レティーシアside
昨夜の出来事はきっと夢だ。そうに違いない。
あはは、どうやら思っていたよりも相当体力を消耗していたようだ。イグニスに適当に相槌を打って返事を返した私は、早々にテントに戻った。すれ違いざまにノクトと会ったような、会ってないような気がしたけど相当疲れていたから曖昧で覚えていない。すぐに倒れるようにベッドinした私は次の日、爽快な目覚めを…することはかなわなかった。
どうしてだか眠れなくてクペに起こされる必要もなくベッドから起き上がってバスルームへ行き、楕円形の鏡を覗き込んだら目元に隈がはっきりと浮き上がっている私を見て思わず悲鳴を上げてしまった。
幸い、外へその悲鳴が漏れることはなく、クペが転がるように飛んできて何事クポ!と驚いただけですんだ。だが私としてはなぜこんな顔になると衝撃を受けた。だが落ち込んでいても仕方がない。そう、くよくよしないのが私の良いところ。
私は普段薄化粧だが、やるときはやる。
メイク道具片手に、華麗に変身してやろうではないか!
意気込んだ私はさっそく変身の準備へと取り掛かった。
※
プロンプトから朝食だよと声を掛けられて私はわかったと返事を返して、鏡に映る自分の完璧な姿を再確認して頷いた。そこには華麗なプリンセスがいるではないか。
普段の倍以上のメイク時間をかけたのだ。当然である。もともと素質は悪くないはず。ルナフレーナ嬢のように清楚で凛としたイメージはまったくないが褒められるくらいのレベルはあるはず。
「大丈夫。全然バレないメイクだわ」
自分で自分の出来に太鼓判を押すくらいだ。私は相当キテいる。だがバレるわけにはいかない。特にイグニスには。
なぜイグニスなのかわからないが特に警戒すべき相手なのだろう。
私はパシッと両頬を軽く叩いて気合を入れた。
「行くわよ、レティ」
私は皆が待つ、朝食の場へと向かったのである。
※
どうしてかイグニスが甲斐甲斐しく世話をしてくる。それと妙に、優しくて気持ち悪い。
「レティ、ここに座るといい」
「あ、ありがと……」
わざわざチェアを引く真似までしなくてもいいのに、どうせ草原のど真ん中なんだから。イグニスは紳士ぶりを朝から炸裂させる。他の男たちの視線が痛いくらい突き刺さる。私だってどうしてこうなったか知りたいくらいだ。
「メイクしたのか?」
「あ、うん。ちょっと、気分転換…」
私は髪を耳にかきあげて曖昧に微笑んだ。
さっさと行け!と念を送る。
「そうか。……君によく似合ってる。……(綺麗だ)」
「!?」
イグニスが屈んだと思ったら耳元で後半の台詞を吐かれた私はぞわっと背筋が震えた。
「ぎょひ!?」
「姫、なに朝から変な声だして」
「なななな、なんでもないなんでもないから!」
私の拒否反応から出た情けない悲鳴に怪訝そうな顔をするプロンプト。私は慌てて手をぶんぶんふって気にするなと伝えた。その後、イグニスから手渡された朝食を食べたが、まったく味が感じられなかった。まるで監視されているようにイグニスの視線をびしびしと感じまくっていたからだ。あとノクトからも。なんで男二人から胃が痛くなるような視線を浴びなければならないのか、まったくわけがわからなかった。
とにかく逃げなければとの思いで朝食を食べ終えてた私達は、プロンプトの提案で黒チョコボ探しへと出かけることにした。
「チョコボに会える!」
「はいはい」
「私も会いたい滅茶苦茶会いたいぜひ会ってみたいです!」
「姫も?そうだよね」
私は一も二もなく頷いて賛成の意思を示した。
助かった、よく提案したぞプロンプト!
これで少しは二人から距離を取れると安堵できたからだ。
道中、トウコツの集団に遭遇した私達は、やむなく戦闘をすることに。私は襲われることはなかったけど、こう、構ってくださいアピールが怖かった。涎垂らしながらだらしなく舌を出して牙を見せていて、隙をついて飛びかかられそうで。
ノクトとイグニスがやたらと私を庇ってくれてそういうことはなかったけど、逆にうざかった。思わず自分にヘイストかけてさっさとこの場から逃走を図りたかった。だができなかった。
「レティ、オレから離れるなよ」
「君は、目を離すと危ない目に合うからな」
ノクトとイグニスの強固な盾により私は動くことすらままならず、耐えて戦闘が終わるのを待った。きっとこれ以上の苦痛は訪れないだろうと思ったから。
だが、もっと最悪な状況に追い込まれるなど、思わなかった。
※
黒チョコボ。うん、可愛い。嘴を私の顔にこすりつけて愛嬌を振りまく黒チョコボ。
プロンプトが近づいたら素早く逃げるけど私がおいでおいでと手招きしたらすんなりと近寄ってきた。どうやら男が嫌いならしい。もしかして性別雄なのか。でも私にチョコボの性別を判断する知識はないので好かれたんだなと単純に受け止めることのした。
いつもの私だったら今以上に撫でまくって愛でまくって構いたおすのに。その気力すらわかない。全てはこいつらの所為だ。
「レティ、チョコボくさくなるぞ」
「へい」
とか言うなら私の背後から離れろノクト。アンタは背後霊か。
「レティ、お腹空かないか。君の好きなお菓子買っておいたぞ」
「へいへい」
そりゃありがとうさんです。でもいつもの食欲も失せているんです。放っておいて。
「レティ」
「はいはい」
「レティ」
「はいはいはい!」
「「レティ」」
ぶちっ。
我慢の限界地、突破しました。私、レティーシアはこれからキレます。
怒りの形相でノクトとイグニスとギッと睨み付けると、黒チョコボが怯えてクエー!と逃げて行った。そうさ、逃げるがいい。だが男二人は逃さない!
私の変貌に男二人はぎょっと目を剥いた。
「レティレティうるさいわバカやろ――!そう何回も呼ばなくても聞こえてるってーの!なんなの!?朝からイグニスは気持ち悪いくらい優しいし普段の倍以上に世話焼きだしノクトはべったいするくらい人に引っ付いて暑苦しったらありゃしないしねちっこい視線でずっと追いかけてきてやっぱ気持ち悪いし知らないところで二人張り合ってるしそれに私を巻き込むなっつーの!私が何かしました?!アンタらの気の触る発言でもしましたか??知らないんですけどまったく身に覚え名がないんですけど私のいないとこでどうぞお二人仲良く張り合ってくださいませ!私を一切、巻き込むな!」
超早口で言いまくしたてた私は、最後にフン!と鼻息を荒くさせてくるりと呆けている男二人に背を向けると、さきほどの黒チョコボを呼び寄せた。気合で。
「ここにいたくないからどっか連れてって!」
「クエー」
黒チョコボはわかったと了承するように、少し体をかがめて私が乗りやすい体勢をつくってくれた。私は「クペ行くわよ」と一声掛けて軽く地面をジャンプして黒チョコボに乗った。呆気にとられる男子たちを一瞥し、
「ではごきげんよう」
と挨拶をしてさっさと黒チョコボを走らせたのである。
その後、私のスマホの電源はばっちし落としたので男子たちからの連絡は一切なく快適な黒チョコボとのドライブが楽しめた。日も暮れ始めた頃、テント近くで私は機嫌よく黒チョコボに礼を言って別れた。今度会えたな名前を付けてあげようと思う。
クペはノクトたち怒ってるクポ~なんてビビッてたけど私は気にしない。
怒ってようが文句言ってこようが、来るなら来い。
迎え撃ってやるとむしろ意気込んだ。
キャンプポイントにノクトたちの姿はあった。
私の姿を見た途端、走って駆け寄ってきたプロンプト。両肩を掴まれ、どこも怪我してないよね?と私の体をチェックしだす彼に苦笑した。
「姫!?良かった、無事に戻ってきたー!」
「レティ、スマホの電源落とすなっつーの。……ったく冷や冷やしたぜ」
グラディオラスも寄ってきて、私の頭にポン!と手を置いた。
「ゴメンね、プロンプト、グラディオラス。ちょっとストレスたまりにたまりまくってたから抑えきれなくて。誰かさんらの所為で」
私の無事を素直に喜んで迎えてくれた二人に謝罪しつつ、後半の言葉はわざと声を大きくして言った。むろん、わざとだ。夕食の支度をしていたイグニスが、気まずそうにフライ返しを片手に持ちながら
「レティ、…その、すまなかった」
と謝ってきた。続いて飛びあがるように立ち上がってチェアをひっくり返したことも厭わずに、私をじっと見つめていたノクト。ゆっくりと私の方へ近寄ってきて、弱り切った声で、
「……悪かった、よ……。だから、だから…勝手にいなくなるなよ……。心配した」
と私の背に手を回してぎゅっと抱き着いてきた。私は拒むことなくノクトの背に手を回して抱擁してあげた。
「……もう反省した?」
「十分」
「イグニスは?」
「ああ、もうたくさんだがな」
「ならオッケー、許しましょう。……やっぱり仲間なんだから仲良くしないと!」
ノクトから体を離して私は、いかにチームワークが大切かと語った。
プロンプトにスゴイ顔で見られた。自分が言いますかって顔だったね。アレは。
後でサンダー落としてやろう。
皆で仲良く夕食を食べて、心行くまで語り合い、笑いあった。
お互いの腹に堪ったもやもやを解消するように。
でも一つ理解できないことがある。
イグニスが言っていたことだ。
「そこは賛成だな。だが一つだけ譲れないことはあるんだ。それに関しては妥協してくれ」
「え?」
「そうそう。オレもそれだけは負けるつもりねえし」
「何が?」
何やらイグニスとノクトの中で闘争心が芽生えているらしく、それが何なのかわからなかった私は、首を傾げて尋ねてみたが、
「……わからないのか?」
と逆に困惑した表情でイグニスに問われた。
「わかんない」
と答えると、イグニスはガクッと肩を落とした。
「…………クッ、レティの都合のいい記憶力か。…オレとしたことが失念していた」
反対にノクトは余裕しゃくしゃくな態度でイグニスを笑った。
「くくっ、残念だったな。イグニス、レティは昔からこんな感じなんだよ。そうやすやすと落とせないぜ」
だがイグニスは眼鏡の奥できらりんと目を光らせた、ように見えた。
「……それはノクト、お前だって言えるだろう」
「な!?」
その切り替えしにわかりやすく呻いたノクト。
「なんせ王子の待ちに待った愛しの姫との結婚式だからな。それはもう盛大だろう」
「イグニス、てめえ……!」
一体何がノクトの弱点を突いたのか見当もつかないが、また雰囲気が悪くなりかけたので、私が二人の熱を覚まさせるために、ウォータを二人の頭上で発動させた。
「うぉ!?」
「ぬっ!」
ばっしゃんと頭から大量の水を被り驚く二人に
「次したら、二人とも仲良くカエルにしてあげるわよ」
と低い声で伝えると、二人はさぁーと顔を蒼くさせて何度も頷き返した。
これてにて一件落着!
私は満足気に頷いて二人にクペから持ってきてもらったふかふかのタオルを渡したのであった。
※
レティがテントに戻った後のノクトとイグニスの会話。
イグニス「……しかし、レティにはてんで叶わないな」
ノクト「だったら諦めろよ」
イグニス「誰が。……やっと自分の気持ちに正直になったんだ。今さら諦めるなんてできない」
ノクト「…………」
イグニス「機会を改めてもう一度レティに婚約を申し込む。今度は正式に」
ノクト「……………」
イグニス「ノクト、お前のレティの対する気持ちが家族としてなのか、それともそれ以外へのものなのか。はっきりさせる頃合いだ。どちらにせよ、君は重大な決断をしなくてはいけないということだけは覚えておくんだ」
ノクト「…わかってるよ、んなもん……」