グラディオside
王の命に忠実に従うことだけが【王の盾】として、総領としての役目なのか。
レティの心は、確実にオレ達から遠のきつつあるのをオレだけは感じ取っていた。言葉の端に秘めたる想いが隠されている。
父上から聞かされた事実をレティに伝えることはできない。言ってはならないと固く言いつけられているからだ。
もどかしい、オレはこのままレティに告げずにアイツが追い詰められていく姿をただみていることしかできねぇのか。躊躇している間にもレティの心は、オレ達から遠ざかって行こうとしているのが手に取るようにわかる。レティはうまく俺たちを騙しているつもりだろうが真実を知るオレにしてみれば、猿芝居もいいとこだ。
愛されていない、それがレティのそもそもの思い込みだ。
レティは、陛下に大切にされ、惜しみない愛情に守られて育てられたのだ。帝国側にその存在を悟られないよう、城から出さないことも決めたのはレティの為だ。
アイツの出自にもし、帝国が気づけば何かしらの利用を迫ってくるだろう。
もし、気づかれればレティの価値はノクト以上に跳ね上がる。
両国の血を色濃く受け継ぐ者だ。
その価値はクリスタルと同等か、もしくはそれ以上。
……考えてたくもねぇな、最悪の状況は。
陛下の隠された面がもっとも皆の前で現れたのは、あの日だった。
レティが城から抜け出した。
との情報は瞬く間に城中の人間に知れ渡る大事件となった。いつもレティの身の回りの世話をする使用人は極限られた者しかいない。あるメイドが朝から書物室に篭りっぱなしなレティを心配して執事に相談したらしい。執事はメイドからの相談を受け、事情を説明し、仕方ない子だと苦笑する陛下から書物室の鍵を預かりさっそくメイドと共に鍵がかけられた書物室を訪れると、そこには人はおらず、天上に近い窓が少しだけ開いていたらしい。顔面蒼白となった執事とメイドはそこらじゅう叫びながらレティを探し回ったが、姿が見えず部屋にもその存在はない。これは大事だと執事は判断し陛下にご報告に上がった。陛下はその報告を聞くな否や、レティ捜索の命を格方面に出された。
『すぐにレティーシアを見つけ出せ!』
その切羽詰まった表情は今でも覚えている。王の盾であるオレも張り詰めた表情の親父と共にレティ捜索に乗り出した。事は重大だと身をもって感じた。
レティ捜索に関わった人数は親衛隊の半分以上を費やし投入され、城だけではなくインソムニアの格機関に極秘裏に通達され情報規制もされた。町の中に黒服の親衛隊がうろつくといった、ちょっとした騒ぎにまでなった。そうまでしても見つからないレティに焦る陛下の御気持ちは計り知れない。帝国側との闘いは収まりつつあると言ってもそれは表沙汰になれている戯言に過ぎない。実は魔法障壁の向こう側では繰り返される侵略の日々を一日一日何とか凌いでいるのだ。陛下の心労も御身一つで受けられているというのに、レティの件でそのお疲れはピークに達し、医者に安静にしろとまで言われるほどだった。それでもレティを見つけねばと陛下自らが指揮を執り捜索に専念する御姿は、娘の身を案ずるただの親そのものだった。
一夜明けて、レティ捜索は難航を示しているように、見えた。
だが意外なところからレティ発見への糸口はあった。親父が前に一人暮らししているノクトと共に住みたいとレティが望んでいたことを思い出したのだ。すぐに命を受けコルがノクトのマンションに向かうとそこにはノクトと共にいるレティとクペを発見。
こうしてレティ捜索は無事終わった、かに見えた。
勿論、本人にも厳しい処罰は免れないだろうとも考えた。これだけの人間に迷惑をかけたのだ。陛下もお許しになられない、はず。
だがまさか、陛下がレティの前であんなに感情をお出しになられたのはオレは初めてみた。決して父親ぶろうとはしなかった御方が、感情を乱し行動に出られるなど。
まー、ようはどこにでもある親子喧嘩ってやつだ。
それにしちゃそのレティの反抗っぷりというか暴れっぷりは、玄関ホールぶっ壊すくらいのもんだったしな。本人は覚えちゃいねえが、……覚えてねえほうが幸せかもな。
レティは今もきっと勘違いしている。あの時、助けたのがノクトじゃなくてオレだったってことに気づいちゃいない。レティは陛下とから父親からの制裁を受けた後、魔力暴走を起こし玄関ホールを騒然とさせた。使用人たちがパニックになる中、護衛に守られながら陛下だけは臆することなくレティの暴走を食い止めようと御自らが先頭に立たれ護衛の制止を振り切って
『レティーシア!』
と声を張り上げてながらレティの周りに小規模の障壁を張った。それを凝縮させることで魔力暴走を抑え込もうと考えられたのだ。だが思っていたよりもレティの魔力は強大で陛下の御力をもってしもて抑えることが難しかった。むしろ逆にその障壁を跳ね除けんと、意識を失い魔力放出の影響により宙に体を浮かせて意識を失っているレティの体に傷を作りさらに魔力を倍以上に高め障壁にぶつけてきた。
障壁にヒビが入りあわや抑えきれないと誰もが最悪な結末を想像した、その時。
クペが寸止めで召喚獣の力をもってしてレティの魔力を無理やり中和させ魔力放出を食い止めることができた。完全に魔力が収まった頃、影響を受けていたレティがゆっくりと床に横たわろうとすると陛下は御身を支える杖を投げ捨て『レティーシア!』と悲鳴に近い叫び声をお出しになりながらおぼつかない足取りでレティの元へ。
『レティーシア、…レティーシア…』
陛下はレティを腕に抱き上げられ、何度も何度も辛そうに切なそうにレティの名を呼び続けられた。それこそレティが部屋へと運ばれ、ベッドに横たえられたレティに付き添い、診断する主治医の様子を不安げに見守り、少し体を休めればじきに目を覚ますだろうとの答えに胸を撫で下ろし、公務のスケジュールを送らせてまで陛下はレティの傍に離れまいとした。
それこそ、目を覚ます数分前までは。
こんなにもレティは陛下に愛されている、というのに、その事実は本人には知らせず本人は閉じ込められることに恐怖さえ抱いていた。過呼吸を起こしてしまったのも追い詰められた結果だろう。
息ができないと青白い顔してオレに助けを求めきたレティが痛ましくて仕方ない。
今はあんな顔二度と見たくないと思うが、もし、またインソムニアに戻るのならまた見ることになるのか。それともレティは自分の意思で去ることを決断するのか。
……陛下は何をもってしてレティをこの旅に参加させたのかはわからない。
だがきっと、レティの為を想っての命であったとオレは思う。
自分で逃げるチャンスを与え、そのまま逃げるもよし。
もし、自分の居場所を見つけられなかったのなら帰ることもよし。
陛下はレティの成長を願って手放す決断をなさったと信じたい。
※
花火だとはしゃぐ連中を見守りながらオレは、いまだレティに告白できてない友に忠告してやった。
「甘やかしてばっかだとそのうち痛い目見るぜ」
その甘さが別れを引き寄せているかもしれない。
だからガツンと強気で攻めなきゃならん時もあるというのに、イグニスは
「十分苦労させられているさ」
とオレの忠告を違う意味で捉えたようだ。
言葉のもどかしさとはこういうもんかとオレはそれ以上言葉を続ける気にはなれず、黙ってはしゃぐレティを見つめた。
オレは矛盾している。
レティを籠から逃がしてやりたい兄貴のような気持と、王の盾として総領としてやるべき任務とのせめぎ合いを抱えながら、見守ることしかできないもどかしさ。
的確なアドバイスもできず、生半可な優しさでレティに協力することでしかできない。
何が正しくて、何が間違っているのか。
まだオレには足りないものがある。
【だからもう少し見守ってみよう】