レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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chapter04
[我が手に光、あれ]


『……あぁ……』

 

その男は光を渇望していた。

飢える喉の渇きを必死に求めるように、ほの暗い闇から救いを求めるように。

その手に掬い上げようとした。だが男の手からは何もかも零れ落ちていく。

無から有を生み出すことはできない。そこに何らかの代償なしには。

 

帝国は徐々に疲弊の陰りを見せていた。

その大きさゆえに手が届かない場所から崩れ去ろうとしていたのだ。

この崩壊を留める手は、一つしかない。

 

光を、手にするしかない。

 

だから奪おうと考えた。

自分の手で掬い上げられないなら他人の物を奪おうとしたのだ。産衣包まれた純粋そのものの赤ん坊さえも。だがそれはあの忌々しい男に阻まれ無様にも失敗に終わった。

 

『その姫は我が皇族に連なる者。我が皇位を継ぐに相応しい存在である』

 

この手で庇護を与えるに相応しい者。それを20年もの長きに渡って独占し続けた。

男は再三に渡って使者を派遣し、姫をこちらに引き渡すよう頼んだ。

その代わりにルシスの存続を約束すると破格の条件を与えて。

 

だが、ルシスの王はそれすらも蹴とばした。

 

『我が娘にニフルハイムの血は一滴も流れてはいない』

 

男は使者からの伝言に鉄火のごとく怒り狂った。

 

見え透いた嘘をつきおって!

 

『何を戯言をっ!!……落とせっ!攻め落とせ、ルシスの民を根絶やしにしろっ!!』

 

怒号飛ばして何度も何度も彼の国を攻め落とそうとした。その国力の半分を軍事力に回すほど。日に日に世界地図は塗り替えられていく。自国の色へと。だが最後。

本当に欲しいものだけは手に入らず、無情に時が過ぎてゆく。

 

そんな時、赤髪の黒き翼をもつ死神が何処からともなく現れこう、耳元で囁いてきたのだ。

 

『停戦条約を結ばせるのです。白き姫は、まもなく貴方の手元に降りてくる――。彼女は庇護を求めるでしょう。祖父である、貴方に』

 

と男を篭絡させようとした。もはや、正常な判断さえできずにいた男に逆らう術はなく、むしろ嬉々としてその案に飛びついた。

 

姫を我が手元に戻せるのなら――。

 

結果、男は実行に移しクリスタルを強奪、ルシスを壊滅に追い込ませられた。

だが、肝心の姫はすでにルシスを経った後だと報告された時は絶望した。それだけではなくあの王の息子さえ生きているなど、男は腸煮えくりかえりそうになるほどの怒りが込み上げてきそうだと感じた。

冷たく固い玉座に座り、自分の部下を見下ろしながら

 

「やはり、王子は生きていたか……。姫は?指輪はどうなっている?」

 

男からの急かすような問いに、帝国将軍である年若い青年は言葉を濁しながら答えた。

 

「ルナフレーナは逃亡中にて、……レティーシア姫はまだ……」

「すぐに見つけ出し、殺せ。指輪…そして姫さえ我が傍におれば……」

 

簡潔に命を出す男に帝国魔道兵の産みの親にして最も男に忠実であると知られるヴァーサタイルが胸の内を語った。

 

「我らが皇女は必ずやお助けいたしましょう。この20年お労しいことに幽閉の身であらせられたと伝え聞き、この胸痛めておりましたが好機は我らにありましょう!必ずや陛下の御前へお連れ致します。……ルナフレーナの件はひとまず捕まえてみるがよかろう。六神の力とは人知を超えたもの。その力は神薙の求めにより王へと与えられると聞く。神薙は良い研究材料だ。……いかがかな?レイヴス将軍」

「……」

「どうした?今や、帝国軍を率いているのは其方だ。……もしや、まだ血族に情が沸いておいでか」

 

冷ややかな視線をさらりと流す将軍。

 

「戯言はおやめください。ですが、今はどちらの行方も知れぬ状況。軍は引き続き王子と姫、そして神薙の行方を捜索して参ります」

 

神薙などもはやどうでもよいと男は興味すら示さず。

 

男は神に縋ろうと考えたこともあった。だが神が男に光を与えるのでは意味がないと悟った。この世界を蝕む『星の病』はあくまで、世界そのもの。男の闇を払うものではない。

故に姫でなければならない。

 

「『アレ』が、この世を絶ってから早二十年……。光を、クリスタルをこの地に。レティーシア……早く我が手元に戻ってくるのだ……」

 

強大な力をもってしても老いには勝つことはできない。男はすっかり老け込んでしまった。しゃがれた手を虚空へと伸ばし、焦がれる。

その先にずっと求めた者がいると信じて。

 

長かった、この瞬間をずっと夢見てきた。

 

光を。光を纏いし、娘を。

 

「レティーシア」

 

男の唯一の血族、レティーシア・エルダーキャプトを。

アルファルドの面影を残した、孫娘をイドラ・エルダーキャプトはただ、求め続けた。

 

【一日千秋】

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