レティーシアside
コルと合流するため私達はレガリアを走らせ、王の墓という場所へ目指すことになった。ノクト達からはカーバンクルの姿が見当たらないことを尋ねられたが、召喚獣は気まぐれだからと曖昧に答えるとそんなものかと納得してそれ以上突っ込むことなく、内心ほっとした。悟られるわけにはいかないんだ。
いずれ何らかの形でルナフレーナ嬢の生存はノクトたちの耳に入るはず。今はとにかくこちらが少しでも有利になるような手立てを得なければいけない。
……クペがぼんやりと考え込むことが多いのが気になるけど、きっと彼女なりに何か気になることがあるんだと思う。そこはあえて彼女が話してくれるのを待とうと思った。
沈んだ気持ちを切り替えようと皆いつもよりも増して口数は多く、他愛のないやり取りに表情も緩みノクトも私も、現実から目を背けるようにそれに便乗した。
そしてたどり着いたのは、ハンターが集う集落。
「ここがシドの言っていた集落か」
「ハンターらしい奴が集まってるな」
「情報収集していこうよ」
イグニスの説明じゃ情報交換の場でもあるらしいって。レガリアから降りてとりあえずはショップで不足しているアイテムを購入してそれからコルを探すことに。
移動販売らしいショップのお姉さんと買い物のやり取りをしているイグニスのすぐ傍で膝を抱え込んで控える私と頭の上に乗っているクペ。周りの建物を観察してみると、雨風を凌げる屋根付き休憩所って印象だ。逆にトレーラーハウスが豪華に思えるくらい。
感じで私はなんとなく居心地の悪さを感じて顔を顰めた。
「なんか、埃っぽい」
「レティは綺麗好きクポね。野蛮な男からは野生の匂いがするっていうクポ」
「本当!?……イグニスは、大丈夫よね」
他愛もない会話だったのだけど、イグニスはそうではない。
買い物を終えたイグニスに視線をやると案の定、こちらを向いて
「君たちは一体何の会話をしているんだ。丸聞こえだぞ。クペ、不確かな情報を安易にレティに教えないでくれ。それとレティも簡単に信じるな」
と眉間に軽く皺寄せて注意してきた。ショップのお姉さんも私とクペの会話を聞いていたのが笑いを堪えるのに必死な様子だった。
「別に男ってワイルドだね~ってお話じゃない。ねークペ」
「ねークポ」
仲良く「「ねー」」と言いあえばイグニスは呆れてため息をついた。
「……はぁ、いいからノクトたちの所へ行こう。くれぐれも、オレ達から離れないように。ハンターの情報網は侮れないんだ。帝国に組する奴がいたらこちらが一気に不利になる」
イグニスの懸念も分かるけど過保護すぎるものどうかと思う。
どうも彼は私とノクトの扱いを同等としているところが前からあるような気がして、それが何となく気に入らない。彼はもっとノクトに気を配るべきだ。私ではなく、王となるノクトに。
「……わかってるわ。迷惑は、かけないもの」
澄ました顔でツンとそっぽを向くとイグニスは何か言いかけようと口を開いたが、ぐっと飲み込んで「……行こう」と視線と共に私を促した。私は黙って立ち上がり歩き出すとイグニスが後ろに続いた。二人の間に会話はなく、それはノクト達と合流してからも続いた。
私とイグニスの間に漂う微妙な空気を過敏に読み取ったプロンプトが会話を盛り上げようとしてたけど見事爆沈。気なんか遣わなくていいのに。
でもこそっと彼だけに聞こえるように「ありがと」と小さな声で礼を言うとプロンプトは目をぱちくりさせて、嬉しそうに「うん!」と頷いた。
こういうさり気ない気遣いは好きだ。さて、中に入ると見知らぬ女性が私とノクトに気づいた途端、ズボンが汚れることも厭わずに胸に手を当てスッと跪いたものだから驚いた。
「ノクティス様!レティーシア様も御無事で何よりです」
「え!」「ん?」
「ああ、コイツはモニカだ。警護隊の一員でな。……モニカ、取り合えず形式の挨拶はいい。人目がある。それで他の奴は?」
グラディオラスからの問いにモニカは立ち上がり辛そうに視線を逸らした。
「では失礼いたします。その警護隊は、ほぼ王都で……。イリス様を御守りして逃げるのが精一杯でした。今、イリス様にはダスティンが。レスタルムまでは無事、おつきになれるかと」
私はイリスという名前に思わずモニカに詰め寄った。
「本当ですか!?それは!」
「え、ええ」
戸惑いながらも頷いたモニカをよそに、
「クペ!」「良かったクポ!」
私とクペは顔を見合わせて、飛び上がりそうなほど一緒に喜びを分かち合った。グラディオラスは
「そうか、すまなかったな」
「いいえ。……将軍は、この先の王の墓所でお待ちです。将軍もノクティス様とレティーシア様の御無事を願っておられました」
「……そう、貴方もありがとう。随分と苦労をかけましたね」
「いいえ!そのようなお言葉勿体なく……っ……」
私のねぎらいの言葉にモニカは最初は謙遜していたが、何か心触れることがあったのか、苦しそうに言葉を詰まらせて顔を伏せた。きっと、仲間のことを思い出したのだろう。
私はモニカの手を取り、不安げに顔をあげて瞳を揺らすモニカにこう語りかけた。
「……貴方がこうして私たちの前に立っているのは紛れもなく貴方の力なのです。たとえ帝国の圧倒的な力の前に逃げおおせたとしても、それは生きる為に取った手段。恥じることも悲しむこともありません。堂々と胸を張って。国の為に体を張って応戦してくれた貴方が生きているという事実が私は大変嬉しいのですよ」
「…レティーシア様……!」
感極まったモニカは、私の手に縋るように静かに涙を流し、私は黙って彼女の悲しみを受け止めた。
こんな気休めの言葉で彼女が負った傷を癒すことはできないだろうけど、声を掛けずにはいられなかったんだ。あの人は羨ましいほどに民に慕われていたから。
そりゃ、一部の移民からは嘘つきだなんて蔑まれていたりしたけどさ。
あの人がいない分、ノクトのフォローをしなくちゃという焦りからだと思う。
嫌な王女の仮面を被って彼女を『わざと』慰めたのは。
仲間からの感心込められた視線が集中する中、打算的な考えだと見抜いているのは、グラディオラスぐらいかもね。
【卑怯なやり方だってわかってても実行できる】
※
ラジオから流れるルナフレーナ嬢の生存に関する内容は右から左。ノクトは気になるようで立ち止まって聴き入っていたけど、私は構わず先に進み続けた。するとハッと我に返り遅れて続くのが足音でわかる。
やっぱり気になるわよね、婚約者の生死は。
罪悪感、少しは感じてる。本当は教えてあげた方がいいと思う。
けど絶対突っ込まれるはずなんだ。どうして知っているんだって。そしたら一から説明しなきゃいけない。召喚獣とのやり取りも何もかも。
だって疑いだしたらキリないでしょ?ギスギスしたままの旅なんて私には無理。今の関係を壊すことはノクトの為に最善とは言えない。だからこちらからは教える気はない。
王家の墓までは結構歩く距離にあるみたい。慣らされた土道を進んで黙々と進んでいくと後ろから「おい!あんまり先行くな」と乱暴に肩を掴まれたことで集中していた意識が現実に引き戻される。
どうやら早歩きで進んでいたみたいだ。グラディオラスが走って止めに来たから助かった。私は「ごめん」と軽く謝って皆が来るのを立ち止まって待つことに。その間グラディオラスから「何考えてんだ」って鋭い視線向けられたけど、私は「別に。勘繰りすぎじゃない?」とうまくはぐらかした。そして文句飛ばしてくるノクト達と合流し、皆でお墓へ。王家の紋章が刻まれた石材の門をくぐり、丘をぐっと歩いていくと先に数段ある階段が見えた。その先に楕円形の建物と下へ降りていく階段があった。
「これ、お墓かぁ」
「将軍は中か」
「……」
入口の頭上に装飾された象。死の女神、エトロを模した女性像だろうか。まるで王の眠りを守るようにこの地を訪れる者を見定めているようだ。少し、身が引き締まる想いがして、ノクトが石張りの扉を開扉していくのをじっと見つめた。
※
石室の中に入ると見慣れた後ろ姿があり、イグニスが彼に声を掛ける。
「将軍」
呼ばれ振り返ったコルは、別れた時と変わらず無骨な相貌でありながら将軍と呼ぶに相応しい立ち振る舞いはやはり圧巻してしまう。その癖、女性に対しては紳士らしい振舞いに初めて彼に会う人は、どちらが彼の本質なのかすぐには理解できないだろう。私も彼には散々と迷惑かけて(主に捕まえに来る役目)お世話になっている。その度に彼は嫌な顔一つせずにこういうのだ。『姫、御無事で何よりです』と。
予想通りの、彼が一番最初に口に出した台詞は、ノクトと私の身を案じての言葉だった。
「ようやく来たな、王子。……お怪我もない御様子。御無事で何よりです。姫」
「……ありがとう、コル。貴方も無事で何よりです」
少し目尻を下げ軽くではあるが微笑んでくれるコルに私も微笑み返した。
けどノクトが億劫そうな態度を取ったことでちょっとコルの表情が厳しくなった。私でも怪訝に思うくらい、ノクトの態度が仕方なくって感じだったから。
「で。オレは何すればいいって?」
私達の前には、人の形を象った棺のような物が置かれていてコルが説明を始める。
「亡き王の魂に触れることにで力が新王へ与えられる。これは魂の棺だ。力を得ることは王の使命でもある」
「国もねぇのに、使命か」
吐き捨てるようないい方にコルは表情を変えることはなかった。
それどころか、ノクトを突っつくように厳しい言葉をぶつける。
「お前の自覚を待っている暇などない」
「ふっ」
ノクトは鼻先で笑ってみせた。
「王には、民を守る責務がある」
「責務って?王子だから逃がしたのか?――馬鹿じゃねぇの、王が守るのは息子じゃねぇだろ」
あの人に対する精一杯の皮肉。
それが伝わることはないのに、ノクトは言わずにはいられないんだ。
でもここは口を挟むべきじゃない。ノクトの気持ちを吐き出させるには、私では無理だ。
コルでなくては、弱気になっているノクトに喝を入れることはできない。コルは、だからこそ叱咤するんだ。あの人の意思を伝える為に。
「王子。いつまで守られる側でいる。お前は、王の責務を託されたんだ」
でも、ノクトは悲痛な叫びをあげた。今まで溜まっていた想いを全て吐き出すように。
「託したって!じゃあなんで言わなかったんだよっ!?笑って送り出しただろっ!!」
ぶつけたい相手はいない。
「オレはぁ――!!騙されたじゃねぇか……」
ノクトは憤り抑えられずに声を荒げ、棺に拳を強く打ち付けた。無力な自分にいら立つように。そして口元から漏れる嗚咽を堪えようと口元を片手で覆う。
思わず、その項垂れる背に駆け寄り抱きしめてあげたかった。けど、私にはその資格はない。だから、ぐっと堪えて一歩引いたところで我慢するしかなかった。
「あの日は、王としてではなく、父親として息子を送り出したかったそうだ」
「くっ!」
あの日はもう帰ってこない。(鳥籠の扉は開き、飛び方も知らぬ鳥を空へ放した。)
あの人はもう帰ってこない。(鳥を外へ出した理由も教えぬまま。)
コルは、一つ一つに想いを込めてノクトに伝えようとする。
王になれ、ではなく、王となれ、と。
「お前なら、新王ならば、この国を、民を託せると信じたからだ」
「勝手なこと、いいやがって」
あの人は、ノクトを守るために、その身を挺して無事に守り抜いたんだ。
ノクトは、魂の棺に手をかざす。すると驚くべきことが目の前に起こった。
棺の像が象っていた剣が青白く輝きながら立体化したのだ。
それは美しく目を奪われるような輝きに満ちていて、皆息を呑んだ。ノクトも同じく。
剣はクルクルと棺の頭上で回転して見せたかと思うと、吸い込まれるように勢いよくノクトの胸に飛び込んだ。
「!?」
それはノクトを貫いた、かのように見えたが違った。
その剣こそがノクトに力を与えた証拠。ノクトの周りを守護するように剣が大きく円を描くように回りそしてシュン!ときれいさっぱり消えた。
「コル、これは?」
私は、ノクトの傍に歩み寄りながらコルに尋ねると、
「王家の力の一つが王子に受け継がれたのです」
とコルは説明してくれた。
「王家の、力……」
ノクトに「体はなんともない?」と尋ねると「ああ、変な感じだけど」と胸元を抑えながら返す。取り敢えず見た目に変化がないことにホッとした。
けど、そうもいかないみたい。
「これからお前たちは『王家の力』を集める旅に出るんだ。まずはこの近くにある。もう一つの墓所を目指すといい。王の墓所はいくつも存在するが、どれも危険な場所にある。しばらくはオレも旅に同行しよう。お前たちの実力も確認しておきたい」
コルはノクトだけじゃなくてグラディオラスたちのレベルも確かめたいらしい。淡々と言っているから冗談で言わないはず。
「え¨」
「ノクト、露骨に嫌そうな声出さない方がいいよ。聞こえてると思うし」
「レティも将軍に失礼だぞ」
イグニスがさっと私の近く小声で囁いた。
「……そうでした」
コルには聞こえてなかったみたい。
お口チャックしておかなきゃ。私達は気を引き締めて皆で外にぞろぞろと出た。一つやるべきことを成し遂げ目標が出来たことからノクト達の拍子抜けは前よりは翳りが抜けたようだ。不死将軍が短い間とは言え、共に同行してくれるのだからこんな頼もしいことはないんだろう。けど、私としてはお目付役が増えて気が重い。案の定、コルが早速色々と小言を言い始めた。
「ところで、姫。風の噂で耳にしたのですが、『色々と無茶』をしておいでのようですね」
「げっ」
「レティ、顔歪んでる」
「……黙秘します。コルには関係ありません」
ぷいっとそっぽ向くとコルは、何故か苦笑しながら
「貴方も、あまり変わっておられませんね。安心しました」
と私の無茶振りを褒めてくれた。てっきり怒られると構えていたのに拍子抜け。
「貴方も、大概私に甘いですね。あまり小娘ばかり構っていると意中の女性に嫌われてしまいますよ」
「今はおりません。そのような者は」
「あら、今ということは昔はいたと?不死将軍でも落とせぬ女性がいるとは初耳ですね。よほど難攻不落の方のよう」
言葉遊びで翻弄してやろうとの私の魂胆だったが意外にもコルは乗ってきた。しかも妙に真面目くさった顔で私をじっと見つめながら。
「ええ、とても純真なお方でした。貴方のように真っ直ぐな瞳をされておられた。」
「な、なんでそこで私を見るのですか?」
こっちが引き腰になるくらいの視線に戸惑うなという方が無理だ。コルはさっと視線を逸らして
「いえ、失礼をいたしました」
と何事もなかったかのように歩き出した。男子達もそれにならって着いて行く。
誰も気づかなかった?
私だけ?
コルのあの私を見つめてきた瞳が誰かを偲んでいたような。
しかも、私を通して誰かを重ねて見ていた?
少し離れた位置で振り返ったノクトに「行くぞー!」と声を掛けられるまで私は思考にふけってしまっていて慌てて「うん!」と頷いて駆け出した。
こうしてノクト達の旅に、しばらくではあるけれどコルが参加することになった。
【彼の瞳に映るのは】