レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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今生の別れ

しばし、休憩したノクトたちはシドと話すためにガレージに移動することにした。だがノクトがレティの傍を離れたくないと言い張ったので、見かねたシドニーが「私がレティのこと見てるから。じいじと話しておいでよ」と買って出てくれた。それでもごねようとするノクトをグラディオが有無を言わさず引っ張って、ガレージ内に移動した。レガリアは外に出しっぱなしは敵の目もあるので良くないとのことで予めシドニーの手で入庫されていた。

そしてノクト達はそこで待っていたシドの口から驚くべきことを聞かされた。

 

「目的はクリスタルと指輪を奪うことだった。そして、レティーシア姫もだ」

「停戦の意思は、初めからなかった…」

「……何騙されてんだよ」

 

沈痛な面持ちでノクトは呟いた。だがシドはノクトの発言に顔を顰めた。

 

「馬鹿言え、……そう簡単に騙されるもんかよ」

 

シドはレギスの性格をよく知っている。単純に昔旅をした仲というだけではない。見えない絆で繋がっているのだ。今も、だからこそその悔しさも一入なのだ。

 

「王都で起きてたのは一方的な襲撃なんかじゃねぇよ。アイツは城で戦争したのさ。迎え撃ってやるつもりでな」

「「「「!?」」」」」

 

シドの言葉にノクト達は息を呑んだ。だがシドは

 

「だが、備えちゃいたが。力及ばなかったってのが、現実だ」

 

と項垂れて黙り込んだ。それ以上何も言えなかったのだ。たとえ、離れていたとはいえ友人の死はシドにとっては悲しき事実だったのだから。

 

「……こまけぇことはコルの坊主に聞きな。オレはレギスと、顔をあわせちゃいねぇんだ。もう、何年も前からな。ああ、それとコルから伝言だ。『王の墓』で待つ、だとさ。……姫が目を覚ましてから行けよ。あれじゃ足手まといだ」

 

シドは立ち上がってガレージから出て行った。残されたノクトたちは皆、沈んだ顔で口を噤んだまま喋ろうとはしなかった。

 

帝国側の真の狙いがここではっきりとしたこで目の前の現実を突きつけられたのだ。完全に不利な立ち位置は命の危険さえ常に陰に潜んでいる。

祖国を失い、圧倒的な軍事力を誇る帝国から狙われているレティ、そしてノクトが生きていると知ればその敵意を一気に集中的に狙ってくるだろうことは予測しなくても分かり切ったこと。この状況を打開するには、一刻も早くコルの元へ行かなくてはいけない。だが、シドははっきりと釘を指した。レティが目を覚ましてから行けと。足手まといだと邪見に扱ってはいるが、それはシドなりの心遣いなのだ。まだ精神的に不安定でレティから離れたがらないノクトに、目が覚めないという異常な状態のレティではいざという時思うように動けなくなる。もし敵と鉢合わせなんてことになったら、という最悪なパターンもありうるのだ。だからこそ、しっかりと準備をして行けとシドは伝えたかった。だが馬鹿素直に言うほど、シドは年を取ってしまった。だからあえて捻くれたいい方をすることで自分の気持ちを伝えようとする。若い世代の背中を押し、前へと進ませるために。

 

亡き、友の意思を無駄にさせないために。

 

レティーシアside

 

現実世界から強制退去【シャットダウン】された私の意識は揺蕩い微睡に溶け込みつつある。その流れに身を任せ深く沈むだけで何も考えずともよい。

理解しなくても受け入れなくてもいい。

それが許されるのだ。ここは。悲しみも苦しみも一瞬で忘れさせてくれる。

 

まるで麻薬のような場所。

この世界にずっと浸りたい。体を丸めて赤ん坊のように沈んでいきたい。

現実は私を傷つけるものばかりだから。

 

だから、眠ろうとした。

けど、誰かが私の名を優しく呼ぶの。

 

『レティーシア』

 

呼ばないで、私をこのままここにいさせて。

 

『レティーシア』

 

その声は私の拒む声に耳を貸さずにずっと呼び続ける。何度も、何度も。

聞いたある声。

それは私の意思とは関係なく意識を浮上させていく。仕方ない、一度だけ応えてあげようと私は瞼を開くイメージをする。

 

すると、世界は一変した。

私のよく知る世界、神々が住まう場所が眼前に広がったのだ。ここは何度も訪れているから間違えることはない。

じゃあ、私を呼んでいたのは召喚獣?

 

『レティーシア』

 

後ろからあの声がはっきりと聴きとれた。聞き覚えがあると思ったら。

振り返ると、ああ、やっぱり彼だったと確信し自然と笑みが浮かぶ。

おとぎ話の中でこう、呼ばれている。誇り高き剣神バハムート、と。

 

『心は癒えたか』

『心?私は傷を負っているの?』

『自覚はないか。……この世界は其方に害を為す者はおらんというのに』

 

害……。確かにこの世界は私にあだ名す者はいない。だって召喚獣達が許さないもの。

昔からそうだった。でも、今私は。

 

『…なんだか、心がぽっかりと穴が開いたような気がするの。何か、大切なものを落としてしまったような。心が、軋む、の』

『それは、現実を受け入れようとしない影響だろう。其方が現実を拒めば心の穴はもっと広がる』

 

バハムートの言葉を受けて、私は自分の胸に両手を重ねて当てる。

ここに、穴がある?

 

『心の、穴。私が、現実、を。何を、忘れようとしているの?私は……いたっ!』

 

ずきっと頭痛がして私は痛みに顔を歪めて頭に手をやった。その痛みはドンドンひどくなり痛みで立っていられなくなるくらいに私を追い込む。その場にへたり込んでしまうくらい酷いもの。

 

『そちらの世界は其方にとって辛いものだろう。レティーシア』

 

彼は体を動かして私の目の前にやってきた。そして体を低くして私をその翼で包み込んでくれる。彼に守られているという実感から温かさがじんわりと体を包み込んでいく。

不思議だった、その温かさに痛みをゆっくり和らいでいく。

 

『レティーシア、泣くな。其方の涙を拭いたくても我の爪では其方を傷つけてしまう。だから泣くな』

 

珍しく困った声で彼は私を慰めてくれる。

 

『私、泣いているの?』

 

痛みで泣いていると最初は勘違いした。自覚すらない私の頬にそっと指先で触れれば、確かに水滴が指のはらに付いた。

でも痛くて泣いた覚えはない。

ではなぜ泣くのかと問われればわからないと答えるしかない。

だけど気遣ってくれる彼に『貴方は本当に優しいのね。ありがとう』と礼を伝えた。

 

『我に優しいなどというのは其方くらいなものだ。レティーシア』

『だって優しいじゃない。召喚獣達は皆。私に甘いくらいに。……本当なら、神薙こそが貴方たちの声を聞くに相応しい者なのに』

 

言葉にしてから私ははしまったと後悔した。

これではまるで告げ口のようである。あからさまに彼女に嫉妬していると取られても仕方ない発言だった。だがバハムートの発言はとても信じられないものだった。

 

『神薙か、確かにあの者は我らの声を伝え聞くことができる。だがそれには相応の対価が必要なのだ。安心しろ、レティーシア。其方の心悩ます存在は時来れば散るだろう』

『……え?』

 

聞き間違いであると一瞬耳を疑った。だが続けてバハムートが伝えてきた言葉は確実に真実だった。

 

『人の生身で我らと接近することができるのは其方だけだ。神薙とは王の手助けを行う者。その責務を負う者は短命である』

『嘘』

『我は其方に嘘はつかぬ』

 

バハムートはきっぱりと言い切り私は『ああ、そうね。ごめんなさい』と相槌を打つだけで精一杯だった。

 

彼女は、自分の命を代償にしているの?それを受け入れているの?自分の命を絶つ覚悟で。ノクトの助けになろうと。……そこまでしてノクトのことを……。

 

『真実である。だが悲観することはない。真に我らの声を聞き届けられるのは其方だけだ。……』

『そんな、私は……!』

 

彼女の存在を疎ましいと思ったことなんか……!人の死を、喜ぶことなんてしたくない。

だけどバハムートは私の心情を理解しておらず、

 

『レティーシア、そろそろあちらに戻れ。こちらでは時の経過はないがあちらでは止まることなく進み続けている。元の体に戻るのだ』

 

ともう神薙の件は興味ないように私の身を案じている。

自分たちの意思疎通させる存在なのに関心すらなし、という態度に私は困惑するしかなかった。

 

『……わかった、ありがとう。バハムート』

『またいつでも来るがいい』

 

なんだかもやもやした気持ちのまま、私はまた瞼をゆっくりと閉じた。

世界は、一度変わる。

 

 

いつも使っているベッドよりも硬い感触に居心地の悪さを感じ、身じろぎし日の光を強く瞼の外側で感じ取り、薄く瞼を開く。そこは自分が思っていたよりも低い天井で作りが違っていた。一度瞼を閉じて再度開き、ふと横に視線をやるとすぐ目の前にふかふかの緑色の毛並みがあった。

 

なんだろう、これ。一瞬ぬいぐるみかと思ったが体がかすかに上下していることで動物だと判断。けど見たことあるような。

 

「……レティ!?起きたんだね!」

「あれ、シドニー?」

 

すぐ横の椅子に腰かけてうたた寝していたシドニーが私が目を覚ましたことに驚き、見る見るうちに瞳に涙を滲ませて椅子をひっくり返し立ち上げってがばっと私に覆いかぶさるように抱き着いてきた。

 

「良かった、王子から大体の事情は教えてもらったけど、もう目を覚まさないんじゃないかって気が気じゃなかったんだから……」

「わっぷ」

 

ぎゅうぎゅうと抱きしめられて私は一体何が何だかわからずされるがまま。

シドニーだけじゃない。私が起きたことに喜ぶのは

 

「レティ!?起きたクポ~!?」

「キュン!」

 

クペとあの緑色の動物。……じゃない。

 

「カーバンクル?」

「キューン!」

 

私に名を呼ばれてカーバンクルは嬉しそうに鳴いては、抱きしめているシドニーに負けじと甘えてこようとする。クペはカーバンクルに先を越されて悔しそうだったけど、私が空いてる手で手招きするとぴゅーっと涙を零しながら飛んできた。

 

「レティの馬鹿馬鹿クポ~!クペの寿命100年は縮んだクポ~」

「あーはいはい。ごめんね」

「全然気持ち籠ってないクポ」

 

そうは言われても、今このサンドイッチ状態では身動きもとれやしない。私はシドニーの背中を軽く叩いて離れて欲しいと意思表示する。するとシドニーは私の意図が伝わったのかゆっくりと体を離してくれたので、私も体をのそりと起こす。

 

「体はおかしいところない?」

「ううん、全然。でも、……ちょっとお腹空いたかな」

「ぷっ、起きて一番はそれか!でもお腹が空いているのは健康の証だね。待ってて、タッカに頼んで何か作ってきてもらうよ」

 

シドニーはウインクして出て行った。改めて周りを確認してみるとここはトレーラーハウスのようだ。どうりで寝心地が悪いわけである。クペもシドニーに続いて「クペもノクトに知らせて来るクポ!」と意気込んで出て行った。残されたのは私といまだ甘えてくるカーバンクルだけ。カーバンクルをむんずっと捕まえて自分の目の前に持ってきて視線を合わせる。

 

「さて、カーバンクル。どうして貴方がここにいるのかしら?」

『ボクね、シヴァに言われたの。これからはレティと一緒にいるようにって!』

「シヴァが?」

 

いつの間にシヴァは私の所へきていたのだろうか。全然記憶に残っていないのはおかしい。

 

『うん。クペだけじゃ魔力の暴走は防げないかもしれないからって』

「……魔力の、暴走……」

『レティ、もしかして覚えてない?』

 

カーバンクルの問いかけに私は答えられなかった。力が抜けて彼を捕まえている手がするりとカーバンクルを膝に落とす。

 

魔力の暴走。

僅かに小刻みに震える自分の両手を見やる。

 

「……私は、……」

 

この手で、私は魔道兵たちを狩った。そう、ただ激しい憤りのまま、感情に身を任せて私は動いた。あれが機械だったから手加減しなかったわけじゃない。人間だったとしても、私は同じことをしていた。何も考えずに、虫を潰すように。

 

ぞっと、する。もし、私が見境なくノクトたちにさえ、一般人にさえ手を掛けていたと思うと。この手は、赤く血で染まっているだろう。錆びた匂いさえ取れないほどに色濃く。

 

私は、初めて自分で自分が怖いと思った。

 

人間じゃない。こんなの。召喚獣と会話できて、使役さえできてただ愛しまれるなんて可笑しいんだ。

 

……だからだろうか、愛されない理由が分かった。

私が、悍ましい存在だということをあの人は卓抜した目で見抜いていたんだろう。だから私と距離を置いたんだ。

 

なんだ、あっさりと納得。

 

「……はっ、……」

 

そっか。あっちの世界で受けた痛みは、コレだったのか。

心に穴が開いたような空虚な感覚。警鐘を鳴らすような激しい頭痛。思い出してはならないと無意識に自分に訴えていたんだ。

 

思い、だした。

全部、思い出した。

 

自分がしでかしてしまったことを。

ノクトたちに見られてしまった。彼らを傷つけてしまった。

 

あの人は、結局叱ってくれなかったんだ。

勝手に期待して勝手に自滅。そうだよね、私は最初からあの人に見られていなかったんだから。

 

私のよくあるパターンだ。そうだ、最初からこうなるって分かってたんだ。

なのに、私は……。同じことをやっては学習せずに過ちを繰り返す。

 

「……っ……」

 

押し寄せてくる一つの感情に私はこらえきれず嗚咽を漏らす。

顔を伏せて私は自分の体を掻き抱き、ただただ現実を受け入れるしかない。

 

あの人は、死んだ。

 

現実は遠慮なく私に事実を突きつけるんだ。あの人に最後まで愛されたかった愚かな私に。

 

『レティ』

 

私の悲しみに寄り添うようにカーバンクルが傍にいてくれた。

 

【あの人が私を見ることは、二度とない】

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