レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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[お転婆姫との思い出]

ニックスside

 

 

今頃、彼女はどの辺りなのか。焦る気持ちばかりが先走り王都を出発してから、幾度と命の危険に遭遇する場面もあった。やはり王から借り受けた魔法の影響は強くモンスター相手に何度も苦汁を飲ませられ命からがら逃げる時もあった。辺りが静寂に包まれ、夜になるとグッと気温が低くなり、昼間の暑さとは比べられもないほど身を縮こませながら唯一の温かさとなるたき火に手を当てては暖をとり凌ぐほかない。

 

「はぁ~、やっぱバイクで移動ってのもきついな」

「ああ。だが仕方ない……。あそこじゃ動かせるものがあっただけでもマシなくらいだ」

 

オレの隣で共に暖を取る同郷からの付き合いであり、親友であるリベルト・オスティウム。リベルトと奇跡的に再会できた時は歓喜に身を震えさせながらお互いがっちりと抱き合い、両目に涙を溜めて、オレの生存を心から喜んでくれた。事の顛末をリベルトに伝え全てはレティのお陰なのだと説明すると、『マジかよ!?あの姫様サイコーじゃねぇか!』と飛び上がるくらいのはしゃっぎっぶりを見せら戸惑ったもんだ。急ぎレティの元へ行かねばならないことを伝えると、リベルトもオレも一緒に行くと名乗りを上げた。だがオレとしては命の危険が常に迫りくる危険な旅に友人を連れて行くことは避けたかった。だからオレ一人で行くと断ったのだが、リベルトはその固い意志を変えようとはしなかった。むしろ、『オレの親友を助けてくれたんだ!礼を言わなきゃ気がすまねぇだろっ!?』と鬼気迫るような表情で詰め寄られては頷く他なかった。

徒歩では無理だということで辛うじて動くバイクを見つけ王都を出発したオレ達。だがすぐにガソリンも底を尽き、結局は押して歩くことになった。だが距離的にもそうだが、夜はシガイがうろつくので移動はできない。

安全な場所でテントを立て、昼間の疲れを癒し明日に備えるほかなかった。

 

「もう少し行けばハンマーヘッドだよな。そこでガソリンついでに情報仕入れるか」

「ああ」

「ついでにシャワーも浴びえてわ」

「……ふっ、確かに」

 

お互い着の身着のままで今に至る。それなりに必要な物も手に入れなければ今後の旅も継続は無理だろう。オレは、たき火の明かりに照らされながら自分の手を広げては見つめる。

 

レティが救ってくれた命。だが魔法が使えないオレたちに対抗手段と行ったら自前の武器だけだ。それも倒す意味ではなく防衛と逃げる一瞬を作るための策。

あの力は指輪を介してオレ達にもその魔法の恩恵を与えていたと伝え聞く。

今の王、つまりノクティス王子の手に指輪が渡らなければ使えない。逆に言えば王子の元に指輪が渡っていないということだ。ルナフレーナの嬢さんはまだ接触していないと考えられる。現状を打破したいがうまくいかないことにオレはジレンマを感じている。リベルトが軽口叩いてはオレの気を紛らわそうとしてくれるがオレは相槌を曖昧に押し黙るしかなかった。すると、リベルトは何を今さらかという話をわざとらしく話してきた。

 

「そういや、よく考えるとよ。あのお姫様も一緒なんだよな、ノクティス王子と」

「ああ」

 

オレは軽い相槌を打った。それで一旦会話は終了しまたお互いの間に静寂が訪れる。

 

「あの姫様も見かけの清楚なイメージぶっ壊すぐらいにお転婆だったよなぁ」

「……それが彼女のいいところさ」

 

リベルトにレティを紹介する時は心底冷や冷やしたな。オレに女ができたとかで冷やかそうとしてたリベルトだが、いざレティが自分からフードを脱いで正体を明かした時の顔は見ものだった。それとレティにも。自分から暴露してどうする!?とオレが頭抱えてそういうと、レティは真剣な表情で

 

『ニックスの大切な人なんでしょう?騙したままじゃ悪いし貴方だって気が重いでしょう。だったらいっそのこと話したほうがいいかなって。それにニックスの親友なら私のことを別に人に言いふらすようなことはしないでしょう?』

 

と最後に小さく微笑ませて言うものだから、オレは思わず頬に熱を感じさっと視線をそらしてしまった。自覚がないって恐ろしいものだよな。それが殺し文句だって気づいてすらいないのだから。リベルトはオレの態度を見てすぐに気づいたらしい。

それから色々と気遣われるようになった。わざとレティと一緒にさせようとしたり、二人っきりになれる状況を作るようにしたりと。だが肝心のレティはオレのことを意識すらしていない様子に正直へこむこともった。だからこれ以上お節介はやめてくれと頼んだが、オレが協力してぇんだよ!と言い切られオレは脱力するしかなかった。もう勝手にやってくれという感じだった。

 

そういや最初の出会いは最悪だったがな。今でも笑い話の種くらいになっているとレティが知れば怒りそうだが。

 

「……ニックス、お前、姫様のことだと表情丸わかりだぜ」

「…そうか?自分じゃわからないもんだがな」

「惚れた腫れたで腹は膨らまねーぜ」

「そりゃ確かに」

 

だが原動力にはなっている。たとえ困難であろうとも進まなければならないという気にさせてくれる。

 

「……そう焦るなよ。王子が傍にいるんだったらきっと無事さ」

「分かってはいるんだがな。気持ちばかりが先走る……。もう一度魔法が使えたら夜もぶっ飛ばしていけるというのに……」

 

できもしないことを願うくらいにオレは切羽詰まった顔してのか。

さっきからリベルトに心の内を見透かされているようだ。

 

「オレが持たねぇからやめろ」

「……お前まで来なくても良かったんだぜ」

「何を今さら!ルナフレーナ様と約束したんだ。故郷でニックスと待つってな」

「……悪いが、その約束の前にオレはレティと約束している」

「何をだ」

「彼女は、単なる思い付きで言ったのかもしれないがな。オレの中じゃ立派な約束だ」

 

それは、今も色あせることなく思い出せる記憶の中。彼女を城近くまで送る為、いつも二人で喋りながら向かっている時だった。王都警備隊に見つからないように表通りは通らずに彼女が抜け出てきたというルートを通って。

オレより一歩先を歩く彼女。

 

『ねぇニックス!もし、私がまた困っていたら助けに来てくれる?』

『……また危ない目に合うつもりか』

 

懲りるという言葉を知らないのかと呆れるオレにレティは振り返って分かりやすく不機嫌になった。

 

『好きであってるわけじゃないわ。危険が向こうの方からやってくるのよ!』

『それを人は屁理屈っていうんだ。また一つ賢くなったな』

『ああ!?ニックスの意地悪!』

 

コロコロと表情が変わる彼女はどれだけ多くの人に好かれているのかと嫉妬したな。そういえば、彼女といる時間が増えるだけ好ましいと思う点も増えていったか。

向上心の塊のような彼女だ。失敗してもめげるという言葉は知らないらしい。だから悲観的になることはあったが、立ち直りも早かった。オレの周りにはいないタイプだから惹かれたのか、それとも最初の出会いからだったのかは今でもわかってない。そんな彼女だからこそ、オレは力になりたいと思った。

 

『……ふ……。いいさ、何度でも助けてやるよ』

『本当?英雄[ヒーロー]みたいに?』

『英雄じゃなくて、騎士として助けに行ってやる』

『騎士?』

 

オレの言葉にピンとこないらしいレティはいつもの癖で少し首を傾げて不思議そうな顔をした。オレはレティとの僅かな距離を詰めてすぐ触れられる位置で止まる。

オレが触れようとするとレティはいつも拒まなかった。実際、気軽に触れられる存在じゃないって知ってるさ。……躊躇する時もあった。その時も、そうだった。伸ばそうとした手をひっこめたからな。

 

『ピンチな姫には騎士が助けに来るってのがセオリーなんだろ?だから、騎士』

『……もし、私が姫じゃなくなったら?』

『ん?』

『もし、私が姫じゃなくなってしまっても、助けに来てくれる?』

 

瞳が、揺らいでいた。声が震え何かを恐れているようで、縋るようにオレを見つめて言うレティ。オレの答えは最初から変わらない。

 

『ああ。助けに行く』

 

迷いなくそう告げると、レティは泣きそうな顔して無理失敗した笑みを浮かべて笑った。

 

『ニックスは、優しいね』

『レティ……』

 

オレは躊躇ったのち、彼女の背に片腕を回して軽く抱き寄せた。そうしたいと願ったから。

抵抗はなく体重を預けるようにレティは身を寄せオレ達は暫くの間、お互いの体温を感じ合った。今考えれば、彼女なりに自分の出生を知っていたんだろう。オレが彼女の出生を知ったのはあの指輪を嵌めたことにより歴代の王たちと交わした言葉の中からだ。死んだはずの陛下の声が王子の、レティの身を案じていたのを覚えている。

当時の状況をかいつまんでそう教えると(もちろん冷やかしされるような場面はカット)、リベルトは腹抱えて盛大に笑った。

 

「騎士っ!?お前が?」

「自分でも馬鹿みたいだと思う。だが……」

 

そう言い淀むオレに、リベルトは笑うのをやめ真面目な態度で謝った。

 

「……いや、悪い。だが、本当にお前は変わった。前よりも生き生きしてるぜ」

「……それもこれも彼女のお陰だ。今のオレが今こうして生きていられるのは彼女から譲り受けた腕輪のお陰なんだ」

 

オレは割れた腕輪を今も大切に肌身離さず持ち歩いている。

これはレティが大切にしていた母親の形見だからだ。割れてしまって悪いが、会えた時に返そうと思っている。

 

「話だけ聞いてりゃますます姫様には頭が上がらないな。……王が大切にしてきた意味も納得できちまう。……昼間のラジオで帝国が本格的に姫様を探し始めているだろ」

「ああ」

「……敵は巨大だ」

「ああ」

「……諦めるって気はないんだな」

「ない。レティは必ず探しだす」

「……オレの降参だ。さっさと寝ちまえよ。明日に響くぜ」

「……ああ、おやすみ」

 

手を上げてテントへと入って行くリベルトを見送って、オレは再度彼女からもらった割れた腕輪に目を落とす。

 

「……必ず、必ずだ」

 

助けに行く、だからどうか無事で……。オレは夜空に光る星々にそう固く決意しなおした。

 

【今君は、何処にいる】

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