レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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永遠の真理

そのやり取りは二人だけしか知らないこと。けど明らかにレティが先急ぐ引き金とはなったことは確実だった。実はシヴァがイフリートを伴って消える前、レティにある内容を伝えてきたのだ。クペが王子たちを介抱している隙を狙って。自分が傍によることで彼女が寒くないように力を抑えて小さな声で囁くようにレティに顔を近づけてシヴァは言った。

 

『レティ、ルナフレーナはラムウに啓示を求めたわ』

「ラムウ?……啓示って?」

 

レティはルナフレーナという名前に敏感に反応して驚いたが、すぐに気を取り直して啓示という意味をシヴァに尋ねた。シヴァは分かりやすく一言で説明してくれた。

 

『王子に力を貸すように、と』

 

それだけですぐに内容を理解したレティは、苛立ちからか爪を噛む真似をした。

 

「……そう。ノクトの為に……。じゃあ彼女は六神の元を訪れて回ろうとしているのね」

 

世界を救うために。大切な人の命を脅かす行為を進んで行う。

それが神薙。選ばれたから、責任があるから。だから全てを黙って受け入れると?

抗うだけの力があるのに、その資格があるのに。

 

ただ世界の為。人々の為。顔も喋ったこともない人の為に命を捨て、たった一人の王に全てを託す、と?随分と尊い犠牲心だことと、レティは嘲笑ってすらいた。

その命散らしたいのなら一人で散らせばいい、ノクトだけは守ってみせるとさえ思っていた。だがすぐに頭を振って邪な考えを振り払った。

 

このままじゃいけない。先手を取らなきゃ。彼女よりも先に。

 

妙な焦りがレティを追い詰めていた。だからシヴァの、

 

『すでに私の啓示は伝えてあるわ。……レティ、貴方が望むのであれば王子に力を授けましょうか』

 

という発言に「やめて!」と悲鳴に近い声を上げてシヴァのひんやりとした腕に抱き着いた。

 

『……』

 

レティの取り乱した様子にシヴァはただ黙って見つめた。レティは自分の気持ちを見透かすかのようなシヴァの視線から逃げるように顔を伏せた。だらりと、力が抜けてシヴァの腕から手から離す。

 

「ううん、いいの。ごめんなさい……。その力は人には過ぎる力だもの……。きっと代償がかかってしまうわ。ノクトは、……別の方法で王に召し上げる」

 

そう、世界の為にノクトを王にはさせない。彼の為に王にさせる。彼女の意味合いと、自分の意味合いは違うのだと何度も心の中で自分に言い聞かせる。

 

言葉を途中途中でとぎらせてながらもやめてほしいとレティは切実に訴えた。シヴァは軽く微笑んで『……そう。貴方がそう望むのなら』とレティの訴えを受け入れた。

レティは拳をぎゅっと握りしめて、色々とぶちまけてしまいそうになる気持ちを無理やり押し殺し、また顔を上げて笑みを作りながら礼を言った。

 

「……ありがとう。シヴァ。いつも助けになってくれて」

『いいのよ、貴方が悲しまないのなら』

「…お願い…ルナフレーナ嬢を、必ず守ってあげて。彼女は、ノクトにとって必要不可欠な人だから」

 

そうレティが訴えると、シヴァは辛そうな顔で何も言わずに両手でレティの顔を優しく包み込んだ。

 

「シヴァ?どこか、痛いの?」

 

どこか彼女に不調でもあったのかと心配したレティだったが、そうではないという風にシヴァは軽く頭を左右に振った。

 

『……ねぇ、レティ。我慢、していないかしら?』

「……我慢?」

『貴方を見ていると辛いのよ、私も。無理に笑うこと、あるでしょう』

 

静かに指摘され、レティは目を見開いた。

 

彼女には、レティの心情など丸わかりのようだ。付き合いが長い分、下手な演技など見抜かれてしまう。それだけ、ずっと一緒にいてくれたこと。傍に見守り続けてくれた。

レティは瞼を閉じて、その優しさを感じ取るように自分の頬を挟む手に自分の手をそっと重ねた。

 

「……シヴァには、わかっちゃうんだね。全部……。千里眼でも持ってるの?」

『私は貴方が気付かないだけでずっと共にいるわ』

 

その言葉は何よりレティを元気づけさせるものだった。バハムートもイフリートも、カーバンクルも、シヴァも、クペもきっと自分が知らないだけで多くの召喚獣が自分のことを気に掛けてくれている。愛されているという実感を与えてくれる。

 

シヴァは愛しみを込めて顔を近づけてレティの耳元で囁いた。

 

『覚えていて、私は、私だけは貴方の味方よ……。どんなことがあっても貴方だけは守り抜くわ』

「……シヴァ……」

 

吐息を漏らすように、レティはシヴァの名を呟いた。

 

その言葉は、ごちゃごちゃな感情に押しつぶされそうになるレティの心にゆっくりと浸透していったのだ。まるで魔法のように。全てを委ねてもいいとさえ思ってしまいそうになる。心地よさそうにシヴァの温もりに浸るレティの瞼にそっとキスを送り、シヴァは熱く熱くレティを見つめた。

 

『……必ず……』

 

この想い〈感情〉は常軌を逸しているとバハムートに咎められればそれでシヴァは終わる。反逆の烙印を押され、末は異界へ永劫に繋ぎとめられるかもしれない。もしくは剣神バハムート自らをもってその剣で滅するか。だがそれでもかまわない。自分の使命を果たせるなら。

 

『守るわ』

 

その決意は一体何を守るのか?

 

レティ【自身】を守るのか。レティの【魂】を守るのか。レティの【心】を守るのか。

 

シヴァの真意は計り知れない。そしてレティも知らない。

 

【全てを委ねて。私は、貴方を永遠に守るわ】

 

レティーシアside

 

時間がない、とにかく時間がないと私は焦った。あれから大事を取って自分の部屋にとノクトとイグニスがあまりに心配するものだから大人しくベッドに横になることになった。起きているとプロンプトは申し訳なさそうに謝ってばかりだし、グラディオラスからは耳を塞ぎたくなるほど叱られるばかりだったからだ。クペは皆の抑え役としてまわってもらっているので部屋にはおらず。退屈な時計の音だけが部屋に響き渡る。

だからか、余計にシヴァに事実が私を急かすのだ。

何とかしてルナフレーナ嬢よりも先にノクトを王とさせなければならない。彼女は神薙という使命を全うせんとしている。そこに民の犠牲は止む負えないと感じているんだろう。幼い頃より神薙と求められたのだ。誰よりもその責を全うしたがっているはず。この星に救う病。夜が日に日に長引いて行こうとしているのを防いでいるのが彼女の力だ。けど防ぐだけでは進行を止められない。その力に衰えが出始めたら一気に進むかもしれない。

けどそのままじゃノクトは犠牲の王として担ぎだされてしまう。周囲を固められてノクトは逃げられない。頷くしかない。誰よりも王という責務を重く受け止めている彼だ。

 

頷くしかない。嫌だと言えない。

 

それに彼女がオルティシエにたどり着けば封印されているはずのリヴァイアサンをその場に目覚めさせ、乱暴に啓示を求めるはず。周囲に被害が及ぶのは必衰。

このままじゃだめだ。召喚獣からの啓示を、ノクトに渡してはならない。

 

幸いシヴァは私の願いを聞き入れてくれた。後はラムウ、タイタン、イフリート、リヴァイアサン、バハムート。彼らを何とか説得して啓示を渡すのを止めさせる。それと同時にノクトたちを鍛え上げる。召喚獣の力に頼らなくてもいいように。敵対する帝国軍とも対等に渡り合えるように。それも短時間で鍛え上げなきゃいけない。そして帝国に奪われたクリスタルを取り返すこと。あの力は未知数でどんな影響を世界に与えるかわからない。だから普段から厳重にしまわれていた。私も一度しか見せてもらったことはない。幼くもおぼろげに思い出せるなんて不思議だけど、それだけ鮮明に残っているということにしておく。

 

『レティーシア、これがクリスタルだ。この国の要。世界を救う鍵となる』

『…?くる、しゅたる……』

 

まだ親子だった頃。あの人に抱き上げられて連れて行かれたのがクリスタルが安置された部屋。厳重にしまわれたクリスタルのあの蒼く吸い込まれそうな輝き。綺麗だった。

すぐ傍まで寄ってくれたあの人から身を乗り出すようにその光に両手を差し出した。

するとその光が急激に強く反応しだした。

 

『……!』

 

目も眩むほどの光は私を覆いつくさんとするもので、あの人の『駄目だ!?』という取り乱した声が印象に残っている。クリスタルから淡い虹色の光が波打つように私の周りを囲もうとする。それはあの人から私を引き離そうともしていたように思えた。

 

恐怖心、という感情は私の中には芽生えず、ただ【―――】ことだけは分かった。

 

その光は私を求めている。

だから行かせてとクリスタルに魅了された私を離すまいと懸命に抗うあの人の腕に触れた。

 

『行くなっ!?駄目だっ!』

 

あの人は必死にそう叫んだ。こうも続けた。

 

『ノクティスが選ばれたのではないのか?!』

 

選ばれた?

 

最終的にあの人は王の力で私とクリスタルを遮断させて強制的に引き離した。それから事態を駆けつけてきた臣下たちが騒めく中、私をクリスタルに一切近づけるな!と怒鳴りつけて、私はクリスタルから少し離れた所で駆けつけてきた母上に抱きしめられながら「大丈夫よ、レティーシア。大丈夫だから」と何度も言われた。けど私はクリスタルが欲しくて小さな手を伸ばして求め続けた。母上はハッとした声で「駄目よ!!」と必死に私を行かせまいと猶更強く抱きしめてきた。あの人がすぐに母上の叫び声に気づき、怖い顔で近づいてきてあの指輪を嵌めた手でむずがる私の目元を覆った。

 

『眠れ、レティーシア。全ては夢だ』

 

その一言がきっと魔法だったのだと思う。私はそこでふっと意識を失った。

当時の私にその時の記憶はなかった。母上は私にそのことを尋ねてはほっと安堵していたもの。

 

でも、今は召喚獣のお陰で知らなかったことも知識として備わっている。

クリスタルが私を選んでいるということが確実なら、その力を使ってノクトがやるべきこと。つまり星の病を払うことができるかもしれない。この身に宿る無限の魔力を全力で注ぎこめば……。不可能ではないはず。そうすれば、ノクトはこれ以上王の力を酷使しなくて済む。あの人のように老化が早まることだってなくなる。立派な王様になって、彼女と、ルナフレーナ嬢と一緒にルシスを守ることができる。ノクトにとって住みやすい世界になる。

 

ノクトが、生きれるんだ。

 

やるしかない。レティーシア。外の世界には出れたからもう十分。愛してくれた人は母上だっていたじゃない。……これ以上は高望みすぎる。

 

「ノクトを、王に」

 

むくりと私はベットから上半身を起き上がらせた。ふと、右手を見ると微かに震えていた。私は左手で手首を掴み震えを止まらせようとした。だが、可笑しなことにその左手さえもぶれてみえる。

 

震えが、止まらない。

 

「…ははっ、…へんな、の……」

 

私は空笑いをした。怖いことなんてないのに。ちょっとクリスタルの力を解放するだけなのに。もしかしたら死なないかもしれないのに。ちゃんとノクトの元に帰ってこられるかもしれないのに。でもふと思い出す。もう、ノクトの元にはもう帰れないことを。ノクトの傍にはルナフレーナ嬢が佇んでいてルシスの王母となるかもしれない。私が帰る場所は、もう、ない。だったら、レティーシア・ルシス・チェラムは死ぬも同然だ。

 

「大丈夫、大丈夫だ」

 

何度も自分に言い聞かせて震える体を掻き抱いて体を縮こまらせる。

ルナフレーナ嬢とは違う邪道なやり方で私は進む。ただのレティーシアに戻ると思えばいい。

 

「やろう」

 

母上との別れは済ませた。あの人の訃報は聞いた。クレイにさよならは言った。コルにはちゃんと会えた。ノクトはあの人に託せる。クペは最後まで共に来てくれる。イグニスはきっと小言が少なくなって軍師らしくなる。グラディオラスはちゃんとこれからもノクトを守ってくれる。プロンプトはノクトの親友として頼もしい存在になる。イリスにはこれから会いにいける。……私の英雄はどうなったかわからない。けど絶対生きていると信じている。

 

「……泣くな、レティーシア……」

 

弱虫な私は笑いながら涙を流す器用な真似ができる。

 

これからやることを確認するんだ。そう簡潔に。

一つ目、ノクトには召喚獣に頼らずともあくまで帝国軍と戦うための力、ファントムソードを全て集めさせる。これは仲間であるイグニスたちにも言えること。最強の装備で彼らが命を落とすことないよう準備させる。

 

二つ目、ルナフレーナ嬢の目標を阻止する。啓示は決してノクトに渡さない。

そして、彼女を生きさせる。

 

三つ目、……クリスタルの力を解放させる。手段は、択ばない。

 

オッケー。これでやるべきことは決まった。後は、

 

「覚悟を、……きめる…だけ……」

 

そう声に出しても震えは止まらない。弱虫な私には少し時間がいるようだ。どうせ、今は誰も来ない。だったら時間が許す限り弱虫状態のままでいようと思う。

 

【為せば成る。為せねば成らぬ何事も】

 

 

レティをノクトと同じベッドに寝かせアウライアは椅子に腰を下ろして、沈痛な面持ちであどけなく眠る我が子供たちを見つめた。そこへ妻の名を呼ぶ夫が部屋に静かに入ってきた。

 

『アウライア』

『陛下……レティは、どうして』

 

途端にアウライアは椅子から立ち上がり詰め寄るようにレギスの胸に飛び込んだ。レギスはアウライアを受け止め、一瞬躊躇いを見せたが真実を決めて声に出した。

 

『クリスタルに選ばれた……。ノクティスだけではなかった……』

『まさか!?』

『……あそこで止めていなければ今頃、レティはクリスタルに飲み込まれていただろう』

『なんて、…ことに……』

 

アウライアはみるみる内に瞳に涙を潤ませて口元を両手で覆った。

悲しみに襲われる妻を見ていられず、レギスは自分の胸に強くアウライアを抱き寄せた。アウライアはレギスの胸でしばし嗚咽を漏らしながら頬を濡らした。

 

『……この子がミラの娘だから?……どうして、幼い二人が重い使命を背負わされなければならないの』

 

ミラという名は今は限られた者しか知らぬ忘れ去られた名。レギスも一瞬だけ苦悩を表情に垣間見せた。アウライアが気づくことはなかった。

 

『…それがクリスタルに選ばれるということなのだろう。…私達にできることは、この子たちを守ることだけだ。時が来るまで……』

 

固く決意込められた言葉にアウライアは摺り寄せていた顔を上げて、自分を見つめ下すレギスと視線を交わせた。

 

『レギス……』

『……守ろう、共に。二人を。この子らが帰ってこられる場所を』

『…ええ……。必ず』

 

二人は固く抱きしめ合った。これからどんな苦難が待ち受けようとも、二人で支え合いこの幼子たちを守り抜こうと誓い合った。その約束は、あの日で破られることになろうとも。

 

【絆の強さ】




ところで、王女がなぜグラディオラスを愛称で呼ばないのか。
皆様はその理由がわかりますでしょうか?幼馴染でありながら色々と複雑な間柄。

今後、その辺も注目していただけるとより彼女を取り巻く人間模様がなんとな~く分かってくるかと思います。
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