レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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その責を問われる者、故郷を追われた者、誇りを持ち続ける者、故郷の為に裏切った者、未来を背負う者、未来に夢を託した者、未来の為に託された者、友として最後まで補佐する者、英雄になった者、故郷の復興を決意した者。

王の責務を託された者、復讐の為に心を捨てた者。

星々の神々から守護を受けた者。

彼、彼女たちはそれぞれの願い、夢、希望、信念、復讐、裏切り、誇り、勇気、正義、使命と様々な感情に心突き動かされ行動しながら結局は、一つの考えに行く着く。


平穏でありたい。
または、安らかな眠りを得たい、と―――。

ただそれだけなのに、人々は欲望という言葉のまま衝突しあう。
それが人間であるから。と誰しもが思うだろう。だがそうではない。
それは単なる思い込みだ。彼、または彼女たちはその悲しき運命に抗おうともがき苦しみ時に悔し涙を浮かべながらも進み続けた。
世界の為ではなく、己にとって大切な人の為に。

それが、運命の分岐点であった。
【悲しみと決別しよう】


英雄の帰還

ノクトたちが王都陥落の一報を知る数時間前、レティが暴走しイクシオンと共にインソムニアに向かう前。

 

それは本来の歴史とは異なった運命があった。

戦闘の爪痕新しい瓦礫と化したある地で、男は一人夜明けが明けると共にその命をひっそりと散らそうとしていた。

 

「……、……」

 

瓦礫にへたり込む姿は、疲れたように見えるがその表情は満足そうであった。

男の様子から激しい戦闘だったことがうかがえる。

組織に属する戦闘服はあちらこちらと裂け、または敗れており露出した腕などはまるで物を燃やして灰のようになっていた。男の体からは赤い光がちらちらと上空に上がっていっては消えていく。まるで男の命そのものを現しているかのように。

 

かつて共に戦場を潜り抜けた敵、はすでにこと切れている。

だがその表情は穏やかなものであった。彼も故郷の為に自分の感情を押し殺して今まで生きてきたのだ。最後くらいゆっくりと眠らせてやりたいと男は願った。

 

そして、その眠りは自分にも訪れる。

 

そう、本来の歴史である通り、救いの英雄は約束の時を迎えようとしていた。

 

帝国が調印式の席で裏切り行為を働き、クリスタル強奪とレギス王暗殺、そしてインソムニアに戦火を放ち崩壊至らしめた凄まじい激闘の中、猛威を振るうモンスターに勇猛果敢に挑み未来の王妃、ルナフレーナを王都外へ逃そうと人間の身でしかも一人で奮闘しつづけた男がいた。男は、【王の盾】という貴族で構成されている王直属の部隊に対し、【王の剣】という移民から構成される組織に属していた。一部の心もとない人間からは捨て駒扱いなども受けていた。

王から借り受けた魔法の力を使いこなし、日々、魔法障壁に守られぬくぬくと平穏に浸っていた民らが住む王都の外で日夜帝国側と戦いに明け暮れていた。多くの同胞を失いもした。眼前にそびえるシガイにも屈せずに仲間の窮地を救いに戻ったりもした。だからだろうか、仲間内から英雄、『ヒーロー』と尊敬を抱かれ、王都の守護隊からはやっかみがられている存在だった。

だがそれでも男は気にした素振りも見せなかった。

 

男の中には揺るぎないほどの信念があったからだ。

かつて妹を救えなかった幼い自分にレギスが戦う力を授けれてくれたことは、今の男の中で色あせることなく鮮明に思い出せるほどである。

 

『故郷の為に』

 

この口癖はいつも出陣する前の仲間たちとの合図であった。

自分たちが取り戻す故郷を忘れてはならないという戒めでもあったはず。

だが今、男の仲間たちは英雄と呼ぶに相応しい死を遂げ、脱退した友人一人残し今は男だけになってしまった。光耀の指輪を使ったことにより、本来歴代の王たちが認めた者にしか扱えぬ指輪の力を【特例】として使用したことにより男の寿命は夜明けと共に散る。

 

「…後は、未来の王に任せて寝るか」

 

男はごろりと背中から瓦礫の上に倒れ込んだ。

 

死は恐ろしくはない。初めから王たちに文句言っている時点で捨てたようなものだ。

だから怖くはない。

 

だが、未練はあった。一つだけ。

脳裏に浮かぶのはある一人の少女の姿。自分よりも年下で危なっかしく厳重な警護に包まれた城さえあっさりと抜け出すような破天荒な少女だった。

初めてその目を奪われる銀糸のような美しい髪には息を呑んだほど。

 

男は自分の手首に収まる腕輪を上に掲げて見上げた。素材は銀でシンプルでありながら見事に目を引くような装飾が細部にまで施された腕輪はその少女からの贈り物だ。男の腕には不釣り合いで、実際男も彼女から受け取った時は似合わないと思った。何より、それは母親の形見だと言われたのだからなおさら断った。だが彼女は頑なに拒んだ。

 

『これが一度だけ貴方を守るわ。大丈夫、【エル】の加護があるもの。何者も誰からも貴方に害を為すことは許さない』

 

自信満々に言ってのけた彼女は、困惑する男の手を取って無理やり腕に嵌めさせた。

あの行動の速さには参ってしまう。だから城を抜け出るなんて大胆な発想も考えつくのかとあの時は感嘆させられたものだ。

 

『けどな』

『もう一度拒んだらサンダー落とすわ』

『……わかった…。だからサンダーはやめてくれ』

 

降参したという意味で苦笑しながら男は両手を軽く上げたのを確認した少女は、満足そうに頷いて自分の肩に乗る緑色の毛並みを持つ小さな相棒を軽く撫で、自分に注がれる男からの視線に気づくとやんわりと微笑んだ。

 

『これで貸し借りナシね』

『ん?』

『貴方に助けてもらった件。これでチャラだから』

『ああ、確かにそんなこともあったな』

『忘れてたの?……まぁ、いいけど』

 

男の恍けたいい方に彼女は呆れた様子だった。だが男は自分で貸し借りしていることさえ認識していなかったのだ。普通に彼女を助けることが当たり前なのだと受け止めていたから。

だから自分の変化に内心驚いてもいた。

……男の気持ちに少女はまったくと言っていいほど気づいていもいなかったが。鈍感という言葉よりは、まったく男という生き物を知らないということは丸わかりで、だからこそ王に絹の布に包まれるように大切に育てられたことが窺い知れた。

 

『……ありがとう。貴方が王の剣として命賭けて戦ってくれていることを私はずっと誇りに思う。でもその強さは決して陛下から賜った力ではなく、貴方自身の力なのだということを忘れないで。その強さに誇りを持ちつづけて。……貴方の願いが叶いますように』

『……』

 

ついに彼女との別れはやってきた。

彼女の護衛か何かだろうか並の男ではだせないような鋭い視線をオレに向けながら少女を呼ぶ。

 

『姫』

 

少女は一つ頷いて男に向き直った。

 

『わかりました。……さようなら、私の英雄『ヒーロー』』

 

そして少女は城へと戻って行った。それっきり、男と再会することは二度となかった。

 

大の男相手に物怖じせず、堂々とする姿はさすが王族と納得できたが時折不安そうに瞳を揺らすその瞬間を男は知っている。

最初は面倒な奴を助けてしまったと後悔もした。だが自分たちの状況を親身に聞いてまわり見聞を広め、いつか世界に出ると決意し語る少女の横顔に好感を抱くようになっていくとは男も想像しなかった。王族であると知った時はさすがに顎がハズレそうなほどの衝撃を受けたが、それはそれ。これはこれとあっさりと理解できた。

案外男はストレートな性格で正直に自分の気持ちをあっさりと認めた。

 

自分と会うためだけにわざわざ城を抜け出してきてくれる彼女。待ち合わせの時間が来る度にまるで少年のように心躍ったものだ。

 

「……はぁ、アンタは遠いとこで無事にいるのか…」

 

あれから三年弱は経っただろうか。滅多に公の場に出ない彼女に想いは募る一方、どこか諦めている自分もいた。いつか彼女に相応しい男が彼女の隣に寄り添うのだと。

彼女を守るヒーローは自分ではない。

 

そう思った矢先、これである。

無事ルナフレーナが王子と再会できたのなら、彼女の口から男の健闘を称えた最後を語られることだろう。そこできっと彼女は涙してくれるに違いない。

 

男は知っているからだ。

彼女が【泣き虫】であることを。

世間が思い込んできたイメージとは程遠い、極普通な少女であることを、男は知っている。だから守ってやりたいと思った。どんな形でもいい。

 

傍にいられるなら。

 

だが約束の時はすぐに男の眼前に迫る。

長い長い夜明けが、明けようとしていのだ。

男は力を抜いて腕を降ろした。腕輪をしている手を大事そうに自分の胸に置き、ゆっくりと瞼を閉じて、最後の別れを遠くにいる彼女に向けて伝えた。

 

「………じゃあな……」

 

ついに夜明けが明け、朝日が男を照らしだし瞼を閉じた外側で差し込むような光を感じて男は、消え――――――。

 

パキン。

 

何か、金属音が割れる音が男の耳に入った。

可笑しな話だ。すでに男は消えたはずで自我などとうにないというのに。

それでも男は半信半疑で瞼を持ち上げた。すると、先ほどと変わらぬ、いやすでに青く染まりつつある空が上空に広がっていたではないか。

 

男は何がどうなっているのか信じられなくて思わず上半身を起き上がらせた。すると自分の胸から何かがこぼれおちたではないか。

怪訝に見やると、男の表情は見る見るうちに驚きへと変化した。

 

「腕輪が、割れた?」

 

男がしていた銀の腕輪が見事に二つに割れていたのだ。さきほどの音はこれが割れた時の音と推測される。だがそこまで男は冷静に頭を働かせることは不可能だった。

 

ただ目の前の現実に唖然とするばかり。

 

消えるはずだった自分の体、命は確かに今ここに存在する。

 

男は確かめるように自分の胸に手を当てた。どくどくと心臓が脈打っているのが感じ、やはり現実に今男は生きているとようやっと確信できた。

 

「嘘だろ、………」

「マジか……」

 

男はまるで夢のような体験に破顔してしまった。

 

「なんてこった」

 

少女が言っていたことは嘘偽りなどではなかった。正直男は信じていなかった。

お呪い程度だろうと軽んじていたのだ。だが、現状はどうだ。

腕輪が必ず男の代わりに犠牲となる少女が言ったとおりになった。

それはどんな例外も認めない。たとえ、『歴代の王たちと交わした正式な約束だろうとも』、だ。

 

腕輪は代わりにとなり男は五体満足な体で生きている。

 

すぅっと息を吸い込んでは男は自分が生きている実感に浸った。

 

そして、今、無性に彼女に会いたくてたまらなかった。

この腕に掻き抱き、ありがとうと精一杯叫び伝えたくなった。許されるならば、そのまま自分の気持ちを伝えたい。

 

もう、男を縛るものは何もない。男の親友、リベルトとの約束もある。

故郷で二人共に待つと。それも悪くない。

 

だがその約束は残念ながら少し遅れそうだ。

なぜなら王の剣ではなく、一人の男として彼女に会いに行くと男は決意したからだ。

 

レギスとの別れ際、王は娘に対してたった一言だけの伝言をルナフレーナに託した。

今まで伝えきれなかった想いを、たった一言に込めたのだ。

 

『―――』

 

そして王は王らしくその命、散らした。

守るべきものを、その身を、命を賭けて。

王の最後をきっとルナフレーナは彼女に誇るべきものだと語るだろう。

だがそれではだめだ。

彼女の気持ちはきっとそんなことだけで片づけられるほど割り切れるものではない。

ルナフレーナは表面上だけの彼女しか知らないはずだ。

だから男が直接王の最後を言葉の意味を伝えなければならない。

 

男は立ち上がり、新たな決意を瞳に宿して歩き出す。とりあえずは旅に必要なものをどこかで調達し、オルティシエを目指すことになるだろう。

王子たちがいるであろう場所ならルナフレーナもいるはず。そこに彼女は必ずいるはずと考えたからだ。

 

はっきり言って、困難が待ち構える旅になる。

もう、男は魔法は使えずテレポートもできない。下級モンスター相手にさえ敵うかどうかも分からない。だが生きている。生きていれば必ず会えると信じているから。

 

だから男は進む。

 

「会いに、行くぜ。レティ」

 

王都を救った英雄、ニックス・ウリック。

 

今一度、動き出す。その手に、王の剣としての証である武器を携えて。

 

今度は、誰かに必要とされる英雄ではなく、たった一人の為の騎士として。

 

レティーシア・ルシス・チェラムとしてではない、

ただのレティという女性を求め、進みだした。王都を背にして。

 

【そして、誓おう。その身、その魂を全力で守り、今度こそ傍にいると】

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