動を無理やり抑え込むように自分の体を掻き抱いて悶絶に耐えた。
耐えた、頑張って耐えてみた。でもダメだったらしく、
「ちょっとプロンプト、台詞台詞」
と急かすレティにすっと前に向き直したプロンプトは、
「ゴメン無理キャパオーバー」
と白旗を振って撃沈した。滅茶苦茶可愛かったらしい。まともにレティの顔も見れないほど鳩尾にキタらしい。イグニスがちらっとプロンプトに視線をやると、顔を両手で隠しているが隠れきっていない部分が真っ赤になっていた。
これは強敵だなと嫌な汗かいたイグニス。レティが悪魔の宣告をする。
「じゃあ、イグニスよ次」
だがイグニスは平静を装って、
「運転中だ。後にしてくれ」
と軽やかに交わした。
「ムッ」
つもりだったけど、レティのほうが一枚上手だった。少し体を前に乗り出して運転席のイグニスへと顔を近づけ、耳元でこう甘い声で囁いた。
「『お兄ちゃん、お願い。こっち、向いて?』」
「!!」
ぎゅるるる!!
「きゃぁ!」
「うわっ!」
「ぬぉ!?」
思いっきりハンドルを左に回してしまったイグニスにより、車体は大きく円を描くように半回転し、対向車線へとはみ出してしまう。だがなんとかブレーキを踏んで止まることに成功した模様。
「いった~!?、……シートベルトしてて助かった」
「死ぬかとおもった…」
レティは胸を押さえて安堵し、プロンプトは真っ青な顔でシートベルトをぎゅっと握りしめているし、ノクトは相変わらず余裕で寝ているし、グラディオラスは突然豹変したイグニスの運転に驚愕しながら
「イグニス、どうした!」
と声を掛けたが、イグニスはそれには無言で返し、シートベルトを外しドアを開いてバタンと閉めた。
「ちょっと出てくる」
と言い残して森の方へ消えてしまった。数分後、森から出てきたイグニスはちょっとげっそりとしていた。曰く
「煩悩を振り払ってきただけだ」
とだけ言ってまた何事もなかったかのように運転を再開した。
だが両耳が赤く染まっていたのをグラディオラスは見逃さなかった。そして同時に、イグニスをここまで追い込むレティに別の意味で恐怖を抱いた。
(レティ、侮れねぇな。だがオレは軟弱な奴らとは違うぜ)
そう、グラディオラスは物本【ほんもの】のお兄ちゃんなのである。一人っ子であるプロンプトとイグニスとは年季の古さが違うのだ。強敵を前にした武者震いというものを感じて、自然と口角が上がった。
「じゃあ次はグラディオラスの番ね」
ついにグラディオラスの番が来た。腕を組んでドン!と大きくかまえをみせる。
「オレは慣れてるから二人のように軟弱じゃあねーぞ」
だがレティはグラディオラスの弱点を知っている。
「わかってますとも。でもね、グラディオラスの弱点、知ってるのよ。実はここにイリスの写真がありまーす」
「どこから手に入れやがった!?」
レティは何処から入手したのかわからないが、イリスの微笑む写真を手にした。
実は本人からもらったものだとはあえて伝えない意地悪なレティ。
お兄ちゃん、事実知らずに少したじろいだ。
だがまだ余裕を見せる。
「うふふふ、女は秘密がたくさんあるんでーす。そしてここにクペがいまーす。先生、よろしくおねがいしまーす!」
レティはクペを片手で持ち上げてぺたりとクペの顔に写真を張る。
所謂偽イリスもどきがグラディオラスの前に完成した。
「まかせてクポ。……(イリス声)『お兄ちゃん、ずっと私、言いたかったことがあるの』クポ」
「うお、無駄にクオリティ高い…」
なんだか気分的にイリスを前にしている気持ちにさせられた。最後の語尾にクポとつくのが間抜けであるが。
お兄ちゃん、少しぐらっと来た。
でもまだ大丈夫。
「『私、好きな人ができちゃったの!もう結婚秒読み段階まで進んじゃっててパパには報告済みなの。だからお願い、お兄ちゃん……結婚、認めて?』クポ」
「イリス―――!!オレはまだお前の結婚まで認めたわけじゃないぞー!!」
うおーと雄たけび上げて全力でイリスもどきクペを捕まえて切実に訴えるグラディオラス。
お兄ちゃん引っかかった。あっさりとお兄ちゃんは引っかかった。
レティは小さく「ぷぷっ」と吹いた。
で、「あ」と我に返ったグラディオラス。
「落ちたわね」
「……なんてこった…。このオレが……一時でも騙されるなど」
不覚とズドーンと肩を落とし暗い影を背負う物本【ほんもの】のグラディオラス。
レティの『お兄ちゃん』ゲームはレティの一人勝ちかに思えた。だがまだ最後の砦が残っていた。色々とカオスな状況の中で、一人ようやっと意識を浮上させたノクト。
「んだよ、うっせーな……」
とおぼろげに覚醒しきれていない様子で、とろんとした瞳で横のレティを見やった。
だがレティはげっ!と露骨に嫌そうな顔で、
「ノクト、起きなくていいわよ。寝てなさい」
というが、ノクトは「あー?」と寝ぼけ眼で
「ダメだろレティ。クペいじめちゃ」
となぜかレティ首後ろに手を回して、絞めた。
「寝ぼけてる完全に寝ぼけてるってアイタタタタ!?締まってる完全に締まってるから!」
「んー、一緒に寝てろよ…」
ノクトにしてみれば、いつものスキンシップなのだがそれがレティには恐ろしかった。
ノクトのコレには毎回痛い思い出しかないからだ。
「違う意味で寝ちゃうからそれ絶対違うから!ノクトの相手はルナフレーナ嬢でしょう!?」
「うーん、ルーナ?」
少し緩んだ力にこうは好機とレティはすかさず言葉を続けた。
「そうよ私じゃない彼女に抱き着きなさい!」
婚約者なら自分よりもノクトの中では優先順位が高いはずと読んだのだ。
だが、その予想は見事裏切られた。悩む様子もなく、ノクトはスパッと
「ヤダ」
と言い切り、またレティを締め上げにかかった。
「アイダダダ!マジで痛い痛いー!?」
どんな時でも泣かないと心に決めているレティだが、この痛みには毎回勝てずに涙目になるしかない。イグニスとグラディオラス、そしてプロンプトは、
「今回はノクトの一人勝ちだな」
「ホンモノの兄貴には勝てないってな」
「でも姫の『お兄ちゃん』は破壊力抜群だったなー」
と痛がるレティと安心したように眠りにつくノクトを放置してドライブを満喫することにした。
「ちょっとは助けようとしてよー!」
レティの情けない悲鳴が無情に響いた。
【暇つぶしにはリスクもつきもの】