今日もレガリアは走る、走る、走る。なぜかというとオルティシエに行く船が出るまで時間が掛かるから。その辺はあの記者が何とかしているらしい。
でも走ってばっかりだとガソリン入れなければガス欠になり走れなくなる=また手押し=旅の危機=皆へばる(レティとクペ以外)=旅終わり。メーターの給油タンクの残量が少なくなってきたのを見てイグニスは呟くように言った。
「ガソリン入れないとな」
すると、助手席のプロンプトが走っている最中に看板を見つけて指さした。
「あ、もう少し先にガススタあるじゃん。いこうよ」
「そうだな」
イグニスが賛成だと頷く。レティが首を傾げて
「ガススタ?」
と頭上にはてなマーク出現させて不思議そうな顔をした。レティの膝には「毛が逆立つクポ~。静電気クポ~」とクペが毛を逆立たせて困った様子だった。レティはクペの毛をなでなでしてあげたが、たまにバチッと手に軽い電気が走った。プロンプトが
「姫、知らないの?免許持ってるのに」
とびっくりした様子で尋ねると、レティは少し戸惑った声で、
「ガソリンスタンドっていうのは知ってるけど……ガススタ…?なんか食べ物の名前?」
とボケて答えた。プロンプトはガクッと態勢を崩して苦笑しながら
「それ違うから!ガソリンスタンドの略称。略してガススタ、ね?そのまんまだよ」
と教えた。するとレティはぽん!と納得したように手を叩いて、
「おお!なるほど」
と合点がいったようだ。プロンプトとグラディオラスが
「そこらへんはやっぱりお姫様だね」
「知らないことはとことん知らないからな。レティは」
と変なところで抜けてるレティの話題でしばし花を咲かせた。どうせ、世間知らずですよー!と拗ねてレティと夢見る王子様状態のノクト、そして静電気バチバチさせているクペを乗せてレガリアはガソリンスタンドへ向かったわけである。
運転させて運転させてコールを送るレティの可愛い攻撃をひやりとしながらも無事にかわすことに成功したイグニスはガススタの給油機の前にレガリアを停車させた。それぞれがドアを開いてレガリアから降りていく。プロンプトはぐーんと体を伸ばしたり近くを散策に向かったり、グラディオラスは「腹減った…」とおなか抑えながらショップに入っていく。レティは一応眠っているノクトに軽く肩を揺らしながら声を掛けた。
「ノクト、着いたよ」
「んん………」
だが少し返事しただけで起きる気配はない。レティはふぅと息を吐いて仕方ないと自分もレガリアから降りた。イグニスは給油口の開閉スイッチを押して運転席から降りた。
レティは興味津々にイグニスの後ろについた。ガソリンを入れるところを見たいようだ。
レティの肩には静電気の所為で毛が逆立っているクペが乗っかっていることにイグニスはまだ気が付いていない。
「へぇ~、こうなってるんだ」
「ああ、まずは給油口を開いて…この静電気除去シートに手を当てる。これは静電気を防ぐ役割があるんだ」
「へぇ?静電気がガソリンに引火したりするの?」
「ああ。万全を備えてこれは給油前に必ずやることだ」
「そっか、じゃあ今私はダメなのかな?」
「なぜ?」
「だって、クペが今静電気バリバリで毛が逆立ってるの」
「それを早く言え!」
イグニスが驚愕して、レティからバッと体を離した。
一応イグニスは大丈夫だが、万が一ということもある。もうちょっとでやばったかもしれない事実にレティはいまいち気の抜けるやり取りをした。
「そんなに離れなくても…。ねー?」「ねー?クポ」
一人と一匹の仲の良いやり取りもイグニスにとっては非常に腹立たしいものだった。
思わずイグニスが叱責を飛ばしたくらいだ。
「君たちは危機感というものが欠けているのか!どんな時でも安全というものはやり方次第で危険へと変わるんだ。大体レティは普段から周りのペースを巻き込んで自分の好き勝手にやっているがそれがいつ、仲間を危険に巻き込むかわからないんだぞ。少しは自重というものを学ぶべきだ」
見る見るうちにレティの態度は急降下していく。
「……………そりゃスイマセンね。世間知らずの我儘娘で悪うござんした」
とまったく心の籠っていない謝罪をした。嫌そうに。それがまたレティを追及する問題点となってしまった。イグニスは鋭い切り返しで
「それが君の謝罪の仕方なのか。だとしたら王女の品位を疑われるぞ」
とレティの痛いところを言葉攻めで突いた。
レティは切なそうに瞼を閉じて、片腕をぎゅっと握りしめて蚊が鳴くような小さな声で言った。
「……好きで王女になったわけじゃないわ…」
「だが君は王女だ。その身である限り王女と敬われる存在なんだ」
イグニスは、レティの為に叱り付けた。勿論、イグニスとてそのようなキツイ言葉はいいたくなかった。だが、ルシス国の王女であるレティの未来の為にあえて叱った。
そのイグニスの想いに気が付いたのか、それとも叱責されたからあえて意識したのかわからないが、レティはイグニスに頭を下げ、
「…………申し訳ありませんでした。このようなことがないよう、以後気を付けます」
と謝罪した。イグニスは目を丸くさせ、しばし何を言えばいいか言葉に詰まったが、
「いや、オレも少し言い過ぎた……。すまない」
とレティに謝った。レティはやめてと手で制し弱弱しい笑みで、
「……いいの。今のは私が悪かったからイグニスは謝らないで」
というと、イグニスはまたレティに歩み寄って、
「いや、そういうわけには……」
いかないと続けようとした言葉は、すっと伸ばされたレティの人差し指で唇をふさがれたことで終わりを告げる。
「お願い、もうやめて」
イグニスは目を見張り、思考が一瞬停止した。
「…………」
レティの瞳が、悲しさを宿しているように見えたのだ。
自分の唇に触れる指先が、少し震えていたのに分かった。
レティは指を離して、イグニスと、名を呼んだ。
「せめて、この旅が続く間は、…王女でないただの私を見て欲しいの…」
そっと指を下してレティは顔を俯かせた。
「……レティ…」
「我儘だって思ってるわ。かなうはずもないことだと思ってる。…それでも、ほんの少しでいいの。ちょっとだけでもいい。私を、ただのレティーシアを知ってほしい……(別れの時まで)」
「レティ」
イグニスはたまらずにレティを抱き寄せた。
レティは抱きしめられたことに驚いて声を上げた。
「……!イグニスっ」
「オレも忘れてたよ」
だが優しい声に離してというつもりだった声もでなくなった。
自分を労わる感情が真摯に伝わってくるのだ。
「イグニス…」
「生意気な君が、こんなにもオレの胸に収まってしまうほど弱く小さな女性だったことを」
「……………」
じっと見つめ合う二人。レティはほんのりと頬を染めた。
二人の世界が続くように思えた。その瞬間、ひやりとイグニスの首後ろに押し付けるように当てられる鋭利な存在が現れ、その人物は底冷えするような声音でイグニスを脅した。
「レティから離れろ、イグニス」
イグニスは、直感でヤバイと感じるとレティから手を離し、降参のポーズをとった。
「………わかったからノクトもその物騒なものを消してくれ」
レティはレガリアから身を乗り出してイグニスに剣を差し向けるノクトの存在に初めて気が付き、口をパクパクとさせたのち、
「の、のののノクトぉ――!?寝てたんじゃなかったの?!」
とぴゅー!と素早い動きでイグニスから離れた。若干、顔を赤くさせて。
ノクトは、出現させた剣を消し去って、レガリアから飛び降りた。
「起きてたよ。わりーか。レティが起こしたんだろ」
と言いながら、イグニスをまるで敵討ちでも見るような目つきで睨み、わざとレティとイグニスの間に割り込んだ。
「イグニス、あくまでお前はオレのサポート役だろ。レティに手ぇ出すな」
「……場を弁えなかったのは悪かった。だがオレがレティに何を言おうとノクトには関係ないはずだが」
「今抱きしめてただろーが!」
吠えるようなノクトのいい方を大人の余裕でイグニスは軽やかにかわした。
「それは仕方ない。オレは彼女が好きなのだから」
「な!?」
恥ずかしげもなく好きだと言いのけるイグニスにノクトは言葉を失った。
そして、同時にレティがなんと答えるのか、まさかと最悪な想像をめぐらせたノクトは焦って振り返った。
「レティ…」
縋るような声を出しながら振り返った先に、レティは身を縮こまらせてしゃがんでいた。しかも両耳塞いで自分に言い聞かせるように「弱い弱いメンタルヤバすぎ私疲れてるんだわ日頃のストレス発散が全然効いてないよヤバいヤバいもっと魔法連発させた方がいいのかしらそれとも召喚獣バンバン呼んでレッツパーリィ!ってやつ試した方がいいのかしらそれとも私自身がレッツパーリィ!ってやったほうがいいのかしらいやいやそれじゃあ私御一人様パーティじゃないそれって寂しくない?駄目じゃない?ああ駄目だまったく考えがまとまらないよしここは一発ギャグで気合を入れてみるか」
「レティ」
「え?」
なぜか一発ギャグし始めようとしたレティを止めるためにノクトはスタスタと歩み寄り、少し屈んでぺしんと軽く頭を叩いて意識を戻らせた。
「レティ、今の聞いてたか?」
ノクトからの唐突な質問にレティはわけがわからず戸惑った。
「な、なにを?」
「……だってさ、良かったな」
立ち上げってイグニスのほうに振り返り、ほくそ笑んだ。イグニスは反対に悔恨の念に囚われたようで、大げさに地面に片膝ついて顔を俯かせた。だが、ぐっと拳を握って
「……まだだ。次こそは!」
と自分を奮い立たせて再リベンジを固く誓った。ノクトもノクトで
「次なんていわせねえぜ」
と何が何でも防いでやると意気込む。レティが二人の話についていけなくて置いてけぼりされていた。
「一体何の話?」
「レティ~、ラブコメしてないで助けてクポ~」
「あ、そういえば忘れてた!」
クペの助けを求める声に、レティは最初の問題点に気付き慌てて立ち上がりクペを抱いて静電気除去シートにクペの小さな手を押し当ててあげた。そのお陰ですっかりクペの静電気は取り除かれスッキリとしたいつも通りのクペが出来上がり。
「良かったね、クペ」
「スッキリクポ!」
ノクトとイグニスの熾烈な争いにはまったく興味もないレティでした。
【我関せず焉】