誘われた二人がそこで目にするモノは……。
未来の、自分。
1
静寂に包まれた森林。天を覆いつくすようなたくさんの緑の葉から零れる木漏れ日の中、幼いノクトは地面に倒れていた。その隣には同じく妹であるレティの姿もあった。そんな二人に近づくのは、ふさっとした手触りのよさそうな白い猫のような猫じゃないような動物。口元には黒いスマホが銜えられていて謎の動物はそれをノクトの前にポトリと置いた。それが目覚めの合図となったのか、ノクトが先に目を覚ました。
「……ん…」
小さく呻きながら、硬い感触と自分の手と繋がった温かさを感じ取りながらゆっくりと瞼を開く。そして無意識のうちにぎゅっと繋がった手に力を込めた。
ノクトは片腕で少し体を起こし、まだぼんやりとする頭であたりを確かめた。
「……」
そしてハッと最愛の妹の存在を思い出して、ノクトは現状把握よりも慌ててレティの傍へ。
「レティ、レティ!」
小さな体を揺り動かすとレティは小さく呻きながらゆっくりと目を覚ます。
「………ノクト…」
「レティ!良かった…」
ほっと安堵するノクトにレティは少し体を起こして眠そうに目元をこする。
「うん……帰ってたの?…」
「…帰ったというか、僕たちどこにいるかわからないんだ」
ノクトは困ったようにレティに説明した。気が付いたらここにいたことを。
見知らぬ森に子供二人という状況。大人の姿はなく、一種の誘拐などとノクトなりに辺りを警戒はするものの自分たち以外に人の気配は感じられず困惑するしかなかった。でもぽやっとして愛くるしいレティは絶対守る!と意気込んでいるとレティが「ノクト、何か落ちてるよ」とノクトから手を離し、それがある場所を指さす。ノクトは怪訝に思いながらそれを拾い上げると黒いスマホだと気付く。
もしかしたらこれで電話できるかも!と期待込めて耳元にあてるともスマホから反応はなく、残念そうに肩を落とした。
そんなノクトとは正反対で目をキラキラとさせて初めて見た光景に感動のあまり「うわぁ!」と感嘆の声を漏らすレティ。
城から出ることがないレティにとって大自然の中にいることこそが、産まれて初めての体験で森の中でキラキラと光る謎の小さな光と戯れては今の状況を思いっきり満喫していた。
対照的な二人だったが、突然ノクトが持つスマホにメッセージが届いた。
『こんにちは』
「うわ!」
「ノクト?」
驚きのあまり声を上げてしまうノクトにレティがきょとんと目を瞬かせ、ノクトに近寄り手元のスマホを覗き見た。
「メッセージが来た」
「ほんとうだ」
電源が入っていたかどうかもわからなかったスマホが急に動き出したことに不思議に思う二人だがメッセージはまた届く。
『ここはノクトの夢の世界だよ。レティはノクトに呼び寄せられてここにいるんだ』
二人は目を丸くさせ互いの顔を見やっては同じタイミングで呟いた。
「「夢の世界?」」
ノクトには意味が分からなかったが、確かに今一緒にいるレティとは別々の場所にいたことだけは覚えている。自分は母と共に車に乗っていて城を目指していたはず。レティへのお土産を手にして早く帰りたいねと母に言うと母は、そうねと微笑んで頭を撫でてくれた。
「…母上…」
無性に母に会いたい。
胸がざわついて思わずノクトは自分の胸元の服を握りしめた。
「母上?ノクト、母上はどこ?」
「わからない、とにかくここから出よう」
急がなくちゃ、そう急かす気持ちがノクトを動かした。
「ノクト、あそこになにかいるよ」
レティがそういうとノクトを置いて先に歩き出してしまう。ノクトは慌ててレティの後を追った。
「待ってよ!」
レティはあるところでピタリと止まった。止まったまま何かを凝視していた。ノクトはレティの隣につくとそのレティが注目しているものに気がつき同じように凝視してしまう。
そこにいたのはお利口さんにそこに犬のように座ってレティたちを待っていた動物。
ウサギのように大きくしかし耳がピンと立っていて、青白い毛並みが綺麗な不思議な生き物。額にはルビーのように赤い宝石のようなモノがついていた。
それはそろった二人の姿をじぃーっと見返した。途端、ぶるりとノクトのスマホが反応する。二人はスマホの画面を見ると
『僕についてきて。絶対君たちを帰すよ』
とのメッセージが。
次いで、「キュン!」と動物が一鳴きする。まるで僕だよ!と主張するかのように。
ノクトは戸惑いながらも、
「もしかして、アレがメッセージを送ってるのかな」
とレティに言うとレティなぜだが怒った口調で
「あれじゃなくてカーバンクルっていうの!」
とノクトのいい方を訂正させた。さもそうだと同意するようにまたカーバンクルが「きゅん!」と鳴く。ノクトはなんで名前わかるんだと思ったが、今は先に進むことに専念することを優先させた。
スッとレティに手を差し出し、
「一緒に行こう」
と言った。勝手に先に行かないようにという意味もあったが、森の中で物珍しさから怪我などしないようにという思いもあった。何より、レティの体温を感じていたいというのが一番の本音だったのだが。
「うん」
レティはノクトの思惑には気がつかずに、素直に頷いてノクトの手に自分の手を重ね握りあった。
二人は少し先を歩くカーバンクルの先導に導かれて共に森の中を歩き出した。