レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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思い出花火

レティーシアside

 

 

きっと掛け替えのない思い出となる。

 

私はこの旅でノクト達と忘れられない記憶を刻みたいと願った。

普段ははっちゃけているのだって、実はいろんなノクトたちの反応を見てみたいから。

どんなことをすれば笑ってくれるのか、ここまでのラインなら怒られないんだなとか、でもちょっと冒険してみたいとこもあったり。打算的なことを考えながら皆の反応を楽しんでいる。そんな誰も知らない私の本質をクペは知っている。こんな私の本性をクペは、そのまま丸ごとのレティが大好きだと言ってくれる。あざとい女だって自分でもわかってるのに、それでもいい、レティがクペを好きなようにクペもレティが好きだって。

 

私に、もし、仮に重大な選択を迫られる時が来たとしてもクペは私を信じて着いていくと言ってくれた。私の大切な友達。彼女との友情は永遠のものだって確信がある。

でも私は自分を卑下することをやめられない。

 

嫌でもあの人と自分を比べてしまうんだ。

ルナフレーナ・ノックス・フルーレ、その人と。

 

彼女はテネブラエ王国で名門といわれるフルーレ家の令嬢。代々神薙の巫女を選出してきた家系にある。その中でも最年少で神薙の巫女になったルナフレーナ嬢は世界中の人々から敬愛されその人柄で慕われている。神と対話しその意思を伝える役目。

誰にでもできるわけじゃない。ましてや、彼女は純血。私のようなどこの男かもわからない血と狂った女の器を受け継いだ卑しい女などとは位そのものが違う。

 

分かっている。比べることすらおこがましいと。

産まれからしてすでに違うのだ。張り合ったって負けてるのは確実。

 

私は彼女のように、しっかりとした意思なんてなくていつもふらふら。

揺るがない信念なんてない。ただ我武者羅にやって気づいた後で自己嫌悪。

逆境に強くもない。精神的に不安定なのは毎度のお馴染み。

唯一誇れること。枯渇しない魔力と召喚獣との絆。それだけ。

 

たった、それだけなの、私にあるのは。

 

でも彼女は私よりもずっとスゴイ立場にある。神の巫女と正式に認められた神薙としての立場。

それに私が持っているものを彼女は持っていく権利がある。そのパスを彼女は所有しているんだ。

 

ノクトとの絆も、ルシス国での居場所も、彼女が全て持っていく。

私から、全て。

 

取らないで、私から取っていかないで!

 

夜、ベッドで魘されることもあった。目が覚めてふと、気が付くとクペが私の顔に引っ付いていて泣いていた。『レティ、泣かないで』って。そこで私はようやく泣いていたことに気が付いた。そしたら、なんだか急に悲しさが溢れ出して共に涙してくれるクペを抱いて泣いた。声を押し殺して。泣いた。

 

取られるなんて、ことないのにね。元々私に持つ資格すらなかっただけの話。

今は大丈夫。もう受け入れてるから。

 

バカみたいな考えも一時期、持ってたのは事実。

そうでもしないと気が狂いそうになってたから。八つ当たりだよね。ううん、嫉妬、かな。醜い嫉妬心を抱いて自分の悲劇のヒロインぶって自分で自分を慰めてた。

だから童話の世界に強い憧れを抱いていた。いつか、私を救いに来る王子様がやってくる。悪い魔法使いに閉じ込められているお姫様を救いに。

そして二人は手に手を取ってハッピーエンド。

 

なんてありきたりな筋書き。現実にそんな者はなく、私は惨めな想いで籠の中から外を眺めるだけの毎日。その価値は何のためにあり、私は何のために生かされているのか理由がわからず、ただ外の世界へ行けばきっとそこに私の居場所があるって妄想に駆られて先走った生き方をした。

……愛されたいと、願った。

 

こんな私を愛してくれる人を、求めた。

 

でもそんな人いやしない。元から幻を見ていたんだ。

私は、飾りだけの王女。その地位もまやかしで存在も産まれるべきじゃなかった。

だからこの苦しさは誰にも明かしてはいけない。明かすつもりもない。

 

ひっそりと胸にしまい込んで私は、消えるんだ。

 

夜、海で花火がしたいとゴネる私にノクトは困った顔をした。こんな我儘蹴っちゃえばいいのにね。それでもノクトは優しいから、妹の我儘だと受け止めてくれる。

実はちゃんと花火持ってきてるんだよとわざとらしく付け加えて花火セットを見せると、

 

「なんだ、あるんじゃん。…てっきりショップまで行って買ってこなきゃいけねえのかと思った」

 

なんて苦笑しながら私の額を軽くノクトは小突く。

私は目を見開いては驚きを隠せなかった。でもすぐに表情を作り、「良かったじゃない、行く手間が省けたよ」と笑みを見せた。

 

この優しさはどこまで底がないのだろうか。そこは無理だって言い聞かせればいいのに。それだけでいいのに。ノクトは優しすぎる。優しいだけの王様なんて生き残るには厳しすぎだよ。

……守りたいって思った。できることならノクトの傍で彼が立派な王様になるのを見届けたかった。でもその役目はもう私にはない。すでにルナフレーナ嬢に引き継がれている。

 

だったら私にできることはただ一つ。

ひっそりと、塵のように消えるだけ。

 

だからそれまではどうか、ノクトの隣に、皆の輪の中にいさせてください。

私は、今この一瞬一瞬を忘れないように胸に刻み付け、消えない記憶を作ります。

 

イグニス、プロンプト、グラディオラス、クペ、そして、ノクトと私。

 

無邪気に花火をして、遊んで、はしゃいで、注意されて、一緒に謝って、皆で可笑しくて笑いあって、そんな素敵な思い出が私の中で積み重なっていく。

私は皆で小さくとも魅了されるには立派な打ち上げ花火を見上げながら隣に立つノクトの手に自分の手を絡ませた。ノクトは吃驚してたけどぎゅっと握り返してくれた。

 

「ノクト、私、幸せだよ」

「ん?」

 

私はノクトの顔を見上げた。

ノクトはその紅く変化する瞳を毛嫌いしてたけど、私は嫌いじゃなかった。

それは女神エトロが選ばれた者にだけ祝福を送りし証だもの。人を愛している証。

 

その瞳も、繋いだ手も、抱きしめてくれる温もりも、子供っぽく屈託なく笑った顔も、ふてくされて拗ねた顔も、寂しそうな横顔も、自信なさげなとこも、強く見せようとするとこも。全部全部、好き。大好き。

直接言うことはない。けど、改めて私は、ノクトに生かされてきた。

ノクトがいたから、ここまでこれた。

 

「ノクト、ありがとう」

 

大好きだよ、ノクト。

ノクトは、あえて言わないでいてくれるよね。あの時、助けに来てくれた時のこと。…本当に、嬉しかったんだよ。

暗闇の中、独りぼっちで泣くばかりの私の元に現れた王子様は、哀れな娘に希望を抱かせてくれた。

 

一瞬で、暗闇が晴れたの。

 

本当に、嬉しかった。

 

――私の、私だけの王子様だったノクト。

 

「…変な、レティ」

 

そういってノクトはまた夜空に輝く花火を見上げた。

私は、同じように夜空を見上げようとした。でも視界が緩んでぼやけて見えたからそれを誤魔化すように瞼を閉じた。きっと、開いたら零れてしまいそうで怖かったから。

 

「ノクト……―――」

「なんか言ったか?」

「ううん、なんでもない」

 

私は誤魔化すようにさらに繋いだ手に力を込めた。

 

【さよならを直接告げない私を許してください】

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