レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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一日の長。

誰が信じるってんだろうな。

幼子であろう少女が大人相手に自分を殺す前に遺書を渡してほしいと願い出るなんてな。

オレも親父から誰にも話してはいけない、と厳しく忠告を受けようやっと聞かせてもらった昔話だ。

 

レティの素性。

表向きは陛下の娘。ノクトに次ぐ第二王位継承者となっている。だが実質ノクトが王になるのは確実だからレティの扱いは、もし他国ならノクトの保険か、国民への良い看板娘ってところだろう。

だが陛下は、レティを過敏なほどに閉じ込めた。それこそ壊れ物でも扱うかのように。レティへの態度に国民の誰もがこう感じただろう。

 

愛娘への惜しみない愛情の現れなんだと。

 

だが裏を返せば陛下とレティの関係はあまりに冷え切ったもので、親子と呼べない親子関係に陛下に仕える者なら誰もが知っている事実。

 

これは、極限られた少数のしかも陛下が絶対的に信頼を寄せる人物しか知らせていない。だからこそ外部と極力接触持させないよう、レティを城に閉じ込めるような真似をした。過去と同じ過ちを犯さないためだ。

 

……その過ちに関しての関係書類及び資料は全て破棄され、今現在城に残されているのは、陛下と陛下が許しを与えた者だけが閲覧できると言われる代々の王家の血筋に産まれた者の名が刻まれるという家系図だけ。その家系図は不思議なもので正確にその血縁者を表すのだという。陛下と王妃との間にはノクトの名が刻まれ、レティは………やめ、やめ。これは今は関係ないはずだしな。

 

【クペ】と名付けた召喚獣を傍に控えさせることに成功したレティは、その力の片鱗を大人たちへとまざまざ見せつけた。召喚獣そのものに名を与え、使役するなど誰もがやったことのない偉業を成し遂げたのだ。即ち、それは他国を牽制できる新たな戦争の火種となることは誰もが予想できたこと。

 

親父はその召喚獣を一度確かめる必要があると判断し、レティの部屋を訪れた。子供が遊ぶ玩具などは一切置かれていないシンプルで、悪く言えば寂しい部屋。ルシス国のシンボル色である黒の装飾は一切なく、その真逆。壁紙やベッド、家具や花瓶に至るまで白で統一された部屋で、レティはクペを抱きしめながら床に座って何かを描いていた。

クペがぶるりとレティの腕の中で震えていたらしいが親父の目にはいきなりの訪問者に驚いているとか考えなかったようだ。

 

親父がレティへと挨拶し終え名を名乗ると、レティは画用紙から目を視線を親父へと向けた。

 

「おそかったね」

 

とレティは親父が自分の元を訪れることがわかっていたような口ぶりをし、親父の度肝を抜いた。

 

「さっきようせいさんがね。あいにくるっていってたから」

 

妖精さん、レティと意思疎通を交わす者がいるらしいとの情報はすでに親父の耳に入っていた。ちょくちょくレティと接触しては外の情報やレティの知らないことを教えている様子にあまり良くない兆候ではないかと危惧した。

少女が望む望まないことを吹き込んでは、今後レティが外の世界へ興味を抱くことも予想できるからだ。

 

親父は、その妖精さんについては軽く受け止めたフリをして最近の出来事などを軽く尋ねた。するとレティは先ほどまで書いていた画用紙を折りたたみ、それをもって立ち上がった。画用紙を親父へと差し出し、こういった。

 

「おうのたて。おうにぜったいのちゅうせいをちかいおうにあだなすものにはようしゃはしないっておしえてもらった。わたしにあいにきたのはわたしをころすため?それともてきがどんなそんざいがたしかめにきた?どっちにしてもわたしをころすつもりなんだ。れぎすおうがそうめいれいしたのね。だったらノクトにばれないようにして。それならころされてもいいよ。ようせいさんがおしえてくれたもの。わたしがミラににてるって。ミラってあの人なんでしょう。おうけのちすじからまっしょうされたひと。はんぎゃくしゃってらくいんをおされたあわれなひと。だからわたしはしぬかくごがある。でもこれをノクトにわたして。ノクトへのてがみよ。きっとわたしがいなくなったらないちゃうわ。ノクト泣き虫だもの。だからかならずわたして」

 

その少女は淡々と幼いながらに遺書を親父に託したという。

その年齢にそぐわない意志の強さに親父は脱帽したともいうが、まともにきいてみれば頭がおかしくなりそうだ。アイツは、レティは、幼いながらに自分の死を受け入れていたらしい。

親父にレティを殺すなんて予定ないし、そもそもそんなつもりでレティの所へ訪問したわけでもない。だがレティはそう、受け止めていた。

そして、レティの小さな相棒も。

 

クペは親父からレティを守ろうと腕から飛び出て親父の顔にバッとへばり付いた。

 

「クペ!」

 

レティの悲鳴が室内に響き、自分の顔をぽかぽかと小さな手で叩くクペに親父は思わず苦笑し、そんなことはしませんとあくまで自分に敵意はないことを伝えるために両手を掲げてクペの攻撃をあえて受け止めた。するとレティは少しだけ警戒心を解き、「クペいいからおいで!」と強く言いクペを自分の元へと呼び戻した。クペは最後にぺちっと親父に一発お見舞いしパタパタと羽を動かしてレティの腕に戻った。

レティは不信感篭った視線で親父と距離を取った。

 

「ころさないの、どうして?」

 

親父はルシスにとって貴方が大切な御方だからですよというと、

 

「れぎすおうはわたしをりようするつもりなのね。だってようせいさんがおしえてくれたもの。わたしのちからがほしいってだからわたしをとじこめるつもりだって」

 

親父はそんなことはないと言い続けたがレティは信じようとはしなかった。

 

「しんじられない。だっていったものあのひとは。れぎすおうは、わたしのむすめではないって。ほんとうのこどもじゃないからりようできるの」

 

レティは頑なに親父の言葉を受け入れようとはしなかった。

親父はレティが不憫でならず、そして彼女の容姿が自分が知る女性の面影を抱いていたこともあり、たびたびレティの元を訪問した。手土産に子供の好きそうなおもちゃなどプレゼントとして渡したが、あまり喜ばれずではお菓子など持っていてみたはいいが、たべたくないと断られ、では何か欲しいものはないのですかと尋ねればレティは、こういった。

 

「ぶきのあつかいかたをおしえて」

 

ただの思い付きとは思えないその言葉に親父は、覚悟はおありか?と尋ねた。

レティは

 

「いきるためにおぼえたいの」

 

と親父をまっすぐに見据えて言った。

親父は了承し、ではまずは体力をつけるところから始めましょうかとレティを庭先へと誘った。レティは頷き返し差し出した親父の手に自分の手を乗せた。

その後、親父は陛下にありのままを報告したという。陛下は「好きにしろ」とだけ言ったらしい。

 

※※※

親父にしては丁寧にしかし一切手を抜かずにレティを鍛えた結果、ノクトも知らぬほどのかなりな腕前を持つまでになった。だがレティはほとんどの戦闘に魔法を使うことをメインに戦っている。武器は魔法杖。慣れたものとなったキャンプの準備中、オレはそれとなく皆から離れ、レティに聞いてみた。武器は使わないのかと。

昼間の戦闘でレティとイグニスが一悶着を起こしたことを踏まえての言葉だ。

イグニスもレティの件に関しては、教えられていないな。あくまでノクトを補佐する者としているからだ。

 

「ノクトは優しいからダメっていうと思う。だから使わないの、いざって時以外は。……、ノクトは身内にはとことん優しくなるもの。彼は王として欠けているものがある。彼が王になれば嫌でも私を処断しなければならない時がくる。でも彼は躊躇うわ。その時、明確な判断を下せない王に誰が傅くというの。だから今しかない。今しか逃げるチャンスはないの。レギス王なら迷わず私を処断するはず。本来であればそれが正しいの。ミラの時のような生ぬるいやり方ではいずれボロがでる。そこから綻びが産まれてそれが国家存亡の危機へとつながる。それじゃあ意味がないわ。私だってむざむざ死にたいとは思っていない。生きたいもの。だから上手くやるわ。今回の件が済んで無事、ノクトの結婚式が終わったら、いいえ、終わらせるわ。……私はルシスから消える。王女は消息不明。これでオッケーよ。私はしがらみから解放されてノクトはお荷物の処分に悩む必要もない。貴方達、王の盾は厄介払いできて一安心。晴れてルシス王国はノクティス王と皆の期待である神薙、ルナフレーナという新しい王妃により繁栄を極め歴史に名を残す伝説の国となる。誰もが幸せになれる王道のストーリーよ」

 

昔から変わらないレティの出奔への拘りように聞いていて頭が痛くなりそうだぜ。

レティはきっとこうやって何度も自分に言い聞かせ続けているんだろうな。

でないと、色々なもんに引きずられそうなるのかもしれん。

たとえば、ノクトとかな。

 

「悔いはないのか?あるわけないじゃない!ずっと私は自分が邪魔ものだと思ってきた。思い知らされてきた。王女などという枠に私を納めなければ私はもっと違う形でノクトと接することができたかもしれないのに。ノクトを大切だと思う一方、ずっと醜い嫉妬心を抱き続けていたわ。どうしてノクトが外の世界に出れて私は出れないの?この力が敵にばれるのを恐れていたから?だったら産まれた時に赤ん坊のまま殺せばよかったのよ。それを下らない慈悲をかけなどするから後始末が大変になったわ。だから育ててもらった感謝はする。でもそれと同時に私はあの人を憎んでいるわ。心底ね」

 

レティは、愛されたかったのかと問うと、

 

「私が、…愛される…?いいえ、違うわ」

 

レティは頭をふり、歪んだ笑みを浮かべ言った。

 

「私が望むのは、解放よ。この楔からの」

 

……難儀なやつだ。

こりゃ、思ったよりも根は深そうだぞ、イグニスと心でエールを送るにとどめる。一応ノクトに軍配が上がっているようだが、恋愛は万華鏡のようにコロコロと姿を変える。今後どうなるかは、アイツらの行動次第だ。

 

オレは、まぁ折れないようにほどほどになとレティの髪に手を伸ばしぐぢゃぐぢゃにかき乱してかまってやった。レティはむっと口先を尖らせて「乙女の髪に何してくれるのよ」とオレの手から逃れようとするが、まだまだ甘い。

オレに負けてるうちは、ひよっこ扱いで一人前には程遠いんだ。

その点、レティはよーくわかっていない。

だから嫌がってもノクトとまとめて面倒見てやるさ。

 

【幼馴染というよりは、兄な気持ちで】

 

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