レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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言い知れぬ不安。

レティとノクト。

 

一見以前と変わらないように見えて、レティを見つめるノクトの視線は、兄ではなく一人の男としてのものであると気付いたのはクペとグラディオぐらいなものである。その決定的な瞬間が、あの時だった。

 

レガリアがガーディナ渡船場に近づくにつれてラジオからはルナフレーナの声明が流れ、結婚しても神薙としての変わらぬ仕事を約束すると語っていた。レティは彼女の声を聴いた途端、わかりやすくキャップを目深にかぶって寝たふりを決め込んだ。プロンプトやグラディオがルナフレーナとの結婚ネタでノクトをいじるがノクトは、鬱陶しそうに「ふん」と鼻を鳴らして黙り込んだことで二人はつまらないといった風に大人しくなった。

海が近づくにつれて、今度はレティが元気にはしゃぎ始めた。

席を立ちあがってキャップを取り、銀色の髪を風になびかせ子供のように目をキラキラさせて大喜びする様にノクトやプロンプトそしてクペも同調した。

 

「うわー!すごいー海だ」

「すげー!」

「おお!」

「綺麗クポ~!」

 

長い下り坂を下りればすぐカーディナ渡船場は目の前である。

だがそこへ行くまでの道すがら、カーブは下り坂になってきており、少しきつめとなっている。

 

「はしゃぎすぎて落ちるなよ」

 

グラディオが元気がよすぎるレティに気を付けるよう言うが、

 

「大丈夫だよーってふぎゃ!」

 

過信しすぎたレティはバランスを崩してノクトの上に倒れ込んでしまった。

ちょっと痛いところに入ったノクトは「ぐっ!」と呻きながらも耐えてレティを受け止めた。イグニスは運転中なのでミラー越しにレティの現状を確認しながら「大人しくしててくれ」と疲れた声を出し、プロンプトが何事かと振り返ったり。

 

「おいおい、言ってる側から……」

 

グラディオが呆れた様子でレティに手を貸しノクトから引き起こし真ん中へ座らせる。

レティは慌てて、ノクトに謝った。

 

「ゴメン!ノクト、大丈夫?」

「…ん…」

「ほんとゴメン。痛かったよね」

 

眉を下げて必死に謝るレティにノクトはクスッと微笑んでレティの頬をむにゅっと抓んだ。

 

「大丈夫だよ、やわじゃねーし」

「…いしゃい…」

 

不満げにレティがノクトを軽く睨むとノクトは珍しく声に「アハハ!」と出して笑った。

他人から見れば仲の良い兄妹のやり取りに見えるかもしれない。実際二人はいつもこのような触れ合いをしていた。だがグラディオはノクトの視線で勘付いた。

 

コイツ、自覚したな、と。

 

レティとクペを除いてこのメンバーの中で唯一この兄妹の隠された関係を知っているグラディオだけだ。それゆえにこの先の結婚式が不安で仕方ない。まさかの大どんでん返しあるとかは勘弁してくれよなと頭抱えそうになる。

だがあくまで、想像であってノクトの真意は測れない。

 

ノクトはルシスの王子であることをちゃんと自覚し受け止めている。

この旅はノクトはルナフレーナとの結婚式に赴いている事実をしっかりと認識もしているはずだ。だからグラディオは何も言わない。

 

決断し、行動を起こすのはノクトだが諫める立場なのも自分たちなのだから。

 

 

色々問題はあったが、無事にカーディナ渡船場にたどり着くことができた王子様一行はふらりと寄り道はしないで、パーキングにレガリアを停め、海の上に設けられた桟橋を渡って船着き場を目指すことにした。だがそこで思いもよらぬ出会いを果たそうとは、この時誰しも予想すらしなかった。

長い桟橋を渡り終えて宿泊施設などが備わっている店内へ入った時の事。

談笑しながら歩くノクトたちの行く手を遮るように謎の男が現れたのだ。

赤髪のショートヘアの男は初対面のノクトたちにこういった。

 

「残念なお知らせです」

 

見知らぬ男にいきなりこんなことを言われれば立ちふさがれれば怪訝な表情をするしかないノクトたち。

 

「はぁ?」

 

ノクトは訝しみ、レティはクペを抱き込みながらノクトの後ろで何事?と首を傾げた。

 

「船、乗りに来たんでしょ?」

「…そうだけど」

 

プロンプトが戸惑いながら肯定すると、男はスッとノクトたちの間をわざと通り過ぎていきながら、

 

「うん、出てないってさ」

 

と軽い言い方をした。さすがに相手のペースに巻き込まれていることに耐えかねて、グラディオがずいっと一歩相手に近づいて

 

「なんだ、アンタ」

 

警戒こもった問いかけをする。だが男はグラディオの様子など気にも留めずに自分の言いたいことだけをペラペラと喋り始めた。

 

「待つの嫌なんだよね~、帰ろうかって。停戦の影響かな~」

 

わざとらしい芝居かかった口調で言ながら男は、くるっと振り返りピッと指先でコインを弾きノクトに向かって投げた。思わず腕で受け身をとったノクトだったが、そこはさすが王の盾。パシッと手で見事受け止めたグラディオ。自分の手に収まったコインを一瞥した。

 

「停戦記念にコインでも出たのか?」

「えっ?マジで?」

「出ねーよ」

 

ノクトがバッサリとプロンプトの言葉を切り捨てた。レティはこそこそと動いてグラディオが持つコインを盗み見た。男は

 

「それ、お小遣い」

「はぁ?」

 

先ほどから飄々とした男の態度に、グラディオはついに腹に据えかねて声音を低くして問い詰めるように尋ねた。

 

「おい、あんた何なんだ」

「見ての通りの一般人」

 

だが男は余裕そうに腕を広げて大仰に振舞う。得体のしれぬ相手にノクト達の警戒心は高まりつつあった。だが男はさらに大胆な行動に出た。

 

「ところで」

「っ!?」

 

警戒は一応していたものの、不意打ちだった。レティの前男が接近してきたかと思ったら素早い動きでキャップを奪われてしまったのだ。キャップに髪をまとめて入れていたのがばさりと珍しい銀髪が広がり露わになってしまう。

 

「っ!返して!」

 

こんな人が多い所でこの髪は目立ちすぎる。

すぐにレティはキッと男を睨み付けて片手でバッとキャップを奪い取り、すぐにレティの腕を掴んで後ろに下がらせたノクトや盾となったイグニスらのお陰で男から距離を離すことができた。周りの客がレティの荒げた声に何事かと動きを止める。

 

「ああ、ごめんね。つい、さ。気になって」

 

男はギャラリーの視線など気にせず悪びれた様子もなく軽い調子で謝った。

グラディオラスに睨みにも屈しない、寧ろ飄々としている男が得体が知れず、レティは怖いと感じてしまった。

男が目を細めてレティだけを見据えて来る。口元に怪しげな笑みを浮かべ、

 

「その子、可愛いねぇ。珍しい『毛色』の女の子。そのお人形も『特別製』かな」

 

と両目を細め、まるで獲物を捕捉したような狩人のようだとレティは恐れを抱いた。

 

「……!」

 

 

この男、気づいたとレティは直感した。胸に抱いているクペの存在に。

目を見張り息を呑むレティ。クペがぶるりと体を震わせた。

男はなおも矢次に質問をしてくる。

 

「男四人に女の子一人。ねぇ、どういう関係?観光、とか?」

「アンタに関係ねぇだろ」

 

レティをしっかりと庇いつつノクトがぴしゃりとそう言い返すと、

 

「そうかい。気分悪くさせたなら謝るよ。なんせ、今大変な時だからさぁ」

 

と男は背を向けひらりと手を振り、

 

「またね、可愛いお嬢さん」

 

と鼻歌唄いながら去って行った。

 

「ねーわ」

 

ノクトが男の背を見送りながらあきれ果てたように言った。

レティとしては、誰がまた会うか!怒鳴ってやりたい気持ちはあった。が、声に出せなかった。あの男の瞳が怖いと思ってしまったからだ。

思わずレティは縋るようにイグニスのジャケットを掴んだ。するとイグニスはレティの様子に気づき、労わるようにレティの肩に手を置いて声を掛けた。

 

「すまなかった、大丈夫か?」

「大丈夫、ちょっとビックリしただけ」

 

レティは強張った笑みで笑い返した。

 

「気にするな、レティ。バレてねぇよ」

「……うん……」

 

ノクトたちは気遣いにより少しは気持ちが落ち着くことができたが、レティの中では、あの男がなぜか引っ掛かっていた。どうしてか、嫌な感じがする……。妙な胸騒ぎがしてしかたない。ノクト達は男が言っていた情報をいまいち信用しておらず、とにかく見に行ってみようということになった。キャップをしっかりと被り直すレティ。

 

「レティ、行こうぜ」

「うん」

 

ノクトに促されてレティは共に歩き出す。クペはノクト達に気づかれないようにレティの頭に直接話しかけてきた。

 

(……レティ、アイツから変な力を感じたクポ)

(変な、力?)

(わからないクポ。でも……怖いクポ)

 

やっぱり、とレティは表情を曇らせた。

 

(…クペ…。あのさ、さっき、勘付かれたかもしれないの。でも、ノクト達にはまだ言わないでね)

(……でも)

(いいの。今は言わない方がいい。おめでたい結婚式が待ってるんだから。水を差す真似をしちゃいけないわ)

 

レティのこの時の判断がのちに、ノクト達との別れを引き寄せることになるとは考えもしなかった。

もし、ノクトたちにあの男について感じたことを一言でも伝えていたら、もしかしたら、別の運命も待っていたかもしれない。だがこれも運命を書き換えるための通過点。

たとえ、胸が引き裂かれるような辛く苦しい別れだとしても。もし、彼女がああなることを事前に知っていたのなら、全て承知で受け止め何も告げることはなかっただろう。

 

全ては、彼の為と自分に言い聞かせて。

 

【狙いをつけられた子猫ちゃん】

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