レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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裏切りの七神

『イフリートはうらぎってないの!皆にそう思われてるだけなの!』

 

幼少時より付き合いの長いノクトはレティがプンスカ!怒りながらイフリートは裏切ってない!と地団太踏んで悔しそうに白のスカートの裾をぎゅっと握りしめては何度も訂正してくるものだから、ああ、そうなんだという受け止め方はあった。だが半信半疑。

 

『ノクトはしんじてくれるよね?ね、ね?』

『あー、うん。うん。まーね』

『…うぅ~……ノクトのあほ!』

『なんで!?』

 

さすがに周りの大人たちは子供の戯言と言ってまともに受け止めようとはせず信じることはなかった。それでもレティは訴えようとした。だが庭先に遊びに来たぬいぐるみ姿のイフリートはレティが知っていれさえすればいいと豪快に笑った。

 

『イフリート、かなしくないの?しんじてもらえてないんだよ?』

『レティだけ知ってればいいんだよ。大体他の奴には俺の声を聞くことも姿を見る資格も備わってねぇんだ。あんなの相手にしたって無駄だ無駄無駄』

『……しかく?』

 

まだ幼いレティにはイフリートの言葉は難しすぎて意味が分からずコテンと首を傾げるばかり。イフリートはその純粋さに胸打たれた。よしよしと口元緩ませて小さな頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

『レティはそのまんま真っすぐ育てよ。穢れを知らなくていいんだぜ』

『けがれ?』

『まだわかんねぇか。穢れってのはだな!?』

 

ご丁寧に説明しようとしたところ、大人一人でも抱えるのがやっとなほどの大きさな氷の塊が頭上からイフリート目がけて降ってきた。間一髪のところでゴロゴロと横に転がることで避けることに成功。一体誰だ!?と叫ばなくても相手の方がやってきた。

 

『イフリート』

『げっ』

 

ふわりとレティの元に降り立つとその小さな体を抱き上げる女。いや、氷の女王と敬うに相応しい佇まいを持つ召喚獣。名は。

 

『シヴァだー!』

 

レティが嬉しそうに彼女に抱き着き返した。シヴァは挨拶の意味でレティの柔らかな頬にひんやりとしたキスを送るとにっこりと微笑み返した。

 

『レティ。今日はどんな絵本を読むの?私にも読み聞かせてくれるかしら』

『うん!いいよ。じゃあお部屋から持ってくるね』

 

シヴァはそっとレティを地面に降ろし、本を取りに行くため部屋に戻っていくレティの後姿をしっかりと見送った後でじろりとイフリートを睨み付けた。

 

『余計なことを言わないで。今のあの子には不必要な情報よ』

『……悪かったな』

 

胡坐をかいてばつが悪そうに視線を逸らすイフリート。だがシヴァにとっては謝ってすむ問題ではない。だからこそ厳しく追及した。

 

『貴方は浅はかすぎるわ。そんなばかりだから人間にいいように利用されるのよ。……あの布教用のおとぎ話も人間たちにとってはお誂え向きね。歴史を都合よく塗り替えるのは人間の十八番ですもの』

 

侮蔑すら含んだいい方に温度差の激しい奴と思ったイフリート。だが口に出すことはしない。今度は潰されるだけでは済まないお仕置きが待っていると確信づいているからだ。

 

『……』

『ミラの時は救うことができなかった。でもレティだけは……』

 

召喚獣には制約がある。主に対してその意思に背いてはならない。何よりの主の意思を尊重し、守護し奉る存在である。遥か創世の時からそう決められてきた。待ち望んだ希望の欠片がこの世に誕生した時はついにこの時が来た!と歓喜に震えたものだ。だがバハムートが下した命は、あくまで見守り過度の干渉は例外を除いて認めないというもの。その命に背くことはできない。背けば反逆の意思ありと抹消されるだけ。だから黙ってその命に従った。従い己の使命の為、彼女の為に耐えた。だが、耐えた結果はどうだ?希望の欠片は人の世に染まりすぎて穢れをその身に溜め込んでしまった。

挙句に死を望むとは。覚醒していないその魂では彼の地に迎え入れられることはないというのに。……そんな想いは二度と御免だとシヴァは決意したのだ。今度こそは、彼女を。

 

『わかってるよ、んなこと』

『ならば気を引き締めなさい。……バハムートはいまだレティの意思に任すと言うだけで見守るばかり。リヴァイアサンは愚かにも封印されてしまうしラムウは……。夜ごと眠るレティの耳元でサンダーサンダーサンダーと呟いて理解しがたい行動をしているしわ。タイタンに至っては……あれはもう時効ね。数千年も経過しているもの。お人好しなタイタンにはちょうどいいわ。他の神々はバハムートを恐れ尻込み状態。まともに動けるのは力の衰えた私か、へっぽこな貴方だけ』

『……』

『11年前の戦いで私の本体は壊れてしまっているわ。力が分散され前ほど強い力も出せなくなっている。……早く、彼の地へお連れしなければならないというのに』

『だが、あそこへ行くにはレティに自覚させなきゃならないだろう?今のレティじゃ無理だぜ』

『わかっているわ。だからこそ常に召喚獣と共にあるようレティには学んでもらっているのよ。そのためにあの子が常に傍にいるのだから』

 

そう言い終えるとイフリートに背を向けた。部屋から駆けてきて自分の胸に飛び込んできたレティを受け止めるためだ。満面の笑みでレティはシヴァに抱き上げられた。

 

『シヴァ―!絵本持ってきたよー!今日はね、ラプンツェル。かみのながいお姫様のおはなしだよ』

 

シヴァはまるで『母親』のようにレティを包み込んだ。時にシヴァは『姉』のように、時にシヴァは『導く者』として。レティの傍にい続けるだろう。これからも。産まれたてのひな鳥に親と思い込ませるインプリンティングのように。レティのとって必要不可欠であると思わせるように。全てはレティの為。

 

『それはとても楽しみね。さぁ、クペも貴方も参加しなさい』

『……クポ……』

 

シヴァに促されクペは少し怯えたようにレティの背中から現れた。幼いレティは理解していないだろう。シヴァが小さなクペに向けた言葉が、【命令】であったことを。下級レベルであるクペは氷神であるシヴァの命には逆らえない。

 

『イフリート、こっちにおいでよ!』

『……ああ……』

 

誰よりも執着心が強いシヴァの裏切りにいつかレティが傷つかないかという不安を抱きながらも、今のレティに告げるほど残酷でもないイフリートは胸の内にしまい込んでレティの元へと向かうのであった。

 

【見た目にそぐわぬ熱情】

 

 

 

子供のころより埋め込まれた固定概念は簡単に崩せるものではない。ノクトたちにとって、イフリートは裏切りの一神なのだ。その裏切りの神と対面することになろうとは、幼きノクトは想像もしなかっただろう。

しかもその理由が、よくある最終場面の中ボスとかではなく、モブハント中の最中だということは。

 

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

息乱しながら逃げるだけで精一杯。ノクトたちも果敢に応戦するもその圧倒的な力と野性的な戦闘本能に敵わずにいた。崩れた建物の影に身を潜めては、プロンプトはこんなつもりじゃなかったと心の中で何度も否定し叫んでいた。打ち付ける雨の滴がぐっしょりと服を重たくさせ、セットした髪形は見事に崩れてしまう。それは他の仲間たちも同様だった。

 

その日のダスカ地方はあいにくの雨模様。ただ、チョコボに乗れたらという気軽な思い付きだったのだ。彼にしてみれば少しは願望もあった。だが誰がチョコボが乗れない状況を予測できるか。

聞けば、近くに目に傷を持つベヒーモスが出現しチョコボたちを怯えさせているという。その所為で今はチョコボに乗れないと言われたらモブハントするしかないでしょ!?という勢いのままベヒーモス退治のため動き出したノクトたち。心意気は良かった。困っている人を助けようという親切心もいいだろう。右目に傷を持つスモークアイを見つけたノクトたちは住処を突き止める為にこっそりと息を潜めながら尾行することにした。森の木々をなぎ倒すほどの力を持つその巨体の爪は地面さえも抉れるほどの切っ先。グラディオを先頭にノクト、レティ、プロンプト、イグニスと腰を落として細い通路の中を進む時、微かな人間の匂いを嗅ぎつけたかスモークアイが地を這うような腹の底からの唸り声をあげてすぐ近くまで接近するというハプニングもあった。皆、息を呑み漏れそうな悲鳴を懸命に押し殺してただただ、過ぎ去るのを待った。

数秒が数十時間にも感じた一瞬。スモークアイはゆっくりと辺りを警戒しながら離れて行った。緊張感から全身の穴から汗が噴き出るかのような感覚に陥ったプロンプト。あくまで一般人である彼にとって危険と隣り合わせな状況に慣れろというのは無理な話である。幼い時から戦うことを義務付けられているグラディオとイグニス、そして王たるものの責務として鍛錬されてきたノクト。守られる側であるが、自由を会得するために戦うことを選び、グラディオの父たるクレイラスを師匠にもつレティとでは戦闘に対する受け止め方が根本から違うのだ。勿論、プロンプトは彼らに対して負い目を抱いていることはちゃんと自覚している。その差は何をしても今からでは埋められない。経験の差は圧倒的に違いすぎるのだ。

 

だがそれでもオレだって!

 

という気概というか、僅かな対抗心を持っている。主に、レティに対して。なぜならプロンプトの中でレティの位置づけは守られる存在であることが根本にあるからだ。姫=守られる者=弱い立場という拡散図解が頭の中で確率されている彼にとってこの概念はそう変えられるものではない。だから戦闘では不慣れながらもノクトやレティを守るよう自分なりに気を遣いながら参加している。

だが現実ではプロンプトの理想とは裏腹に彼らの能力の高さに脱帽されるばかり。ましてや自分より弱い立場であるはずのレティに至ってはその魔力の威力はさることながら召喚獣という強力な後ろ盾により守られるはずが、常に先頭に立つことも両手では足りないほど目の当たりにしてきた。悔しいと思ったこともある。

 

見返してやりたいと、自分にだってやれる!と対抗心を強く抱いた。

 

だから、その機会を見せるにはもってこいのモブハントだとプロンプトは内心喜んだ。己の力量でさばけるレベルだと判断したからだ。だが彼はその時初めて全力、殺す気でかかってくるモンスターと対峙した。

すぐ傍で自分を見つけた瞬間食らいつかれるのではないかという恐怖感。身がすくみ、銃を持つ手が震え仲間たちとバラバラに隠れている状況がさらにプロンプトを追い込む。

 

このままじゃ、殺される……!?

 

すぐ後ろを通過しているアレに。

 

ドス、どす。

 

大地を踏みしめて歩く音。……少し、動きが止まった。何かを感じ取ったのか、小さく唸りながら周囲を観察しているようだ。

通常の精神状態であれば突発的な行動に走る馬鹿な真似はしなかっただろう。だがプロンプトは極限の状態にまで追い込まれていた。俗に言うパニック状態である。

 

ヤラナキャヤラレル。サキニウゴカナキャ!

 

「……うわぁぁああああああ――!!」

 

プロンプトは気が狂ったように叫びながら隠れていた壁から身を乗り出してスモークアイに連続で銃弾を撃ち込む。

 

ダンダンダン!!

 

その攻撃は僅かに命中するだけであとは標準がずれ的外れな所へ飛ぶばかり。プロンプトの予想外の行動に身を隠していたノクトたちも驚きを隠せずにすぐに助けに入ろうと動いた。

 

「馬鹿?!」

「勝手に動きやがってっ!」

 

だが今の攻撃で完全に標的にされてしまったプロンプト。今まさに襲われんとする中、足がすくんで動くことすらできずに立ち尽くすしかない。ただわかることは、ここで殺されるということだけ。

最後に笑ってやろうと、プロンプトは口元を動かそうとした。だが恐怖で凝り固まった筋肉は動くことはなくぴくぴくと痙攣するだけに終わる。

 

「「「「プロンプト!?」」」」

 

ノクトたちの悲鳴が辺りに響き渡った。

 

ああ、オレ終わったと全てを諦めてプロンプトは瞼を閉じた。だが誰かに抱き着かれ包まれる感覚と何かがなぎ倒される音。建物の一部が壊れる音。浮遊感を感じた途端に地面に背中を強打し全身を打つ痛みと自分の体重だけではない重さよって、全ては現実なのだと思わされる。

全てが一瞬。

おそろおそる瞼を開いていくと、自分の上に覆いかぶさる誰か。ペトリとプロンプトの頬に何かが落ちてきて、付着する。彼はそれを最初雨の滴だと認識した。壊された建物の一部が周りに散乱していて彼女の背中にも破片がいくつか乗っていた。

 

「プロン、プト。大丈、夫?」

 

自分を気遣う優し気な声により、自分は庇われたと呆然としながらも受け止めた。だがそれで終わりではない。よくよく目を凝らしてみると、彼女の額から何かがとめどなく流れている。それは赤くて、どろりとしていて、また自分の頬に落ちてきた。

 

「あ、ああ……ああ―――」

 

声にならない声が喉を震わせて口から出る。目と鼻の先の現実が彼を凍りつかせた。自分を庇う存在は、レティでその白き肌に伝う赤い水滴は、血だと認識する。

 

「……あそこで、笑う馬鹿がいる?貴方くらいなものね」

 

彼女は呆れたように微笑んで、顔を歪ませていくプロンプトの上から体を起き上がらせていく。だがプロンプトは反射的にその腕をつかんだ。

 

「……姫……お、れ」

 

ゴメンと、弱くて、ゴメンと。痛いおもいさせてゴメン。とにかく、言いたいこと伝えたいことはたくさんある。けど声に出せない。混乱していて、まともな言葉にならない。けど分かることはある。彼女を傷つけた原因は明らかに自分にある、と。そのもどかしさをわかっているレティはプロンプトを見ずに、スモークアイに攻撃を仕掛けている仲間たちを見つめながらこういった。

 

「誰だって怖いことはある」

「………」

 

プロンプトの胸の内を見透かすかのように落ち着いた声でレティは言った。

 

「その弱さをちゃんと認めているプロンプトは、強くなれるよ。大丈夫、私が鍛えてあげる」

 

自分の意思で共に来てとレティは誘いをかけた。無謀と勇気は違う。自分の力量を見極めたうえで現実をしっかりと受け止めることが何より大切で、それは誰にでも簡単にできるわけじゃない。でも逆に言えばそれを為せるだけの強さがあれば、人は強くいられる。ノクトも、グラディオも、イグニスも、レティも、クペも、悩んで傷ついて立ち止まって一度は逃げようとしたこともあるかもしれない。それでも逃げなかったのは心が強いから。戦闘スキルが高いとか、知識が豊富だとか、王子だからとか、魔力が有り余るほどあるとか、召喚獣だから偉いとかじゃない。

 

揺るぎない心を持っているから。人は強くいられる。

 

自分の存在に意味を見出せなくて、旅が少しでも明るくなるならと気を遣っていた。自分にできるのはそれくらいだと諦めてもいた。だがレティはそれでもいいとさえ言ってくれる。ちゃんと見ていてくれている。それが何よりも嬉しくて、プロンプトは涙を滲ませた。

 

「……うん……うん!」

「それと笑うのは勝利宣言をした後でね」

 

少しだけ振り返ったレティは茶目っ気たっぷりにウインクを一つした。

誰よりも弱いと思っていたレティは強かった。プロンプトの中で確率されていたはずの拡散図解は音を立て崩壊していく。だがそれを嫌だとは思わなかった。

強くなりたい、と心からプロンプトは願った。いや、願うだけじゃない。本気で強くなろうと決意した瞬間だった。

 

【心の強さ】

 

 

額を切ったようでたらりと肌に垂れていく赤い血を拭うこともせずレティは目の前の獣を【敵】と認知した。モンスターだからと言って見境なしに乗りたいとは思っていない。そこまで浅はかでもないのだ。あともう少し庇うのが遅れていてたらどうなっていたか。遺体が二体転がることになっていたかもしれない。レティの本気を感じったクペは、すぐにでも治療したい気持ちを押し殺してレティの指示に従った。

 

「クペ、彼を守って。プロンプトは後ろに」

「……姫……」

「レティ、気を付けるクポ」

「うん」

 

レティは左手で魔法杖をぐっと地面に突き刺し自身の足元に青く光り輝く魔法陣を展開させる。複雑に絡み合うように刻まれた模様は決して常人に読み取ることはできない。これは、レティと召喚獣たちとの絆を現してもいるのだ。

 

「来たれ」

 

その命は一体誰に下されたものなのか、この時点では判断できない。レティは意識を集中させるために瞼を下す。展開された陣が完成し目を覆うほどの光を放出させ、頃合いとレティは声高らかに張り上げた。

 

「我が召喚の求めに応じ、出でよ……炎神イフリート!」

 

頭上に右手を掲げ大きく開いたのち、瞼を上げると同時にグッと何かを捉えたかのようにその手を力強く握りしめた。すると、レティの目の前に天上に届かんとする勢いで火の粉飛ばす巨大な火柱が猛烈な勢いで出現する。異界の門が開いたのだ。炎を纏い灼熱の王を迎えるための前座に相応しい演出である。その派手な火柱からシュパン!と一振りの剣が火柱を切り裂いて現れる。まず手が出て、腕、肩上半身そして下半身と抜け出てくる男。頭上に立派な角を生やし人の形をした召喚獣が『――—!!』と腹の底からつ脳天へ突き抜けるような音を発する。思わず耳を塞いでしまうプロンプト。

 

『―――――』

 

それは聞き取れない言語をレティへと向けながら、ちらりと見下ろした。

イフリートの圧巻される姿に、ただただプロンプトは口を開いて呆然とするばかりだった。おとぎ話の悪役ともいえる存在が今、目の前に召喚されたのだ。レティの手によって。

 

きっと、『頭が高いぞ~』とか『気安く召喚するな~』とか言っているに違いないとプロンプトは思った。

 

炎神、イフリートが地上に降臨した。裏切者と伝承される異端の神。

 

【果たして、彼の言葉は】

 

 

イフリートの第一声はプロンプトの予想とは裏腹にフレンドリーに溢れていた。

 

『ようやっと呼んだか。レティよぉ』

「イフリート、お願いがあるの」

『おう、なんだ。いってみな』

 

兄貴分のようにレティの願いを叶えてやろうとする。レティはいきなりリズムを取り出した。

 

「撃滅~撃滅~それ!撃滅~!!」

『わかったわかった。そう音頭を取るなよ。乗せられるだろうが!』

 

妙に人間臭いイフリートは照れるように鼻先を指で軽くこすぐりながら声を弾ませた。それにレティは調子をよくしてイフリートの気分を盛り上げた。

 

「むしろドンと乗って!もっとテンション上げちゃって!よろしくお願いしまーす!」

『よっしゃあ!燃やしてやるぜ――ー!!』

 

持ち上げられて気分高まったイフリート。

スモークアイ、イフリートの全力の業火で燃えました。終わり。

 

まるで光の速さのように終了した戦闘に呆気に取られた皆と合流したレティ。怪我を負ったレティを見てノクトやイグニスは顔を真っ青にさせて思わずポーションぶっかけるというまれにみない行動をとってはグラディオに「使い方ちがうだろっ!?」と突っ込まれたりした。プロンプトも同じくクペにポーションぶっかけられて回復。回復薬として違う使い方をしているが、しっかりと傷は癒されたようでほっと息を安堵の息をつくが、ハッと思い出したように傷が残っていないかと入念に調べさらにほっとする男二人。

全てのことを終えて、ビシッと敬礼のポーズをまねてみせるレティはノクトに報告した。

 

「ってわけで任務終了であります!ノクト隊長」

「!?隊長じゃねーし。ていうか……燃えてんだけどぉ!?」

 

そうだった。今でもイフリートはレティの後ろで異界に戻らずにメラメラと周囲の物をもやし続けている。まだ木々には火の手が届いていないが時間の問題のようだ。

どうやら力の制御がうまくいかないようだでうろうろと落ち着かない様子でレティに『やべーよ!?久しぶりだからはっちゃけすぎたぜ。レティ何とかできるか?』と訴えているが、ノクトたちには『フハハハ!このオレを召喚したからには全て燃やし尽くしてくれる!』と思うが儘やりたい放題にやっているようにしか見えず、その恐ろしさに身を竦ませてしまった。元々廃屋の一部だったが、木々に浸食されて身を隠すにはちょうどいい場所となっていた。そこに目を付けたのがスモークアイでここを根城にして周辺に出没していたよう。なぜだか知らないがドラム缶にセットされた爆薬なんてものもそこかしこに置いてあったりする。きっとハンターが対峙するためにあらかじめ設置していたものなのだろう。そのドラム缶に引火してあちこちで爆発音も連発している。今はとにかく大規模な山火事になる前に逃げなくてはいけない。人間ではどうしようもない事態と、イフリートという存在に集団パニックに陥る男たち。

 

ノクトは「レティ!?何とかしろぉ!」と叫んでもはや底を尽きつつある男としてのメンツでレティだけは守ろうと引っ付くし、

イグニスは「オレは何も見ていないオレは何も感じない」とその場に蹲ってしまうし、

プロンプトは「イグニスが殻に閉じこもってんですけどー!?全力で現実否定してるんですけど――!?」と驚愕の叫びを上げながらイグニスを立たせようと必死だし、

グラディオは「逃げるしかねぇだろ!?」とドヤすし。

クペは「イグニスでも落ち込むこともあるクポね」とマル秘ノートにかきかき。

イフリートは『これが人間の脆さってやつか』と興味津々に観察し始める始末。

 

各々個性が目立つ中で、レティは困った顔で「ちょっとやりすぎだよね。シヴァー!」と別の召喚獣を呼んだ。その名は氷の女王であり、イフリートと同じく六神の内の氷神、シヴァ。

 

『私を呼んだかしら。レティ』

 

呼ばれて瞬きもしない内に華麗に登場。実はスタンバイしていたのをクペは気配で知っていた。が言うと氷漬けされるのでお口チャック。

 

「ゴメンね、忙しいところ。シヴァ、山火事になる前にこの炎を全部凍らせてもらえることできる?」

『ええ。勿論。貴方はクペといなさいね』

「うん、ありがとう」

『お礼なんていいのよ。貴方の願いですもの』

 

シヴァは複数体に分かれて絶対零度の氷で辺り一面全てを凍らせた。その範囲は炎を飲み込む勢いでさぁっと冷たい空気が一瞬にしてすべてのモノを凍りつかせていく。吐く息が白くなって、周囲に冷気が漂いだした。まるでドライアイスが大量に投入された状態になる。クペがいそいそと取り出したマフラーを首に巻いてレティは鼻先を赤くしながら元に戻ってきたシヴァに尋ねた。

 

「あれ?イフリートは?」

『少しイフリートにはお仕置きを与えているわ。貴方に火傷でも負わせていたら大変だったもの』

 

というシヴァの後ろでピキーンと氷の彫像となっているイフリート発見。いつの間にと驚くレティは一応イフリートの活躍を伝えた。

 

「大丈夫だよ、加減してくれてたし。ちゃんとスモークアイも丸焦げにしてくれたし」

『でも万が一ということはあるわ。レティ、貴方は優しすぎるのよ。時には厳しく叱りつけなきゃ。飼い犬に手を噛まれては痛い思いをするのはレティなのよ?』

 

シヴァ、本音がポロリと見え隠れ。

 

「イフリートは犬じゃないよ!」

『あらそう。ふふ、優しいレティね』

 

仲の良い二人の会話の最中で絶賛被害被っていた男子組。ノクトに至ってはバリッとクペの手によりレティから引き離されてしまったので仕方なくグラディオを盾にして寒さを凌ごうとしている。

 

「あれが、シヴァ……つか寒!!」

「このままじゃ凍死しちまうぞ…」

「………」(イグニス返答なし)

「イグニスがすでに凍ってんですけど―――!?」

「「何―――!?」」

 

コントみたいに仲の良い四人。ピンチな時も一緒のようだ。そしてシヴァとレティの会話も続く。

 

「そうかな。普通だと思うけど」

『貴方にとっての普通は私達にとっては最大級の誠意ということよ』

「ふうん。あんまり自覚ないけど……照れる……」

『ああ!可愛いレティ!食べてしまいたいくらいだわ』

「シヴァが言うと洒落にならないクポ」

『聞こえているわ、クペ』

「聞こえるように言ってるクポ」

『以前のように凍りつきたいよね』

「クペが凍る時はレティも一緒クポ!」

 

ピタリとレティに引っ付くクペ。レティはどうしたの?とその言葉の意味を理解できずに首を傾げた。シヴァは舌打ちしたいのを我慢した。(レティの前なので)

 

『……考えたわね。私が手を出せない相手を巻き込んでまで保身に走るとは。貴方のそのあざとさ、嫌いじゃないわ。好きでもないけど』

「結局どっちなの?」

『ふふ、内緒よ。それより、王子たちが大変みたいよ』

「あ、そういえば。後ろでごちゃごちゃ騒がしいなと思ったら……って皆凍ってる――?!」

『仮死状態かしらね』

 

そう和やかにいうシヴァに対してレティは取り乱しながらどうにかしなくては!?という思いで

 

「ファイガぁぁあああああ――――!!」

 

と全力で放ったファイガがノクトたちに命中。でもその威力が強すぎて逆に氷を解かすどころか大変なことになっている。

 

『あら、燃えちゃってるわね』

「うわぁぁー―んん!!ケアルガケアルガケアルガケアルガケアルガ―ー―――!!」

 

レティの必死の回復魔法によりノクトたちは瀕死状態から脱することができた。衣服や顔中に煤がつき、服は所々焦げてしまっているが生きている。ちゃんと生きている!

シヴァは涙目なレティの手を取ってそっと【守りの指輪】を乗せた。

 

『レティ、泣かないで。これをあげるから機嫌を直してちょうだい』

「……ぐす、これは?」

 

自分の手に乗せられた指輪を不思議そうに見つめて尋ねる。するとシヴァは隣に移動してレティの頭を優しく撫でながら、

 

『守りの指輪よ。これを誰かが嵌めるとそのパーティ内で魔法攻撃が当たらなくなるというアイテムなの』

 

と驚きの効果を教えた。

 

「本当!?これでノクトたち、もう魔法の巻き添えにならないの?」

『ええ。通常の魔法なら。でもレティの魔法の威力はけた違いだから完全に防ぎきることは出来ないわ。重症……そうね。死なない程度に受けるということ。でも召喚獣の影響は受けることはないように工夫してみたわ。今回のように氷漬けにされることも火だるまになることもないから安心してちょうだいな』

 

またじんわりと涙を溜めてレティは指輪を握りしめると勢いよくシヴァの首に抱き着いた。ひんやりと冷たい感触に心地よさを感じた。

 

「……ありがとう。シヴァ」

『いいのよ。レティの悲しむ顔が見たくないもの』

 

クペがレティに聞こえないように小さな声でシヴァにこういった。

 

「シヴァ、ワザとクポね」

『ええ。レティの困った顔が見たくて、つい』

 

【守りの指輪+】はこうしてレティの手に渡った。氷漬けにされたイフリートはシヴァの手によって異界へとお持ち帰りされた無事にモブハントは終了したのであった。

後のラジオのニュースで謎の異常気象により広範囲に渡って山の木々が凍りつく現象が発生したとアナウンサーが告げるのを素知らぬ顔で聞いたとか聞かなかったとか。

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