レティーシアside
色々と観察に観察を重ねた結果、男という者がどういった者なのかなんとなくわかった。
だが次は、恋をすること。こればっかりは簡単にいかないだろうと思った。イリスのお陰である程度の知識はあるものの、やはりそれは知識。体験したことすらない私には未知の領域だ。周りの仲間たちでがっちりガードされていちゃ男子との出会いなんで夢のまた夢。私が王女だからといって変な虫がつかないよう言い含められているのかなんなのか知らないがはた迷惑なことこの上ない。
きっと、この先私が恋をする日は、そう近くはないだろうと諦めていた。
そんな矢先。私は、出会ってしまった。人ではない、化け物でもない、あの『彼』に。
※
幼いころからずっとひた隠しにしてきた、憧れのシチュエーション。イリスにも言ってない、童話好きの私にとって、密かに大切にしてきた憧れ。
囚われの姫を颯爽と助けにくる白馬の騎士様のような人がいたら、なんて私のイメージに似合わない乙女心だと思う。だからノクトにさえ、このことは教えていない。唯一知っているとしたら、クペだけだ。クペには小さい頃に打ち明けてより、ずっと応援してくれている。この年になっても馬鹿にしないで「きっとレティの前に現れるクポ!」って励ましてくれる。私はそんなクペの言葉に救われて今日までこの想いを抱き続けている。
自分には無理な役だろうし、相手もきっと現れないと折れかけてたけど。
でも心の何処かで諦めきれていない自分がいたのは事実。ただ、認めようとしなかっただけ。私にそんな出会いはないと思い込んでいたから。
だから空想の世界から飛び出してきた彼が信じられなくて。目を疑った。
不意打ちの襲撃だった。いつもならすぐに倒せる魔道兵に足元掬われたんだ。よりにもよって私の体調がすこぶる悪い日に。だけど最初はイケると思った。だから下がってろと私を守ろうとしたノクトを押しのけて前線へと躍り出た。魔法で倒せる、なんて軽い気持ちで魔法杖を構えて魔法を唱えた。普段だったら連発できてるところ、数回しか発動できなくて、焦った。周りを警戒する余裕を忘れていたんだ。だから、私のミス。
全ては私の過信が招いたことだった。
「レティ?!」
「!?」
敵のバトルアックスが鈍くなった私を狙う。
防御が間に合わない!?
プロテスを張ろうにも全身に力が入らなくて動かせない。受け身もとれない。
現実、待っているのは。
死。
ノクトの悲鳴も、皆が私を助けようと地面を駆ける姿も、全てがゆっくりで、ああ、私、こんなとこで死ぬのねってあっさりと諦めちゃった。その時は。どうせクリスタル解放で死ぬかもしれないし、何処で死のうが同じだって。
だって足掻いて足掻いて頑張ってきたけど、結局は私はどこまでいっても籠の鳥。何からも逃げられず大空に飛びたつことだってできない。だって私の翼は最初から切られていたもの。地面のたうち回って結局は苦しんで死ぬんだ。
そんなある意味、絶望しかけていた私の前に、彼は颯爽と現れた。
馬の甲高い嘶きとリズミカルな蹄の音。
全てが一瞬だった。屈強な鎧を全身に包みながら彼は猛然と私に襲い掛かろうとする魔道兵を、薙ぎ払うように身の丈を超える大きく、鋭い片手剣を振るった。
一度、一度で、私に襲い掛かる魔道兵、だけでなく周囲の魔道兵らを一掃した。その剣圧が敵だけでなく周囲一帯、ノクトたちをも巻き込むまでの恐ろしい威力だった。けど私だけはその剣圧を免れることができた。彼が盾となり私を守ってくれたからだ。
彼の存在に圧倒され、ノクトたちはしばし呆然としていた。
そして、それは私も同じ。
彼が六本の足を持つ白馬の手綱を引いて、私の方を見下ろした。
その馬はこの世に存在しないもの。本で読んだことがある。幻獣、スレイニプル。死を象徴するスレイニプルは、世界を自由に行き来できる能力を持つという。その馬がブルルと首を振って低く嘶いた。
彼は口を開かずに地面に膝をつく私だけを見ていた。
その瞳は一見冷たそうに見えて、でも、とても温かさが隠れていた。
私は、初めて彼に会った。一度も呼んだことはなかった。妖精さんは皆私に好意を抱いてくれていたけど、彼はどこか一線を引いて遠くから見ていたようだったから。クペにそういうのはいるって情報だけだったけど。まさか、私の危機に駆けつけてくれるなんて……。
私の視線が彼だけに縛られる。
―御身、大事ないか―。
頭に直接届く言葉。その言葉に私の胸を高鳴らせる。
「オーディン、様……」
起きた。ずっと夢見ていた出来事が、突然舞い降りてきた。
白馬の騎士様が、危うい状況の中、姫を助けに現れる……。
オーディン様は私の無事を確かめて、一つ頷いてまた風のようにスレイニプルを走らせてフッと光と共に消えてしまった。
どうして、胸がドキドキしてしまうの。どうして、物悲しさを感じてしまうの。彼は私を助けただけなのに……。
胸が、痛い。ぎゅっと、自分の胸元に手をやり握りしめる。
「レティ、大丈夫か?!」
ノクトが私のほうに駆けてきて片膝ついて私の様子を心配そうに伺う。
「あれはオーディンか……。凄まじいな…」
「姫ってあんなスゴイのも呼べちゃうんだ!スゲー」
「しっかし、無事で何よりだ……、どうしたレティ?顔が赤いぞ」
感嘆の言葉をいうイグニスも子供みたいにはしゃぐプロンプトもとにかく私の無事を喜ぶグラディオラスも、私は眼中になかった。ううん、認識すらしていなかった。
「レティ?やっぱりどっか怪我してんじゃ…」
ノクトが慌てて私の体に怪我がないか調べたりするけど、無視。それどころか邪魔だと思った私は、すくっと立ち上がった。反射的に「おわ!?」とのけぞるように倒れた。信じられない顔で私を見るノクト。そして私の違和感にようやっと気づいた男子。
「……オーディン様…!」
見つけた、ついに見つけた!私の騎士様っ!
「「「オーディン…様ァァ!?」」」
男子たち(ノクト除く)が声を揃えて叫ぶ中、私はあの人の背を追うように消えていった方を熱く見つめた。
ほうっとため息をが漏れた。今この胸をしまるのはあの人ばかり。
これが、恋…!私は、人生で初めて、恋をした。
「もう一度、お会いしたい……!」
人間ではなく、召喚獣の彼に。私は、恋をした。
【それは突然の芽生え】