レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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彼女の更生論と秘密のお話

ノクトside

 

オレにとって、今、唯一の家族はレティだけなんだ。

 

その事実を一番強く感じたのは、シドの口から親父の死を告げられたことだった。他人から言われてようやく気付くなんて、馬鹿だよな。でもそれくらいオレには信じられなくて、……親父が死んで、ルーナがどうなってるかわかんなくて、レティがああなっちまってオレはもうどうすればいいかわからなかった。ただ言われるがままシドと話してこいってシドニーに追い出されてグラディオに無理やり引っ張られてガレージまで連れてこられた。そこから語るシドの話は、正直どうでもいい。

 

ただ、帰る国を失って親父は死んで、レティが目を覚ますかもわからない。そんな絶望的な状況だってくらいだ。簡単だろ?

これからコルと合流することになるとか言ってるけど、合流したところでオレたちに何ができるってんだ?たった五人で?あの軍隊に?蜂の巣にされるのがオチだ。

今だってカーバンクルのお陰でなんとか隠れている状態だってのに、あいつらに喧嘩でも売る気か?

 

正気の沙汰じゃないぜ。

それに、親父みたいなことなんて、オレにできるわけねーよ……。

死ぬなんて、嫌だ……。レティを残して死にたくねぇ……!王都襲撃を聞かされた時だってレティはあんなに取り乱して結果召喚獣呼び出して暴走しちまった。……親父の死が何よりショックだったからだ。ああなったのは。もし、オレが死ねば、レティは今度こそおかしくなる。そんな気がするんだ。

 

……余計なこと考えすぎだな。

 

軽く頭を二、三度振ってオレはグラディオに「レティとこ戻る」と一言断って、返事も待たずにトレーラーハウスに戻る為とガレージを出ようと歩き出した。すると、聞き覚えのある声が「た~い~へ~ん~ク~ポ~!」遠くから聞こえてきた。

 

この特徴的な声は…クペか?

 

オレはもしかしてレティに急激な変化が起こったのかと焦り「くそっ!」と舌打ちしてガレージを飛び出した。途端、顔にフサフサの何かがべたっと勢いよく張り付いた。

 

「うぉっ!」

 

体制を崩しそうになった。が、そこは何とか堪えてそのフサフサに両手を伸ばして顔からばりっとひっぺ剥がす。案の定、良くみるとやっぱクペだった。しかも苛立っている様子。

 

「オレの顔に引っ付くな」

「そこにノクトがいるのが悪いクポ!」

 

放せクポ!と手足をばたつかせるクポにオレはじろりと睨み返した。

 

「ああ?」

「ああ、違ったクポ。ノクトと遊んでる暇ないクポ!レティが目を覚ましたクポ!」

「!?」

 

オレはその知らせにクペを放り投げて一目散にトレーラーハウスの方へ走った。後ろでクペが文句言っているのも耳に入らず。ただ、ただレティに会いたい、一心で。

ドアは閉じられていて乱暴に開き、ドタドタと音を出して階段を駆け上がる。

 

「レティ!!」

 

オレは叫びながらレティが眠っているはずのベッドに視線を向けた。そこには、待ち望んでいたレティが腰かけて暢気そうにカーバンクルと遊んでいた。オレは、一瞬呆気にとられ、間抜けにも口を半開きしちまった。オレが来たことに気づいたレティが顔を上げて遊んでいる手を止めて

 

「ん?……ああ、ノクト。おはよう」

 

と笑顔でイラッとする挨拶をした。ああ、イラッと来た。

これがあの暴走したレティかと疑うくらい清々しさに溢れていてさらにイラッときた。

 

「……」

 

オレは、無言で歩み寄って無抵抗なレティを抱き込んだ。勢いのままレティごとベッドに押し倒しちまったけど気にしてられねぇ。カーバンクルは間一髪で逃げることに成功したみたいで澄ました顔してる。

 

「ちょっ、ぎゃっ!」

 

抗議の声を上げるレティなんか知るか。

ああ、この温もり……。ずっと失ってしまうかと思った。オレの虚無感すらわからずにレティは当たり前のようにオレの前で笑った。自分があんな無茶苦茶なやり方で突然いなくなって冷たい雨の中、倒れていたレティを見たオレの気持ちなんかこれっぽちも理解してない。オレから逃げようとするレティを押さえつけるように腕に力を込めた。

 

「……レティの馬鹿野郎。オレがどんな気持ちで……!」

「野郎じゃないんですけど」

 

抵抗をやめズバッといちいち細かいことで揚げ足を取ってくる。だからオレは言い直した。

 

「馬鹿レティ」

「……はいはい。どうせ馬鹿ですから。……ゴメンね、心配かけて。泣かなかった?」

 

オレの言葉をあしらいながら、レティの手が手慣れ動きでオレの髪を梳く。

 

ああ、レティだと強く実感できた。この手が一番安心できる。

この温もりだけあれば、何もいらなって思えるくらいに。……自分だって泣きたい癖に強がってる。オレの心配ばかりして自分のことは後回し。だからオレがその分心配してやらねーとレティはダメになる。

 

「泣かねーし」

「泣けばいいのに」

「泣かねーよ」

 

しつこい押し問答を繰り返すオレ達。

……王子は簡単に泣けねぇんだよ。けど姫なら泣いても誰も文句言わねぇ。

レティの方こそ泣けよ、とは言わなった。レティはきっと隠れて泣いているに違いないから。さっきは気づかなかったけど、少し泣いた痕があったのは気のせいにしてやろう。

 

「聞いたでしょう、あの人のこと」

「………」

 

それには答えずにオレはレティを抱きしめる腕に力を込めた。

 

「泣きなよ、ノクト」

 

オレは、今は泣かない。……あとで泣くかもしれねぇ。レティの前でなら泣ける、かも。

レティはため息をついてオレの頑なな態度に諦めたようだ。

 

「………」

「……ちゃんと休憩とか取れてる?ここまで来るのに」

「……全然、レティずっと寝てたし。心配だったから」

 

レティがあんな状態だったてのにグースカ寝れるほどオレは神経図太くない。

 

「……じゃあ、ちょっと寝てなよ。私のお膝、ノクトだけに貸してあげるから」

「は?」

「ちょっと、起きて、いいから。……そうそう、それで起きて……はい!どうぞ、私の膝でしばしの眠りをご堪能くださいな」

 

ぐいぐい押し上げられて仕方なくベッドに肩肘つき体を少し浮かせると、ほんの隙間からごろりと横に逃げたレティは何やらブツブツと「まったく、心臓持ちやしないわよ」とか意味不明なことを呟いていた。けどオレの視線に気づき、コホンとわざとらしく咳をしてベッドに座りなおしてぽんぽんと自分の膝を叩いた。

膝枕してくれるらしい。オレは何も考えずにごろんとレティの膝に頭を乗せて寝転んだ。

 

「そこは素直なのね、ノクト君」

 

呆れた様子のレティにオレは間髪言い返した。

 

「レティから言ってきたんだろ」

「そうでございましたわね。……子守歌でも歌ってあげましょうか」

「音痴なのにか、ってイテテテ」

「悪いお口はどの辺かな~」

 

笑顔でぐいぐい遠慮なしにオレの頬を引っ張る手。こんなときばっかり馬鹿力発揮すんだよな!

 

「イダイダイッ!」

「そういう素直さはいらないの。……ほら、寝た寝た!これから忙しくなるんだから少しは体力回復させておきなさい」

 

タオルケットを上からかけてきて本格的に寝ろと言ってくる。少し寝られればいいんだけどな。でも、悪い気はしない。オレのことを心配して言ってくれているから。自然と頬が緩む。カーバンクルが自分も構えというようにレティの肩に軽やかな動きで駆けのぼって頬に体を摺り寄せた。レティは微笑んで「よしよし」と撫でつける。

そういや、このカーバンクル。よくよく考えると前にも会ってるような気がするんだよな。

 

「……わかってんのか、次行くとこ」

「カーバンクルから聞いたから……。大丈夫、私は傍にいるよ。ノクトの傍に」

 

やんわりと微笑んでオレを見下ろすレティ。

 

「っ!」

 

オレは、レティの腰に腕を回して抱き着いた。いつだって、オレが欲しいと思っている言葉をくれる。やっぱり、オレはレティじゃなきゃ嫌だ。レティナシじゃ考えられないくらいに依存しちまってる。けどそれでいいと納得できるんだから末期だな。

 

オレは、懇願するように頼んだ。

 

「……傍にいてくれ…。レティ」

「うん。大丈夫、傍にいるから。だから」

 

安心しておやすみと、優しい手つきで髪を撫でられ、オレはいつの間にかうとうとと眠りに吸い込まれ始める。

 

レティ……。

 

今までの疲れが一気に襲ってきたらしい。睡魔には勝てずオレはレティの存在を確かに感じながら安心して眠りについた。

 

だから、オレはレティが悲しそうな顔をして呟いていたのを知らずにいた。

 

「……彼女が、私の役目を引き継ぐまで、傍にいるわ」

 

【少しづつ、私から更生させていこう】

 

レティの膝枕で熟睡しているノクトとは反対側のガレージでは秘密の話が行われようとしていた。そこに同席しているのはグラディオ、イグニス、戻ってきたシドにプロンプトである。実はプロンプトもレティに会いに行こうとしたのだが、険しい顔つきで動こうとしないグラディオに「いかないの?」と尋ねると、グラディオは椅子に座ったまま軽く手を振って「ああ、やめとけ。今ノクトが独占してんだろうさ。……それより今アイツがいないときこそ話さなきゃならねぇことがある。……お前も聞くか?」と試すようにプロンプトを見つめ言った。

プロンプトは、ごくりと息を呑んで、「……聞く…」と頷いてまた元の位置に戻った、というわけである。

 

部外者がいないかどうか確認して、用心の為にガレージは完全にシャットアウト。

重苦しい雰囲気の中、最初に口を開いたのはイグニスだった。

 

「教えてもらおうか。レティが帝国に狙われる本当の理由を」

 

眼光鋭くグラディオを見つめるイグニスの視線にタジタジになりながら、プロンプトは遠慮がちに尋ねた。

 

「あのさ、ノクトがいないところで話さなきゃいけない、話なの?」

 

レティに関することならきっとノクトも知りたいはず、と言いたかったのだがグラディオは首を振って

 

「アイツには教える気は今のところない。大体いっぱいっぱいだろうしな。オレ達だけでいい」

 

とキッパリ言い切った。ということは、ノクトにさえ衝撃を与える内容だということ。そんな重要な話の中で果たして自分は参加していていいのだろうかと不安にもなってしまう。だがそんな考えなどグラディオはお見通しで

 

「聞きたくねえんだったら出てってもいいんだぜ」

 

とあえて逃げ道を提案した。重要機密を聞くということは、今後何かしらの縛りがあるということ。一般人であるプロンプトはまだ逃げられると言いたいのだ。だがプロンプトはぐっと拳を握りしめて、「いや、オレは聞くよ」と腰を据えて椅子にドカッと座り込んだ。これで話は始められるとイグニスはシドにも質問をぶつけた。

 

「シド、貴方も知ってたんだな。レティの素性を」

「……オレも関係ない、と言いたいところだが。レティーシア姫の母親と面識ある以上説明しねぇわけにはいかねぇな。アイツがいねぇ分しっかり教えてやるさ」

 

てっきりしらを切るかと思ったが、あっさりとシドは事実を認め開き直った。少し拍子抜けしたイグニスは、慌てて表情を引き締めた。

 

シドから切り出された内容は、とても信じられないものだった。

 

「……オメェらは知らねぇかもしれねぇが、レギスには妹がいた。王女さ」

「え!?王女様?そんな人、いたの?」

「オレは、知らされていない、が」

 

二人は困惑して困ったようにグラディオに視線をやった。グラディオはシドの言葉に説明を突け加えた。

 

「イグニスが知らねぇのも無理はない。ミラ王女の痕跡はごっそり抹消されたんだ。陛下の御力を持って民の記憶から消し去ったんだ。ミラ王女の痕跡だけを」

「そんなことが可能なのか?」

「可能だから今こうなってるんだろうが」

「……」

 

正論を述べられて口を閉ざすイグニス。確かに彼の中で王女という存在は知らないことで、それ自体が真実であると思わざるをえないのだ。質問はないようなのでまたシドが口を開いた。

 

「続けるぜ。レティーシア姫の母親はミラという名前の王女だ。身籠ったはいいがある事情から錯乱状態でな。まともに会話さえ成り立たなくなっちまった。それで姫を産み落とした後、ぽっくり死んじまった。遺体は代々王家の人間が眠る墓地に埋葬された。姫はレギスが引き取ることになり丁度王子が先に産まれていたこともあって双子として世にお披露目したのさ」

「……だから、双子なんだ」

 

二人の顔があまりに似ていないのは一般人であるプロンプトさえ思ったほどだ。だがレギスが二人は双子だと世間に宣言しているのだからそうなのだと、誰も疑いもしなかった。ある一部を除いては。

 

「姫の顔見て一発で分かったさ。あまりにミラにそっくりだからよ。しかも見た目だけじゃなくてその力さえも同じとは。神に愛されし娘というのは肩書だけじゃねぇって思い知ったさ」

 

ミラと面識があるシドでさえ、初めてレティに会った時、錯覚したものだ。生きているはずのないミラが目の前にいると。それほどに二人は似ているのだ。容姿だけではなく、まるで内面も。

 

「ミラ王女も、レティと同じ能力に?」

「ああ。陛下は極限られた人物にだけミラ王女の存在とレティの秘密を明かしておられた。オレは、父上から教えてもらった。誰にも言ってはならないってな」

 

グラディオは一瞬表情を曇らせた。父親であるクレイラスの身を案じたのだろう。だがすぐに表情を引き締め直した。

 

「……ミラ王女はニフルハイム帝国の将軍と秘かに密会していた」

「な!?」

「……どうして、そんな」

 

衝撃発言には、絶句するしかない二人にシドは吐き捨てるようないい方をした。

 

「知るか。世間知らずな王女にまともな相手が選べるかってんだ。……相手が、ニフルハイムの一般人だったら良かったのによ……」

「……相手がマズかった」

 

苦虫を噛み潰したような表情に、イグニスとプロンプトは怪訝になった。

 

「どういうこと?その人、将軍だったんでしょ?」

 

将軍ともなればあのイドラ皇帝にその力を認められた存在。能力さえ買われればその身分は問わず召し抱えられるはず。確かに将軍であることはマズいことだが、それがどうレティとどう関係するというのか二人にはわからなかった。

 

「将軍ではあった。だが、その生まれがヤバかったのよ。……その男は皇帝が側女に産ませた男だった。……継承権がないとはいえ、れっきとした皇子さ」

「!?」

「じゃあ、姫は……」

 

レギスが必要以上に城から出さなかった本当の理由。

レティを守るためには仕方なかった事実。

レティーシア・ルシス・チェラムという王女の素性。

 

グラディオは意を決して二人に伝えた。

 

「アイツは、レティは。……ニフルハイム帝国皇族の血とインソムニアのルシス王家の血を受け継いでいる。混血のプリンセスってわけだ」

 

鈍器で殴られた衝撃が二人に襲い掛かり、何も言えなくなる。

二人が兄妹ではないという事実。

 

「レティ、が」

「姫が狙われる理由は主に二つだ。その存在を帝国皇族として世に知らしめるため、召喚獣を使役することができる姫を利用して何かを企んでるってことだ。……どうせあくどいことだろうよ」

 

シドはひどく立腹した様子で腕を組んで椅子に背中を預けた。

 

「姫は、ノクトの、従妹なんだ」

 

キャパオーバーのプロンプトのつぶやきにグラディオは重々しく頷き返す。

 

「……ノクトには」

「言うな。機会を見てオレから話す」

「……わかった……」

 

イグニスは少し気持ちを落ち着かせるためにコーヒーを飲みに行くと言ってガレージを出て行った。シドももう話すことはねぇと仕事に戻った。残されたグラディオとプロンプト。

 

「プロンプトもうっかり口滑らせたなんてないようにしろよ。これは、ルシス王家存亡に関わる重要な話だ」

「……うん」

 

ばんっと背中を思いっきり叩かれてプロンプトは「いだっ!」と大げさに悲鳴を上げて、グラディオは「軟弱者」と意地悪い笑みを浮かべた。

だがプロンプトはうっかりどころか、レティと顔を合わせた途端に気まずくなったりしそうだなと心の中で少し自信なさげに肩を落とした。

 

二人はイグニスに続いて遅れてガレージから共に出た。

だが、彼らは気づかなかった。……白いモフモフした生き物が盗み聞きしていたことを。

 

どこかの家政婦は見た!?のような顔をしていたことを、彼らは知らない。

【長いようで短い話】

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