レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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私とオレのすれ違い。

レティーシアside

 

 

比べられることにコンプレックスを抱えている私にアレは禁句だ。

 

『ルナフレーナ様と大違い……』

 

ルナフレーナとは大違い、それは当たり前だ。私と彼女は違う。

同じプリンセスでもあちらは正当な血筋で正真正銘物語に出てくる王道の存在、本物の王女。

方や私は血筋が不明でなおかつ偽物の王女。その存在は疎まれ戦争の脅威とならないために城にて幽閉生活20年。

 

ルナフレーナ嬢とは月とすっぽん。豚に真珠。天と地の差。雲泥万里。鯨と鰯。雪と墨……。ああ、色々私にピッタリな言葉が次から次へと浮かんでくる。無駄な知識ばっかり抱えていざって時役に立たないものね。

……一番自覚してるはずなのにね。何ショック受けてんだかと笑えてくる。

 

グラディオラスもイグニスも、ノクトも心の中じゃそう思ってるんだろうな。

ただ私が可哀想だから言わないだけかも。……憐れみか。同情か。それとも恥さらしの王女、だなんて内心は見下してたりして。

ヤバイ、どんどん卑屈になって嫌な人間になり下げっていく。

 

……気づけ、私が最後に信じれるのは結局クペと召喚獣達だけなんだって。ノクトは結婚してルナフレーナ嬢のものになる。私を守ってくれる王子様はいなくなるんだ。

そうと決まればさっさと意識を浮上させよう。ここでぐちぐち悩んでたって解決はしない。

 

「レティ」

 

……聞きなれた声がすぐそばでした。

誰かな、クペかな。目覚ましにはちょうどいい。

起きて、目を開けて。さぁ、また私だけの世界を見つけ出そう――。

 

 

少し身じろぎすればギシリと軋んだスプリングがする。

ゆっくりと瞼を開いて、くすんで痛みがかった天井とご対面。

私はベッドに寝かされていたようだ。あまり寝心地がいいとは言えないベッドだけど。窓際に置かれたライトがぼんやりと室内を照らしだす。もう夜を回っているみたい。窓から見える景色は暗くなっている。

きっとここはあのモーテルだと思う。雰囲気に酔って目を回したところまでは記憶に残っているから。お酒すら飲んだことないのに酔えるなんて、安上がり。

少し湿っぽいカビっぽい匂いがする。あまり使われてない部屋なのかしら。

ぼうっとした頭でゆっくりと体を起こす。どうせ誰もいないからと油断して。

 

「気持ち、悪い」

 

胃が重たいのはポテトの食べ過ぎだ。

 

「起きたか」

「!?」

 

私は驚いて言葉を失った。だって、傍には私を心配そうに見下ろすノクトの姿があったのだから。

 

「……ったく、食いすぎだろ。何やけ食いしてんだか」

 

あらかたの事情は知っているらしい言い方をする。ああ違う、そうじゃない。

なぜここにノクトがいるのか一瞬理解できない。

 

「……なんで、ノクトいるの」

「あ?アイツらなら用事済ませてる。今日はここに泊まるからって、もう夜だしな。出発明日になったから」

 

私の問いを別の意味で受け取ったノクトはそう説明した。

でも私はそんなことが聞きたいわけじゃない。

さっきまでの嫌な感情が蘇って来てノクトにぶつけたくなった。でもこみ上げてきそうな気持ち悪さの方が勝ってつい口元に手をあてがって背中を丸めた。

 

「……うっ」

「おい、大丈夫か」

 

椅子から少し腰を上げて私の背中をさすってくれるノクト。でも私は力を振り絞って片手でノクトの体を横に押し退けた。

 

「………大丈夫だから、私のことは気にしないで」

「どこが大丈夫って顔してんだ。イグニスが飲んどけって、薬。ほら、こっち向け」

 

テーブルの上に私用にと用意してあった薬と水差しからガラス素材のグラスを手に取り水を注ぎ、それを私に手渡して来る。

反射的に私は拒絶した。

 

「いらないっ!」

 

バシン!とノクトの手を突っぱねたことで水が入ったグラスがノクトの手から落ちて

 

がちゃん!

「おわっ!?」

「あ……」

 

落ちて割れてしまい中の水が盛大に零れた。

 

「……」

「……」

 

気まずい雰囲気が部屋に漂うけどノクトは無言でしゃがみこみガラス破片を素手で片づけ始めた。

 

ああ、危ない。素手じゃ切れてしまう。

私はレビテトで浮かせようとベッドから降りようとした。けど

 

「……、ゴメン。私、片づける、から……」

「レティ!?」

 

まだ足元がおぼつかなくてぐらりと視界が傾く。咄嗟にノクトが受け止めてくれたから助かった。

 

「あぶねっ、……いいから横になっとけ。オレがやる」

 

そういってまた私をベッドに腰かけさせてノクトは片づけを再開して私はみていることしかできなかった。不器用なノクトだけど掃除だけは何とかできたみたいできっちり硝子破片も処分して無くなった。忙しなく動くノクトをぼんやりと見つめていた。

 

「……」

「ほら、水。とりあえず飲めよ」

「……ありがとう……」

 

新しく注がれたグラスを両手で受け取り一口含む。

口の中、カラカラだった。「ほら」と手渡されたカプセルの薬を口に含んで水で押し流す。そんな私の横でノクトはベッドにドカッと腰かけた。

またスプリングがギシッと軋む。

 

「レティさ、溜め込みすぎ」

「……」

 

私は顔を俯かせたまま何も答えない。

 

「……」

「……」

 

グラスをサイドテーブルに置いてまたベッドに腰かけた。

しばらく、私達は何も話さなかった。膝の上で組んだ手にそっとノクトの手が伸ばされ重ねられる。それでも私はノクトの方は見上げない。

 

「オレ、そんなに頼りないか?」

 

近くで聞こえるノクトの沈んだ声。

ノクトは、気づいている。私が抱く劣等感に。

 

「だって、ノクトは……。頼れないよ。……ルナフレーナ嬢と結婚するじゃん。そしたら、他人みたいなものでしょ。今の関係はきっと終わる、から。頼りたくない。甘えちゃうもの」

「甘えたっていいんだよっ!」

「!」

 

乱暴に肩を掴まれぐいっとノクトの方を向かせられ、そこには切なげに表情を歪ませるノクトがいた。

 

「ノクト……」

「レティ、無理すんな。オレはお前のそんな顔、見たくねぇ」

 

どうして、ノクトはこんなに優しい言葉を掛けてくれるんだろう。

私の頬に伸ばされた手が温かくて尖った心にじんわり染みてくるよ。

 

「……私、どんな顔してる」

「今にも泣きそうな顔」

 

ずばりドンピシャ。

やせ我慢して私は無理やり笑った。今は半分だけ素直になってみよう。

 

「……あたり……。泣かないけどね」

「……レティ……」

 

理由なんか言えるわけない。こんな馬鹿みたいな個人的感情に振り回されて八つ当たりするなんて子供の癇癪と一緒だもの。情けない。

 

「でも、ちょっとだけ……貸して。最後だから」

「……」

 

許可を得る前に私はノクトの首に両腕を回し、驚いて息を呑む彼ごとそのままベッドへと押し倒した。

 

二人分の重さに大きくベッドが軋んで沈む。

ノクトの胸に耳をあてがうと心臓の鼓動が早くてクスッと笑ってしまった。

 

「……」

「ノクト、心臓、ドキドキしてるね」

 

そう指摘してみると、ノクトは、

 

「……レティが驚かせる真似するからだろ」

 

とお返しと言わんばかりに私の髪を弄ぶ。

 

「だね」

                                    

きっと船に乗ればそれも終わるから。

 

「最後だから」

「最後じゃねぇ」

 

律儀に言い返さなくてもいいのに。

 

この温もりを手放さなきゃいけない。でも今この瞬間だけは私だけのもの。

……今だけは、ノクトを独占させてほしい。

明日にはすぐに貴方の心の元へ帰すから。だから、今だけは……。

 

ノクトに縋りつき私は瞼を閉じて眠りにつく。

 

【最後と自分に言い聞かせて】

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