レティーシアside
無事ハンマーヘッドから出発した私達は、ドライブ中のおしゃべりを色々楽しみながら、次なる目的地ガーディナ渡船場へ向かう途中のランガウィータのモーテルに立ち寄ることになった。シドニーからその店主に荷物を届けてほしいと頼まれたんだって。短い間だったけどシドニーとはずいぶんと仲良くなれたから彼女のお願いは叶えてあげたい。
イグニスが運転するレガリア内で、男らの会話が弾む中、私はクペをひざ元に乗せて一人黙り込んで思考に耽っている。
どういう心境の変化か。
最初はどうにも身構えてしまった私だけど、シドニーの方から声を掛けてくれる機会が増えていくと同時に彼女の飾らない優しさや気遣いに溢れた素敵な女性だって知れることができたから。
しかもしかも!
旅で困ったことがあったら遠慮なく電話してってアドレス交換もできるなんて思わなかった。男ばっかりの旅じゃ何かと女の苦労も知らないからね!なんてウインクしながら付け加えて言うから、思わず笑えてしまって吹いて傍にいたノクトが怪訝そうにしてたな。ふふっ、でもまさにその通りなんだもの。
男だけの旅だとやっぱり女の事情的なものも出てくるし、いざって時頼りになる年上の知り合いが増えたのは素直に嬉しい。お陰で私のスマホの登録件数は何件か増えてこれで女の友人が二人に!後は男ばっかり……。ノクトでしょ、プロンプトでしょ?イグニスにグラディオラス、クレイにコル……、両手で足りる……。
いいもん!これからもっと知り合いできるっていうか作ってやる!
と意気込んだところで、まずの課題は私の周りを固める男どもをなんとかしなくてはいけない。この人達、ノクトの護衛で同行しているはずなんだから私の周りを固めるのはいかがなものか。しかもノクトも一緒に私の傍ピッタリ離れないんだから、貴方はこれから結婚式迎える花婿ですかと言いたい。
いくら世間知らずの王女様のためとはいえ、やりすぎだと思う。
かといって、あのイグニスに真正面から意見などすれば何十倍にも返ってくることはわかりきっている。だから我慢して来るべき時まで耐えるしかない。
オルティシエにたどり着くまでできる限り情報を仕入れるため、そして少しでき人馴れするために年代が近そうな人に適当に声を掛けている。わりと心優しい人で私が分からないことを丁寧に教えてくれたり、食事でもしながらゆっくり話さないか?なんて誘ってくれる人もいたりする。でもほとんどが男性だったりするのはどうしてかな。
でも大抵、私が承諾する前に強面のグラディオラスが私の後ろに立ってまして、あっという間に男性たちは蜘蛛の子散らすように素早く逃げていく。
ああ、私の情報源さようなら~っていうのが毎回のパターン。
グラディオラスだったりイグニスだったりノクトだったりプロンプト(彼には私がやり返す)がお目付け役。
隙あらば実行しているのだけどやっぱり勘付かれて先手を取られてしまう。
そしてお決まりのイグニスの長いお説教が始まる。
やれ王女らしからぬ軽率な行動だの、淑女たるものうんたらかんたら、男に対する認識をもっと改めろとか、よくもまぁ毎回同じこと言えるものだ。私も同じこと言われても実行し続けているけどね。
でも私だってやられっぱなしじゃない。
女の魅力を最大限に利用して相手を動揺させる技をイリスから教わった。
事前に目薬を仕込んでおき、潤んだ瞳で上目遣いに相手を見つめ、
『ごめんなさい、にゃん』
と猫の仕草をしながらがポイント!
するとたちまち相手の意表を突くこと間違いなしだ。これは既にイグニスで実験済みで効果は抜群だった。さらに、『ご主人様』という言葉をプラスさせることで相乗効果をもたらす。イリス曰く、これで大抵の男は黙らせられるって。
あら、気が付けば目的地であるズィーズィー・ズーにたどり着いたようだ。
ドアを開けてレガリアから降りていく中男ら。ノクトが最後に私の頬を指先で軽くつついてきた。
「さっきから黙りこくって何考えてんだよ」
「…別に」
そっけなく返し私はクペを抱いて降りた。ノクトはムッとした顔になったけどそれ以上追及はしてこなかった。
「何回も話しかけたクポ。でも全然気づいてなかったクポ」
「そっか、ゴメンゴメン」
クペからの抗議に苦笑しながら謝り、ぐーんと伸びをする。
体中が痛い。やっぱり真ん中は疲れるから次はプロンプトと場所変わってもらおう。なんて目論んでいるとさっそくノクトが店主にシドニーからの届け物の件を伝えて、お願いクリアー。荷物は勝手に運ぶらしくレガリアはしばらく駐車することに。
皆で集まりこれからどうするかという話題になった時、
「わん!」
犬の鳴き声が後ろからして皆で一斉に振り返ると、そこにはノクト目指してやってくる一匹の黒犬の姿があった。
きた。
と同時に私の表情がわずかに歪む。
「アンブラ!」
ノクト筆頭に皆がその黒犬、アンブラを温かく迎える中、私だけがずずっと後ずさり距離を取る。
なぜかって?苦手だから。
クペが「分かりやすすぎクポ」と呟くのが耳に入った。ちょっとムカついたからクペのほっぺをムニムニして遊んであげた。
私の行動は皆には認知の上なので不思議がられることはない。
私と正反対の態度でノクトがアンブラをねぎらいながら声を掛けた。
「よしよし」
「届け物か、ご苦労さま」
「よくここがわかったな」
「有能な伝達役だからな」
プロンプト、グラディオラス。イグニスがアンブラの賢さを褒めちぎったり驚いたりしている。我関せずといった態度で彼らの様子を見守り、早く終わってと祈る。
ノクトとルナフレーナ嬢、二人だけの秘密の交換日記。
十年以上も途切れることなく続けられる絆の証に、私の心は長年乱され続けた。苦手意識を持たないほうがおかしい。アンブラだって嫌いじゃない。ただ、苦手。
彼女の犬だから。理由なんてそれだけのこと。でも周囲には私が犬が苦手だと思われているみたい。あえて、否定はしないことで私の態度は疑われていないことが助かっている。
ノクトはアンブラから本を受け取って開き、あるページで視線を止まらせごそごそと何かを取り出して本の表面に張り付けたようだ。きっとプロンプトが撮った写真を選んで張り付けたんだろう。近況を伝えるためには一番わかりやすいからね。……なんで私余計なこと考えてるのかしら。解説とかいらないし。
ぶるぶるっと頭を振って余計なことはもうおしまい。
アンブラは彼女の元へ帰るためにあっという間に去って行った。
「レティ、もう行ったぞ」
犬苦手という偽りを素直に信じてるノクトが私に向かって手招きしながら呼んできた。
「うん」
頷き返してノクトたちの方へ駆け寄った。プロンプトは私が犬を苦手だという話をノクトから教えられたようで
「姫でも苦手なものあるんだー!はい、一枚!」
とニマニマしながらパシャリ!と不意打ちを狙ってカメラのシャッターを切る。
「ちょっと!勝手に撮らないで」
「いいじゃん、一枚くらい」
「カメラ貸して。壊す」
「怖いこと真顔で言ってる!?」
あら、全開の笑顔で詰め寄ってあげたのに怖いだなんて失礼なこと言う人にはお仕置きしてあげなきゃ。
「サンもごっ「やめろ!周りに及ぶ被害を考えろっ」」
でも残念。私のサンダー落としはあえなくグラディオラスとイグニスの手により失敗に終わった。あとで覚えておきなさいと睨み付けてやったら、ほっと息をついてたプロンプトが「ひっ!」と小さく悲鳴を上げた。
いい気味だなんて余裕扱いてたのが悪かった。まさか反撃を喰らうなんて……。
きっとプロンプトに悪気はないんだと思う。つい出てしまった言葉なんだろう。
「ルナフレーナ様と大違い……」
「!?」
頭から雷を受けた衝撃が私に走った。よろりとふらつかなかったのが私の意地だったけど、これには堪えたよ。
普段の行いから彼女とは違いすぎるってわかってたけど、他人から言われるとキツイもので、私の機嫌はあっという間に急降下。沈黙レティの出来上がり。
皆が買い物を済ませている間、私はダイナー・クロウズの店内のカウンターにて自棄飲みすることにした。嬉しいことに私の小さな相棒、クペも昼間から付き合ってくれて、店主の生暖かい視線が送られる中、私はカウンター席に腰かけクペはテーブルの上に二人でジュッティーズを片手に乾杯をする。
「レティ、あんまり気にしないクポ。クペはレティらしくて好きだクポ。ちょっと元気すぎる時もあるけど、元気じゃないのはレティじゃないクポ」
「ありがとう、クペ」
目尻に堪った涙をそっと指先で拭いながら私はクペに微笑んだ。
「よぉし!今日は私のおごりだ!マスター、ジュッティーズもっと追加!それとポテトもお願いっ」
「レティ、天然水で酔ってるクポ?」
「お嬢さん、ちょっとそればっかで大丈夫ですか?」
マスター、私の注文聞こえないのかしら。ポテトって追加したじゃない。ジュッティーズばっかりじゃないじゃない。ポテトまだ?ジュッティーズまだ?
どんっと空になった瓶底をテーブルに勢いよく叩きつけ、私は
「いいから持ってこい」
可愛くお願いすると、
「!?は、はいっ」
とマスターは慌ただしく準備をし始める。
うんうん。素直なのはいいことだ。新たに追加されたジュッティーズの栓を開け、気分はハイテンションに近い!
「今日は思いっきり飲んでやるぅ!」
「だから水でどうやって酔うクポ」
周りの客からの冷ややかな視線もなんのその!
レティ、今最高にキテる!
【数分後、天然水で出来上がったレティは目を回してひっくり返ることになる】