レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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離れてわかる大切な絆。

ノクトside

 

 

一人暮らしをしたいと親父に頼んだのには理由がある。

 

そりゃ高校生となったからには、親の監視とか監視とか監視とかがウザったくて自分だけの領域が欲しいと思ったから。自由に何もかもやれる。それが魅力だった。

後は、レティと少し距離を置きたかった。

 

オレはレティと同じベッドで寝起きして顔を合わせて挨拶をして一緒に朝メシ食ってお互い別行動してる間もたまにメールのやり取りして城帰って書物室に篭ってるレティ引っ張って夕飯食ってそれぞれ済ませてまた同じベッドで今日あったことを色々語ってそれで一緒に眠りにつくというサイクルをずっとやってきた。

それが当たり前だと思ってたし世間でも双子ってのはそういうもんなんだと思ってた。

 

でも違ってた。

世間じゃそれはおかしいんだとよ。

 

学校の帰り道、プロンプトについぽろっと言っちまったのが、そもそもの根本原因で、オレがレティと共に寝起きしていると何気なく話したところ、信じられない顔をして

 

「マジで!?」

 

と詰め寄られた挙句、

 

「さすがにその歳で姫様と一緒はまずいでしょ!」

 

と町中で叫ばれた。

オレは慌ててプロンプトの口を塞いだが、周りの視線が地味に突き刺さりその時のオレはとにかくこの場から離れようと必死だった。

少し静かな場所を選んで、プロンプトから

 

「ノクト、一人暮らししてみなよ!そうすれば少しは一人でいることになれるかもよ」

 

とアドバイスを受け、確かにと納得したオレは、イグニスを通して親父に訴えた。

 

すると、意外にも親父から了承をもらった。条件は厳しかったがオレには続けられる妙な自信みたいなもんがあった。大丈夫だと思ったんだ。

レティがいなくてもやれるって。

 

だから一人暮らしが決まった時もレティに一番に教えにいった。

また書物室に篭ってるのは分かってたから自室にはいかずにそこへ走った。途中で廊下を走ってはいけませんとか執事に窘められたけど気にしなかった。

バン!とドアを叩きつけるように開けると、相変わらずの雪崩でも起きそうな積み上げられた本の山のさらに奥、また木製の踏み台の一番上に座って白のマキシワンピースに裸足姿でレティが、

 

「静かに入ってきて。誰かと思ったじゃない」

 

とオレの方を見ることなく手元の本に視線を向けながらそう注意しながら言った。

しかも、よくよく見るとオレの頭上にはふわりふわりとブリザラで創られた氷柱がいくつも浮かんでいた。道理で寒すぎと思ったわけだ。この部屋。いや、よく考えると薄ら寒い。

 

もし、オレじゃなかったら……串刺しにされているのか…、あのブリザラで…。

 

容赦ないトラップにオレは冷や汗を感じずにはいられなかった。

 

「ワリー」

 

とすぐに謝り扉を静かに閉め、レティの傍へ歩み寄った。

 

「なぁ、聞いてくれよ。レティ」

「何」

「まず本はいいからこっち降りて来いよ」

「……今いいとこなのに…」

「いいだろ、いつでも読めるんだから。ほら、オレが受け止めるって」

 

オレは両腕を広げてスタンバイオッケーと待つ。

 

「はいはい」

 

レティは渋々本を閉じてレビテトでふわふわ浮かせて本棚へ片づけると、勢いよくオレの腕の中に飛び降りてきた。前よりも重くなったなと呟くとちゃんと聞こえてたらしくゴツンと額に頭突きを喰らった。オレはレティを床に降ろしながら軽く睨みつける。

 

「ってぇな…」

「レディに禁句。罰金、今日のメインデッシュ没収」

「太るぞ」

「罰金、今日のデザートノクトの分没収」

「へいへい」

 

適当に返事を返すとオレの態度が気に入らなかったようで、ぶにっとオレの頬に手が伸ばされ軽く抓まれた。けどオレはそれを軽く振り払って、真面目に話を聞いてくれと頼んだ。すると、オレの真剣さに何かを感じ取ったレティは、「…わかった…」と頷くとオレの手を引いて適当に座れるように椅子を魔法で浮かせて近くまで持ってきた。…便利だな、魔法ってのは。こんな風に使うのはきっとレティぐらいなもんだが。

 

オレはレティと向かう形で椅子に座り、メイドに頼んで持ってきてもらった冷たいジュースをとりあえず一口飲んで気持ちを落ち着かせて、ようやくレティに話をすることができた。

親父に言って一人暮らしの許可が下りた。

来週にはマンションに入って一人暮らしが始まるということ。

 

「レティ、しばらく離れて暮らすことになるな」

「そっか、おめでとう。寂しくなるね」

 

レティは黙ってオレの話に耳を傾けていた。最後まで話し終えた後、てっきりズルいと文句が飛び出すだろうと身構えたオレだったが、レティはニコニコと笑みを浮かべていた。

それは女神の慈愛満ち溢れた全てを包み込むような笑みだった。

だが、それがオレには恐ろしく見えた。

 

「……なんか、笑顔が怖いような…」

 

オレは椅子から立ち上がった。レティは椅子に座ったままオレを見上げた。

変わらずの笑顔を崩さずに。

 

「おい、レティの指先が、ビリビリしてるんだけど……」

 

どうしてそこで魔法発動が始まるんだ。

オレは本能でヤバイと察知し、逃げようとしたが、足元に積み重なった本に足を取られて盛大に積みあがった本と共に倒れた。

それがオレの命運が尽きた瞬間だった。

 

「おい、マジでやめっ「サンダー」」

「ぎゃあ!?」

 

容赦ないサンダーがオレにhit。

黒焦げになるという派手な演出の割には痛みは軽い程度だった。しかも周りの本にはまったくの被害はない。器用すぎる。

 

「イテテ…、レティ!」

「私からの電撃お祝い。効いた?」

「んなお祝いがあってたまるか!」

 

これは絶対、羨ましがっているとすぐにわかった。

レティの気持ちも分からなくもないけどさすがに怒ると誤魔化すように頭を撫でられた。

 

……別に乗せられたわけじゃないけど怒りは収まった。

 

引っ越しの日。レティは皆が見送る中、自分だけはいつもと変わらずに書物室に閉じこもっていると教えられたオレは、妙な引っ掛かりを覚えたがすぐに忘れ、どうせ電話もできるしと気楽に考え新たな生活に期待を膨らませた。

オレの部屋はセキュリティ万全なマンションの最上階だった。

すでに荷物は運びこまれていてすぐに生活ができるほどに整えられていて、一人の空間が広く感じた。今日からここで一人…。たまにイグニスが…いや、なんかしょっちゅう顔出すみたいなこといってたか。

 

んなことはどうでもいいや。

まずは一人暮らしをエンジョイするか!

 

―――なんて言ってた一週間前だったが、すでに夜、眠れなくなってる。

夜更かしとかはそれなりに控えてはいるし、夕飯なんかはイグニスがパパッと作りにやってくる。小言も一緒だが。

 

理由は単純だ。

 

レティが一緒じゃないから。

夜、抱き枕化してレティと一緒に寝るのが当たり前で一人で寝るなんて、よく考えると久しぶりだしな。マジ、寝れねぇ。

次の日、学校行ったらプロンプトに目の隈を指摘されて驚いてたな。

オレもここまで影響があるとは考えつかなかった。

だからといって今さら一人暮らし撤回するとか恰好わりーし。

部屋に戻ってもシンと静まり返っていて、お帰りと言ってくれるレティがいない。

たまに拗ねて喧嘩してムカついたってサンダー落とすレティがいない。

 

小生意気でオレと同じ歳して滅茶苦茶子供っぽいことして、それでも憎めないレティがいない。

なんか、部屋帰りたくねーな、なんて帰り道情けないこと考えちまう。

でも親父に頼んだ以上、期待を裏切りたくない。

オレを信じて一人暮らしさせてくれたんだ。せめて一年ぐらいは我慢しねえと。

 

なんてオレは柄にもないこと思ってプロンプトと別れてマンションへ帰った。入口には親衛隊の二人が警備していてオレが来たことに気づくと「ノクティス王子、お帰りなさいませ」と頭を垂れた。オレは軽く手を上げて「おう」と挨拶をして中へ入りだだっ広い玄関ホールを抜けてエレベーターを目指した。中に入りポケットからカードキーをある場所へかざす。

するとエレベーターは最上階まで一気に上がっていく。

 

レティ、今頃何してんのかな…。

夕飯食ってんのかな、また本ばっかり集中しすぎてメシ食ってねぇとかってパターンじゃ…。

 

ズボンのポケットからスマホを取り出して着信履歴からレティを呼び出してみる。

耳元にあてがってずっとなり続ける音に少しイラッとした。

 

……全然でねぇ。

 

そんなことしてるとあっという間に着いた。オレは一度切ってまたかけなおした。

部屋の前でカードを認証させて扉を開けた。玄関にはイグニスが来たらしい気配がなかった。今日は来ねぇのか。なんかスマホが鳴っている音がする。隣か?

 

朝脱いだままの状態のスリッパに足を入れてオレはリビングへと進む。

 

相変わらず、電話の呼び出しが続くだけ。

 

「…ハァ…」

 

そういえば、なんか着信音が聞こえんのは気のせいか?

……オレ、他にスマホ持ってたか?

 

怪訝に思ったオレは、真っ暗なリビングに入ると電気もつけないでとりあえずカバンをソファがある方に投げた。するとバシッと音がして、

 

「んぎゃ!」

「痛いクポ!」

 

なんか蛙が潰れたような声と特徴的な語尾が耳に入った。

 

「は?」

 

オレは一瞬呆けてソファの方を凝視した。

 

今の蛙が潰れたような声、よぉぉく思い出すと聞いたことある声じゃ…。それにこの着信音…なんとなくオレが設定してやったやつに似てる。というかそのまんまのような…。

 

オレは慌てて電気のスイッチをバッと探して押した。

 

するとパッと一気に室内は明るくなった。

んでもって、嫌でもわかった。ソファに突っ伏すように寝転がっている、

 

「…うぅ、ノクトのカバンが、頭に…いだい…。お昼寝してたのに…」

 

オレのカバンが頭部に直撃し涙目になっている白のロングドレスを着たレティと

 

「クペはお尻クポ…、それともう夕方クポ」

 

お尻抑えて体を小刻みに震えさせているクペが、いた。

オレの部屋の、ソファに。

 

「………オレ、幻見てんのか…」

 

思わず信じられなくて間抜けだが、自分で自分の頬を思いっきり抓った。

 

「いだっ!」

 

やっぱり痛かった。ということは夢、幻でもない。

オレのスマホもレティのスマホに電話を掛け続けている。そのスマホの持ち主はオレの前で痛みに耐えようとしている。

 

「レティ!?なんでここにいんだよっ!」

「……なんでって遊びに来たにきまってんじゃん」

 

ケロっとした風にレティは何当たり前なことを言ってんだという顔をした。ついでに痛いと文句を言ってきた。

オレは混乱しながら矢次に質問をぶつけるしかなかった。

 

「いやそもそもどうやってきた!?どっから入った!?親父が許したのかよっ!大体そこにいるとかわかんねぇだろ!」

「質問多すぎ。まずはこの苺のシフォンケーキでも食べたまえ、クペ!」

「クポ!」

 

いつも思うがどうしてクペのボンボンから物が出てくるんだ。レティはテーブルに用意された人数分の受け皿とフォークを並べて「おいしそう~」と頬を緩ませて苺のシフォンケーキを見つめた。

 

不思議でしょうがない……ハッ!?うまく流されるところだった。

オレはソファへと駆け寄りレティの隣にドカッと座って

 

「レティ、説明!」

 

と強く求めたが、レティはハッと何かに気づいたかのようにオレの方を向くと、

 

「待って!ノクト、包丁は使える!?」

 

と逆に聞き返してきた。オレはレティの勢いにまた負け、

 

「いや、使えねぇ」

 

と首を振った。するとレティは「だよねー」と同調してきたので、ムカついたオレはレティに軽くチョップした。

 

「いた」

「そこは少しでも期待しとけよ」

「だって一週間足らずで包丁持てるほどノクトって料理できたかなって思ったから」

 

図星なことをズバッと言いやがる。

 

「まー、いいけど。…なんか疲れた。とりあえず食うか」

「うん。その前に包丁で切らないと…」

「ああ、オレやるから」

 

そういってソファから立ち上がってキッチンへ行こうとした。

けどレティが待ってとオレを止めた。

 

「ううん、大丈夫。切ってもらうから」

「誰に?」

「トンベリさん」

「は?」

 

誰って思うだろ、普通は。

 

「今呼ぶから」

「呼ぶってどこから」

「床から」

 

そういうとレティは両手を組んで祈りを捧げるように瞼を閉じた。

意識を集中させているのだろう。その姿は神聖さを感じてオレ思わず声を掛けるのをためらったほどだった。

それからほどなくしてフローリングの床に楕円形の水たまりが出現し、そこからぬっと緑色のクペみたいな手が出て左手にランプを持った、変なのが出てきた。右手には、包丁を携えて。

 

オレは反射的に恐ろしくて身を引いた。

レティは驚いた様子もなく、「トンベリさんだよ」とフレンドリーにオレに紹介をしてきた。そのトンベリさんはレティからの紹介にぺこりと頭を下げた。オレは、「あ、ああ。その、よろしく」と軽く頭を下げて挨拶を返した。口元はひきつっていてたが。

 

「トンベリさん、またお願いして悪いんだけどこの苺のシフォンケーキを人数分切ってくれないかな?もちろん、一緒に食べていってくれたら嬉しいな」

 

トンベリさんはレティのお願いにこくっと頷くと自前の包丁でぷすっとケーキを綺麗に切った。そしてオレとレティとクペとトンベリさんで苺のシフォンケーキを食べた。そこでトンベリさんのことを色々オレに教えてくれるレティの言葉に「あー」とか「おう」とか「そうなんだ」とか適当に相槌打ってたオレはまだ優しい方だと思う。

さすがにレティが「トンベリさんの趣味は思いっきり刺すことなんだって」と言われた時にはこの場から逃げたくなった。だが、がっちりと制服を掴まれていて、逃がさないわよとレティの瞳が物語っていたので逃げられなかった。

クペが同情の眼差しでオレを見つめていた。

 

余った分はレティがお皿に乗せてラップしてトンベリさんにお土産として手渡した。

トンベリさんは嬉しそうにランプを持った手を振って水たまりに沈んでいった。

オレはトンベリさんが完全に消え去ってからレティの両肩を掴んで顔を寄せて尋ねた。

 

「あれ、なに」

「トンベリさんだよ」

 

まるであれは猫だよというようないい方をするレティ。

 

「だからそのトンベリさんがなんだって聞いてんだよ」

「召喚獣クポ」

「……!」

 

あっさりとクペは言うが、オレは召喚獣とオヤツ食ったのかと思うとどっと疲れた。

色々疲れた。マジで疲れた。

詳しく聞けば、レティとクペを運んで来たのがあのトンベリさんで、親父たちにも内緒で抜け出してきたらしい。

 

「サンダー落ちるぞ」

 

と軽く脅してみたけど、レティは

 

「怒られてもいいもん。逆にサンダガ落としてやるもん」

 

と開き直った。夕飯は厨房から作ってもらったというスペシャルコースだった。

賑やかな夕飯にオレの心は、なぜか温かくなった。

他愛もない会話の中で、やっぱりレティがいるという安心感がオレを包んでくれた。

お泊りセットは持ってきていた用意周到なレティは、お風呂先に良いぞと促すオレに、茶目っ気たっぷりに

 

「一緒に入る?」

 

なんて冗談言うものだから、オレは反射的にタオルをレティの顔に投げつけて

 

「何言ってんだよ」

 

と言い返した。……ちょっと不意打ちを食らったとは思わない。

 

そろそろ寝るにはちょうどいい時間になるとソファ借りるねと一言オレに断って、持ってきた枕と上掛けに包まってクペと一緒に眠りにつこうとした。

 

「ベッド、オレの部屋だぜ?」

「いいの、今日はここで寝るよ。ノクトも一人で寝たいでしょ?それに私、知ってるの。男子のベッド下には男のロマンと夢が詰まってるって。あ!大丈夫、心配しないで。私荒探しなんてしてないから。そういうのはしちゃいけないってクペが教えてくれたの」

「なんだそれ?…遠慮すんなよ。一緒に寝ようぜ」

 

オレは上掛けをはぎ取ろうとするが、レティは抵抗しだした。

 

「いいの!今日はここなの」

「ムキになるようなことじゃないだろ」

「なってないし、それにムキになってんのはノクトでしょ!?」

「してねーし!」

 

散々言い争いを続けた結果、オレは仕方ないと最終手段に出た。

 

「…え、な、なに!きゃあ!?」

 

上掛けのままレティごと抱き上げて強制的にオレのベッドに連れてく作戦。

クペは眠そうに目をこすぐって素直にぱたぱたと羽を羽ばたかせてオレの肩に捕まってまた眠りだした。

 

「ちょっと!ノクト!」

「暴れんなよ、明日、…ふぁ…早いんだからな、オレ」

 

足でドアを開けて電気は、いーや。ベッド真ん中だし。

オレの腕の中で暴れようとするが、巻かれているのでうまく動けないレティはわめくばかりだ。

 

「だったら私を下してからベッドinしなさいってば!」

「あーはいはい。お休みー」

 

ぽいっとオレのベッドに投げてレティはポンポンと軽く巻かれたままの形で弾んだ。

オレはクペを掴んで何個かある枕の上に乗せてやった。

クペはもうすっかり深い眠りに入ったようで起きる様子もなかった。

オレもベッドに横になるとレティがバシバシとオレを叩いてきた。痛くないけど。

 

「お休みじゃなーい!」

「クペ、起きるぜ」

「ぐっ」

 

結局レティは抵抗することをやめて、もぞもぞと自分の定位置を決めだした。

オレはふあぁと欠伸一つすると、レティの体を自分の方へと引き寄せる。文句が飛び出そうだったが、

 

「おやすみ、レティ」

 

と先手を打って瞼を閉じた。レティから

 

「……おやすみ…ノクト」

 

と返されて、やっと熟睡できると安心できた夜だった。

 

 

次の日の朝、先に目を覚ましたレティが起きて朝食を作ってくれていた。

エプロンをして四苦八苦してようやく作った若干焦げた目玉焼きとタコさんウインナーを作ろうとして失敗した、タコじゃなくてカニウインナーとオレが野菜嫌いなの知ってて色とりどりのサラダにジャガイモのポタージュとなぜか不格好なおにぎりとフルーツの盛り合わせというメニューだった。

おにぎりは得意げな顔して食べて食べて!と強く勧められてぱくっと食べたら見た目のイメージよりは上手かった。レティは得意げに、自分でも夜食用によく作ると教えてくれた。こもるときはおにぎりが一番腹持ちがいいって。

正直、レティの体が心配になった。もしかして、オレが居なくなってからレティは夕食もちゃんと取ろうとしてないのか?

今まではオレが夕飯時になると無理やり首根っこ捕まえて連れて行ってから食べてたからな。これはイグニスに強く言っておかねえと。

 

賑やかな朝食時、そろそろ学校に行く支度を始めたオレは何気ない感じで

 

「今日の夕飯はー?」

 

と尋ねていて、レティは食器を洗いながら

 

「うーん、オムライス頑張ってみる」

 

といった。オレは笑いながら、

 

「作れんのかよ」

「失敗したらチャーハンで」

「どっちでもいいけど美味いのよろしく」

 

と頼むとレティは少しだけ振り返って

 

「美味しいに決まってるでしょ。私が作るんだから」

 

と目を細めて微笑んだ。

 

「クペも手伝うクポ。大丈夫クポ!」

 

洗った食器を拭いていたクペもそういったのでこれは早く帰ろうって気持ちになった。

オレは丁度いい時間になったのを確認して玄関へと向かう。レティはオレの後ろからパタパタとスリッパを鳴らして着いてきた。

 

「気を付けて。知らない人にはついていかないこと。車には気を付けること、後々…」

 

座って靴を履くオレの後ろであーだこーだと注意を促してきたレティ。オレは黙って聞いていたが靴を履き終えてレティに向き直った。

 

「大丈夫だよ。大体餓鬼じゃねーし。……鍵はかけてくからな。誰が来ても絶対出んなよ。じゃ、行ってきます」

「うん、わかった。いってらっしゃい!」

「いってらっしゃいクポ」

 

手を振るレティとクペに見送られてオレは玄関のドアノブを手に掛けた。

瞬間、オレが押す前にドアが勝手に開いた。そのドアの先にいたのは、

 

「レティーシア様、お探ししました」

 

親衛隊をぞろぞろと引き連れてやってきたコルだった。出入り口を封鎖するように黒服がなだれ込んでくる。物々しい数にオレは異常さを感じ取った。

 

「……コル!?」

 

まるで獲物を見つけたかのような鋭い瞳でオレの後ろに立つレティを見つめた。

レティは呆然と、「……なんでここが…」と小さく呟き、わずかに後ずさった。

コルはオレの脇を通り抜けて、丁寧な物腰でありながら逃がすまいとレティの手を掴んだ。

 

「陛下がご心配しております。どうかお戻りください。レティーシア様」

「離してっ!」

 

悲鳴に近い叫び声をあげコルの手から逃げようとするレティ。クペがすぐにコルに飛びかかって

 

「離すクポ!」

 

と大声を出してポコポコ叩くが、コルはいたって気にした様子もなかった。

 

「おい、いきなりすぎじゃ!」

 

オレもレティを助けようとカバンを落としてコルの肩をぐいつと掴もうとした。けど

 

「王子はいつも通り学校へお行きください」

「おい!?何すんだよっ」

 

数人の親衛隊がオレを取り囲んで玄関から連れ出そうとする。

 

「ノクト!」

 

コルに肩を抱き込まれ、必死にオレに手を伸ばすレティ。

 

悲痛な声に、助けを求める様子に幼い頃のレティが重なってみえた。

瞬間的に頭にぶわっと血が上って怒りが沸き上がった。

 

「レティ!!テメーら、何考えてっ…!クソっ離せ、よ!」

 

力任せに殴ってやろうとしたけど駄目だった。結局オレは暴れようともがくが最終的には抱えあげられて玄関前に止めてあった車に強制的に乗らされた。何度も抵抗したもののあっという間に学校の門前で降ろされ、オレがマンションに勝手に帰らないように見張りまでご丁寧に用意しやがって!

 

始終イライラしまくってたオレの様子にただならぬ事態を感じ取ったのか、プロンプトはオレを気遣う素振りをした。けどその時のオレは一刻も早くレティの所へ帰りたかった。だから授業なんて集中できなかったし休み時間はレティのスマホに電話やメールを入れたが返信はまったくなく、余計不安になった。そりゃもう早く終われって教師睨み付けてたくらいだ。びくついてたけどそんなの気にしてられるか。

ようやく夕方になり教室を飛び出したオレは、プロンプトの制止を無視して校門のとこで見張りしてた親衛隊の一人に掴みかかってレティがどうなっているのかを問いただした。

 

「おい!レティはどうなってんだよ!?全然連絡繋がんねーじゃんか。また部屋に閉じ込めてんのか!?親父は何度レティを閉じ込めれば気が済むんだよっ」

「…レティーシア様は、陛下より謹慎処分をお受けになりお部屋にて過ごされております」

 

オレの剣幕に気圧されながら親衛隊の男はそう言った。

 

「またかよっ!……くそっ。今日は城に戻る。車出せよ」

 

吐き捨てるようにそう命令すると、親衛隊の男は申し訳なさそうな顔をしてこう言った。

 

「それが、……陛下のご命令によりレティーシア様の謹慎処分が終わるまでは城への訪問は認めない、と」

「ハァ!?何馬鹿なこと!」

「申し訳ありません。このままマンションへ送らせていただきます」

「っ、いらねえ!自力で帰るっ」

「あ、ノクティス王子!?」

 

レティの謹慎処分は一か月後だとグラディオづてから聞いたオレは、きっぱりもう一か月で城に戻ると決めた。イグニスからなんだかんだ小言を言われたが、オレは全部聞き流し親父にも謝れってしつこく言われもしたから分かったと言い返してそれ以上は言及させないようにした。レティのスマホは取り上げられているらしく連絡も取れなかず、オレにとっては十年にも勝る一か月だった。

 

オレは完全に一人暮らしを終えて城に戻ってすぐに向かったのはレティの部屋だった。

叩きつけようにドアを開けると、静まり返った部屋にはレティの姿は見当たらなかった。でも少しだけ奥のテラスへと出るドアが開いていて、オレはそこだと直感し走った。

 

「レティ!」

 

いた。テラスから出られるレティ専用の小さなが手入れが行き届いた庭に設置された白いチェアに座ってぼんやりと座り込んでいた。オレがレティの名を叫ぶと、ゆっくりとオレの方を向いた。前に見た時よりもわかりやすく顔色が悪くオレはたまらずに椅子ごとレティを抱きしめた。

 

「……ノクト!?うわっっぷ」

「…なんかちょっと痩せてねえか?ちゃんとメシ食ってたのか?」

 

膝をつき、少し体を離して矢次に質問するが、レティの変わりようは近くで見るとますます酷いと思った。まるで風に吹かれてしまえばぽっきり折れてしまいそうなほど痩せていたんだ。にも拘わらずレティは、オレを心配させまいと弱弱しい笑みを浮かべて言った。

 

「少し食欲が落ちただけだよ。心配性だな、ノクトは」

「…レティ…」

 

少しどころの話じゃなかった。下手すりゃ入院騒ぎまでいきそうな状態だ。

こんな状態のレティをよく放置して謹慎させてやがったんだ。ぜってぇおかしいだろ?

 

ふつふつと沸き上がる怒りから奥歯がギリっと鳴った。

オレの怒りを感じ取ったのか、レティは話題をすり替えてきた。

 

「ノクト、聞いたよ。一人暮らしやめたんだって?もったいないよ、せっかく一人の時間満喫してたみたいなのに」

 

今からでも遅くないとオレに諭すように言うが、オレは首を振ってそっとレティの頬に手をあてがい撫でた。

 

「いいんだよ。レティのいるここがオレの帰るとこだから」

「………ノクト…」

 

レティは目を見張ってオレの名を呼んだ。

瞳が潤み始めて、でもレティは涙を見せまいとオレの肩に頭をもたれさせて顔を隠した。

オレは少し艶がなくなった髪を撫でながら謝った。

 

「…ごめんな、一人にさせちまって」

「……ううん、いいの。帰ってきてくれて、嬉しい」

 

くぐもって聞こえづらかったけど、これがレティの本音だと感じた。

 

やっぱり、オレはレティと一緒に居たい。レティもオレを求めていてくれた。

胸に湧き上がる歓喜にほだされるまま、

 

「お帰り、ノクト」

「ただいま、レティ」

 

オレたちは、顔を見合わせ互いに額をくっ付けて微笑みあった。

 

【これがオレたちの在り方】(でも世界『常識』じゃ否定されるだけよ)

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