レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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恋した貴方は召喚獣?

レティーシアside

 

 

自慢じゃないけど私の初恋は、ない。二十年生きてきて一度も異性に恋心を抱いたことがない。というか、出会いがそもそもないのだ。あの監禁されているような環境でどうやって年頃の異性と出会えるというのか。ノクトは学校などで同年代の男子やら女子やらと接する機会があったかもしれないが、特に私などは、年上のおじさんか、おじさんか、年上のおねーさんか、淑女とかである。

 

あ、でも例外が一人。グラディオラスの妹イリスとは友達だ。

ある理由で文通するのが切っ掛けになりそれから仲良くなった。だから同性の人間での友達は彼女が初めて。最初はもちろん、クペだけどね。そのある理由はまた今度。

さて、イリスともそういう話題は数えきれないほどした。けど城から出られない私としてはイリスから恋の話を相談されたところでいまいち、良いアドバイスなんて送れなかったし、イリスも気を遣って仕方ないよと励ましてくれたりもした。

 

……巷の女子高生のように彼氏が欲しいとか、彼氏が欲しいとか彼氏が欲しいとか考えたことなんてない。断じてない。たがそれが世間の常識というものなら、私も柔軟な考えを持った方が今後の役に立つというもの。イリスも彼氏いたこともあったらしいし。グラディオラスには内緒だったみたいだけど。だがいきなり恋をしようなどと考えたところですぐに恋する乙女にジョブチェンジできるわけでもない。ここは、男子とはどういうものなのか学ぶ必要がある。私は早速うちの男子たちを観察してみることにした。

 

 

ノクトの場合。

 

夕食時、イグニスお手製ハンバーグと野菜のソテーが出されたのだが、ノクトはしっかりと避けていた。右端に。それをとがめたイグニスが、オカン節を発揮させた。

 

「ノクト、にんじんも食べるんだ」

 

でもノクトはイグニスの言葉をまるっとスル―して

 

「やる」

 

と私のお皿に人参を乗せてきた。しっかりお肉だけは食べている。イグニスは困ったようにため息をついた。

 

「………、まったく」

「ノクト、ホントに野菜嫌いなんだね」

 

プロンプトが綺麗にカットされたニンジンを口に頬張りながらそういうとノクトは、

 

「ん」

 

と軽く頷いた。グラディオラスが冗談まじりに茶化してこういった。

 

「レティがアーンしてやれば食べるんじゃないか?」

「まさか」

 

とイグニスは小馬鹿にしている。どうやらイグニスは私がノクトにあーんしても絶対食べないと思っているようだ。これは良い実験機会である。私がノクトに餌付け成功するかどうか、実践してみようではないか。私は目をキラリンと光らせ、隣に座る、ノクトにずいっと近寄った。ノクトはきょとんとしたが、気にしない。「ちょっと借りるよ」と断ってノクトからフォークを奪う。さすがに私のフォークを使うのは気が引けたので。

先ほど私のお皿に寄せられたニンジンをさっとすくって、ノクトの口の前までもっていく。そして、定番の台詞を言った。

 

「ノクト、アーンして」

「アーン(雛鳥のように口を開けている)……」

 

餌付けはすんなりと成功した。多少、まずそうな顔をしているが、それでも咀嚼してぐっと飲み込んだ。いやいや食べているようだ。その表情は食材に対して、作ってくれた人に対して失礼である。なのでここは全部食べてもらおう。

 

「……ノクト、わざとか。わざとなのか」

 

イグニスがいかにも憎々しい表情になってぷるぷると肩を震わせている。

だが実験途中なのでイグニスは無視だ。今はノクトにニンジンを食べさせることが必要不可欠。私は次のニンジンをグサッとさしてノクトの口元へもっていく。

 

「ノクト、ん」

「……んぐ、……アーン」

 

やはり食べた。この後何回か繰り返して綺麗に野菜はノクトの胃袋に無事収まった。

皿洗いは当番制なので今日は私とプロンプトの番である。一緒に魔法で出した水で洗いものをしていると、チェアに腰かけているイグニスが

 

「クッ!」

 

と、お気に入りのエボニ―コーヒー片手に悔し気に呻いていた。

プロンプトにそれとなく尋ねてみたら「ああ、ノクトのほうが一枚上手だったからね。悔しいじゃない?」と教えてくれた。どうやらイグニスの予想が外れたことに相当根に持っているらしい。だが結果は結果。ここは素直にノクトはあーんしてあげればニンジンを食べるということが学べたことを素直に喜んでほしい。

次はイグニスがノクトにあーんしてあげれば食べるだろう。

 

結果。

 

男は何歳になっても甘えん坊。勉強になった。

 

イグニスの場合。

 

 

洗い物が終わって、プロンプトはお風呂に入りに行くと言ってクペのテントに入っていった。それぞれ各自でまったりと寛ぐ中、イグニスと言えば大好きなエボニ―コーヒーに舌鼓を打っている。私は夜にコーヒーとか飲むと眠れなくなるのであまり飲まないようにしている。……別に嗜好がお子様というわけじゃない。ただ、炭酸ジュースのほうが好きなだけである。私がじっと観察しているとイグニスが私に気付いた。

 

「レティ、どうした。そんなところで……隠れて…」

 

おっと、気づかれてしまった。私はテント越しに姿を出してイグニスの元へ向かった。

 

「それっておいしいの?」

「ああ」

「ふーん」

 

男の好物。そうだ、イグニスの好物を奪ってどんな態度を見せるか実験してみようではないか。私はチェアをぐいぐい引っ張ってきてイグニスの隣に腰かけた。そして「どうした?」と不思議そうに尋ねてくるイグニスに「どんな匂いか嗅いでみたい」と嘘をついてマグカップを受け取った。イグニスは「レティには苦いぞ」と苦笑して言う。

確かに、私には到底飲めない大人の味だ。だが実験の為。

 

いざいかん!未知なる領域へ。

 

「な、レティ?!」

 

止めるでない、イグニスよ。私は恋を知るために男を知るためにこの身を捧げなければいけないのだ。私はマグカップを両手で持ってイグニスが飲んでいた部分とは反対の飲み口でぐいっと飲んだ!

頑張って飲んだ。

 

「に、苦い……」

 

の一言に尽きる。この全身を駆け巡るような苦さ……。侮っていた、たった一口飲んだだけでこのブラック感。だが頑張れレティ!イグニスの好物を奪うと心に決めたじゃないか。そう自分を叱咤して無理して全部飲み干した。

頑張ったよ、私。

 

「…………」

 

どうだ、イグニスよと私は不敵に微笑んだ。

全てこの胃袋に収まった。ドヤ顔してイグニスに視線をやったら、イグニスは唖然として固まっていた。だけど「はい」と空になったマグカップを差し出すと我に返ったように口元に手をあてがって、なぜか噴き出しそうなほど顔を赤くさせるではないか。

 

「な、え、……君は!」

 

戸惑っただろう、ショックだっただろう!

その空になったマグカップを見た瞬間に。

 

「ウッフッフ、さぞ悔しいだろうイグニスよ!好物は頂いた!」

 

そう完璧に宣言した私は颯爽と自分のテントに戻った。

だけど口の中がニガニガしていてがぶ飲みするように冷蔵庫の炭酸ジュースを飲んだ。

多少、緩和されたけどやっぱりニガニガ。そしてやっぱり、カフェイン強すぎて夜眠れなくて目が冴えまくり。翌日、隈ができた私だった。

 

結果。

 

男は好物を奪われると弱い。非常に勉強になった。

 

グラディオラスの場合。

 

 

以前の検証結果では、兄は妹に弱いという実験データが取れている。だが今回はもっと掘り下げてみようと思う。ちょうどそこにグラディオラスがいたので私は背後からひっそりと近寄った。

 

「なんか用か?」

 

だが気づかれてしまった。さすが王の盾を率いるアミシティア家、総領である。だが私とてまだまだやれるはず。

 

「えっとね、ちょっと相談したいことが…」

 

と普段押し隠している乙女を全開してグラディオラスの気を引いた。

 

「なんだよ、くねくねして気持ち悪いな。何企んでるんだ」

 

だが酷いいい方をされ、あまつさえ計画がバレそうになっている。私は内心の焦りを悟られぬように、「酷い……くねくねだなんて…!」と嘘泣きをしてグラディオラスの隙を突こうとした。

 

「嘘泣きバレバレ」

 

と頭を軽く小突かれた。来た!

私はこの瞬間を待っていたのだ。防御の隙を与えずに、私は「コンフォ!」と叫び魔法を発動させた。「うっ!?」とグラディオラスはよろりとその体をよろめかせて片膝を地面についた。

うん、成功したようだ。その証拠にグラディオラスの頭上にはヒヨコがぴよぴよと可愛く回っている。これで実験の準備は整った。

私は「クペ!」と頼れる相棒を呼んだ。クペは小さな羽根をパタパタさせてやってきた。

 

「やるクポ?これ大変クポ」

「やるのよ、私は男を知らなければいけないの」

 

とこの実験の重要性を語り、クペに協力を依頼した。クペは渋々頷いて実験協力を受けてくれた。クペの不思議な力。そのうちの一つ。【いろんな声が真似して出るよ!】である。私命名であるが間違いはない。

一つ、この力の問題点は、語尾の最後にクポがついてしまうこと。

 

だが今回の実験に置いて、そこは些細な問題だ。

どうせ混乱しているのだから語尾にクポがついていようといなかろうとさほど関係はないはず。

私はスマホの録画ボタンを押して

 

「クペ、よろしく」

 

と合図を送った。クペは、力を使い始めた。

 

「わかったクポ……(イリス声)お兄ちゃん……」

「……?イリス?イリスなのか?…くそ、暗闇で目が見えない?!」

 

そうなのだ。さっきついでに暗闇になる魔法をかけていたのだ。やるなら何事も徹底して、だ。実験に妥協は許されない。

 

※※※

そして、私は驚愕するようなデータ結果を手に入れてしまった。

…私は本当にこれを録画してしまって良かったのだろうかと、後悔の念に囚われるほど、強烈な結果となった。

きっと、コンフェがマズかったのだろう。近くに人一人余裕で縛れるほどの縄があったのもマズかった要因だ。クペも調子に乗るから、録画している私としては見ていて非常に気まずい気分にさせられた。

しかも、「新たな境地に目覚めてしまったクポ~!」なんて毛並み艶々になるくらい興奮していて、私は思わず「やめて!?戻ってきてクペっ!」と叫んでしまったくらいだ。

きっと、色々と条件が重なってマズかったのだ。

私はこの録画は削除することにした。きっと世の中に広まってしまったら、グラディオラスのイメージに傷がついてしまうだろうか。イリスにも言えない。絶対言えない口が裂けても言えない。これは、墓に持っていくことにしよう。

実験結果は良好である。

 

結果。

 

男は妹に弱い。もっと!

 

プロンプトの場合。

 

 

プロンプトか、……飴と鞭は効果覿面というではないか。

最近サンダーの鞭ばかりだったので、飴を与えてみようと思う。声を弾ませて「プロンプト」と彼の名を呼べば、ビクンと過敏に反応して振り返るプロンプト。

 

「なに?改まって……、まさかオレまたなんかした!?」

「いやいや何もしてないからそんな怯えないで」

「だって、またサンダービリビリするのかと……」

 

あら心外!そんな風に私のこと考えてたのね。何だかサンダー馬鹿みたいにけなされているような気もしないでもない。でも、レティ!ここは心に大きくゆとりをもって!

 

「しないよ。そんな………だって、今のプロンプト。結構避ける率が早くなってるから。サンダーよりもサンダラにする」

「レベルアップしてる!?」

「ウフフフ!」

「笑顔で誤魔化された!」

「最近イイ子にしているプロンプト君にご褒美をあげましょう!」

「………」

「じゃーん!飴、ベリー味だよ」

「意外と普通だった……。なんだ身構えて損した……」

 

そう、私があげたのは普通の飴である。たまにはご褒美あげてもいいと考えたからだ。

けど普段のお仕置きサンダーがここまで彼を追い詰めていたとは。やっぱりもっとバリエーション豊かにしなくちゃ避ける方も気が萎えるわよね。次からはサンダーではなくトードにしてやってみようと思う。

 

結果。

 

男は結構お仕置きに弱い。

観察、もとい実験は良好だ。引き続き、観察を続けようと思う。

 

【実験こそ前進への道】

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