ノクトside
「ねぇ、花火やりたい!皆でやろうよ」
「花火?」
いつもの我儘が始まった。
オレも花火は数えるくらいしかやったことないけど、レティの決まっての我儘は時間とか関係ない。唐突な思い付きから始まる。散策を終えてキャンプ地に帰るかってイグニスたちと話してた時に、にゅっと(可愛く)顔を覗かせて何言うかと思えば、これだもんな。
駄目だって突っぱねることもできた。でもオレはレティが前々からやりたいってぼやいてたのを覚えている。それはオレが高校生の時、とあるイベントで花火をやる機会があった。プロンプトに誘われてオレは興味なさげに試しにやってみたけど意外と面白くて帰ったらレティにその面白さを伝えた。そしたら、みるみるうちに目を吊り上げて「ノクトばっかりずるい!」って怒って勝手にへそまげて一か月は口きいてくれなかったな。
何とか機嫌を戻させるまでに苦労したのをよく覚えてる。オレが辛抱できなくてなんでもしてやるから許してくれって頭下げたら、ぼそっと「ファミレス連れてってくれたら許してあげる」と視線合わせずに言ってきたから、オレはなんとかレティを城から連れ出す方法を考えて、小さい頃オレしか知らなかった秘密の出口のことを思い出した。クペを身代わりにしてレティを城から連れ出すことに成功したオレは意気揚々とレティと手を繋いでファミレスに行った。そこで目を輝かせて注文した特盛イチゴパフェを前にしたレティの幸せそうな顔は、今でも忘れられない。
そこまでは良かった。そこまでは。
満足げに平らげおなかをさすって悦に浸るレティにそろそろ帰るかと促して席から立った時、ふとガラス越しに見た光景。
そこにはずらりと黒服の親衛隊たちがファミレスを包囲するように背を向けて通行人を威嚇している姿があった。そして「逃避行は楽しかったか、ノクト」と、底冷えするような声がした。聞き覚えるある、声。振り返るのが怖くてオレはレティに助けを求めた。
だがレティはすでに「レティーシア王女殿下、お帰りはこちらです」とコルに手を差し出されていて(捕まっていて)、王女スマイルで「ありがとう」とにこやかに礼を言いつつ「ノクト、ごちそうさま。また後で」と最上級の笑顔をオレに向けてコルに誘われて共にファミレスから出て行った。
呆然とするしかなかったオレには、仁王立ちした鬼のイグニスとファミレスの勘定代だけが残された。こってり二時間はイグニスに絞られたな。
あの時、心底思った。レティのお願いだけは聞くかって。自分に言い聞かせたはずなのに、オレは気が付けばレティのお願いをなんとか叶えてやろうと必死になってる。
今もそうだ。
花火、花火、もしかしてショップで売ってたか?
端から端まで陳列棚なんて見てなかったからあるかどうかわからない。
レガリアぶっ飛ばして行ったとしてもなかったら最悪だしな、いやその前にイグニスがなんていうか。
なんて色々画策してると、レティは慌てたように花火セットを取り出して見せてきた。
「実は用意してあるの、ね!だからやろうよ」と一生懸命にオレに訴えてきて、その必死さに胸打たれたオレは、マジ可愛いとレティから少しだけ視線を逸らした。
やべ、頬が熱くて気づかれたらと焦った。
なんでレティはこう、おねだり上手なんだろうな。
ちょっとしたテクニックで男はイチコロだと思う。その何気ない仕草に妙な色気を感じてならない。
ひょっとして、オレがレティのお願いにNoと言えないのをわかっててやってるのかとさえ疑ってしまう。惚れた方が負けというが、まさにその通り。
オレは花火を持っていたことに驚いたフリをしてレティの額を軽く小突いた。オレの僅かな変化に気づかれないようにしたくて。
まだ、この気持ちを知られたくない。
いずれは、打ち明けようと思っている。
だけどまだその時じゃない。
「おお!オレこれがいいな~」
プロンプトが空気読まずにレティの花火セットにつられてオレとレティの間に割り込んできた。オレはムッとしたがプロンプトはお構いなしにレティにひっつくように袋をさっそく開けだした。レティは眉を顰めて、
「ちょっと!?私が一番最初に選ぶんだから」
と対抗心を剥きだしてプロンプトと張り合いだしたのには、見てて嫉妬心など飛んでいき、さらに吹き出しそうになった。
まったく、この二人はてんで子供だな……。
オレも二人の調子に合わせて
「だったらコレにすっかな」
とひょいっと別の花火を盗み取った。するとレティが
「ああ!?私がやりたかったやつとったー!」
と大げさに声をあげて頬を膨らませてオレから取り返そうと手を伸ばす。けどオレのほうがレティよりも身長は高いから、わざと腕を伸ばして取られないようにした。
「早いもん勝ちだ」
「ノクトの馬鹿!」
ぽかぽかと力ない拳でレティはオレの胸を何度か殴ってきた。仕返しにオレはレティの両頬をみょーんと抓んでやった。
「痛い痛い!」
「痛いわけねえだろ、優しくしてやってんのに」
「優しくない!」
あんまり揶揄うと後が怖いからオレはパッと手を離した。レティは自分の頬を手で押さえて恨みがましい視線を送ってる。オレは
「わりーわりー」
と謝ってレティの頭に手を置いて撫でた。レティは唇をとんがらせてそっぽ向いてたけど、撫でてるうちに機嫌も戻ってきたらしく、
「はやくやろうよ」
とオレの腕を掴んでプロンプトたちがいるところへと連れて行った。
こんな些細なやり取りがオレには楽しくてたまらない。
ずっと、続けばいいと思った。
来るべき、日まで。
【満喫したある夜のこと】