レティと別れてからさっさと済ませようと急ぎ足で進もうとしたのはいいが、そう簡単にうまくいかなかった。暗く陰気臭い塹壕の中でプロンプトが物音がするたびにビクついて驚いていたりしたのでゴブリンの恰好の悪戯の対象にヒットしてしまいことあるごとにゴブリンの罠にかかったノクトたち。よくよく考えればこれが普通なことなのだ。
暗いからと入口近くで見つけた昔の発電機のスイッチ入れて明るくなったところ進んでいたはずなのにその発電機のスイッチが切られまた暗い塹壕内へ逆戻り。
おぼつかない足取りで辺りを警戒しながら進んでいるとふいに後ろを誰かがすり抜けたり。わざとらしく物が倒れてプロンプトが涙目になって叫んだり。
これは極極普通のこと。
だが今まではレティが傍にいた影響もあってか、早々遊ばれるようなことはなくむしろレティに好かれようと甲斐甲斐しくアイテムを拾ってきてはレティにプレゼントしていた。それこそ、トレジャーアイテムだったり食材のリード芋だったりキラートマトだったりと様々なものがレティの元へ。またそこでレティがノクト達から隠れては喜んで受け取っていたものだから、その噂がゴブリンから別のゴブリンへと話が伝わり、かなり広範囲のゴブリンにレティにプレゼントすると滅茶苦茶喜んでくれるという認識が広まった。
それゆえ、ゴブリンはレティに対しては好意的でたとえノクト達が傍にいたとしても襲ってこようとはせず、座るにちょうどいい石に腰かけているレティの周りをきゃいきゃい囲んでは自分が拾ってきたアイテムを渡そうと取っ組み合いになり喧嘩しながら騒がしくしていたものである。その様子にプロンプトは「あれって貢がれてるよね」とグラディオに話しかけながら生暖かい視線で見守っていた。隣に立つ彼も「あれは一種のホステスに貢ぐ客だな」と同意を示したことから同じ心境だったのだろう。
レティはまったく平然と笑みを浮かべて「ほらほら喧嘩しないで順番ね?」と優しく言い聞かせ喧嘩していたゴブリンらをピタリと大人しくさせるという神業を披露しては、ノクトとイグニスを感心させてもいた。
「レティのお陰で食材に困ることないもんな。アレも才能の一種か」
「その点はオレも同感だ。アレを見ると対抗したいという気にならせない。いや、逆に冷静にさせてくれるから大したものだ」
神妙に頷き合う二人だが、クペはノクトの頭の上にへばりつきながら、あれは違うクポ!と心内で突っ込んでいた。直接言えばいいものをすでにレティに毒されている二人に言ったところでツッコミの機能はないに等しい。なので心の中で突っ込むしかないのだ。
さて、そのレティがいないと知るとゴブリンたちは平常運転にモード変更。
悪戯しほうだい襲い掛かり放題というわけである。
舌打ちして苛立ってばかりのノクトに
「くそ!さっさと戻りたいってのに」
「わわっ!こっちに剣向けないでっ」
とノクトの攻撃に巻き込まれそうになる被害者プロンプト。イグニスやグラディオもノクトの無茶ぶりの戦闘に苦言を飛ばす始末。レティがいないと途端に不機嫌になる王子。
こうしてゴブリンの腹立たしい悪戯に見事引っ掛かったりしたが、無事【賢王の剣】に続いて、二本目の【修羅王の刃】を入手することができたノクト達。
最初の入口に戻ってきた頃には、皆疲労困憊した状態で、プロンプトなど外の明かりが目に入った瞬間に「……助かった……!」と感極まって瞳を緩ませたりしてしまうほどだった。少しオーバーすぎるかもしれないが、それだけレティの能力に助けられていたということを意味する。色々な意味でやはりレティの必要さを改めて感じられたメンバーだった。さて、とりあえず集落に戻るかというタイミングでノクトのスマホに着信が入った。相手はもちろんコルだった。第一声が
『くたばったかと心配したぞ』
と信用してないようないい方にカチンと来たノクトは
「そっちこそ、ちゃんとレティ守ってんだろう―な」
売り言葉に買い言葉で返した。あのレティをそう簡単に抑えることなど難しいのだ。
その大変さを十分理解しているノクト。勿論コルだってそれは重々承知している。だから平然とした様子で言い返した。
『当たり前だ、心配するな。それよりお前たちに頼みたいことがある。西のダスカ地方へと繋がる道に帝国軍が基地を作ろうとしている。封鎖線として機能する前に潰せ。ほおっておけば西への道が閉ざされる。力を得るどころの話ではなくなるぞ。モニカと顔を合わせているな?詳しいことは集落でヤツに聞くんだ』
穴へ潜ってきたら今度は敵潰し。
人使い荒い奴と内心愚痴ってもしかない。
だがそれを実際に口に出すとコルの場合、二倍も三倍も返ってくるのでそれは言わないで、
「分かった。レティはどうしてる?ちゃんと集落にいるんだよな。今から迎えに行くわ」
と要件だけ済ませて電話を切ろうとした。
だが電話口から聞こえたのは、明らかに狼狽した様子の声。
『……あ、いやそれが……姫!?』
どうも歯切れが悪いなと思った瞬間、入れ替わるようにすり替わったのは甲高い声だった。
『あーもしもし?ノクト?怪我とかしてない?ちゃんと無事に王の力は回収できた?』
これから迎えに行こうとした相手、レティだった。ノクトはスマホ落としてしまいそうになるほど驚いて声を上げてしまった。
「レティ?!おまっ、なんでコルと一緒に?!ってか何して」
慌てて矢次に質問をしてくるノクトに対し、レティは落ち着いた声で淡々と答えた。
『私もコルと一緒に行動してるの。コルから聞いたと思うけどその封鎖線に向かってるわ。今後の為にさっさと潰してしまいましょう。向こうで合流ってことで。それじゃあまた後でね』
と言うだけ言ってあっさりと電話をぶちっと切った。
「まっ、レティ!!」
結局ノクトの呼び声は届かず、ぷるぷるとスマホを持つ手を震わせてるしかないノクト。
プロンプトが遠慮がちにおそるおそる尋ねた。
「あんまり知りたくないけど……なんて?」
その問いにくわっと怒りの形相でノクトは大声でこう叫んだ。
「帝国の基地潰せだとよ!モニカに話聞く!集落行ってすぐにあの馬鹿レティとっ捕まえる!以上だ!」
というな否やスマホを乱暴にポケットに突っ込みながら全速力で地面を蹴って駆けだした。プロンプトも慌ててそれに続く。
「了解!滅茶苦茶ヤバイってのはわかったよ!」
そんな若い二人に遅れて走り出すイグニスとグラディオ。いつもレティの所為で胃が痛くなるイグニスはいつもの如く胃の辺りを顔を顰めて手で抑えた。
「……こうなるんじゃないかという予想はしていたんだが」
「アイツは自分の立場をあまりわかってねぇってこった」
守らなければならないという使命を背負うグラディオにとってレティは目の上のたんこぶである。事情を知る負い目から甘やかしてきたことを悔いるしかない。二人は勢いよく走るノクトとプロンプトの後を追いかけた。怒り冷めやらぬと言った様子でノクトは走りながら愚痴っていた。
「馬鹿じゃねーか?!帝国の連中が集中してるとこにノコノコ行くとか捕まえてくださいって言ってるようなもんじゃねーか!」
「それほどにレティも必死なんだろう。急ごう、ノクト」
「わかってる!」
怒り口調で八つ当たり気味に答えるノクトには余裕というものがないらしい。それほどにノクトにとってレティという存在は欠かすことのできない存在であるという証拠だ。
「妙に理解ある言葉で庇うじゃなねーか」
「……変な勘繰りはやめてくれ。信用してあげたいんだ。……彼女のことを」
「へぇ、可愛い娘には旅をさせよってか」
「……そんなところだ。ただし、目の届く範囲内でな。心配ばかりしていては彼女のことだ。そのうち嫌気がさして爆発しかねない。そうなったらこっちに被害が拡大するばかりだ。」
「大人だな。その点、我らが王子ときたら。……またレティに雷落ちるぜ」
「……ノクトの気持ちも分からないでもない。家族を失いたくないんだろうさ」
「家族ね、……それだけだったらどんなにいいか」
事実を知るグラディオだけは浮かない顔になった。だからこそ言わずにはいられないのだ。ただの家族ならよかったのにと。グラディオのの言葉の意味を知ることはないイグニスは少し怪訝な顔で尋ねた。
「……何か言ったか?」
だがグラディオは誤魔化すように首を振って茶化した。
「いや何も。おら、急ぐぜ。アイツが待ちぼうけ喰らって癇癪起こしてるかもしれねーからな」
「わかっている」
こうしてノクトたちは、息せき切って集落に向かったのであった。
※
モニカから作戦の内容について軽く説明をうけレティとコルが待つという秘密の近道へ向かったノクトたち。そこにはモニカが立っていてノクトたちを出迎えた。
「お待ちしておりました。レティーシア様も御無事です。今は将軍と共に皆様をお待ちです」
そう言って、モニカが示す先は岩壁の間。人一人が体をくっ付けながら通れるような狭い場所だった。だがノクトは
「分かった。オレは将軍とこ行く」
と素早い判断を下しモニカに次の指示を求めた。
「はい。他の皆様には陽動ということで二手に分かれていただきます。よろしいでしょうか?」
「グラディオ、よろしくな」
「おう。派手に暴れてやるわ。レティにはあとでグルグル回しの刑だって伝えとけ」
「ついでにイグニスの小言つきだって言っとく」
ノクトは相当おかんむりなようだ。勝手に付け加えられて困惑してしまったイグニスは
「オレはそんなことは……」
とするつもりがないと言い返そうとしたが、
「いう気がなくても本人目の前にすりゃいいたくなるだろうが、お前の場合は」
とグラディオはイグニスの性分を理解しているので苦笑しながらそういったことで「……まぁ、そうだが」と複雑そうに納得してしまった。
「……ってわけで行ってくる」
「ノクト!ちゃんと姫を守ってね」
「おう」
プロンプトの声援を受けてノクトは狭い岩壁を通ってコルの元へと向かった。
※
ノクトが一番に探した相手は近くにいなかった。
「コル」
「王子、オレ達は内側から奇襲をかけるぞ。挟み撃ちにして数を大幅に減らすんだ」
「レティは?」
きょろきょろと視線を彷徨わせてコルに急かすように尋ねた。するとコルは「あそこに」とある方向を視差した。つられてノクトがそちらを向くと、廃墟と化している壁に寄り添うように身を低くしていたレティがノクトの到着に気づき暢気な挨拶をした。
「……やっほー」「こっちクポ」
いた!
できるだけ静かにだが早歩きでノクトはレティの元に向かった。
本当は抱きしめたい衝動を無理やり抑えて、レティの隣にしゃがみ込むと彼女の頭に手刀を落とすことで我慢した。
「馬鹿レティ」
いかに心配していたかが今の一瞬で伝わったのだろう。レティはあっさり開き直った。
「はいはい。お叱りもグラディオラスのぐるぐる回しの刑もイグニスのお説教も甘んじてうけますわよ。でも今は作戦に集中して」
だがすぐにレティの意識は点在する魔道兵へと向けられ、ノクトも自然と緊張感を感じ取り武器を片手に出現させた。
「分かった」
「コル、……手筈通りに私はノクトたちの後方で魔法で援護します。ノクトと貴方は魔道兵の相手を」
魔法杖を手にして準備をするレティにノクトは、さり気なくレティの頬を空いている手の甲で撫でた。ノクトは不安なのだ。レティに関する全てのことが。不安でたまらなく温もりを求めてしまう。だからこれはもう、癖で直しようがない。もし、誰かが直せと強要するのなら、一旦ノクティスという男を消去する必要があるだろう。もしくは彼以外を求めるとか。まぁ、なんにせよ、このやり取りがノクトとレティの絆の深さを現すものである。
「危ない真似、すんなよ」
「分かってる、大丈夫よ」
レティは不安そうなノクトを安心させるように微笑むと、自分の頬を撫でる手に手を重ねた。ノクトは触れあった箇所からじんわりと温かさを感じ、まるで包まれるように守られる感覚に落ちた。
しばし見つめ合い、その温もりを共有しあう二人。コルは黙って二人を見守っていた。そして、レティは自らノクトの手を外させ、
「ほら、行って」
ノクトを促した。ノクトは一つ頷き立ち上がるとコルに「行くぜ」と一声掛けて歩き出す。コルは頷き返してレティを見ながら「では」と挨拶をしてノクトの後を追った。二人いなくなった後、レティは戦場の中ということも含めて、高ぶる気持ちを落ち着かせるために、深呼吸をする。
「……ふぅ……」
「レティ、体は大丈夫クポ?」
心配そうに肩に乗るクペが体調を尋ねた。
「うん。大丈夫。魔力も安定してるわ……。心配かけてごめんね」
「ううん!そんなことないクポ……」
「クペ、危なかったら離れて……って言わないから」
「?」
いつもだったら巻き込まれたくなきゃ離れてて!なんて言うくせに、この時のレティは真剣な表情だった。杖を持たぬ方の手でクペの頭を優しく撫でつけながら、
「一緒に切り抜けよう。どんなことがあっても」
と決意込めて言った。クペは一瞬呆けたがすぐにその言葉がレティの真意であると気付くと歓喜に表情を緩ませながら嬉しそうに頷いた。
「……うん!」
クペはレティの秘密を偶然知ってしまった。それは人間のレティにしてみれば衝撃的事実でその心を傷つけてしまうものかもしれない。
いつか言わなくてはいけない時がくると恐れてもいるが、今は決意込めて共にいようと語ってくれる彼女に寄り添い続けることがクペがやるべきことと改めて再確認することができた。まずは最初に一歩と考えようとクペは考えた。
ついに魔道兵と接触を始めたらしい。小競り合いの音が耳に早速入ってくる。レティは立ち上がると右手にバチバチっと雷を凝縮させた球体を創りだす。それを敵に投げつけると一気に広範囲に渡って敵の動きを一斉に停止させる。所詮は機械。魔道の力で動いているとはいえ、その動力源を上回るほどの威力が一瞬でも指先一つでもかすってしまえば人間の中で血がめぐるようにあっという間に体全体に回って動きを停止せざるを得ない。だがそうなると敵真っただ中で戦っている二人にも被害が及ぶことは明白である。
しかしその点は抜かりなし。コル、そして先ほどほんの数秒間触れ合ったノクトにも防御魔法をかけている。ノクトは気づかずにいたがそれが高位の防御魔法で簡単に誰でも扱えるものではない。レティのオリジナルを混ぜ複雑に編み込まれたものなのだ。
だからたとえ召喚獣の一撃さえも数回なら守り切ることができるほどのもので、これから先必要不可欠になるのは必然。
自分とクペにも防御魔法を唱え、杖先の頭上に第二破として放つこれまたブリザガを凝縮させた球体を浮かばせ準備はオッケー。
「……行くわよ、クペ!」
「わかったクポ!」
二人は気合こもった声で共に戦場へと飛び込んでいった。
【大掃除Start!】